“黒”に意味がある。とある編集者のワン・ダフルライフを支える「ジャングルモック」とは

【スニーカーとヒト。Vol.7】

普段、当たり前のように付き合っている相手でも、知られざる一面やバックグラウンドがあるもの。仕事上の関係から友人になった場合なんて、なおさらではないだろうか。初めましての自己紹介時に経歴を聞くなんてことないし、それ以降もあえて聞こうとしない限り、そのような話が出てくることはない。これまで登場してくれた人々がそうであったように、今回の主役である“ぐっさん”こと田口圭介さんもまた然り。

以前は仕事を発注する側と受注する側の関係性だったが、最近では仕事とは関係なく、少し歳の離れた友人として付き合っているぐっさん。この連載がスタートした頃、「まずは周囲から」と出演の声がけをしていた際に、彼にもオファーした。これに対して、「自分なんて面白くないので、ネタがなくなって困っているようだったら」と、逃げ腰の返答をしていたことを思い出し、満を持してのオファー。多少は渋られこそしたものの、そこは年長者の強み。気持ち強めにお願いしたところ、無事に出演OKと相なった。

2月半ばの日曜日。初春の陽気の中、世田谷公園付近で待ち合わせ。アッシュ系のショートヘアに黒いグラサン、ペイズリーの柄シャツに鮮やかなオレンジ色のベスト、黒いスウェットパンツという“アウトレイジ”な格好した怪しい男が、柴犬と待ち合わせ場所に立っている。こちらに向かって手を振っているので、「なんだ、バカヤロウ!!」と恫喝しながら近づいてみると、ぐっさんと愛犬のお米くんだった。足元に履かれていたのはMERRELL(メレル)の名作「JUNGLE MOC」。じゃあ、まずは撮影して、そのあとで話を聞いて…と取材の流れを説明しながら、今さらの疑問が浮かぶ。そういえばぐっさんって、今何してる人?

■ ■“再現性、機能性、アメリカ発”を貫く合理的足元
【お気に入りの1足】
MERRELL
「JUNGLE MOC」

▲エディター/マーケター・田口圭介さん(人間・34歳)と愛犬のお米くん(柴犬・4歳)

ファーストコンタクトは11年ほど前に遡る。当時、ぐっさんはメンズファッション誌の編集者だった。「頭が良さそうで如才ない感じの子だなぁ」と感じた(後で知るのだが、彼の出身高校は筆者の出身校よりも偏差値が30近く上。道理で)。そんな彼がメンズファッション誌に身を置いたのは、大学を中退し、漫然とフリーター生活を送っていたときのこと。「大学時代から通っていた中目黒の古着屋LOOPのスタッフだったキノさんから、『同級生が編集部にいるから、興味があるなら編集の手伝いをしてみない?』と誘っていただき、編集アシスタントとして入りました」。

希望を胸に飛び込んだ雑誌編集の世界。新たな学びと出会いに喜びと楽しみを感じる一方、人生で1番怒られた時期でもあった。「精神的にも物理的にも鼻っぱしらを折られました(苦笑)」。とはいえ、そこは“デキる男”。入社1年経たないうちに単独でページを担当するまでに成長。この頃、とある先輩から言われた「編集者の仕事で最も重要なのは、ほかのスタッフが気持ちよく仕事をできるようにすること」という言葉は、今の彼の仕事に対する姿勢の根幹となっているとか。

さて、そんな実り多き日々も2013年の雑誌休刊とともに唐突に終わる。ぐっさんはすぐに新天地を求めて動き出す。次なるステージとして選んだのはメンズ・レディスともに多くのファッション誌を扱う出版社だった。曰く、「前職がコンパクトな編集部だった分、業界内で大きいとされる組織に属してみたいと思い入社しました」。

最初に配属されたのは、ムック本、書籍を中心とした編集部。そこではさまざまなDVD BOOKやブランドムックを手掛ける一方、今では小説家としても名を馳せる「紗倉まな」氏の初著書といった書籍の制作も。同部署に1年間所属したのち、同社の中でもヒットコンテンツであるメンズファッション誌へと移籍する。熱望していたファッション誌編集部での仕事にテンションは上がるも、大きい組織ならではの葛藤も生まれてくる。「編集として誌面作りは楽しかったんですが、ヒットメーカーとしてたびたびメディア出演する優秀な先輩が身近にいて。幅広いターゲットを相手にした企画力では勝てないと痛感して、得意と感じていた作る力をより活かせられないかと考えていたんです」。そんな折、1社目の同僚に誘われて、広告制作・デザイン会社に転職。この時、ぐっさん28歳。その歩みは止まらない。

ウェブメディアの編集者として招かれたが、彼の入社後、業務内容は多角化。企業広告やウェブサイト、カタログ、動画、ノベルティの制作、コピーライティングや商品名の考案、さらに親会社のBtoB、BtoC案件まで。そのあまりにも多岐にわたる仕事の数々を、培ってきた編集スキルを武器に次々とこなしていったぐっさん。

入社から2年経った頃には、クリエイティブディレクターの肩書きを得るまでに。やはり“デキる男”なのだ。その中でも思い出深いマイワークを尋ねた。「建築家・荒木信雄さん主宰のアーキタイプ設計事務所との仕事では、一流建築家のデザインへの姿勢から、“根幹に理のあるデザインとは何か”という問いに対する理解が深まりましたし、日本デザインセンターや6Dといったアートディレクターとの仕事では、雑誌編集視点のデザインとブランディング視点のデザインでは発想の仕方がいかに異なるかを学びました。外の世界との良い出会いに恵まれたのが、自分にとって何よりの財産になったと感じています」。

そうした新しい学びと成長の機会を求めて、退社を決意。こうして2022年7月1日に、現在の会社に転職して今へと至る。

そういえばこの男。不思議なことにいつLINEしても速攻レスがある。かねてから気になっていたので、どんな働き方なのか聞いた。「フルフレックス制なので、決まった時間内で平日1日8時間働けばOKなんです。大体9時に起床。朝風呂に入り、コーヒーを飲んで一服したのち、10時から仕事開始。そこから21時〜22時くらいまで働いて終了というのが基本の流れです。仕事内容に、“制作”と“分析”の両軸があるため、日中、制作に集中したら、夜からは分析とか、今日は制作に集中したから、明日は分析に集中するなど、自分のペースでタイムマネジメントができるのもありがたいです」。

編集者時代も日中は取材に出て、夕方から原稿を書き始めることも多かったので、そこはあまり変わらないとも。ただ唯一変わっているのが、生活を共にする愛犬の存在だ。

“お米くん”は、今年で5歳を迎えるオスの柴犬。大人しく利口で、めっぽう可愛い。1日2回、30分〜1時間の散歩も含め、常にぐっさんの傍で過ごしている。とはいえ在宅ワークの場合、仕事の邪魔にはならないのだろうか。「まったく問題ありませんし、むしろ一緒に過ごせて最高ですよ。パソコン作業中にチラッと横を見たら、寝ていたりして。その姿を見ると可愛くて癒されます。ただ、犬の一生は中型犬で長くて約15年、人間の4〜5倍の速さで時間が進みます…

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