今季で廃部のアイスホッケー日本製紙クレインズ、プレーオフで快進撃。クラブチーム化で存続を模索

今季で廃部のアイスホッケー日本製紙クレインズ、プレーオフで快進撃。クラブチーム化で存続を模索

親会社がともに製紙会社という、伝統の「ペーパーダービー」

 今季限りで廃部が発表された、アイスホッケーアジアリーグ(AL)の日本製紙クレインズ(釧路市)が快進撃を続けてている。

 ALの8チーム中、レギュラーシーズンのリーグ戦5位までがプレーオフに進める。レギュラーシーズンで4位だったクレインズは、2戦先勝方式でセミファイナル進出となるプレーオフ第1ラウンドで5位の王子イーグルス(苫小牧市)と対戦。道内同士の伝統の一戦で、親会社がともに製紙会社という「ペーパーダービー」だ。

 クレインズは初戦で敗れながら第2戦・第3戦と連勝し、レギュラーシーズンの上位3チームによるセミファイナルに進出。デミョンキラーホエールズ(韓国)とのセミファイナルでは、3戦先勝方式で2連勝し、幸先の良いスタートを切り、28日には3勝目を挙げて3連勝でプレーオフセミファイナルを勝ち抜け。3月9日(土)、10日(日)、 釧路でのファイナル第1・2戦開催が決定した。

 このリンク内での熱戦と同時に注目されているのは、リンク外の「廃部チームの引き受け先」だ。

「母体企業の日本製紙の経営悪化」というのが、2019年3月末で69年間の歴史にピリオドを打つことを表明した会見での、安永敦美日本製紙釧路工場長が表明した廃部理由だ。実は、日本製紙クレインズは営利団体ではなく日本製紙の実業団。わかりやすくいえば、一企業の福利厚生のための「クラブ活動」といえる。

 選手の立場は基本的には社員で、道具や遠征費用はチームが自己負担している。一説には3億円とされるチームの運営費用を日本製紙が支えきれなくなったがための廃部声明なのだ。

◆アジアリーグ設立で、遠征費などさらに出費がかさむ

 これまでもリーグ全体で、実業団スタイルからクラブチームへの脱皮が試行されてきた。

・1999年には古河電工が廃部となり、クラブチームHC栃木日光アイスバックス(日光市)が設立された。

・2001年には雪印(札幌市)が廃部となり、クラブチーム札幌ポラリスがチームを引き継いだが、運営資金不足などからわずか1年で休部となった。

・2003年には西武鉄道が廃部となりコクドに一本化され(2006〜2007年より「SEIBUプリンス ラピッツ」(東京都西東京市)、2008〜2009年廃部となる。

 国際水準のチーム数の維持が求められるため、国際リーグとしてアジアリーグが構想された。アジアリーグは、2003〜2004年シーズンに初開催され、北米・ヨーロッパに次ぐ第3の国際リーグとなったが、事業規模の拡大のために各チームの遠征費用は増加することになった。

 製紙業界は新聞や雑誌など紙媒体の需要低迷に加え、ICT(情報通信技術)化の進展で企業などのペーパーレス化が進んでいる。生産体制の再構築による収支改善が必要と日本製紙の釧路工場も事業縮小が続いている。釧路の地域経済の一翼をになう日本製紙の復活を祈りたいが、クレインズは実業団からの“脱皮の春”を迎えているのだ。

◆クラブチーム化で存続の道を探るクレインズ

 実は水面下では脱皮が着々と進んでいた。それが、官民一体でクレインズを応援する「釧路クレインズプロジェクト」(事務局・日本製紙釧路工場)だ。地元の企業・団体から募った協賛金はチーム運営の一助となった。今季は過去最多の63企業・団体が賛同、約270万円が集まり、地域が支える「クラブチーム」の受け皿に数年で移行するのではないかと見られていた。

 しかし経済の現実は厳しく、日本製紙は突然の廃部表明となった。ファンはチーム存続のための署名活動を呼び掛けていて、すでに署名は3万人を超えている。ゆくゆくはクラウドファンディングによる「市民クラブチーム」化も念頭にいれた活動をしている。

「釧路クレインズプロジェクト」(事務局・日本製紙釧路工場)の枠組みは現在も有効で、事務局を釧路市もしくは釧路商工会議所に置くことで、クラブチーム化は一気に加速する。

 ただし現在は日本製紙も、チームが存続できるよう選手らの引き受け先を探している段階だ。廃部が3月末に迫るなか、札幌市の1社が立候補を申し出たという。ただ、現在は日本製紙から話を持ちかけるなど道内外から広く募っている状況で、具体的な交渉には入っていないという。

 また、2月23日の『北海道新聞』による取材に対して、日本製紙釧路工場長は「複数のスポンサーによるクラブチーム方式での存続も視野に入れていく」と述べている(2月24日付『北海道新聞』)。

 今後の現実的な選択肢として考えられるのは以下の3通りだ。

1:札幌市の支援企業を中心にクラブチームの「札幌クレインズ」に移行する。

2:「札幌クレインズ」だが、札幌市と釧路市のダブルフランチャイズ制とする。

3:「釧路クレインズプロジェクト」を中心に、釧路で「市民クラブチーム」化する。

◆道東の中心都市・釧路市にとっては重要な分岐点

 釧路の街は道内有数の繁華街をかかえ、夜のネオンは健在だ。しかし、ところどころ閉じられたままのシャッターも目立つ。2018年2月の釧路市の人口は17万2214人で、17万2236人の苫小牧市に抜かれ、道内4位の座を譲ることになってしまった。

 釧路からホッケーチームがなくなるとなれば、ますます人口流出は止まらないだろう。来季のアジアリーグに参加するには4月末までに申請が必要になる。釧路市にとっては重要な分岐点に差し掛かっている。

 若くして亡くなった映画監督、相米慎二さんの問題作の1つに『風花』(2000年)がある。

 北海道を舞台に浅野忠信さんと小泉今日子さんが主演し、女優「小泉今日子」としての注目を浴びるようになったロードムービーだ。そのなかで、酔っぱらったエリート官僚役の浅野忠信さんが北海道の居酒屋で「120年かかって、なに残したってんだよ」と北海道をあざけるように笑い、現地の漁師にボコられるというシーンがある。

 このシーンがあるために北海道では問題作扱いとなっているのだが、相米監督は岩手県出身で、新年度100周年を迎える釧路江南高校の出身だ。中学・高校時代は釧路で過ごしていて、単なるふざけたセリフではないのだ。筆者には、北海道をご都合主義的な政策に使う中央政府(霞が関)の身勝手さを、エリート官僚役の浅野さんがなじる叫びに聞こえた。

 20年後の現在、アイスホッケーチームさえ釧路からなくなったとしたら、「140年かかって、なに残したってんだよ」と草葉の陰から相米監督に言われてしまうのではないだろうか。

<文/松井克明(八戸学院大学講師、地方財政論)>

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