レプリカ作りから見えてくる北斎の技巧… 幻の傑作「隅田川両岸景色図巻」に迫る

フレッシュな旅人たちが、日本の美術館の魅力・価値を発見していくTOKYO MX(地上波9ch)の美術探索ドキュメンタリー「フランス人がときめいた日本の美術館」(毎週木曜20:00〜)。5月23日(木)の放送では、女優・近衛はなさんが「すみだ北斎美術館」を訪れました。

日本の美術館の魅力をまとめた書籍「フランス人がときめいた日本の美術館」の著者で、フランス人の美術史家ソフィー・リチャードさんのメッセージをヒントに、江戸が生んだスーパースター・葛飾北斎の魅力を紐解きます(前編はこちら)。

◆絵のために向かった整形外科

200人もの弟子を抱えていた北斎。個別の指導には無理があるため、絵の手本となる本「北斎漫画」を出版しました。

八編の「無礼講」では、烏帽子をかぶった神職らしき男が、ふんどし姿でさまざまな器械体操に熱中する姿が。絵の意味はさておき、人間の筋肉、骨の動きの正確さに驚く作品です。北斎は、骨接師(整形外科)のところへ行き、人間の骨格などを勉強していたのだとか。

全15編の「北斎漫画」で、作風と評価を確立していった北斎。没後も出版が続いた同作は、人気シリーズとなりました。


◆1つの絵に込められた昼と夜

美術館開館より1年8ヵ月前の2015年3月、墨田区が、北斎の幻の傑作を購入できる見込みになったとのニュースが駆け巡りました。

その作品の名は「隅田川両岸景色図巻」。存在は知られていたものの、行方がわからず、100年もの間ヨーロッパで眠っていた作品です。

海外へ持ち出したのは、美術商・林忠正。25歳のときにパリ万博のため渡仏し、現地で日本の美術品を扱っていた人物です。52歳で帰国する直前、オークションで「隅田川両岸景色図巻」を売却したのではと考えられています。

作品は、その名の通り、隅田川の景色を描いた肉筆画。全長7mの大作です。右端に描かれた両国橋あたりから、左端の吉原室内に向かって、主人公たちの一連の流れを描いています。また、右のほうでは隅田川の水面に船の影が映っていますが、吉原に近づくと、人々の手に灯かりが。昼間から夕闇への時間経過も巧妙に表しているのです。

酒宴の様子が描かれた吉原室内の中心には、茶色い着物の男が。これは、北斎の自画像ではないかという話もあるそう。


◆専門家でも見抜けない!? 精巧なレプリカの裏側

ぐっと近寄ってみると、近衛さんが「アリよりも小さい!」と驚く都鳥の姿も。詳細で精巧な作品ですが、展示されているのは、実はレプリカ。

しかし、専門家でも判別するのが難しいほど素晴らしい完成度。今回は、レプリカを制作した凸版印刷株式会社 文化事業推進本部 木下悠さんにもお話をうかがいました。

「日本美術では、貴重な作品をできるだけ多くの方に見ていただきたいという美術館の思いと、光に弱い作品とで矛盾が生じてしまいます。そこで、文化財専用のスキャナーで高精細にスキャニングし、印刷しました」

スキャナーは非接触型のもの。作品と30cmほど距離を空け、カメラが細かく移動し、細部まで丁寧にスキャンしていきます。特殊なレンズを用いており、ゆがみのない画像を取り込むことができる優れもの。

原本の色をできるだけ再現するべく、プリンターを持ち込み、実物と見比べながら印刷したと話す木下さん。その過程を経て、北斎への理解が深まったことを明かします。

「レプリカ作りを通して、北斎がいろんな技を使っているのに気づかされるんですね。着物の裾の柄はおそらく、輪郭線を描いたあと、薄く墨で塗り、胡粉という白い絵の具と青い絵の具を混ぜたもの、暖色系の色を混ぜたもので描いているんです」


「絵は平面に見えますが、実際はいろんな層が重なり、立体的になっています。細かくデータをとったり、印刷を調整したりすることで、(レプリカも)立体的な表現と見てとれるように工夫しました。なので、レプリカですけれども、信用して見ていただければと思います」

驚きの最新技術の裏には、レプリカ制作そのもの以上に、原本を守りつつ、作品を美しいかたちで伝えたいと願う、熱い思いがありました。


■すみだ北斎美術館
住所:東京都墨田区亀沢2-7-2
開館時間:9:30〜17:30(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜(祝祭日の場合は翌日)、年末年始(12月29日〜1月1日)※臨時休館あり
観覧料(常設展):一般400円、高校・大学生・専門学校生・65歳以上300円
※展覧会ごとに異なります。詳しくは、各企画展のページをご覧ください。
公式Webサイト:https://hokusai-museum.jp/

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<番組概要>
番組名:フランス人がときめいた日本の美術館
放送日時:毎週木曜 20:00〜20:56
語り:椎名桔平
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/japanese_museums/