苦境のドワンゴから分離したWebメディア、「電ファミニコゲーマー」の良質な「濃さ」

苦境のドワンゴから分離したWebメディア、「電ファミニコゲーマー」の良質な「濃さ」

電ファミニコゲーマーtop

◆電ファミニコゲーマーとは

 仕事柄、そしてネット好きの人間として、日々多くの記事をネットで読んでおり、そのいくつかはメモしている。そうした記録は年を追うごとに増えているのだが、その中でも特に多くの記事を記録しているサイトがある。

 最初のうちは何気なく書き込んでいるのだが、そのうちそれらが同じサイトのものだと気付く。そしてあるタイミングで良質なサイトなのだと理解する。そうして発見したサイトのひとつに「電ファミニコゲーマー」という奇妙な名前のサイトがある。

 ゲームメディアの「電」撃、「ファミ」通。ニコニコ動画の niconico の「ニコ」、協力メディアの4Gamer.netの「ゲーマー」。合わせて「電ファミニコゲーマー」。

 現在多く見られる細かくページ分割しているサイトとは違い、長文がよく掲載されている。それも、長いスクロールの下まで来ると、「えっ、次のページがあるの? というか、この長さの記事があと数ページもあるの?」と驚かされることがよくある。それも、ただ長いのではなく、濃い。

 電ファミニコゲーマーは、ゲームのサイトである。しかし、単なるゲームの情報が掲載されているだけではない。ゲームにまつわる人や文化に深く切り込んでいる。そして過去に触れられてこなかった人や話を引っ張り出して読ませてくれる。

 同サイトは2016年2月に創刊した。先日まではドワンゴの運営だったが、2019年6月30日をもって、ニュースメディア事業を株式会社マレに事業移管した(参照:電ファミニコゲーマー)。社長は編集長の平 信一氏。TAITAIの名前でも知られる平氏がこうしたメディアを立ち上げたのは、元カドカワ代表取締役社長の川上量生氏との関係が切っ掛けになっている(参照:ねとらぼ)。

 良質な記事が多いことは先述した。その中でも、特に貴重なのは「ゲームの企画書」という一連の超ロングインタビューだ。ただのゲームについてのインタビューではない。これまでメディアで語られていなかったり、まとめられていなかった話がゴロゴロと出てくる。

 どの記事が興味深いかは、人によって違うだろう。私の場合、最初に引きつけられたのは『信長から乙女ゲームまで… シブサワ・コウとその妻が語るコーエー立志伝 「世界初ばかりだとユーザーに怒られた(笑)」』という、コーエーの襟川夫妻の超ロングインタビューだった。どこを切り取っても面白く、ドラマ化して欲しいと思った。

 次に驚いたのは『【全文公開】伝説の漫画編集者マシリトはゲーム業界でも偉人だった! 鳥嶋和彦が語る「DQ」「FF」「クロノ・トリガー」誕生秘話』というインタビュー記事だ。「DQ」「FF」「クロノ・トリガー」その線を繋ぐ、出版業界の伝説の編集者。当時少年だった自分が体験したゲームの背景を知り、答え合わせをしているような気分になった。

 他にも個人的に記録している記事は多い。私のおすすめの記事は、この記事末にまとめておく。私自身、『レトロゲームファクトリー』という、レトロゲームの移植会社を舞台にした小説を新潮社から出している。また、インディーゲーム開発者として、Nintedo Switch 向けのゲームを一人で作っている。そのため同サイトの記事は、興味を持って読みふけってしまう。

◆クラウドファンディングで資金を募集

 そうしたサイトが、ドワンゴの事業整理によって独立した。そして、クラウドファンディングによる資金募集を開始した。CAMPFIREにて募集している「世界征服大作戦」というクラウドファンディングには、この記事執筆時点で158名のパトロンが付いている。

 メディアを運営するにはお金が掛かる。雑誌のように本を売るのではなく、ネットで無料で記事を公開するなら、どこかで制作費を回収しなければならない。一番大きな部分は広告になるだろう。それに加えて安定した収入を得るためにパトロンを募集したというところか。

「世界征服大作戦」のページを見ると、単なるパトロン募集というよりはファンクラブやオンラインサロン的な色彩が強い。ファンクラブ限定チャットや、取材の質問案の募集、編集部への参加などが、協賛リターンとして掲載されている。ネットとリアルの接点を作り、何らかのムーブメントを仕掛けたい。そうした意図があると感じている。

◆ニッチで濃いメディアの収益化

 ネット経由で無料でコンテンツを提供する際、その収益化方法はいくつかある。代表的なのは、Google AdSense などのWeb広告だろう。ページ中に広告を掲載して収益を得る。また専門メディアなら、その業界の企業に広告を直接出稿してもらうという手もある。こうした広告による運用は、紙の雑誌でもおこなわれている。

 他の方法としては、アフィリエイトがある。あるジャンルの記事を書き、そのジャンルの商品を販売する。商品を直接紹介するアフィリエイトサイトも多い。もちろん、自社で売るべき商品を持っている場合は、直接それらを販売するという手もある。グッズなどを作り販売するのも、こうした部類に入る。

 メディアとしての理想は、有料記事が売れるというものだろう。しかし、全てを有料にすると、新規ユーザーの獲得が困難になる。無料と有料の記事を織り交ぜる、あるいは、ある部分までは無料で見せて、続きは有料にする。新聞系メディアなどは、この方法を採用しているところが多い。

 今回、電ファミニコゲーマーが募集しているパトロンの募集は、定期的な募金による資金獲得だ。個人が中心になった募金ではあるが、法人がスポンサーとなる場合も同じ範疇に入る。オンラインサロンなども同類と見なすことができる。

 近年、クリエイターに対するパトロン サービスが盛んになっている。「Enty」「ファンティア」「pixivFANBOX」、クラウド ファンディング サイト「CAMPFIRE」による「CAMPFIREコミュニティ」。電ファミニコゲーマーの「世界征服大作戦」は、この CAMPFIREコミュニティを利用している。

◆単発的支援から継続的支援へ

 クラウドファンディングから、パトロンサービスへの近年の流れを見ると、単発的な支援から継続的な支援への変化を感じる。商品を作るというゴールが明確なプロジェクトではなく、人やチームが継続的に産み出すコンテンツを見たいという欲求だ。モノからヒトへ。"メディア"という特性から考えると、そうした定額課金や支援という形は、今後も増えていくのではと感じさせられる。

 また、そうした支援が広がれば、Webメディアの形態も変わるだろう。現在、Webメディアの多くは、ページ分割により広告の露出回数を増やす戦略を採っている。広告という収益手段に表現手法が縛られているわけだ。電ファミニコゲーマーでは、そうしたPV稼ぎを否定するような超ロングインタビューが掲載されている。

 細切れのWebの記事ではなく、読み応えのある記事を読みたい。そうした需要は、自分自身の体験からも一定数あると感じている。広告費以外の収益化方法を模索することが、媒体の自由度を上げる道になる。そうした意味でも、電ファミニコゲーマーの試みは注目している。

◆筆者のおすすめ記事

 最後に、電ファミニコゲーマーの記事で、個人的におすすめする記事を簡単な解説とともに掲載しておく(本文中で紹介した記事は省く)。

 どういった記事を面白いと思うのかは、好みや興味の方向性によって違う。電ファミニコゲーマーには「殿堂入り記事」という、ネットでバズった記事のまとめページもある。自分の好みの記事を探したい人は、このページを見るとよいだろう。

● 【ゲームの企画書】リアルを舞台に数千人規模でゲーム…そんなのは約30年前に存在した! 「蓬?学園」狂気の1年を今こそ語りあおう【新城カズマ×齊藤陽介×中津宗一郎 】

 私はTRPG畑の出身で、学生時代は郵便ベースのプレイバイメールを個人で主催していた。そのため、「蓬?学園」という巨大コンテンツには少なからず影響を受けている。その「蓬?学園」の裏側について、これでもかという分量の濃いインタビューが掲載されている。

● 【マイケル・ジャクソン没後10年】ゲーム『ムーンウォーカー』に魂を込めたキング・オブ・ポップと、彼を支えたセガスタッフの交流を振り返る

 私はマイケル・ジャクソンが好きだ。高校時代にはまり、CDやDVDを多く持っている。そのマイケル・ジャクソンの没後10年に合わせた、マイケル・ジャクソンとセガスタッフの交流についてのインタビュー記事だ。マイケル・ジャクソンとゲームの関わりについて、多くの逸話を読むことができる。

● 『FFタクティクス』松野泰己?『FFXIV』吉田直樹対談──もはやゲームに作家性は不要なのか? 企画者に求められるたったひとつの資質とは?

 私が同人やインディーで作っているゲームの多くは、シミュレーションRPGやRTSといった戦争ゲームだ。当然『伝説のオウガバトル』や『タクティクスオウガ』には少なからぬ影響を受けている。そうした人間の目から見て、非常に面白くて参考になる対談記事だった。

◆レトロゲーム好きが唸る記事も

● マニア垂涎! ゲームのレアなお宝がゴロゴロ。中古ショップBEEPの巨大倉庫にはゲームの歴史が眠る…元ファミ通・名物編集長と行ってみた

 レトロPC・ゲーム、アーケード基板・筐体のお店「BEEP」の記事。大量の懐かしいアイテムを取り扱っているお店の倉庫に侵入したレポートだ。こちらのBEEPの通販部では、私の小説『レトロゲームファクトリー』や、同人ゲーム、同人技術書を取り扱ってもらっている。

● 『魔法大作戦』や『バトルガレッガ』…眠れる名作オールドゲームを現行ハードへ――“移植”の匠集団「エムツー」に聞いたゲーム保存事情【移植希望タイトル募集!】

 レトロゲーム移植の匠集団「エムツー」のインタビュー記事。個人的に『レトロゲームファクトリー』という小説を書いていることもあり、こういう世界があることは、もっと知られてもよいと思っている。

● 麻薬より安全…違法コピーのゲームがマフィアやテロの美味しい資金源に! 21世紀に新興国で拡大、ブラックマーケットでもゲームは大人気【世界は今日もゲーマーだらけ:佐藤翔】

 海外のブラックマーケット市場の話。ゲームというビジネスを、日本とは違う面から見る興味深い記事。新興国のゲームビジネスは普段メディアに出てこない。こうした記事も載っているのが面白い。

● ジブリ鈴木敏夫Pに訊く編集者の極意──「いまのメディアから何も起きないのは、何かを起こしたくない人が作っているから」

 ゲームメディアなのになぜ? と思うところだが、ドワンゴ、川上量生氏の線で、ジブリとの接点があるために実現したインタビューだろう。かなり突っ込んだ話になっており、メディアとは何かということを考えさせられる。

● 王 貞治、長嶋茂雄、田中将大、大谷翔平……球界のレジェンド・野村克也が『パワプロ』各選手&自身の能力データをボヤキながら分析してみた

 これは、よく実現したなと感心したとともに、解説の充実ぶりに驚嘆した記事。こうしたインタビュー記事をまとめられるメディアは少ない。メディアの力を感じさせられた。

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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