「甘えちゃってSorry」の成功を後押ししたYouTubeの「歌ってみた」文化。AYA a.k.a. PANDAの足跡<ダメリーマン成り上がり道#22>

「甘えちゃってSorry」の成功を後押ししたYouTubeの「歌ってみた」文化。AYA a.k.a. PANDAの足跡<ダメリーマン成り上がり道#22>

AYA a.k.a. PANDA(右)とMC正社員(左)<撮影/荒熊流星>

 自分に向いたことを、長く続ける。それが、あらゆる分野の成功者に多く見られる共通点だ。その意味で「自分に向いているものを選ぶ」ことは、成功への第一歩と言える。フィメール・ラッパーのAYA a.k.a. PANDAは、戦極MCBATTLE を主催するMC正社員から「MCバトルに出よう」と何度も誘われるも、その都度固辞。ライブと音源制作への注力を続け、のちにブレイクを果たした。

◆バトルに関係なく売れたアヤパンに謝りたい

 MC正社員の連載『ダメリーマン成り上がり道』の第22回では、かなり日が開いてしまったが前回に引き続きラッパー・AYA a.k.a. PANDAとの対談を掲載。今回はAYA a.k.a. PANDAのブレイクまでの道のりを振り返る。

――アヤパンさんは正社員さんのMCバトルイベントに様々な形で出演していましたが、自分がバトルに出る方向には進まなかったんですね。

AYA a.k.a. PANDA (以下、AYA):「でも正社員さんは、私を出させたがってましたよね。『上手くなっていく過程を密着で追いかけるから映像撮ろうよ!』みたいに言われていました」

MC正社員(以下、正社員):「メチャクチャ強引に頼んでた(笑)。最後のほうは『本当やらないんでいいんだね!?』みたいに問い詰めてたし」

AYA:「でも、やりませんでしたね」

正社員:「やらなくてよかったよ。本当にその節はすみませんでした! アヤパンはバトルと関係ないところで売れたんだから、謝らなきゃいけないですね」

AYA:「でもバトル・ブームが来た最初の頃は、『ほら〜! やっておけばよかったのに!』って言ってましたよ!」

正社員:「言ってましたね(笑)」

――アヤパンさんはバトルより音源をやりたかったわけですね。

AYA:「キャラの問題ですかね。『私はバトルキャラじゃないかな』と思っていたので」

正社員:「向き不向きはあるもんな。音源のほうがいい人は当然いますし、こんなこと言ったらバトルをやってるラッパーに怒られそうだけど、『この人。バトルはいいけど音源は……』って人も当然いますか」

AYA:「たしかに分かれると思います」

◆「音源ラッパー」に「音源派」……

正社員:「そもそも『音源』と『バトル』を明確にわけて語るようになったのも、バトルのブーム以降なんですよ。昔はフツーに両方やってる人ばかりだったから。その後で『バトルMC』って呼び方が生まれて、最近は『音源ラッパー』って言い方まで見かけたし」

AYA:「ええー、マジですか! 初めて聞きました」

正社員:「音源リリースしている人はみんな音源ラッパーだから! あと『音源派』って言い方もあるよなぁ。『バトルMC』って言い方は分からなくはないけど。MCの側にはそういう意識はないと思います」

AYA:「昔はライブイベントが終わったあとにオープンマイクでフリースタイルして、そのうちバトルになって……みたいなことが今より多かったですよね。それだけバトルが楽曲と近い位置にあったし、オープンマイクは本当に誰でもオッケー、下手でもオッケーな感じでしたし。それが、フリースタイルが突出して上手い人が出てきて変わったというか」

正社員:「そうだね。あと昔はステージに立つMCもお客さんも、人数がとにかく少なかったから」

AYA:「バトルがお客さんを呼べるものとして確立したんでしょうね。だから、バトルがメインの人と音源がメインの人がわかれたのかもしれない」

正社員:「あと、ラッパーも細分化された感がある。10年前はナードなポエトリーリーディングっぽい人と、ハーコーなMCが一緒に出ているイベントもあったんだけど、最近はそれもわかれてきた。トラップをやる人はトラップをやる人だけでイベントをしてるし。あとバトルに多く出ている若いMCでは、音源はあまり作らない人も実際に出てきました」

◆MCバトルのブームは羨ましかった

――MCバトルのシーンが盛り上がっていく過程は外からどう見ていましたか。

AYA:「そこは焦りましたね。ACE とか黄猿とか輪入道とか、よく一緒にやっていた知り合いが急に人気になって、フツーに羨ましいなと。でもじゃあ、自分がバトルをやるか? というと、やっぱりやらないし、自分は自分のやることを続けてきた感じですね」

正社員:「アヤパンはS7ICK CHICKs(スリック・チックス。4MC&1シンガーのフィーメールクルー)の活動もしてたからね。スリチクに参加したときは『アヤパン勝負に出たな!』って思ったよ」

AYA:「正社員さんはイベントも何度か呼んでくれましたよね」

正社員:「出てもらいましたね。スリチクのメンバーのLIPSTORMはバトルも出ていましたし」

――そしてアヤパンさんは‘17年にソロ作品「甘えちゃってSorry」で大きくブレイクするわけですが。

正社員:「ホント正直に言わせてもらうと、まさか売れるとは思ってなかった」

AYA:「ひどーい!」

◆“らしさ”を変えることなくブレイクした凄さ

正社員:「だって『甘えちゃってSorry』が出たときは、『あ、アヤパン新しい曲を出したんだ』って感じで、いつもどおりの知り合いのリリースだったんですよ。それが、しばらくしてYou TubeのMVを見たら、再生回数が100万回とかになってて、『うそ、何これ?』って。

 それが200万、300万と増えていって、周囲でもアヤパンの曲を聴いてる人が増えていったんです。特に驚いたのが、お金持ちの人にキャバクラに連れて行ってもらって、5〜6時間お店にいたときに、女のコのアヤパン知ってる確率がほぼ100%だったんですよ」

AYA:「代わる代わるテーブルについた女のコが、みんな知ってたってこと? うれしい!」

正社員:「自分と同世代とか、もうちょっと下の女のコはバリバリ知っているんですよね。あと小学生も知ってたりしますから」

AYA:「ちっちゃいコもケッコー聞いてくれてます」

正社員:「知り合いが『小6の娘と駄菓子屋に行ったら、同級生がみんな「甘えちゃってSorry」を聴いてたよ』って言ってて。もうそんなレベルなんだと驚きました。でも昔からアヤパンはアヤパンで、音楽のスタイルも特に変わってないと思うんですよ」

AYA:「あんま変わってないですね」

正社員:「だよね。だって俺、『甘えちゃってSorry』のMVを見たときも、今までのアヤパンのMVだなって思ったもん」

AYA:「あー、そういう感想はうれしい!」

正社員:「あまり方向性変わっていないのに、こんだけ人気になったのが凄いなって」

◆HIPHOPにはない「歌ってみた」文化

――「甘えちゃってSorry」が小学生まで広まったのはYouTubeの影響も大きいでしょうね。

AYA:「そうなんでしょうね。あとTikTokでもかなり広まった印象がありました。YouTubeでは『歌ってみた』的な動画がどんどんアップされるのが衝撃で。ラッパーがリミックスを作ってくれることには過去にありましたけど、カラオケで歌ったのをそのままアップした動画とか、アコギで歌ってくれた動画もあって、すごく感動しました。HIPHOPにはない文化だったので」

正社員:「やっぱりYouTubeの登場はMCバトルの世界でもデカかったですよ。MCバトルも、バトルの動画とかバトル用のビートを勝手にアップする人が増えたからこそ広まったと思うし」

――「甘えちゃってSorry」のヒット以降、ライブの客層は変わりましたか?

AYA:「メッチャ変わりましたね。とりあえず女のコが多くなって、最前がみんな女のコの日もあるから見晴らしがいいです(笑)。スリチクのときはお客さんは男性ばっかりで、『甘えちゃって〜』からホントに女の子が増えたから、『なるほど〜』って思いました」

正社員:「アヤパンのヒットとか、ちゃんみなの人気とかを見ていると、自分が女のコのお客さんを増やすために努力してきたことって、やり方も間違っていたのかもとも思いましたね。戦極はまだ女性の割合が1〜2割で、そんなに増えてもいないんです」

AYA:「やっぱMCバトルって怖いんじゃないですか? あと、たぶん難しい」

正社員:「そうね。女子が好きになるポイントがない!」

AYA:「あと女のコ視点では、MCの見た目は大事かも」

正社員:「それは大きいね。1〜2割でも女性客がいるのは、最近は見た目がいい男子がバトルに出ることが増えたからだと思うし」

AYA:「それは残念ながらある!」

◆MCバトルの女性ファンは“卒業”してしまう?

正社員:「でも、そういうお客さんは長くないんだよね。たとえば高校生ラップ選手権のとき、言xTHEANSWERが負けたのを見てボロボロ泣いた女のコとかは、今はもう残ってないと思うんですよ」

AYA:「そんなコいたんだ!」

正社員:「いたよ。俺も衝撃的だったから、この話は色んな場所で言ってるんだけど、あれはMCバトルの歴史が変わった瞬間だったと思う。でも、そういうファンは時間が経てばいなくなるんだよ」

AYA:「卒業していくね」

正社員:「やっぱ難解だし、暴力的な部分が多いからね」

AYA:「もっと本質を好きになってもらえたらいいですよね。フツーに見たら『え、何でこんな悪口を言い合ってるの?』ってなるじゃないですか。私も最初そうだったし。でも、それこそ『8 Mile』じゃないけど、日常生活の延長にラップがあって、それをバトルで競っているのがわかると、『やってること超カッコイイじゃん』って思ったし」

正社員:「そこを上手く見せたのが高校生ラップ選手権だったんだろうね」

AYA:「生い立ちを追ったりね。BAD HOPはそういう背景もあって人気になった部分あるし」

正社員:「BAD HOPはファンと一緒に成長していく過程を見せるのも上手かったよな。でもアヤパンの変化もマジですごいよ! 最近のライブのときのインスタの写真を見ると、ファンの女のコがスマホを掲げてアヤパンのステージをメッチャ撮ってるんですよね。青森とかの地方でもそんな感じで。うちらのイベントでライブやってたのが信じられないなと」

AYA:「スーパー昔ですから! 私も徐々に右肩上がりで頑張ってきたんですから」

<構成/古澤誠一郎>

【AYA a.k.a. PANDA】

‘17年11月1日に配信リリースした「甘えちゃってSorry」のMVが数百万再生回数を超える大ヒットを記録したフィメールMC。最新楽曲は7月リリースの「死んでよBABY」

【MC正社員】

戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く

関連記事(外部サイト)