コーヒーの生産地に行ってわかった“サステナビリティ”の本当の意味

コーヒーの生産地に行ってわかった“サステナビリティ”の本当の意味

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※この記事は2019年7〜8月に取材したものです
時間が近づくにつれ、ほうぼうから人が集まってくる。大きな袋を頭にのせた人や、スクーターに大きな袋を積んだ人。みな美しい模様の布を肩にかけたり腰に巻いたりしている。老若男女、50人はいるだろうか。周辺を見渡しても家はほとんど見えないのに、いったいどこから集まってくるのかと驚く。みな到着すると、慣れたように袋を置いていく。

町から遠く離れた山中にある大きな家の1階。これからここで始まるのは、コーヒー豆の買い取りだ。

袋から豆を出し、まずは目で見て状態をチェック。そして重さを量る。合格基準の重さが定められていて、これより重いと乾燥が足りず、軽ければ古いとみなされる。基準の範囲内に入っていて品質が安定したコーヒーを買い取ることがポイントだ。この日はすべての豆が合格。どれも美しいぐらい粒がそろっている。

ここはペランギアン集買所。緯度は赤道よりほんの少し南、インドネシア・スラウェシ島トラジャ地方の山の中腹、標高約1500mにある村だ。ここの村長宅では、収穫期になると週に1回コーヒー豆の出張買い取りが行われている。日本のコーヒーメーカー、キーコーヒーがここトラジャで集買事業を始めた1977年から続いているという。

周囲は見渡す限りの山。トラジャ地方最大の町であるランテパオから険しい山道を登り、ようやくたどり着くような場所で、日本のコーヒーメーカーが40年以上もコーヒー農家から豆を買い取っているのだ。

「コーヒーで生活は良くなったんだよ」

村のまとめ役であるマルコスさんは、笑顔でそう話す。

「我々は“トアルコ・ジャヤ”にしか売らないんだ。彼らは、質の良いコーヒー豆を収穫するための栽培方法を教えてくれた。そして品質は上がり、いい値段で買ってもらっている。信用してるんだよ」

キーコーヒーがトラジャ事業のために設立したトアルコ・ジャヤ社。ここがコーヒー農家から豆を買い取り、集めた豆を日本に送っている。

この村の村長をつとめるユーノスさんもコーヒーを栽培してる。

「コーヒーは昔から飲んでいたけど、トアルコ・ジャヤが来て仕事になったんだ。うちは米も作っているけど、それは自分たちで食べるため。仕事はコーヒーさ」

ここペランギアン周辺にはそうした農家が多い。畑や田んぼもやっているがコーヒーもやる。野菜や米はあくまで自分たちで食べるもの。コーヒーは貴重な現金収入だ。

近年「コーヒーの2050年問題」が取り沙汰されている。気候変動が進むと、2050年にはコーヒーが穫れなくなる=飲めなくなるという危機的状況というのだ。また、気候変動や病害なども大きな要因だが、コーヒー農家が生活していけるだけの収入を得られないこと、これも大きな問題と言われている。食えなければ誰もやらない。だからこそ重要なキーワードがある。それが“サステナビリティ(持続可能性)”だ。

トラジャでは、適正価格で買うことからさらにもう一歩進めて、品質が高いコーヒーを生産すればより高値が付くことから、そのための品質向上の手助けも行われている。農家は、高品質のコーヒーを作れば収入が上がる。その結果、コーヒー産地としての評価が上がり、コーヒーメーカーは高品質の豆を販売できる。キーコーヒーはこの作業を40年以上も続けている。

この日は、苗木の無償提供も行われた。受け取った人たちはみな笑顔。いや、そもそもみんなとにかく明るい。この表情がトラジャ事業の成果を物語る。

 

■道を作ることから始まったトラジャ事業
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とにかくトラジャは遠い。日本からは、首都ジャカルタで飛行機を乗り換え、スラウェシ島最大の町であるマカッサルへ。そこからクルマで10時間かけて、ようやく中心地、ランテパオにたどりつく。そしてトアルコ・ジャヤ社はランテパオにある。

ペランギアンをはじめ、同社が定期的に出張買い取りを行う集買所は、ランテパオからさらに奥地だ。最近は道が整備されてきたというが、トアルコ・ジャヤ社設立当初は、まず道を作るところから始めたという。

いまや住民の大事なインフラとなっているその道をトラックで登り、コーヒー豆の買い取りを行っているのだ。

また、ランテパオ近くにはトアルコ・ジャヤ社のパダマラン農園(標高900〜1250m)がある。ここでは、コーヒーの栽培だけでなく国際的な研究機関、ワールド・コーヒー・リサーチと共同で病気に強い品種の発掘や気候変動をモニタリングする「IMLVT(International Multi-Location Variety Trial=国際品種栽培試験)」も行っている。

農園長のイサックさんは「コーヒーの価格は上がってきているから、周りの農家の意欲も上がってきていますよ」と話す。

「ここで働き始めて29年になります。その前からコーヒーは飲んでいましたが、その頃はトブロック(粉に直接お湯をかけ、さらに練乳を入れて甘くしたもの)でした。市場で売っているコーヒーは練乳を入れないと飲めないんです。でもトアルコができて、ブラックで飲むようになりました」

パダマラン農園で働くのはほとんどがインドネシア人だ。常勤の日本人はキーコーヒーから派遣された1人だけ。現地の人が栽培から精製、研究を行い、その成果を周辺の農家へと還元していく。このサイクルが高品質なコーヒーを生み出している。
 

■地元の人と協業して品質向上を目指す
現在、トアルコ・ジャヤ社が扱うコーヒー豆は、自社パダマラン農園および周辺の農家から買い取ったものだ。そのため、品質にバラつきが出ないよう、ランテパオの事務所では農家から集めた豆の、パダマラン農園では自分たちで収穫し精製した豆のカップテストを行う。

ブラックでもおいしいトアルコ トラジャコーヒーは、実は数々の選別をくぐり抜けた豆だ。まず農園でコーヒーを植える時に種の選別が行われる。イサックさんによると「植えるまで到達するのは80%ぐらい」という。その後、さび病などの病害にあわなかった健康な木から赤く熟したコーヒーチェリーのみが収穫される。そしてコーヒーチェリーから豆へと精製する段階でも不良豆は落とされる。さらに精製し乾燥させた生豆でも、粒の小さいものや黒いものは弾かれ、そして最後に焙煎してカップテストを行う。ここで一定以上の味わいのものが、晴れて「トアルコ トラジャ」となって世に送り出される。

トラジャに駐在している藤井宏和さんによると、「ペランギアンなどの集買所に持ち込まれる豆であれば、95%ぐらいは合格ですよ」という。

「トラジャ事業は、まず農家のみなさんに基準を把握してもらうことから始まりました。だからコミュニケーションが重要です。生育状況などをフィードバックしてもらい、こちらも研究成果をフィードバックする。1976年のトラジャ事業開始時からそれを繰り返し、今の品質まできたんです」

またトアルコ・ジャヤ社では、“トアルコ トラジャ”コーヒーがどう楽しまれているかを積極的に農家の人々やパダマラン農園で働く人たちに知ってもらう活動も行っている。日本でビデオ撮影を行ったり、愛飲者の声を届けているという。

「コーヒー作りってすごく大変なんです。私なら、もし価格が安くなったらやらないですよ。だからみんなが問題なく生活していけるように品質向上のお手伝いをさせていただくし、豆の選別もしっかりさせてもらう。おかげでこの10年で最低賃金が倍になりました。でもやっぱり、自分たちが作った、携わったコーヒーがどう楽しまれているかがわかると、きっとうれしいと思うんですよね。だからみんなのモチベーションを保つ意味でも、いろいろな声を届けようと思っているんです」

近年の地球温暖化をはじめとした気候変動により、標高の低い土地に出るさび病が今後標高が高い場所でも出るかもしれないと言われている。そのため、さび病に強い品種を作ることも重要な課題となっている。また1本の木からの収量が多い品種なら、同じ広さの土地でもより多くの収入が期待できる。おいしいコーヒーをこれからも提供し続けるために、トアルコ・ジャヤ社では日々研究を続けている。その成果は巡り巡って、コーヒーを生業にしている土地の人々の生活にもつながっていく。

気候変動への対応の一環として2017年より始まったのが、コーヒーチェリーを氷温熟成する技術だ。

コーヒーチェリーを収穫後、氷結点ギリギリに温度設定した状態で保存する。これによりコーヒー豆のアミノ酸などが増え、類稀なる味わいのコーヒーになるという。藤井さんによると「収穫地の標高が200mぐらい高くなったような味わい」だという。地球温暖化による標高問題解決へのアプローチのひとつだ。

 
■コーヒーという情熱!
今年、創業100周年を迎えたキーコーヒー。それは生産地、そして生産者との協業の歴史でもあるということをトラジャ事業は物語っている。

サステナビリティなんてしゃらくさい。そう思う人もいるかもしれない。しかし、そのサステナビリティが「コーヒーの2050年問題」の解決につながり、その結果として我々がこれからもおいしいコーヒーを楽しめるのであれば、ちょっと見方が変わるのではないだろうか。

コーヒーが好きすぎて、自ら志願してトラジャに単身赴任している藤井さんが食事の席で言った言葉がある。

「トラジャがコーヒーのナパバレーになればいいなと思ってるんですよ!」

これぞまさしく、キーコーヒーが掲げる“コーヒーという情熱”なのかもしれない。

>> トアルコ トラジャ

>> キーコーヒー

<取材・文/円道秀和(&GP) 写真/田口陽介>

 

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