なぜかインドで火がつきTik Tokで拡散。謎の楽曲『節子』制作者が語る「新時代のヒット」の仕方

なぜかインドで火がつきTik Tokで拡散。謎の楽曲『節子』制作者が語る「新時代のヒット」の仕方

贅沢ホリデイズ御一行。左から高野政所、TAM、CHOP STICK

◆Tik Tokでネットミームとなる音楽たち

 現在、10代の若者を中心に世界的にヒットしているアプリ「Tik Tok」。

 全世界で5億人のアクティブユーザーを擁するというこの動画投稿サイトは、ユーザーがBGMやフィルターを選択し、自由に動画を編集し、15秒(条件を満たせば最大60秒まで可能)の動画を配信できるというもの。「踊ってみた」や「リップシンク(曲に合わせて口パクする)」動画というYouTubeでも流行っていた動画のスタイルに、SNOWなどの写真アプリで流行った多様なフィルターなどを組み合わせ、さまざまな「ミーム」を作り出すプラットフォームとなっている。

 そして、Tik Tokで使われているBGMは、人気のEDMやJポップもあるが、一般のヒットチャートとは違い、少し前のマイナー曲が動画と相まってバズったりしており、「Tik Tok人気曲まとめ」などまで作られているほど。

 また、影響力も大きく、2018年末にリリースされたLil Nas Xというラッパーの「Old Town Road」は、Tik Tok上で人気が爆発。ついには「Billboard HOT100」に19週連続トップになるというスマッシュヒットを生み出すに至っている。

 そんな中、2017年に作成された知る人ぞ知る日本の「ナードコア」というニッチなジャンルの曲が、なぜかインドでバズったのを皮切りにTikTokの中で大ヒットしているという。作成された動画はすでに3万本を超え、あの有名YouTuberであるヒカキンさんやプロ野球選手も使って動画を作っているという。

 その曲のオリジナルがこれ。演歌番組の語り風のセリフから始まったと思ったら、突如BPMが激速になるという異色の曲『節子』である。

 いったいこの曲は何なのか? なぜインドでヒットしたのか? その作成者であるDJ、ミュージシャンの高野政所氏と、彼が属するユニット「贅沢ホリデイズ」のメンバーで、『節子』の語りの部分や他の曲のボーカルも担当するレゲエDeeJayのCHOP STICK氏、また、Tik Tokの動画を主導するダンサーでエアギター日本一の称号も持つTAMさんに話を聞いてみた。

◆Tik Tokで3万回使われた曲のオリジナルはこうできた

――そもそもこの曲、「元ネタ」はあるんですか?

CHOP STICK(以下、チョップ):もともと贅沢ホリデイズの楽曲って、僕が思いついたフレーズやテーマを政所さんに話して、それが膨らんでいくって感じで作られることが多いんです。で、この曲も、僕は昔から東映のヤクザ映画とか好きで、東映チャンネルばっかり観ている時期があったんですが、そういう感じの雰囲気の世界が好きで。そんな中で、引揚船とかを波止場で待ってる人がいて、ふと肩を叩かれて振り向いたら「お! 節子じゃねえか」っていうシチュエーションが頭に浮かんで、「これいいな」と思って政所さんに電話して伝えたんですよ。

 で、「波止場で節子という女と再会したシチュエーション」を伝えたんです。まあ、普通ならそんなこといきなり言われてもわかんないじゃないですか(笑)。でも政所さん、その話以外何も聞かないで「ヤバいですね」って即答してくれたんですよ。

 それで、なんかちょっとそういうのをやりましょうって話になって、昭和の映画な雰囲気をまとった『節子』って曲ができたんです。

高野政所(以下、政所):そのとき、僕の彼女のお母さんが老人介護の福祉施設で働いていて、そこにいる「自作の詩を描くのが趣味」っていうおじいさんがいるんだけど、その人のために、彼の詩に演歌風の曲を付けてあげられないかって話になって。で、おじいさんから原稿用紙に手書きで書いた「なんとか坂」とかいう渋いタイトルの詩が写メで送られてきたんですが、それに演歌風の曲を付けてあげたらえらい喜ばれたんです。

 おじいさんに送ったあとも、そのオケのトラックは「演歌」って名前のファイルで寝かされてたんですね。そんなときにチョップさんからその話が来て、「昭和だし演歌だし、これ合うな」って思って。で、演歌の歌ではなくて語りだけにしようとかなって、で、節子ってところを連打するようにしようってなって。そこに僕が昔やっていたナードコア的な「連打+テクノ」を組み合わせて3回繰り返したら面白いだろうって話になってできたんです(笑)

――じゃあ、昔のナードコアといえば、違法サンプリング上等なアンダーグラウンドなものだったけど、『節子』はナードコア的な曲だけど100%オリジナルの合法的楽曲なんですね。

政所:そうです。全部オリジナル、というか「妄想」(笑)。

チョップ:僕はもともと「ナードコア」はサンプリングする音楽だって知らなかったんですね。だからこれできたときに、政所さんが「これはすげえ」って繰り返し言ってるから、「何が凄いんですか?」って聞いたら、「オリジナルでやるナードコアって思いつかなかった」って(笑)。

政所:ものすごく興奮してましたよ。ついに合法ナードコアが誕生したって(笑)。だから自分としては意気揚々と、ものすごく鼻息荒くYouTubeにアップして公開したんだけど、そんなにバズらなかった(笑)。たぶん、オリジナルでナードコアってのが、昔からのナードコアリスナーとかにも伝わらなくて、まず「節子って何?」ってはてなが浮かんじゃう状態だったんでしょう。

TAM:私はダンサーなんで、初めて聞くリスナーという立場だったんですが、なんて感想を言えばいいかわからなかったです(笑)。もともとレゲエダンスなんで、速さも意味分かんないし。

チョップ:でも、YouTubeの反応は今ひとつだったけど、レゲエ関係者もあのぶっ飛ばしてる感に興味を示していて、「節子ヤバい」っていう声は聞こえてはいたんですね。

政所:現場でかけたときの盛り上がりは異常でしたね。

◆そして「節子」がTik Tokへ……

――でもその段階ではまだブレイクはしてなかった?

政所:そう、現場では盛り上がるし「ヤバい」って声は聞くけど、目に見えてSNS上で盛り上がってるとかはなかったんですよ。で、贅沢ホリデイズでアルバムを出すってことになって、「節子」も収録したんですね。で、そのときにiTunesなどのネットでの音楽販売・配信を仲介してくれる会社というのがあるんですが、そこの人が「いま、ちょうどTikTokのキャンペーンみたいなのをやっている」って言われて。別にそこに出してもお金にはならないけど、プロモーションにはなるっていうことで出してみたんですね。

 で、Tik Tokは15秒なんで、イントロの語りだけで終わっちゃって、僕が面白いと思ってる「ツッコツッコツッコ」のループする部分が入らないんで、そこをちゃんと入れるように編集して、しかもBPMをさらに速くして凝縮して出したんですよ。

 要は「節子」の演歌+テクノのテクノの部分だけなんですよ、載ったのは。で、そのアップしたらオススメに載ったのかな? そしたらまずインド人が食いついてくれたんですよ。

TAM:インドの人は反応するのが早かったんですよ。オススメに乗る前に一番最初のがアップされて、ちらほら出始めたんだけど、そのときは全部インド人や外国人だったんです。

政所:インドですげえ超イケメンみたいなやつが『節子』に乗せてひたすらかっこつけているみたいな動画がアップされて……。意味わかんねえなってゲラゲラ笑っていたら、あれよあれよという間に拡大してって。

――インドの人が見ても、日本語で「お前節子じゃねえかー」以降はずっと「ツコツコツコ」なわけで、当然意味はわかってないんでしょうね。

政所:だと思います。

――政所さんはFUNKOT(インドネシアのダンスミュージックで、高野氏はそれを日本に紹介し、現地の有名DJにも認められ、インドネシアのクラブでもプレイしたことがある)ならばインドネシア人が反応する可能性はありますが、インドなんですね。

政所:そうなんですよ。 はっきり言ってしまえば、なぜインドの人が食いついたのか全然わからなくて(笑)

TAM:インドの人の動画はだいたいダンスより、ツコツコツコの部分でひたすらカッコつける動画が多かったですね。

チョップ:インド語でツコってなんか意味があるのかもしれない(笑)

政所:インド語はないけど、ヒンディー語か英語で、あるのかもしれませんね……。

◆Tik Tok社員も驚いた「節子」のバズ

政所:それでインド人と何人かの日本人が使ってくれたときに、Tik Tok本社に僕が呼ばれたんです。「ちょっとあの曲面白いからお話を」的に。で、「この曲は面白いから会社で推していきたい」という話になったんですね。

 で、そのときに「Tik Tokで流行る曲のセオリー」っていうのも教えてもらったんです。それは、

・BPMが128〜135で速め

・繰り返しがある

・ドロップ(一つ決めポーズを取れるような抜けるところ)がある

・女性ボーカル

なんだそうです。

 でも、「節子」は極端に速いし(約190BPM)ダミ声の男だし、セオリーから外れてるとこが多いんで、Tik Tokの人もなぜバズってるのかわからないらしいんです。なぜ流行っているかはわからないけど、とにかく流行ってるし、Tik Tok社員の中でも面白がってるっていうので、プッシュしていきたいと言われてからまた跳ねたんですね。

チョップ:だからインドから来たんだよね。逆輸入。左ハンドルのホンダみたいな(笑)。

――今までの高野さんの音楽のキャリアをたどると、電気グルーヴさんに影響を受けて音楽を始め、日本のナードコアに始まって中国の春節歌謡からFUNKOTに行って、そしてインドでバズると、どんどん西へ西へ向かってますね。

政所:そう、すでに天竺(インド)には辿り着いたっていう(笑)。

TAM:あたしが思ったのは、Tik TokはBGMに併せて動画のカテゴリが決まってくるんですね。例えば、誰かが振り付けつけた曲の動画がバズったら、その曲ではみんなその振り付けになるとか、おもしろ動画だとこの曲とか。曲に対してやることが決まる事が多いんだけど、「節子」は全ジャンルあるんですよ。振り付けもかわいい動画もハプニング動画もなんでもある。そこもセオリーから外れているんですよね。

チョップ:ルールがないんだよね。

TAM:何にでも合っちゃうんですね。

政所:昔は、ナードコアの曲作ってもアナログ(レコード)を切って出して、クラブで掛かって噂になって……というのが、僕らみたいなスタイルの音楽やってる人の「ヒット」の流れだったんです。今はその「ヒット」の流れが変わりましたね。YouTubeでも全然跳ねなかったのに、まさかTik Tokに拾われるとは……。

チョップ:どんなジャンルでもDJがかけて踊るとか、ライブ行くか、部屋で聴くかしかなかったけど、Tik Tokという全然違う音楽の楽しみ方、全然違う場で評価されてヒットが生まれるっていうのは、新しい時代なんだなって思いますね。

【贅沢ホリデイズ】

百戦錬磨のダンスホールレゲエおじさん CHOP STICK(右)、元祖FUNKOTおじさん DJ 高野政所(左)の「LET'S GO! シャンパンマン」コンビがアジアの神々と精霊から啓示を受けて結成した無責任宴会ダンスミュージックユニット。「俺達みたいになるな!・・・だけど、俺達みたいになっても何とかなる!いや、何とかしてみせる!」というメッセージを笑いと涙とともに日本と世界各地に届けるために2016年より本格活動開始。現在は、エアギター日本一の称号を持つレゲエダンサー TAMが加入し3人組に。

<取材・文/HBO編集部>

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