地域の助け合い、女性の政治参加が子どもを救う。映画『子どもたちをよろしく』<寺脇研×前川喜平>

地域の助け合い、女性の政治参加が子どもを救う。映画『子どもたちをよろしく』<寺脇研×前川喜平>

?子どもたちをよろしく製作運動体

 2020年2月に公開される映画『子どもたちをよろしく』。子どもを取り巻くいじめ・自殺・貧困などの社会問題を真正面から描いた衝撃作だ。企画したのは、元文部官僚で「ゆとり教育」の旗振り役としても知られた寺脇研氏と、同じく元文部官僚で文部科学事務次官を務めていた前川喜平氏。

 長きにわたり教育行政に携わってきた二人が、この映画を通して訴えようとした現代社会の闇とは一体何なのか。後編では、地域での助け合いや女性の政治参加に関する二人の知見を聞いた。

◆日本の地域の力は、捨てたもんじゃない

──助けが必要な子どもや大人というのは確実にいるわけですが、国でなくても出来ること、民間だからこそ出来ることというのは、あるものでしょうか?

前川:私は今、福島と厚木にある自主夜間中学の運営に携わっています。文字通り「老若男女」の生徒たちが学んでいます。そこではボランティアで勉強を教えているんですが、こういう場があると聞いて、手伝いたいと手をあげてくれる人が本当に多いんですよ。時々、生徒よりもボランティアの方が多いんじゃないかと思うくらい(笑)。

 それを見ていると、日本の地域の力というのは、捨てたもんじゃないなと思いますね。掘り起こせばいくらでもあると思っています。お金だけで子どもたちを救うのは難しい。関わってくれる大人がどれだけいるか、気持ちを受け止めてくれる大人がどれだけいるか、ということが大事ですね。もちろん、地域の善意のみに任せるのは無理がありますから、財政支援や税制の仕組みを作りながらバックアップする必要があると思います。

 寺脇:20代、30代の若い世代の人たちの意識は、確実に変わってきていると思いますよ。我々は我々で、古い時代の体験を生かすことはできるけれど、若い人たちの動きをどうサポートするか、というのも大事だと考えます。

 若い世代がクラウドファウンディングをうまく使って物事を動かしているのを見ると、すごいなと思いますね。我々が思いつかなかったことをしているなぁと。そうした新しい仕組みを使って、社会的活動に関わっている若者は確実に増えていると感じます。

 北九州市のある小学校では、子どもたちに朝ごはんを提供する子ども食堂のようなものが始まっていると聞きました。30年前に私も提案していたことなのですが、当時は、行政がそこまでやるのか、という声もあって実現されなかった。それが、とうとう自発的に行われるようになってきたんです。

◆女性の社会的な弱さ

──映画では、主人公・優樹菜の母親が再婚相手にDVを受けていたり、優樹菜自身も性的虐待を受けた経験があり、自立するために風俗で働く道を選んでいます。女性の社会的な弱さみたいなものを強く感じたのですが、これは意図的に描かれたのですか?

寺脇:もちろんそうです。主人公・優樹菜とその母親については、いわゆる「世代間連鎖」を描きたいと思いました。シングルマザーで、DVをする再婚相手に経済的に頼らざるを得ない母親をみながら、優樹菜は育つわけです。

 現場の実態を聞くと、男の子に対する虐待というのは目に見えやすいけれど、女の子は人に言えない類のことをされて抱え込んでしまうという傾向があることが切実にわかってきました。露骨には描き難い部分ではあったけれど、優樹菜の台詞を通して、優樹菜自身、それから優樹菜のお母さんはどういう幼少期を過ごしてきたのだろうか、というところも想像してほしいと思います。

◆政治は、女性に任せた方が良い

 ──先日、ジェンダーギャップ指数において日本が過去最低の順位となったことが大きな話題となりました。男女格差においてはどうお考えですか?

前川:男性優位の社会であることは間違いないですね。まず、政治がそうなっていますよね。地方政治においては女性の数が増えてきていますが、国政はまだまだ男性優位が続いています。

 しかも、特に今の政権与党の女性は、まるで「男性に同化してしまった女性」だと感じることがあります。男性優位の社会の中で、男性の古いタイプの振る舞いを見習って、同じように、あるいはそれ以上に「男性らしく」振舞っている人が多いという印象です。

 僕は、本来、政治というのは女性に任せた方がいいと思うんですよ。「男性は」「女性は」と単純化することはもちろん出来ないですが、女性の方が、「社会全体を育む」というメンタリティを持っている人が多いと思います。政治の世界で女性が権力を握るようになると、ずいぶん変わってくるでしょうね。

◆変えようと思えば変えられる

──どうして女性が政治に向いている、と?

前川:男性は戦う性、女性は愛する性だと言われていますよね。父性原理、母性原理で言うと、政治は母性原理のもとでやった方がいいと思うんですよ。

寺脇:競争に打ち勝つ、という考え方ではなくて、誰もこぼさないように皆で幸せになりましょう、という発想は、女性の方が持ちやすいというのはあるのかもしれないね。ただ、これまでずっと、男性に競争を強いてきた社会というのが背景にあることは忘れてはいけない。やっぱり、社会的活動を行うにしても、女性の方がハードルが低いですよね。男性は「そんなことしていないで、競争に勝ってこい」と言われてきたわけですから。

前川:文科省時代に、大学生・高校生を対象とした留学支援の仕事に携わっていたのですが、留学志望者の多くが女性であることには大変驚きました。高校生に至っては、7割が女性だったんですよ。男性の方が、受験勉強を優先する傾向があるんです。男性が、競争社会の中でいかに既存の秩序に縛られてきたか、あるいは親を含めた周囲が、いかに男性を縛ってきたか、ということを痛感させられました。

 寺脇:文科省は、まだジェンダーギャップが少ない方ですよね。優秀な女性官僚が育っている。私の時代は「官僚なんて男の仕事だ」「徹夜で汚い格好をして働かなければいけないんだ」というマインドが強かったですけれど、変えようと思えば変えられる、ということだと思います。

 この映画も、変えようと思えば変えていけるんだ、という考えのもとで、観てほしい。確実に存在している社会の闇というものを、しっかりと知ってほしいですね。出来れば一人ではなく友人・知人何人かで鑑賞して、感想を共有してほしいと思います。

<取材・文/太田冴>

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