楽しいクルマの3大条件を網羅!ルノー「トゥインゴS」は非力だけど走りは痛快

楽しいクルマの3大条件を網羅!ルノー「トゥインゴS」は非力だけど走りは痛快

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ルノーで最も小さな乗用車「トゥインゴ」のラインナップに、新グレード「S」が加わった。

1リッターの3気筒自然吸気エンジンに5速MT(マニュアルトランスミッション)を組み合わせたこのフレンチベーシックは、シフトチェンジを楽しみながら小気味よく走らせるのが楽しいクルマ好き注目の1台。今回はその実力と魅力を検証する。

■軽さ、後輪駆動、MTが楽しさの絶対条件なのか?

クルマ好きがドライビングの楽しさを語る際に登場する主なキーワードに、「軽さ」「後輪駆動」「MT」という3つがある。

軽さとは、もちろん車両重量が軽いこと。安全装備などが充実したイマドキのクルマでは1トンを切れば“軽量級”といっていい。後輪駆動とは、エンジンからの駆動力をリアタイヤを介して路面へと伝える仕組みである。そしてMTとは、ギヤチェンジやそれに伴うクラッチの操作を、クルマ任せではなくドライバー自身が行わなければならない古典的な変速装置のことだ。

しかし現実を直視すると、この3つはクルマの世界からどんどん消え去ろうとしている。大きく立派になり、装備が充実した現代のクルマはどうしても重量がかさむし、パッケージングを追求していくとクルマは必然的に前輪駆動化が進む。さらにMTを好むのはごく一部のニッチなマニアだけだから、設定車種事そのものが激減している。このように最新のモデルは、世のクルマ好きの理想からどんどん遠ざかっているのだ。

一方、この3大条件は、クルマのドライビングプレジャーにどれだけ影響を与えるものなのだろうか? 例えば、ハイレベルな走りに定評があるフォルクスワーゲンの「ゴルフGTI」は、車両重量が1380kgと“軽量”ではなく、駆動方式は前輪駆動だし、トランスミッションにはDCT(デュアルクラッチトランスミッション)と呼ばれるATの一種を採用する。

しかし運転してみると、ゴルフGTIはやっぱり楽しい。軽さや駆動方式やトランスミッションが理想とかけ離れたものだとしても、ハンドリングやエンジンのフィーリングがレベルの高いものであれば、ドライビングプレジャーを感じられるのだ。

極論をいえば、もっと大きくて重いクルマであっても、ゴキゲンな走りを楽しめるモデルは存在する。その一例が、日産自動車の「GT-Rだ」。車両重量は1760kgと重量級で駆動方式は4WD。さらにトランスミッションは6速のDCTとなる。しかしGT-Rは、極上のドライビングプレジャーを感じられる世界でも希有な存在だ。

こう書くと、「それはスポーツカーだからでしょ」という突っ込みを受けるかもしれないが、GT-R 以外でも、車両重量が1840kgもある4WD車で、ATを組み合わせたアウディのスポーツワゴン「RS4アバント」などは、走りに刺激に満ちあふれている。

つまり、軽いこと、後輪駆動車であること、トランスミッションがMTであること、という3つのキーワードは、必ずしも、走りが楽しいクルマの絶対条件とはいえないのである。
■理想をカタチにしたような奇跡的な組み合わせ

それでも熱いクルマ好きたちは、3大条件を追い求め続ける。それらがクルマの世界から消え去ろうとすればするほど、そこにあるロマンを求め続けるのだ。今回、その理由を知りたくて、3大条件を満たす1台のモデルを試乗してみた。それが、ルノーのトゥインゴに新たに追加されたSというグレードだ。

トゥインゴの全長は3645mmと軽自動車よりひと回り大きい程度で、デザインはどこかかわいらしいもの。さらに、小さな車体に最大限の居住空間を持たせようと、リアのラゲッジスペース下にエンジンを搭載し、リアタイヤで駆動するという独特のレイアウトを採用する。その効果か、小さいボディサイズでもフロントシートの足下にはゆとりがあるし、リアシートはオトナが無理なく座れる空間を確保している。

2019年末にマイナーチェンジモデルが上陸したトゥインゴだが、そのルックスは前後ともランプやバンパーのデザインがリファインされている。またインテリアも、スマホを接続してナビゲーション機能などが使えるタッチパネルディスプレイがインパネに組み込まれ、利便性がアップ。また、車線をはみ出しそうになるとアラームを鳴らす車線逸脱防止機能をプラスするなど、安全性もバージョンアップしている。

2020年春にラインナップに加わったSグレードは、上記の3大条件をすべて満たした貴重な存在。車両重量はわずか950kgで、軽さに定評のあるマツダ「ロードスター」よりも軽い。駆動方式は、パッケージングを追求した結果とはいうものの、前輪駆動ではなく後輪駆動となり、そしてトランスミッションは、5速MTのみの設定となる。

まさに、クルマ好きの理想をカタチにしたかのような、この奇跡的な組み合わせには、ひとりのクルマ好きとしてやはり注目せずにはいられなかった。
■ゆっくり走る時でもクルマとの対話を楽しめる

実際にトゥインゴ Sを走らせてみると、軽量ボディによる軽快なフットワークが印象的だ。決してシャープなハンドリングというわけではなく、むしろ少し鈍い感じがするけれど、クルマの挙動が手に取るようにドライバーへと伝わり、クルマとドライバーとが一体となったかのような感覚を味わえる。重量級モデルの、どこまでも安定した感覚とは明らかに異なる、等身大のクルマといった印象。確かに、重量級のスポーツモデルには、それなりの楽しさがあるのは認めるが、あらためて軽いクルマをドライブすると、その素晴らしさを痛感する。

ふたつ目のキーワードである後輪駆動の魅力は、なんといってもステアフィールが自然なこと。後輪駆動車の醍醐味はドリフトだ、という人も多いが、そこまでスピードを出さなくても味わえる、アクセルペダルのオン/オフによる影響を受けないスッキリとした操舵感こそが、実は後輪駆動車の最大の魅力だ。今回、トゥインゴSに乗ってみて、その感触の素晴らしさ、楽しさをあらためて実感した。

そして最後のキーワードが、MTだ。トゥインゴSは73馬力と、イマドキのクルマとしてはかなり非力だが、MTを駆使しながら、限られたパワーを精いっぱい引き出しながら走らせるのは、なんとも楽しい。MTはATとは異なり、上手に操作してやらないとギクシャクするし、時にはエンストだってする。はっきりいって面倒なメカなのだが、だからこそ上手に扱えた時は、ゲームをクリアした際や、ゴルフで狙い通りにボールが飛んだ時のような喜びを味わえる。自分のドライビングテクニックを磨く喜びを味わえる、と、いい換えてもいいだろう。久しぶりに乗った非力なMT車は、やはり爽快だった。

ちなみに、トゥインゴSのシフトフィールは上々だ。シフトフィールに適度な重みがあり、硬すぎず、緩すぎずの絶妙な節度感。「さすがルノー、分かってるな…」と思わせるツウ好みの味つけだ。

今回、トゥインゴSに乗って再認識したのは、3大条件を満たしたクルマというのは、やはり走らせる楽しさに満ちあふれているということ。もちろん、それらは楽しさの絶対的な指標ではないが、3つがそろうとゆっくり走らせていても楽しさを感じられる。速く走ることが楽しいのではなく、一般道をゆっくり走るような時でもクルマと対話できることが楽しいのだ。そこに気づけるか気づけないか次第で、トゥインゴSの評価は大きく変わってくるだろう。

乗っていると、クルマ好きから「アイツ、分かってるな…」と一目置かれることは間違いないトゥインゴS。速さを卒業したクルマ好きにオススメの1台だ。

<SPECIFICATIONS>
☆S
ボディサイズ:L3645×W1650×H1545mm
車重:950kg
駆動方式:RR
エンジン:997cc 直列3気筒 DOHC
トランスミッション:5速MT
最高出力:73馬力/6250回転
最大トルク:9.7kgf-m/4000回転
価格:179万円

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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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