ザ・ノース・フェイスの人気リュック、誕生の裏にはアップルの存在があった

ザ・ノース・フェイスの人気リュック、誕生の裏にはアップルの存在があった

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アウトドアブランドでトップクラスの人気を誇るザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)。サミットシリーズに代表される本格的なクライミングウエアやザックなどで培った技術力を活かし、近年は街でも使える機能的アイテムも充実しています。

中でもザ・ノース・フェイスの名前を広く知らしめたのが、大ヒットリュック「シャトルデイパック」。スクエアでアウトドアブランドらしからぬシンプルなデザイン。スーツに合わせても違和感がなく、多くのビジネスパーソンが背負っている姿を見かけます。

そんな「シャトルデイパック」、実は日本で企画され日本人が設計したモノなんです。

ここ4〜5年で一気に広まった“ビジネス向けスクエアリュック”の元祖とも言うべきこの逸品は、いったいどういう経緯で誕生したのか。ザ・ノース・フェイスを日本で取り扱うゴールドウインの狩野茂さんによると、そこにはあのアップルが関係していました。

ゴールドウイン
ザ・ノース・フェイス事業二部長
エキップメントグループマネージャー
狩野 茂さん

バックパックやテントといったザ・ノース・フェイスのギア関連の開発責任者を務める。球体テント「ジオドーム4」も手掛ける。自身もキャンプ好きで最近はフライフィッシングにハマっている
 

■アップル製品を入れるための設計
――そもそも「シャトルデイパック」はいつから発売されているんでしょうか。

狩野さん シャトルシリーズは2012年春夏でスタートしたものですね。もう8年になります。でも実はその前にベースとなるバッグがあったんです。それが「バイト(BITE) 20」です。

――ベースというのはどういう意味ですか?

狩野さん 「バイト 20」はザ・ノース・フェイス(以下ノース)がアップル向けに作った商品になります。2010年の秋冬で作ったリュックですね。

――そんなものがあったんですか!

狩野さん 本当に「シャトルデイパック」とそっくりな、四角いデザインのバックパックなんですよ。当時、ノースにもPCを入れられるバッグはありましたが、今のようにラインナップが豊富ではありませんでした。もちろん売り上げもさほどなかった。そんな時に持ち上がった企画が、アップル向け商品でした。アップルユーザーにはまだノースやアウトドアブランドを知らない人が多かった時代だったので、そういった人たちにリーチしたいという部分があったんです。

――だからシンプルなデザインなんですね。

狩野さん そうなんです。アップルの“シンプルなものづくり”と“クリーンなデザイン”、これらとノースのデザインは通じるものがあるとずっと思っていました。そして生まれたのが「バイト 20」です。

――たしかにアップルストアに並んでいても違和感のないデザインですよね。見た目はシンプル、だけど中は機能的といった部分とか。

狩野さん 弊社のデザイナーがとにかくアップル好きで、彼が「ここに17インチのMacBook Proを入れて、ここはiPadで、横のポケットはiPhoneがぴったり収まるサイズで…」という感じでデザインしたんですよ。

――だから「シャトルデイパック」のサイドポケットってちょっと小さいんですね!

狩野さん そうなんです(笑)。実はあそこ、iPhoneサイズなんです。ボトルを入れるにはちょっと浅いですよね。

――たしかにボトルや傘にはちょっと浅いかも。入れられるんですけどね。ちなみに「バイト 20」はノースのショップでも販売されたんですか? 当時はあまり見かけた記憶が…。

狩野さん あれはアップルの直営店とWebストア、あとザ・ノース・フェイスの一部店舗のみでの販売でした。しかも日本のアップルだけの商品でした。この取り組みは実は数年で終わりますが、「バイト」を見た本国(アメリカ)のノースが「こっちのも作ってくれ」と声をかけてきまして。そして生まれたのが「シャトル」シリーズです。2012年春夏モデルでした。

――それが日本でも販売されたということですね。発売当初の売れ行きはどうでしたか。

狩野さん 実はアメリカでは短命で、2013年の秋冬までの4シーズンで終わってしまいました。日本でも大ヒットというほどではなかったんですよね。「シャトル」が出た頃はまだ「バイト」が販売されていましたから。ただし「バイト」は販路限定だったので、その機能を落とし込んだシリーズということで、ヒットではないけど悪くもないといったところでしょうか。
 

■「バイト」って“かじる”?
狩野さん でもちょうどこの時期は、リュックに注目が集まった時期だったんです。

――東日本大震災ですね。

狩野さん そうです。2011年に東日本大震災が発生し、多くの人が歩いて帰宅を余儀なくされ、そこで両手が空くリュックを仕事カバンにという流れが起こりました。また、スマホの普及も大きかったように思います。ブリーフケースでは片手しか使えないが、リュックなら両手を使えるので。

――たしかに。2012年というと9月にiPhone 5が発売された年です。ガラケーからスマホに乗り換える人が増えた時期ですね。

狩野さん ノースでは、「バイト」以前はあまりタウン向けのバッグを手掛けていませんでした。トレッキングベースのデイパックで“黒デイパ”ブームがあったり、クラシックなアウトドアっぽいブリーフケースを作ったりはしていましたが、完全に街に寄せた黒一色みたいなモデルはほぼありませんでしたね。

――アウトドアブランドのビジネス向けというと、リュックにもなる3WAYのブリーフケースというイメージはたしかにあります。

狩野さん 弊社は昔からカジュアルスタイルで出勤しているんですが、ノースのバックパックを背負って出勤している人はほとんどいませんでした。でも「シャトル」が出てからは、社員も使い始めたんです。我々開発チームとしても、以前から「山に行くときはもちろんだけど、会社に来るときも社員に背負ってもらえるカバンを作りたい」という気持ちがあったので、やっぱりうれしかったですね。おかげで社員からもフィードバックをもらえるようになり、それらを少しずつ反映させていったりもしています。

――ずっと変わっていないわけではないんですね。

狩野さん 実はこれまでに4回ほどアップデートしているんです(笑)。フィードバックを活かしてマイナーチェンジを行っての現行モデルになっています。

――すいません、気付きませんでした。でも当初の、アップル向けバッグということで生まれたシンプルなデザインは変わらず踏襲されていますよね。

狩野さん そうですね。そこは変わっていません。実は「バイト」をベースに生まれた「シャトル」シリーズは、当初「アップル」という名前を付けたかったんですよ。さすがに無理ですが(笑)。でもアップル向けに作った「バイト」には、BITE=かじる、という意味があったりするんです。それとデジタル機器を入れるということからBYTEという意味も隠れています。

――リンゴをかじっちゃう!(笑)

狩野さん そう(笑)。もちろん「シャトル」にもちゃんと意味があるんですよ。デザイナーが名付けたんですが、2地点を行ったり来たりする“シャトル”から来ています。シャトルバスとかと同じですね。

――家と職場の行き来で使ってほしいという意味ですか?

狩野さん それもありますが、家から駅に行き、電車に乗って空港に向かい、海外に出張し、そして帰ってくる。そんなビジネストリップの意味の方が強いですね。空港って保安検査でPCをカバンから出さなきゃいけないじゃないですか。その時に、他の荷物をかきわけて引っ張り出すのではなく、PC用の収納部があればスマートに出し入れできる。そういった用途も想定していました。

――カバンをひっくり返している人、よく見かけます。

狩野さん スムーズに抜けるってスマートですよね。他にも、宇宙服の背中にある四角い部分もイメージしています。あそこって宇宙空間で必要なモノが詰まっているじゃないですか。そのイメージから宇宙→スペースシャトルで「シャトル」。背負う人にとって必要なモノをすべて入れられる四角いバッグという意味です。
 

■タウン向けでも基本は「山」
――四角くシンプルなデザインとは裏腹に、実際に「シャトルデイパック」を背負うととても背負い心地が良いと気付きます。デザインだけでなく、使い心地や使い勝手といった面でこだわった部分はありますか?

狩野さん ノースはアウトドアブランドです。だからどんなバッグであれ、基本は山がベースになります。背面に付けた成形パネルもそうですし、ショルダーハーネスの中に入っているEVAに穴を開けて通気性を確保したり、角の部分を落として肩にうまくフィットするようにしたりといった細かい部分もすべて山用のバックパックで使っている機能になります。

―――薄くてちょっと頼りなく見えるんですが、たしかに驚くほどフィットします。

狩野さん バックパックで最も重要なのは背負い心地です。そこはタウン向けであっても妥協はしません。あとは使いやすさも大事。自分たちの実体験に基づく使いやすさを落とし込んでいます。

――そう、「シャトルデイパック」って開けるとスゴいんですよね! とにかく使いやすい。以前は、なぜこんなに人気があるのだろうかと不思議だったんです。パッと見がシンプルなので、きっと中もシンプルなんだろうと。でも実際に触った時、開けた瞬間に“自分で使うならここにあれを入れて”というイメージが浮かびました。書類にノートPC、モバイルバッテリー、ACアダプタ、ケーブルなど、デジタルデバイスやガジェットを日々持ち歩いている人にとっては、使い勝手は抜群だと思います。

狩野さん 元々「バイト」がアップル製品を入れるために設計されたことも大きいと思います。さらにそこに、山用の機能を加えている。例えば独立したノートPC用スペースは、アウトドアパックのハイドレーション機能をイメージしたものです。トレイルランのレースではウォーターパックをバックパックに入れて、走りながらでも水分補給できるようになっているんですが、ウォーターパックを入れるスペースは給水所で素早く出し入れできるように設計されています。そのアイデアを活かしたものなんです。

――細かい部分でも使い勝手を追求しているように感じます。

狩野さん PCスペースに関しては、機器を守るために内側にフリースを貼ったり、バッグを置いた時にPCが底突きしないように途中までで止まっていたりといったことは「バイト」の頃からの仕様です。フロントの小物用ポケットも、内部を3つに分けてケーブルやモバイルバッテリーなどを想定したスペースを作っています。時代によってサイズは少しずつ変わってきているんですが。

――「シャトルデイパック」には、薄マチのスリムモデルもありますね。ペーパーレス化が進んでいる人にとっては、デジタルデバイスだけ持ち歩ければいいわけで、最近は薄マチリュックの人気が上がってきています。

狩野さん 実は「バイト」の頃にすでにスリムモデルを出しているんです。最初に「バイト 20」を出して、次に「バイト 25」という少し容量の大きいモデルを出したんですが、その頃にアップルの人と話していて「最近は書類も持たないんですよ。本当にタブレット1つぐらいしか持たない。だからもっとスリムでもいいかも」と言われて。それで「バイトスリム」というモデルを出しました。2014年のことです。

―――さすがIT企業! もうその頃から紙なんて使ってなかったのか!

狩野さん 通常の「バイト」はPCスペースに、1泊2日の出張用の荷物ぐらいは入るメインスペース、そして小物用スペースと大きく3つに分かれていますが、スリムにはメインスペースがありません。その代わりPCスペースの内部を区切れるようにしていて、ノートPCとタブレットと書類程度なら入ります。普段の通勤なら人によってはこれぐらいでもいいかもしれませんね。
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エベレストを目指す登山隊のサポートなども行ってきた本格アウトドアメーカー、ザ・ノース・フェイス。エクスペディション向け用品の開発で培ってきた技術力が落とし込まれたアイテムの数々は、タウン向けだとしても妥協のない使い心地の良さにつながっています。近年はファッションアイテムとしても人気ですが、ザ・ノース・フェイスに興味を持つきっかけがアーバンアウトドアスタイルだったとしても、一度使うと「やっぱりいい」と思わせる魅力や機能性、性能の高さがある。それが人気につながっているのかもしれません。

一方で、環境破壊や気候変動といった地球規模の問題の解決に向け、さまざまなメーカーとの協働も進めています。自然の中で製品が使われるブランドだからこそ、サステナブルな社会を実現するために挑戦する。そこで生まれた新技術は、タウン向けアイテムにも反映されていく。

“山”というブランドのフィロソフィーは変えず、時代に合わせてユーザビリティをアップデート。人気にあぐらをかかず、常に挑戦する姿勢を持ち続ける。強さの秘密はそういった部分にあるのかもしれません。

>> ザ・ノース・フェイス

<取材・文/円道秀和(&GP) 写真/松川 忍(取材)、田口陽介(商品)>

 

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