『フォードVSフェラーリ』の3つの魅力、男たちの関係性に萌え、サラリーマン“あるある”に共感する!

『フォードVSフェラーリ』の3つの魅力、男たちの関係性に萌え、サラリーマン“あるある”に共感する!

?2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

 1月10日より上映されている『フォードVSフェラーリ』が、これ以上のないほどの“万人向け”の映画だった。

 1960年代後半のアメリカの車業界、および24時間耐久レースという、ほとんどの日本人にとって馴染みの薄い題材であるにも関わらず、グッとくる男たちの“関係性萌え”、サラリーマンの共感を呼ぶ企業との戦い、劇場の大スクリーンで観てこその大迫力のレースなど、自信を持って誰にでもお勧めできる要素がたっぷりとあったのである。

 映画情報サービスIMDbでは8.3点、映画批評サイトRotten Tomatoesでは92%の支持率など、圧倒的な高評価も得ている本作、その詳細な魅力をネタバレのない範囲で、以下に紹介しよう。

◆魅力その1:男たちの関係性が尊い!萌え(燃え)要素の満漢全席だ!

 本作の大きな目玉と言えるのは、ハリウッドきっての超実力派スター俳優である、マット・デイモンとクリスチャン・ベールのW主演作であることだろう。この2人が演じるキャラクターが実に魅力的であり、ブロマンス的な関係性に誰もが“萌えられる”ということを、何よりも強く訴えておきたい。

 メインとなるプロットはこうだ。気鋭のカーデザイナーであるキャロル・シェルビー(マット・デイモン)は、アメリカ最大の自動車メーカーのフォード社から、24時間耐久レースでライバル社のフェラーリに勝てる車を作ってほしいというオファーを受ける。レースまで90日間しかない中、シェルビーが真っ先に足を向けたのは、凄腕のドライバーではあるが、破天荒で怒りっぽい性格のケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)だった……。

 噛み砕いて表現するのであれば、シェルビーは“無理難題とも言えるオファーをマジメに受けようとするサラリーマン気質のため、企業からは重宝される男”。一方、マイルズは“能力は高いもののお偉いさんの言うことをなかなか聞かないために企業から疎まれがちな問題児”。まさに正反対の男2人の姿が描かれているのである。もちろん、そのキャラクターは極端なものであるが、大小はあれど誰もが周りで“思い当たる”ところもある人物像なのではないだろうか。

 そのサラリーマン気質なマジメな男が、能力が高いが言うことをなかなか聞かない問題児を“説得”しにかかる、というわけだが……まあその過程にはニヤニヤが止まらない。何しろこの問題児、マジメな男の誘いを初めはツンツンして断ったり追い返していたりするも、いざマジメな男がそっけない態度を取ったりすると、あからさまに寂しそうな表情を浮かべたりするのだ。めんどくさいことこの上ないが、同時に「このおじさん超かわええ〜」と萌えざるを得ないのである。

 もっと噛み砕いて言えば、「“グイグイくる強引なおじさん”が“素直になれないツンデレおじさん”をオトシにかかる」という、もはや少女マンガの世界が展開しているのだ。しかも「ガチなケンカをしながらも掛け替えのない親友になっていく」「そして本気で協力して無理難題に立ち向かう」という少年マンガのような要素も備えていると、萌え(燃え)要素の満漢全席だ。2次元のアニメの美少女ももちろんいいが、3次元のカワイイおじさんにこそ萌える性癖を持つ人(筆者含む)には明日地球が終わろうとも観てほしい。

 なお、ジェームズ・マンゴールド監督は、西部劇映画の『3時10分、決断のとき』(2007年)でも同様に“対照的な境遇の2人の男たちの絆”を描いており、精神病院に収容された少女たちを主人公としたドラマ『17歳のカルテ』(1999年)、トム・クルーズ演じる胡散臭い男に突如として振り回されてしまうアクション映画『ナイト&デイ』(1990年)、おじさんと少女の逃避行を描いたアメコミ映画『LOGAN/ローガン』(2017年)に至るまで、”主人公2人の関係性”を魅力的に描いてきていた作家だ。この『フォードVSフェラーリ』にぴったりの人選としか言いようがない。

 また、1960年代後半という時代背景およびブロマンス的要素からは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)、カーレースの世界と対照的な男2人の関係性から『ラッシュ/プライドと友情』(2013)を思い出す方も多いだろう。言うまでもなく、この2本が好きだという方にも『フォードVSフェラーリ』は大プッシュでオススメだ。

◆魅力その2:サラリーマン“あるある”も満載?企業同士の対立や家族の姿が共感を呼ぶ!

 この『フォードVSフェラーリ』は、主人公の男2人の関係性に萌え萌えになれる、もうそれだけでもいいと思えるほどの内容だが、その彼らにとってチャンスであり、一方では障害となる存在もある。それは、企業同士の戦いだ。

 劇中で展開する24時間耐久レースの“ル・マン”は、1台の車を複数のドライバーが交代で運転し、サーキットの周回数を競い会うというものだ。この昼夜を問わずとにかく走り続けるという過酷なレースは、長い歴史と根強い人気もあるため、そこで勝利することは自動車メーカーにとって最高の名誉とブランド価値をもたらすことになる。

 この映画ではタイトル通りにフォード社とフェラーリ社とのル・マンに向けての戦いを描いているわけだが、その2社がまた(主人公の男2人の関係性と同様に)対照的だ。何しろ前者は大規模な工場で大衆向けの車を大量生産している一方、後者は富裕層向けの高性能スポーツカーを“職人”が作り上げているというメーカーなのだから。

 その後にこの2社がどのように対立するのか……ネタバレになるので具体的には秘密にしておくが、フェラーリ社の社長の対応がひどすぎるというか、企業経営者にとっては頭が痛くなる問題にぶち当たるというか……とにかく、サラリーマンが「ああ〜」と共感してしまう展開になっていくことだけはお伝えしておこう。

 しかし、そうしてフォード社とフェラーリ社が火花を散らしているおかげで、主人公の男2人は一生に一度のチャンスを得ているのだ。その一方で、前述したように「90日でフェラーリ社に勝てる車を完成させる上に最高のレーサーを雇って最高のトレーニングもする」というお偉いさんの理不尽な要望にも応えなければならない。このジレンマは、やはりサラリーマンにとっての“あるある”であり、日本人でも思いっきり共感ができてしまうだろう。

 それでいて、フォード社の企業のお偉さんたちが、無理難題を強いるだけの単純な悪人ではなく、“こういう人いるいる”な人間くさいキャラクターになっているのも魅力的だ。マーケティング戦略の担当者の主張や、あれだけカネにものを言わせていたような社長が“弱さ”を見せるシーンも、また大きな共感を呼ぶはずだ。

 さらに、これまたサラリーマンあるあるであろう、”家族を守る父親”の立場も描かれているのが素晴らしい。実は、クリスチャン・ベール演じるケン・マイルズは、自身が営む自動車工場を国税局に差し押さえられ生活が行き詰まっており、愛する妻と幼いひとり息子から背中を押されて、無謀とも言える挑戦に加わるという立場なのだ。人生の大きな決断の時には、家族の存在がある……他人事ではないその姿に、自身の境遇を重ね合わせるというオトナは、決して少なくはないだろう。

◆魅力その3:大迫力のレースシーンはぜひスクリーンで!当時の“空気”の再現がものすごい!

 本作を語る上で、やはり大迫力のレースシーンを外すわけにはいかないだろう。何しろ、映像技術が進歩して「なんでもCGで実現可能」とも言われてしまいそうな今、あえてほぼ全てに“本物”が使われているのだから。

 撮影監督は、実際のレーシングカーにカメラを搭載し、観客にスピード感と、リアルなレースを“体験”してもらうことを心がけたそうだ。極めて地面に近い目線の、車の振動や重力までもを感じられる映像は、まさに“レーサーと同じ気分になれる”臨場感に満ちていた。加えて、撮影監督は特製のカメラ車両を利用し、レースと同じ正確なスピードで俳優たちの演技も映していったのだという。車がひっくり返るほどの大事故シーンも、言うまでもなくCGなしの本物の映像だ。

 また、24時間耐久レースの“ル・マン”は現在も行われているものの、1966年当時のレーストラックは今とは全く異なっていたため、スタッフはとてつもなく大きな観客席と、レーストラックのセットをイチから作り直す必要があったのだそうだ。さらに技術者たちが集うピット、VIPやジャーナリスト用のボックス、果ては当時の広告や見物人が持つ旗などの何百ものアイテムを作り上げたというのだから恐れ入る。

 しかもレースシーンだけでなく、フォード社の工場が舞台となる前半のシーンでも、築100年になる元スチール工場に、巨大な工場に見せるための組み立てラインやベルトコンベアを設置し、組み立ての工程途中である車も20台用意して撮影をしたのだそうだ。

 こうした飽くなきスタッフの研鑽が、劇中の1960年代の“空気”を見事に再現している。かつての企業同士の戦い、熱い攻防が展開するレース、そして男たちの関係性を描く“実話もの”として、その空気は必要不可欠のものであり、またとない贅沢な映画体験をもたらしているのである。

◆おまけ:マット・デイモンとクリスチャンベール、そのキャリアの集大成的なキャラクターなのかもしれない。

 最後に、マット・デイモンとクリスチャン・ベールがそれぞれ演じる、カワイイおじさん2人が、そのキャリアの集大成的なキャラクターであり、また俳優としての本人像と重なるということもお伝えしておこう。

 実は、マット・デイモン演じるキャロル・シェルビーは元々は頂点を極めたと言ってもいい優秀なレーサーなのだが、心臓の病気のせいで一線を退かなくはならなくなったことが映画の冒頭でわかる。

 監督のジェームズ・マンゴールドはマット・デイモンについて、「長いキャリアから悪評と名声を手にしているが、40代の俳優らしい“自分はどこに行くのか”という疑問にもぶつかっている。その姿は劇中の、無理難題でもあるが一生に一度のチャンスを掴み“自分を見つめ直す”キャロル・シェルビーの姿と重なっていた」と考えていたのだそうだ。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)や『オデッセイ』(2015年)などでマット・デイモンが演じていた、“不屈の精神を持つ天才”にも通じるキャラクターとも言えるだろう。

 一方で、クリスチャン・ベールは良い意味での“役者バカ”と言われてしまうくらいに役作りに余念がない……というよりも、1年間眠っていない男が悪夢のような体験をするスリラー映画『マシニスト』(2004年)の撮影のために30キロ減量するなど、ほとんど狂気のような執念を燃やしている俳優だ。そんな彼は、『ザ・ファイター』(2010年)で天才だが短気な性格から生活が破綻していくボクサーという、やはり『フォードVSフェラーリ』に通ずる、しかも実在の人物を演じていた。

 それでいて、クリスチャン・ベールは俳優としての役への情熱があるあまり、ズケズケとものを言うことも業界では評判(?)になっていたのだそうだ。その本人像もまた、劇中の“能力は高いもののお偉いさんの言うことをなかなか聞かないために企業から疎まれがちな問題児”というキャラクターに通じている。

 言うまでもなく、マット・デイモンとクリスチャン・ベールは劇中で見事な演技を見せており、そしてハマり役だ。ハリウッドの最高の俳優2人による、最高の男2人の関係性を紡いだ、この『フォードVSフェラーリ』、ぜひ劇場でご覧になってほしい。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】

インディーズ映画や4DX上映やマンガの実写映画化作品などを応援している雑食系映画ライター。過去には“シネマズPLUS”で、現在は“ねとらぼ”や“CHINTAI”で映画記事を執筆。“カゲヒナタの映画レビューブログ”も運営中。『君の名は。』や『ハウルの動く城』などの解説記事が検索上位にあることが数少ない自慢。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF

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