推定300億円!? 故ジャニーさんの莫大な相続財産。遺言や節税対策なしだといくら払うことになる?

推定300億円!? 故ジャニーさんの莫大な相続財産。遺言や節税対策なしだといくら払うことになる?

ジャニーズ事務所社屋 AFP=時事

◆197億円に上る!? 故ジャニー喜多川氏の相続税

 日本を代表するアイドル事務所こと、ジャニーズ事務所。オーナーだったジャニー喜多川氏は2019年7月9日(87歳)に、都内の病院にてくも膜下が原因で逝去した。日本の老若男女を悲しみの一色で塗り染めた瞬間だった。

 そんな中、ジャニー喜多川氏の財産額の話が聞こえてきた。「ジャニーさんは、100億の財産を持っていた」「違う、300億だ」と。諸説飛び交っていたが、仮に300億円だった場合、相続税額は197億円。相続税の申告期限(相続開始から10か月)までに、原則として現金で一括納付しなければならない。相続人の相続税の納付はどうなるのかが気になるところだ。

 辻・本郷税理士法人の相続部にて、税理士として活躍中の井口麻里子さんにお話を伺った。

◆姪のジュリーさんが直接相続すれば56億円の節税だが……

 「ジャニーさんが節税対策を検討していたとしたら、遺言を書いて、姪のジュリーさんに大半の財産を渡すよう手配していたと思います。というのも、ジャニーさんの姉であるメリーさんが相続してから、メリーさんの娘のジュリーさんが相続すると、56億円の損失になるからです。普通は対策をするはず……」

 56億円の損失? これには相続税の次のような仕組みが関係している。

 遺言がない場合、相続が発生した際に誰が財産を相続できるかは民法で決まっている。財産を相続できる人を、「法定相続人」という。亡くなった人の配偶者(妻、夫)は必ず法定相続人となる。これ以外の相続人は、次の順番で決まる。

第一位:子ども(子どもがすでに死亡している場合は孫、ひ孫などの直系卑属)

第二位:父母(父母がすでに死亡している場合は、祖父母などの直系尊属)

第三位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に死亡している場合は、その子ども)

 ジャニーさんは3人兄弟の末っ子として、1931年の10月23日に生まれた。ジャニーさんは一度も結婚しておらず、今のところ隠し子は出てきていない。両親や兄は既に他界している。

 ジャニーさんが遺言を残しておらず、兄に子供がいないとすると、法定相続人の順位によって財産を受け継ぐことになるのは、自動的に姉であるメリーさんになる。この時、メリーさんが負担する相続税は、197億円。亡くなった人の配偶者と一親等内血族(養親・養子を含む親または子)以外の人が財産を取得する場合、相続税が2割増しになる「2割加算」という制度があるため、負担がより一層重くなるのだ。

 メリー氏は、1926年12月26日生まれで現在92歳。ジャニーさんの唯一の相続人であるメリーさんには、娘が1人いる。ジュリー喜多川副社長だ。 ジャニーさんの財産はメリーさんに渡り、いずれジュリーさんに渡る。

 メリーさんは高齢のため、そう遠くない将来相続が発生するのは必然だ。勿論、その時にも相続税は発生する。メリーさんの財産を、単純にジャニーさんから受け継いだ103億円(300億円−相続税197億円)だけだと仮定すると、ジュリーさんはこのとき56億円の相続税を負担することになる。せっかくの300億円も、たちまち47億円(300億円−相続税197億円−相続税56億円)になってしまうのだ。(メリーさんがジャニーさんに相次いで亡くなった場合には、一定の軽減制度あり)

 ジャニーさんが、「全財産をジュリーに」と遺言を書いていたとすれば、メリーさんの相続時に払う56億円をそっくり省いて、(300億円−197億円=)103億円がジュリーさんの手許に残る。ジュリーさんが全財産を取得した場合も、メリーさんと同じく相続税が2割増しになるため、払う相続税はメリーさんと同じ197億円。メリーさんを飛ばすことで、その197億円一回きりで済むのだ。

 税理士の井口さんは話す。

「ジャニーズ帝国と言われるほど、大きな芸能事務所を築いた人。この仕組みについてもアドバイスしてくれる人はいたと思うし、急死ではなかったのだから、相続税の節税に対する準備もできたはず。もし遺言を書いていないとしたら、自ら税金を納める道を選んだとしか思えない」

◆非上場のジャニーズ事務所だが、業績が好調のため、株式の価値は高い

 資本金1000万円で作られたジャニーズ事務所だが、実は上場はしていない。芸能事務所が上場していること自体が稀であるのだ。

 上場していることで代表的な会社は、アミューズやエイベックス・エンタテイメント。だが、ジャニーズ事務所の売上はこれらの上場企業と引けをとらない。

 週刊新潮がジャニーズ事務所の売上を、2004〜06年にジャニーズ事務所とグループ企業が税務申告した額から推定したことがある。申告した法人所得は約153億円であり、少なくとも700億円の売り上げがあるとのことだ。

 その後の15年間、嵐の活躍やking & princeら若手の台頭があり、売り上げは大きく伸びており、今や1000億円を超えているだろう。1000億円というと、永谷園ホールディングスや不二家、USEN-NEXT HOLDINGSなどを想像していただければいいだろう。

 非上場会社の場合、後継者は、経営者の地位だけではなく会社を運営するのに必要な割合の自社株を取得する必要がある。ジャニーさんの相続財産の中で、株式会社ジャニーズ事務所の株式は、相当のボリュームを占めていると予想される。

◆非上場株式ならではのジレンマ

「税金はかかるけど、売上1000億円企業の株式を60%受け取れるならいいじゃん!大儲け!」と思うが、「納税」と「経営」の側面でジレンマがあると井口税理士は話す。

 業績が右肩上がりの企業ほど、その自社株の評価額は高まり、相続税の負担も大きくなる。後継者が相続税の納税ができずに、事業の承継に支障を来すことも多いとのこと。

 相続税は相続開始から10か月以内に「現金で一括納付」が原則だ。ところが非上場会社の株式は、その評価額がいくら高くても、上場会社の株式のように、市場で売却して簡単に現金化できるものではない。

 非上場会社の場合、株主は家族や親族などの身内であることがほとんどである。株式の評価額が100億円で、それに対する相続税が66億円だとしても、その株式を買ってくれる身内がいない限り、納税できない。

 仮に買い取ってくれる身内がいたとしても、非上場会社の後継者としては、会社経営上は自社株の大半を所有しておかなければならないジレンマもあり、現金が欲しいためだけにたとえ身内といえども株式を手放すことはできない。

 財産額300億円と言われても、非上場会社の株式のように、現金化しづらい財産が大半を占めていると、10か月以内に現金で一括納付、これが困難となるのだ。

「ジャニーズ事務所は、非上場会社の中でも『大会社』という種類に分類されます。大会社の株価引き下げ対策としては、配当金を少なくする、多額の退職金などを支給して利益を小さくする、含み損を抱えた土地や株式などを売却して簿価純資産を小さくする、といった方法が考えられます。

 ジャニーズ事務所がこれらの株価引き下げ対策を行ったかどうかは不明です。ジャニーさんはご自身の所得税の節税にもあまり興味がなかったという噂ですから、もしかしたらそういうことは一切なさらなかったかも知れませんね。アメリカ生まれのジャニーさんには、儲けたお金は寄付をする、という精神が根付いていたのかもしれません。

 ジャニーズジュニアなどの若手育成のため、奨学金のような形でお金をあげたい、とおっしゃっていたとも聞きます。給与なのか育成費なのか、名目は何であれ、経費としてたくさんの人にお金を支給すれば、自然と会社の利益は小さくなります。亡くなる前にそのようなことをすれば、自然と株価引き下げの方向に働いたと言えるでしょう」

◆「You、納めるものはパッと払っちゃいなよ」!?

 ジャニーさんが生まれたのは、昭和6年の1931年。アメリカで生まれた日系2世だ。1952年には、アメリカ兵として朝鮮戦争に徴兵された。およそ1年の兵役後、日本のアメリカ大使館に勤務した。大使として勤めつつ、子どもたちを集め少年野球チームを作った。この少年野球チームこそ、ジャニーズ事務所が生まれるキッカケとなったのだった。

 ある日少年野球チームのメンバーと偶然見た映画に感動をし、作る側に回りたいと考えたジャニーさん。1962年にジャニーズを作り、1965年に事務所として独立。常にクリエイティブに富んでおり、ダイヤの原石を見つける能力やプロデュース力が発揮され、帝王と言われるまで芸能界を上り詰めていった。

 亡くなっておよそ2ヶ月後の2019年9月4日、東京ドームにてジャニーさんのお別れ会が行われた。午前中は「関係者の部」として、現役の所属タレントと元所属タレントたちジャニーさんの”子どもたち”が参列をし、最後の別れを偲んだ。

 元少年隊の東山紀之さんがナレーションを務め、”子どもたち”とジャニーさんが写った写真が流された。次にジャニーさんに対する感謝の意を込めた映像が流され、最後にマッチこと近藤正彦さんが感謝の言葉を述べた。

 ”子どもたち”から愛されていた、ジャニーさん。懐の深さについて、ジャニーさんの話をいくつも聞く。ジャニーズ事務所の相続について調べるほど、「You、納めるものはパッと払っちゃいなよ」と思っていたのだろうかとひしひしと感じる。

<取材協力/井口麻里子>

税理士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士

<取材・文/板垣聡旨>

【板垣聡旨】

学生時代から取材活動を行い、ライター歴は5年目に突入。新卒1年目でフリーランスのライターをしている24歳。ミレニアル世代の社会問題に興味を持ち、新興メディアからオールドメディアといった幅広い媒体に、記事の寄稿・取材協力を行っている。

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