ハッシュタグで起こした「革命」。倉持由香が語るSNSを使ったマーケティング論<「サラリーマン文化時評」#11>

ハッシュタグで起こした「革命」。倉持由香が語るSNSを使ったマーケティング論<「サラリーマン文化時評」#11>

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 今や常識となっているSNSを活用したプロモーション。自己プロデュースが重要なカギであるアイドル業界では、その影響力はさらに大きい。前回に続いて、当連載の著者・真実一郎がグラビアアイドル・倉持由香を直撃した。

◆「#グラドル自画撮り部」が生まれた瞬間

真実一郎(以下、真実):「『グラビアアイドルの仕事論 打算と反骨のSNSプロデュース術』(星海社)でも紹介されている、倉持さんが考えた『#グラドル自画撮り部』というハッシュタグは、日本SNS史に残る偉業だと思っています。事務所の垣根を越えて無料でできるプロモーションで、本当に画期的でした」

倉持由香(以下、倉持):「ありがとうございます!」

真実:「このハッシュタグを思いついた瞬間のことって覚えていますか?」

倉持:「吉田早希ちゃんと塚本舞ちゃんと3人で飲みながら、『どうしたらグラビア界はうまくいくんだろう』みたいな話をしたんです。その頃、私はもう“尻職人”としてTwitterのフォロワー数が増えていたので、『みんなで自画撮りを載せるSNSができたら盛り上がるのにね、でもプログラムできないから、だれかプログラムできる人に頼もうか』みたいな流れになったんです。でも結局、結論が出なくて」

真実:「最初はオリジナルのSNSを作ろうとしていたんですね」

倉持:「そうなんです。でもその次の日の朝、布団に入っているときに『あ、ハッシュタグがあるじゃないか』って。一個共通のハッシュタグを作って、それでみんなで自画撮りを載せれば、見やすいんじゃないか、ということを思いついて。『そうだ、「#グラドル自画撮り部」を作ろう!』って。それをそのままTwitterでつぶやいたんです」

真実:「ハッシュタグ名とかを吟味してから世に出したわけではないんですね。そのスピード感が勉強になります」

倉持:「すぐつぶやいちゃいました。なんで『部』にしたかっていうと、全国大会に向けて自主練する!部活!青春!っていう感じを出したかったんですよね」

◆グラドル界という畑を耕したかった

真実:「学生時代は、部活は何をやっていたんですか?」

倉持:「運動系の部活はなにもやってこなかったので、だからこそあこがれもあって。みんなで青春を過ごしたいな、という思いがありました。あと、そういう『夢に向かっている人』を応援したい、という気持ちがファンの方にもあると思うんです。

 グループアイドルさんがブレイクした理由って、小さい劇場から武道館やドームに向けて頑張る、っていうストーリー性があったのが大きいので、そういうのを参考にして『部』にしたような気がします」

真実:「『#グラドル自画撮り部』は、あっというまにトレンドワードに入って大きなムーブメントになっていきましたが、倉持さん以外の子の人気が上がってしまうことに対する葛藤やジェラシーって、まったく無かったですか?」

倉持:「無いですね。私自身がスゴく売れたいというよりも、グラビア業界が盛り上がればいいなというか。グラビアが凄く好きなので、なんとか生粋のグラドルのコたちがもっと盛り上がれば、という思いが強くて。それに、私という作物の芽が出ても、畑を耕さないとすぐ枯れてしまうので、まず畑を耕すことから始めよう、という気持ちで始めましたね」

◆ハッシュタグがグラドルの連帯感を可視化

真実:「『#グラドル自画撮り部』は、ハッシュタグひとつで一夜にしてムーブメントを創出したビッグ・アイディアだったと思います。日本マーケティング大賞とかカンヌ広告賞とか、そういうビジネス的なコンペに応募していれば受賞したんじゃないか、っていうくらい」

倉持:「ありがとうございます。ただあのときは、いろんな大人たちから『うちに任せてください』とか大量に連絡が来て、わけがわからなくなっちゃって……。商標登録も取られちゃったりしました。それは事務所がうまく話してくれたんですけど、とにかく混乱しちゃって。

 『#グラドル自画撮り部』を立ち上げたのって22〜23歳のときだったので、『よくわからない、オトナ怖い』みたいな感じで。本当はもっとそういうビジネス的な動きをできればよかったんですけど」

真実:「金の臭いを嗅ぎつけた大人たちが寄ってきちゃったんですね」

倉持:「『うちでプロデュースさせてください』とか『グループアイドル化しましょう』とか、いろんな人が来ました。でも、『#グラドル自画撮り部』でビジネスをしよう、お金儲けをしようっていうよりも、それを使ってそれぞれのコのフォロワー数が増えたり知名度が上がったりして、みんな個人で仕事が増えたらそれでいい、みたいな気持でした」

真実:「それまでグループアイドルの影に隠れていたグラドルの連帯感やファンダムが、あのハッシュタグで初めて可視化されたというか。可視化されたというより、倉持さんが創出したんですよね」

倉持:「『週刊プレイボーイ』のグラビア史振り返り特集でも、『#自画撮り部』が取り上げてもらえたりしました。グラビアがスゴく好きなので、グラビア史に残ることができたというのは嬉しいですね」

◆「#グラドル自画撮り部」が事務所の垣根を越えた文化に

真実:「でも、『#グラドル自画撮り部』って、事務所の許可を取るわけでもなく、個人で実施した企画ですよね。サラリーマンも、このように自発的に仕事を作るべくフットワークよく動かなきゃ、と反省しました」

倉持:「事務所に特に断りなく、勝手にやっちゃいましたね。そうしたら2〜3日でわっと広がったので、事務所に問い合わせが大量にきて、事務所も『え?倉持が何かやってるの?』とてんやわんやでワタワタしていました」

真実:「あの企画って、ほかの事務所のグラビアアイドルも自由参加できるじゃないですか。事務所によっては反対されるような気もします。無料でグラビアをどんどん公開するし、事務所を越えてタレントが繋がってしまうわけなので」

倉持:「ほかの事務所の友達の中には『ごめんなさい、事務所から止められていて』というコも最初はいましたね。でも徐々に雪解けしていったり、あとは#グラドル自画撮り部のハッシュタグはつけられないけど、自画撮りは載せてくれる、みたいな感じで。そこから自画撮りをSNSに載せていく文化っていうものがグラビアアイドルに広がったかな」

真実:「今は部としてどのような活動をしているんですか?」

倉持:「BLOGOSで連載があるので、そこで毎月MVPを決めたり部員紹介をしたり。あとは先日5周年イベントをやりました。基本は本当に自由なハッシュタグなので、新人のグラドルのコたちが使ってくれている感じですね。彼女たちがこのハッシュタグで撮影会の告知をしている投稿を、私が運営している公式アカウントでリツイートしています」

◆Instagramのフォロワー数が突然伸びた理由

真実:「著書に『自分に合ったSNSを選ぶ』と書いてありますが、倉持さんはTwitterの使い方が抜群に上手い一方で、Instagramは苦手だとおっしゃっていましたよね」

倉持:「今も苦手です。何を載せたらいいのか全然わかんなくて……。『食べたものを載せればいいんだよ』と言われても、普段食べているものが富士そばなので、富士そばにフィルターかけて載せたら『いいね』があんまりこなくて(笑)。どうしたらいいんだろう。おしゃれなものが載せられなくて」

真実:「でも、今年になってからInstagramのフォロワー数が急増しています。あれはどうしてですか?」

倉持:「そうなんです。最近出演したフジテレビの『#ミレニアガール』という番組で、藤田ニコルちゃんに『インスタをどうしたらいいのかわからない』と相談したら『このお尻の写真いいじゃん、お尻の写真だけ載せたほうがいいよ』とアドバイスをもらって。『インスタ映えなんて気にしなくていいよ、これが映えてるから』って。それでもう振り切って“尻スタグラム”にしたら、めちゃくちゃフォロワーが増えたんです」

◆海外マーケティングも拡大

真実:「なるほど、忖度せずに自分の得意な領域に振り切ったんですね。あと、最近はいろんな国の言葉でタグ付けしていますよね。あれも効果があったのでは」

倉持:「あれは同じ事務所の麻倉ひな子ちゃんから教わりました。実はグラドルのInstagramのフォロワーって海外の方がスゴく多いんですよ」

真実:「海外、特にアジアでは、グラビアアイドルという文化ってないっていいますからね」

倉持:「中国語とかタイ語とか、いろんな国のハッシュタグをつけたほうがいいよ、というアドバイスをもらって、一気に増えました。海外の方がグラドルをフォローするという風潮があるおかげで、グラドルのInstagramのフォロワーってかなり多いんですよ。天木じゅんちゃんが100万フォロワーとか。でも難しいのは、海外のフォロワーが増えても、イベントの集客に結びつけにくいんですよね」

真実:「TwitterとInstagramはどう使いわけているんですか? 例えばインフルエンサーとしての小嶋陽菜さんは、TwitterはAKB時代のファンを中心とした男性向け、InstagramとYouTubeは完全に女性向け、と明確に使いわけています」

倉持:「Instagramはもう迷いは無くて、タピオカとかオシャレカフェとか、女性受けを狙った情報は一切載せずに『尻』だけ。だからフォロワーの中で女性の比率は4%程度ですね。グラビアコンテンツとしてクオリティの高いものを作ろう、という思いでやっています。Twitterはもうちょっと自分のプライベートなこととかゲームのことを発信したりしています」

真実:「Instagramは、フォロワーが多くてもYouTubeのように広告費が入るわけではないので、インフルエンサーはPR投稿をするのが収入源になっていたりするんですよね」

倉持:「女性ファンが多いインスタグラマーの方だと、化粧品とかを『これ使っています』という感じ投稿してお金になるけど、グラビアの場合は男性ファンが多いから、何を宣伝すればいいのかわからなくて、企業案件も来にくいかもしれないですね。

 だから私は、SHARPのホットクックみたいに、自分が本当に気に入ったものはスポンサードしてもらわなくても呟き続けています。

 あと、海外で撮影会とか出来たらいいのかな。せっかく海外でInstagramのフォロワーさんが増えているので」

<取材・文/真実一郎 撮影/荒熊流星>

【倉持由香(くらもち・ゆか)】

グラビアアイドル、女優。自称「尻職人」。‘14年からは「グラドル自画撮り部」と称してSNS上で自らの写真をアップしていく活動を開始。グラビアアイドルたちの支持を集めて話題となる。著書に『グラビアアイドルの仕事論 打算と反骨のSNSプロデュース術』(星海社)がある

【真実一郎】

サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある

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