「音楽に政治を持ち込むな」の愚。いつだって戦ってきた音楽。そして、終わりなき音楽の戦い<戦うアルバム40選・21世紀編>

「音楽に政治を持ち込むな」の愚。いつだって戦ってきた音楽。そして、終わりなき音楽の戦い<戦うアルバム40選・21世紀編>

Bruce Emmerling via Pixabay

 4回に渡ってお届けしてきた「戦うアルバム40選」だが、今回はさらに10枚を加え、「50選」の最終回とさせてもらう。最後のテーマはズバリ「21世紀」。世紀が変わっても世の中は平和になるばかりか様々な問題が浮上し、音楽家たちが向かい合って戦う状況は終わりを告げることがない。

◆ブッシュ政権がロック界の標的に

『Hail To The Thief』Radiohead (2003)

 20年以上にわたり、世界の音楽界きってのイノベーターとして君臨し続けるレディオヘッドだが、そんな彼らが政治的論客でもあることを示した本作。タイトルの「泥棒万歳」が、1824年にアメリカ大統領選で当選したジョン・クインシー・アダムスの選挙違反疑惑が浮上した際の歴史的な風刺文句として知られるが、これがまず2000年のジョージ・ブッシュJrの大統領選時の疑惑(アダムスも2世大統領だった)への皮肉。

 歌詞では「(暗算のような)常識が通用しないしない世の中に家でじっとしていられるだろうか」(「2+2=5」)、「君たちの世代が大統領になって善悪の区別がついたら、方舟で僕らを月に誘ってくれ」(「Sail To The Moon」)と、時のブッシュ政権下の世をひとつのディストピアとして憂いているが、むしろこれが、混沌とした21世紀の世のはじまりであったのかもしれない。

『American Idiot』Green Day(2004)

 おそらく、「政治的メッセージを持ったアルバム」と聴いて、現在ならもっとも思い浮かばれるのはグリーン・デイのこの作品ではないだろうか。これだけ具体的に特定の政治家(ここでは時のジョージ・ブッシュ大統領)をやり玉にあげた作品で、ここまで特大ヒットし、「ロックとは反抗の音楽」という古くからのパブリック・イメージに答えた作品もないだろう。

 このアルバムは、ブッシュの再選を目の前に、それが普通になっていることにメディア洗脳の危機を訴えた冒頭のタイトル曲ではじまり、「人気者の息子(「Favorite Son」)」と具体的にブッシュを皮肉ったラスト・ナンバーで幕を閉じるが、その間は主人公「ジーザス・オブ・サバービア」による、世に絶望した少年が少女との出会いなどから自分を見つけて行くという、ヘルマン・ヘッセやサリンジャー風の思春期の成長録。これで育った人も少なくはないはずだ。

◆保守的なカントリー界でも女性が躍進

『Hypnotize』System Of A Down(2005)

 90sにロック界きっての政治的論客だったレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが21世紀に入ってすぐに活動休止。その後釜的な役割を期待された存在が、LAのアルメニア移民のコミュニティから生まれたバンド、システム・オブ・ア・ダウンだった。マイノリティとして育ったことゆえの強い疎外感と、オリエンタル風味を交えた独自のサウンドで彼らはその期待に応えたが、2005年のピーク時に時差をおいて出した2枚のアルバム『Mezmerise』と『Hypnotize』はとりわけ政治的な作品となった。

 「メディア洗脳」を意味するタイトル曲を筆頭に、暴力やドラッグによる世の荒廃(「Stealing Society」「She’s Like Heroine」)、彼らの心の祖国アルメニアでの虐殺事件(「Holy Mountains」)、兵士の息子を持つ母の心情(「Soldier Side」)など、ここでは当時の911以降のアメリカの混乱が絶妙に綴られている。

『Taking The Long Way』Dixie Chicks(2006)

 ロックやヒップホップが体制への反抗を歌っても。それが当たり前となってしまった21世紀は、むしろ「保守の牙城」だったカントリーからそれが起こったことの方がショッキングなインパクトがあった。人気女性3人組のディキシー・チックスはイラク戦争勃発時に、戦争とブッシュを徹底批判。それは彼女たちに批判のみならず、スポンサーの撤退や、ときには殺人予告の恐喝までを受ける災難をもたらした。

 だが、彼女たちは本作をそんなカントリー・ファンへの返答とした。それは「いい人をつくろうことも、後引きすることもしない」と歌った「Not Ready To Make Nice」を筆頭にした、より反抗的な曲の数々。「地元のボーイフレンドと出会って住所も変えずに生きるなんて生き方はしない」(「The Long Way Around」)で、カントリー・リスナーの典型的な因習的ライフ・スタイルを批判し、「代償ならこれからも払い続ける」(「Everybody Knows」)と過去との決別もした同作はグラミー賞の最優秀アルバム賞にも輝いた。

◆ラップにも政治的メッセージが復活

『Transgender Dysphoria Blues』Against Me!(2014)

 21世紀に入ると、フェミニズムやLGBTの主張がこれまで以上に強固なものとなっていったが、遂に“性転換ロッカー”まで登場するご時世となった。それがフロリダ出身、シカゴを拠点とするパンクバンド、アゲインスト・ミー!の旧名トーマス・ジェイムス・ゲイブル、改めローラ・ジェーン・グレースだ。

 男性としてすでにアルバムを5枚発表し、人気バンドになりかかっていた矢先の2012年の「彼(当時)」の性転換宣言はロックシーンに衝撃を与えたが、これはローラになってからの最初のアルバム。タイトル曲や「The Trans Soul Rebel」をはじめとして、ここでは一貫して、性同一性障害にまつわる面倒なことが自虐的なブルースとして歌われるが、それをポップ・パンク、ガレージロックを通して痛快かつ爽快に歌いきっている様は、彼女自身の開放感と満足感を強く感じさせる。新たなる性の可能性のパイオニアだ。

 2010年代、マネー・ゲームになりさがりつつあったヒップホップに、いま一度社会や黒人の人種差別の問題に向かい合った、ストリートやコミュニティのリアルを語る血の通ったヒップホップの重要性を再認識させた立役者こそケンドリック・ラマーだ。

 デビュー作で、犯罪が当たり前の生活環境から自己を解き放ち、ラッパーとして生きていく半生を描いた彼は、この2作目でサウンドではジャズやソウルといった黒人文化の伝統と向かい合い、奴隷時代から現在まで、黒人がどう搾取されてきたかを訴え、「King Kunta」「Alright」「I」といった新たなアンセムと共に、黒人の誇りと、失敗やマイナス志向に屈せず戦い続ける自身への強い自己肯定を歌い上げた。

 こうした彼の姿勢がヒップホップに新たなリスナーを誘い込み、トレイヴォン事件以来、黒人差別への暗い影がさしかかりはじめた黒人社会にとっての新たなサウンドトラックにもなった。

◆ポップアイコンの歌姫も

『Lemonade』Beyonce(2016)

 2010年代の音楽界の「戦うキング」がケンドリック・ラマーであるならば、クイーンは間違いなくビヨンセだった。元々、誇り高きフェミニストとして知られていたビヨンセだったが、2013年に母親になったことでかえって「落ち着いてなんていられない」と、アーティストとしての進化を自身に誓い、完成した意欲作こそ本作。

 ジャンルを超えた参加陣のもと、多様な音楽性にトライする様はさしずめマイケル・ジャクソンの『スリラー』に黒人女性が30数年かけて返答したようなオーラがすでにあるが、そこに警察官の黒人への暴力事件に反旗を翻した「Formation」や60sの「ブラック・イズ・ビューティフル」のスピリットの警鐘をケンドリック・ラマーと共同で警鐘宣言を行ったような「Freedom」といった、社会的な戦うアンセムまで揃っているから鬼に金棒。時代を象徴する歴史的一作を決定づけた。

『Let Them Eat Chaos』Kate Tempest(2016)

 21世紀という時代は、詩人がヒップホップのトラックに乗りながら作品を発表する時代にもなったが、ケイト・テンペストはそんな、詩人がラッパーになる時代を象徴する存在だ。

 本作は、同じ通りに住む、お互いを知らない7人の人物が、ある日、真夜中に起きた嵐で叩き起こされ、避難所で出会い、そこで自分を紹介し合うところからはじまるコンセプト・アルバム。これらのキャラクターを通じてケイトは、暴力やドラッグ、さらには、ブレグジットを推進する反移民をかかげる極右の人たちに苦悩する人たちなどを浮かび上がらせ、現在のイギリスの抱える闇を表現している。そして最後のトラック「Tunnel Vision」で彼女は、「眠ったままだと、嵐の激しさに気がつかない。直面できなければ逃げられもしない。でも、嵐は来てしまったのだ」と、時代に強い警鐘を投げかけている。

◆セクシュアリティに対しても柔軟

『Dirty Computer』Janelle Monae(2018)

 優れたシンガー、ソングライター、ダンサー、そしてサウンド・クリエイターで女優でもあるジャネール・モネエは間違いなく、2010年代を代表するマルチ・スター。そんな彼女は自身の性的指向をパンセクシャル(すべての愛に対応可能)であることをカミング・アウトしていることでも知られている。彼女がそうした性的指向の問題などを軸とした社会問題を強く提起したのが現時点での最新作の本作。

 シングル・ヒットした「Make Me Feel」で自身の性的指向を実質的にカミングアウトしているほか、「Pynk」「Don’t Judge Me」でもLGBTを中心とした女性のパワーを高らかに祝福。さらにエンディングでは黒人の人種問題に言及。オバマ元大統領の、差別なき理想の社会を謳った名演説をサンプリングした、その名も「Americans」で、アメリカ合衆国が本来あるべき自由の理想を訴えている。

『Joy As An Act Of Resistance』Idles(2018)

 この企画の最後は、現在の最新のパンクロック・バンドで。それがイギリスは南部ブリストルを拠点とする5人組アイドルズだ。ルックスはおよそイケメンからは程遠い、年齢不詳のオヤジ顔で、濃いブリティッシュ・アクセントのシャガレ声と、一切の洗練を拒むような荒くれた演奏が特徴の彼らだが、その男臭いイメージとは全く対象的に、冒頭の「Colossus」からいきなり、「既存の男らしさ」に挑戦を挑む、同性愛の可能性も含めた新しい男らしさを提唱。

 そこを起点として彼らは「俺のブラザーは移民。俺のブラザーはフレディ・マーキュリー」(「Danny Nedelko」)と移民やゲイを排斥する世の中に一石を投じ、さらに国籍や、階級による差別問題といった、イギリス固有の問題をブレグジットが目の前に迫り、LGBTQに不寛容な現在の世の視点からリアリティを持って強く反抗の声をあげている。

<取材・文/沢田太陽>

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