EV重視の影響!?新型車が“物足りない”VWの復権はあるか?☆岡崎五朗の眼

EV重視の影響!?新型車が“物足りない”VWの復権はあるか?☆岡崎五朗の眼

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VW(フォルクスワーゲン)といえば、優れた技術が投入された贅沢な仕立てのクルマを、買いやすい価格帯で人々に提供。多くのモデルが各クラスのベンチマークとなり、ここ日本でも高い人気を得てきました。

しかしここへ来て、そうした状況に変化が。EV(電気自動車)シフトの影響なのか、高評価だったクルマ作りに陰りが見えるとの声も聞こえてきます。そんな状況を危惧するのは、モータージャーナリストの岡崎五朗さん。長年、VWを高く評価してきた岡崎さんの目に、最新のVW車はどのように映るのでしょうか?

■最近の車種がVWとしては物足りない理由

今回はVWについて書いていく。少々厳しい内容になるが、それは僕がVWに抱いてきた多大なリスペクトゆえのものである。

大学生の時に中古の「ゴルフ」を購入して以来、僕はVWのクルマ作りに深く共感し、モータージャーナリストになってからも最大級の賛辞を送り続けてきた。もちろん、モデルによって多少の出来不出来はあったが、どれに乗っても実力は平均点以上。中でも日本カー・オブ・ザ・イヤーの採点では2010年の先代「ポロ」、2013年の現行ゴルフに最高点を投じた。「岡崎五朗はなぜVWをあれほど誉めるのか?」、「VWの回し者か?」という雑音も聞こえてきたけれど、僕にしてみれば「誉めるべきものを誉めているだけの話ですが、何か?」という感じだった。

ところが、現行ポロや「Tクロス」や「Tロック」など最近上陸したモデルは、僕がVWのクルマを誉めてきた理由が希薄になってしまった。どれも決して出来の悪いクルマではない。けれど、ほとんどのモデルでクラスのベンチマークの座を獲得し続けてきたVW車としては明らかに物足りない。

例えばTロック。エクステリアデザインやパッケージングはよく練り込まれているのだが、乗り込むとインテリアの質感にガッカリさせられる。インストルメントパネルやドアトリムといった大物パーツを始めとし、あらゆる部分がハードプラスチック製なのだ。表面処理が上手いためパッと見では分かりにくいが、たたけばコンコンと、爪で触れればカリカリと安手の音がする。

VWを追いかけるプジョーは、最近、“目隠し試験”なるものをやっている。目隠しをした状態でクルマに乗り込むことで“触覚”を研ぎ澄まし、素材の善し悪しを徹底的に評価するのが目的だ。おそらく今のVWでは、そういった試験は行われていないと思う。
■目的化したコストダウンは商品の質を犠牲にする

もう少し詳しく解説しよう。インテリアパーツの素材はハードプラスチックとソフトパッドの2種類に大別でき、コストの安い前者はベーシックカーに、高コストの後者は高級車に使われる。先代ポロは仕向地別にハードプラスチックとソフトパッドの2種類を用意していた(日本向けはソフトパッド仕様)が、現行モデルではハードプラスチックに統一されてしまった。同クラスのプジョー「208」やルノー「クリオ」がソフトパッドを多用してきたことや、軽自動車の一部車種にもソフトパッドの採用が始まっていることを考えると、ポロのインテリアがハードプラスチックになってしまったのは決して誉められることではない。とはいえ、216万3000円〜という価格を考えれば百歩譲って許容もできる。しかしTロックの価格は384万9000円〜。それで全面ハードプラスチックはあり得ない。いくらなんでもコストダウンに走りすぎだ。

Tロックは走りの面でも、特に静粛性と乗り心地に詰めの甘さを感じる。同じプラットフォームに同じエンジンを積む現行ゴルフの方が数十万円安く、なおかつ、より静かで快適なのはちょっと納得しづらい。SUV化すると車重が重くなり、重心位置が上がり、大径タイヤを履くためバネ下重量も重くなるが、それを完璧にはカバーしきれていない。コストダウンだけが原因ではないだろうが、きちんとコストをかけて作り込めば、ゴルフ超えは無理としても、もう少し近づくことができたのではないか。

念のためにいっておくが、コストダウンは悪じゃない。上手にやればユーザーはより良いものをより安く手に入れることができ、メーカーも利益が上がる。しかし、コストダウンが目的化してしまうと、商品の質を犠牲にした“なりふり構わぬコストダウン”に走りがちだ。残念ながら今のVWにはそんなニオイがする。

VWグループは2015年に発覚したディーゼル不正問題に絡んで、およそ3兆円の損失を出し、加えてEV化を進めるために4兆円近い投資を行うことを決定している。合わせて7兆円。最近のクルマ作りの変化はそれをひねり出すため、と考えるのが最も納得しやすい。

しかし、僕はそれだけではないと思っている。ディーゼル不正の発覚を受け、天才エンジニアにしてカリスマ経営者でもあったフェルディナント・ピエヒ氏を始め、上層部の多くが辞任に追い込まれた。もちろん、不正は許されるものではないが、辞任した上層部のクルマ作りに対する価値観が、VWをVWたらしめてきたのも事実。もし彼らTロックを見たら「このクルマはVWらしくない! もっと質感を上げろ!!」と命じただろう。

クルマを誰よりも深く理解し、愛していた上層部が失脚し、CASE(「C」=コネクティッド、「A」=自動運転<オートオマス>、「S」=シェアリング、「E」=電動化<エレクトリック>)を中心とした次世代技術の推進を重視する現在の上層部に取って代わったことが、最近のVWのクルマ作りに少なからず影響を与えているのは間違いない。少なくとも僕には、新しい経営陣が重視しているのは「ID.3」や「ID.4」といった新設計のEVであり、内燃機関を積む従来のラインナップは冷遇されているように見える。

裏を返せば、今後次々と投入されるEVの成否がVWの命運を握るということだ。VWは「2025年のEV販売台数150万台」、「2028年までに70車種のEV投入」、「2028年までのEV累計販売台数2200万台」という大胆な計画を立てている。しかし、不透明さを増す中国経済の先行きや、新型コロナウイルスによる財政悪化が与えるであろう各国EV優遇政策の財源確保問題、何よりユーザーがEVを受け入れるかどうかなど、EVの未来には多くの不確定要素が横たわっている。

そう考えると、EVにすべてを賭けているかのように見えるVWの一本足打法は、余りにハイリスクではないか。リスク分散という意味でも、さし当たって安定した販売を見込めるエンジン車をきっちり作り込むことが重要ではないか。僕はそう思うのだ。
■VW本社はすでに手を打ち始めていた!

そんなモヤモヤした気持ちを抱えていると、ドイツのVW本社と日々直接やりとりしているVWグループ ジャパンの担当者が教えてくれた。

「岡崎さんの懸念はVW本社も認識していて、すでに改善に向けて動き出しています」

なるほど、日本でのデビュー時期は逆になったものの、本国でTロックの後に登場したTクロスは、万全ではないものの兄貴分のTロックよりインテリアの質感を上げてきている。2021年に日本導入予定という8代目のゴルフも、部分的にはコストダウンの形跡が認められるが、ダッシュボードにはしっかりソフトパッドを使ってきている。

そう、彼らは自分たちの行きすぎたコストダウンに気づき、すでに修正を始めているのだ。あくまで希望的観測に過ぎないが、もしかしたら今後のマイナーチェンジでTロックのインテリアにも改善の手が入るかもしれない。

VW=Volkswagenを直訳すると“国民車”となる。それをもって「どうせドイツ製の大衆車だろ」とバカにする人もいる。しかしそれは大きな間違いだ。メルセデス・ベンツやBMW、ポルシェに独占されていたアウトバーンの追い越し車線を民主化した初代の「ゴルフGTI」、プレミアムカーだけに許されていた高い質感を民主化した4代目のゴルフ、プレミアムカーに匹敵する静粛性や乗り心地を民主化した現行ゴルフ…。このように、より優れた技術や贅沢なしつらえを持つクルマを、市井の人々にリーズナブルな価格で提供してきたのがVWの歴史だ。大衆車だから安っぽくていいだろう、ではなく、大衆車の質を上げることで人々の暮らしの質を上げていきたいという骨太な哲学。僕はそこに惚れていたのだ。

企業が人によって運営されるものである以上、ブレが生じるのは仕方がない。上記のようなさまざまな事情によって、VWの哲学にブレが生じたのは否定できない。しかし、彼らはすでに手を打ち始めている。元々、技術力のあるメーカーだけに、方針さえ固まれば改善するのはたやすいはず。正直、今は厳しい状況だが、今後のVWに期待したい。

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文/岡崎五朗

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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