【今日の一冊】情報化社会における「知」と「生命」 人工知能はなぜ椅子に座れないのか


人工知能はなぜ椅子に座れないのか
松田雄馬 (新潮社)


レビュー

いま空前の人工知能ブームが起きている。もはやニュース記事で「人工知能」という言葉を見ない日はないほどだ。「まもなく人工知能は人智を超える」、「人間の仕事は人工知能に奪われる」といったセンセーショナルな表現も目につく。
たしかに情報技術の発展は目覚ましい。たとえば囲碁や将棋などの特定分野では、コンピュータは驚くべき成果をあげている。しかしその一方で、人間の一般的知能を備えたコンピュータは、一向に出現する気配を見せない。これは一体なぜなのだろうか。「人工知能が人智を超える」という「シンギュラリティ(特異点)」の到来がしばしば喧伝されるが、そうした事態ははたして本当に生じるのか。
本書はそうした「人工知能」に沸く世間の喧騒から距離をとり、冷静に「人工知能」について考察する。情報科学の歴史や脳神経科学、生命哲学などの知見を踏まえつつ、そもそも「生命」や「心」とはなにかといった根源的な問題について、多くの文献を引きながら丁寧に検討されているのがすばらしい。そこから明らかになるのは、「身体」を持つ私たち生物の知能と、「身体」を持たない「人工知能」の違いだ。
話題の「人工知能」について冷静に理解するうえで有益なだけでなく、私たち人間の「精神」や「知性」について見つめなおす機会を与えてくれる、きわめて知的にスリリングな一冊である。


本書の要点

・「無限定環境」を生きる生命の「ホメオスタシス(恒常性)」という生命維持プロセスにおいて生じる「自己認識」が、「心」や「意識」の根幹だ。
・今日の情報化社会を支える根本思想は「コンピュータが人に取って代わる」ではなく、「人間とコンピュータが共生する」である。
・「シンギュラリティ(特異点)」とは「人工知能がみずから成長進化し人智を超える」という概念だ。しかしこの考えには、生物の知能と人工知能の違いや、そもそも「知性」「生命」とはなにかという視点が欠けている。




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