平成のお笑い業界は激変していた!? 霜降り明星のヤバさも…『教養としての平成お笑い史』 ラリー遠田×キックの発売記念対談

平成のお笑い業界は激変していた!? 霜降り明星のヤバさも…『教養としての平成お笑い史』 ラリー遠田×キックの発売記念対談

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 お笑い評論家のラリー遠田の新刊『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が発売された。この本では、14の事件を題材に、平成のお笑いの歴史を振り返っている。本の発売を記念して、著者であるラリー遠田とサイキック芸人のキックの特別対談が行われた。第2回では、霜降り明星など新世代芸人の登場によって時代が変わりつつある現状について語る。

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ラリー 平成が始まったのは1989年なんですけど、そこで『オレたちひょうきん族』が終わっているんですよ。そのあたりからビートたけしさん、明石家さんまさんの勢いがちょっと落ちてくるんですよね。さんまさんは平成が終わる直前に結婚していて、そこから勢いが衰えてしまった。ビートたけしさんも順調そうに見えたけど、1994年にはバイク事故を起こしている。

 そこでウッチャンナンチャンが出てきたり、ダウンタウンが東京進出してきたり、新しい勢力が出てくるんですよね。だから、この本で取り上げている事件でも、平成の初期ってさんまさんの離婚とか、たけしさんのバイク事故とか、ネガティブなものが多いんですよね。それは結局、平成という新しい時代を迎えて、昭和末期に活躍したスターたちがどう戦っていくのか、というところなんです。

キック それで言うと、今年は元号が変わる年でつなぎ目だから、そのときと状況は似ているかもしれないですね。九星気学では2019年って「八白土星」にあたるんですけど、これは「急な変化」「つなぎ目」「世代交代」っていう意味があるんです。だから、これからお笑い界でも世代交代っていうのがもう思いっきり出てくるんじゃないかっていう感じはあります。でも本当に、平成を駆け抜けていまだにトップを取ってる方々っていうのはすごいですよね。

ラリー たけしさん、さんまさん、ダウンタウンもみんな生き残ってますからね。その辺がすごすぎるから、平成ってあんまり変化がなかった時代みたいに思われてるんですけど、実際のところ、上は変わってないけど下はだいぶ変わりましたよね。まず圧倒的に数が増えたし。

キック 運の理論で言うと、「つらいところに運がある」って萩本(欽一)さんがおっしゃっているんです。「あんなの人間がやるもんじゃない」とか、「芸人なんかひどい世界だぞ」とか、そう言われているのが当たり前の時代に芸人になるっていうことに運があるんですよ。

 でも、今は芸人のイメージも上がっていて、すぐに食えるようになるとか、意外といい生活できるとか、そういう話があるじゃないですか。この状況で芸人を目指す人ってどうなるんだろう、っていうのはありますね。だから、1回冷え込んだ後に本当の意味でのスーパースターが出てくるんじゃないかと思います。

 逆に言うと、今、芸人をわざわざ目指しに行く人っていうのは、運がないところに飛び込んでいるのかもしれません。「今の時代、テレビっていうのは自分から出ようとするものじゃない」ってよく言われるじゃないですか。ほかの分野で活躍して目立っていればテレビの方から面白がって声をかけてくれるから、自分から出に行くようなもんじゃない、っていう。

 でも、だからこそ、この時代に本気で「テレビに出たいです」って真正面から考えている人がいるとしたら、それはそれでズレていて面白いかもしれないって思いますね。

ラリー 武井壮さんとかはそういうタイプですよね。とにかくテレビに出たいと思っていて、ひたすら体を鍛えて、ネタを磨いて、テレビタレントがよく行く西麻布のお店に通って、そこで面白いと思われてテレビの世界に引っ張り出されるんですよね。そうやって真正面から「とにかくテレビに出たいです」って思っているのって、若手芸人でもあんまりいないかもしれないですね。

キック テレビって、そのうち今の民放が全部NHKみたいになると思うんですよ。今やっている民放のバラエティ番組とかは、例えばAbemaTVとかYouTubeとかに流れていくと思うんですね。その時代に、それでも真正面からテレビに出たいって考える人がいたら、それ自体がズレてるからちょっと面白いのかな、とか思ったりします。

ラリー 昨年の『M-1グランプリ』で霜降り明星が優勝したじゃないですか。彼らは史上最年少チャンピオンで、まだ20代半ばなんですよ。その後いろいろなバラエティ番組にも出ていて、めちゃくちゃ評判いいんですよね。視聴者にもウケてるし、スタッフにも認められていて。

 やっぱり才能があるし、やる気があるし、キャラクターのかわいらしさみたいなのもあって。よしもとに久々に出てきたスターっていう感じがするんですよ。本人たちも「自分たちの世代でお笑い界を盛り上げていきたい」みたいなこと言ってるんです。そんなことを本気で言う若手芸人ってここ10年ぐらいいなかったと思うんですよ。お笑い界ではそんな熱いことをわざわざ口に出して言うのは恥ずかしい、みたいな風潮ってありませんか?

キック この間も霜降り明星の2人を『人生が変わる1分間の深イイ話』で見ていて、びっくりしましたからね。ここまでストレートに言うんだ、って。

ラリー ピュアなんですよね。彼らは高校の頃からお笑いをやっていて、『M-1甲子園』っていう高校生のお笑いコンテストにも出ている。だから、高校球児みたいな感覚で今もお笑いをやっているところがあるんですよね。そういう人って熱さが空回りしてしまいがちなイメージがあるけど、彼らはちゃんと面白いんですよね。面白くてあのキャラクターっていうのがちょっと新しい。

キック 霜降り明星のせいや君はイジメに遭っていたこともあったらしいですもんね。運をちゃんと貯めていた時期もあったわけだし。

ラリー 平成の芸人って初めから「上の世代にはかなわない」みたいな感覚を持っている人が多いと思うんです。ナインティナインの岡村(隆史)さんとかも「上が詰まっていて上がっていけないから、さんまさんには早く引退してほしい」みたいなことをよく言っていたじゃないですか。そういう時代を経て、平成が終わりを迎えるこのタイミングでようやく、新しい感覚を持ったピュアな若手が出てきた、っていう感じがするんですよね。そういう意味では楽しみです。

キック 新しいですよね。本当になんか全く別の流れがここから始まるかもしれないですね。

ラリー あと、今お話を聞いていて思ったのが、又吉直樹さんが芥川賞を獲った『火花』ってあるじゃないですか。あれってどういう話かというと、若手芸人と彼が尊敬する先輩芸人がいて、お笑い論を交わすんですよね。その内容がものすごく熱いんです。又吉さん自身も言っているんですけど、あの小説で書きたかったのは「芸人ってすごくチャラチャラしているみたいに思われがちだけど、実は真剣に笑いに向き合ってがんばっている」ということなんです。芸人がチャラチャラしていると思われがちな時代に、あえて「芸人こそストイックである」みたいな逆のメッセージを打ち出すっていうのが、この時代においては新しかったのかなと。

キック そうでしょうね。今まで隠してきたものがもう裏返ってきてるってことですもんね。

ラリー 少し前までは「一発屋芸人」と呼ばれるような人って、もっとバカにされる感じがありませんでしたか? 久しぶりにテレビに呼ばれて、最高月収を聞かれて、ギャグをやらされて終わり、みたいな。でも、最近は「一発屋芸人も実はがんばっている」みたいな風潮になってきてますよね。そこもちょっと時代が変わってきたのかなっていう感じがします。

 こんな具合に、この本を読むと事件をきっかけにしていろいろなことを連想するじゃないですか。だから、いろいろな切り口で語れる本なのかな、と思います。
(取材・文=ラリー遠田)