【今日の一冊】すれ違う医者と患者 医療現場の行動経済学


医療現場の行動経済学
大竹文雄,平井啓 (東洋経済新報社)


レビュー

「あなたは末期がんで、もう治療の余地はありません」――そう告げられたらどうするだろうか。何度も余命告知を経験してきた医師は、治療を中止して副作用から逃れ、残された時間を有意義に使ったほうがいいと考えて告知を行う。しかし患者にとっては、余命告知は初めての経験である。治療の中止を決断することは難しいものだ。そしてその結果、残りわずかな余命をさらに縮める医療を選択してしまう。
この心理は、行動経済学では「損失回避」として知られているものだ。人は損失を確定させることを嫌うあまり、少しでも損失がない可能性を含んだ選択肢を選んでしまう。そうして患者は、治療を中止して余命を確定させることから逃避し、奇跡的に治癒する可能性に賭けるのだ。そして副作用で命を縮めてしまう。医師から見ると、患者が合理的な判断をしてくれないことが理解できず、また患者からすれば医師が意思決定を迫る理由が理解できない。
行動経済学では、人間の意思決定にバイアスがあることを想定している。医師・患者ともに行動経済学を知れば、バイアスから逃れて合理的な意思決定ができるようになるというのが本書の主張だ。本書を通して、起こりがちな医師と患者のすれ違いの理由が理解できるとともに、もしものときにはより合理的な判断ができるようになるだろう。


本書の要点

・診療現場では、医師と患者の双方が、相手の言っていることを正しく理解しなければならない。行動経済学の知識を利用することによって、バイアスから逃れて合理的な意思決定ができるようになる。
・東京都八王子市では、昨年度の大腸がん検診受診者に対して便検査キットを自動的に送っている。キット送付後しばらく経過したところで、「今年度に大腸がん検診を受診しなければ、来年度は便検査キットが送付されません」と短期的な損失を強調するはがきを出したところ、その後の受診率が高まった。




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