映画『前田建設ファンタジー営業部』が面白すぎる「3つ」の理由!『マジンガーZ』に真剣に取り組む実話だった!

映画『前田建設ファンタジー営業部』が面白すぎる「3つ」の理由!『マジンガーZ』に真剣に取り組む実話だった!

(c)前田建設/Team F (c)ダイナミック企画・東映アニメーション

 1月31日より映画『前田建設ファンタジー営業部』が公開されている。「よくわからない変なタイトル」(失礼で申し訳ない)と思われるかもしれないが、これがもう文句なしに面白い!誰にでもオススメできる、痛快無比な娯楽作だったのだ。その魅力を以下にお伝えしよう。

◆理由1:『マジンガーZ』の地下格納庫を建設せよ! 全ての働く人を鼓舞する物語!

 まず、『前田建設ファンタジー営業部』のあらすじを簡単に紹介しよう。建設工業会社の広報部で働く若手社員のドイ(高杉真宙)は、グループリーダーのハセガワ(小木博明)から「うちの技術でアニメの『マジンガーZ』の地下格納庫を作れないだろうか?」という無茶ぶりにもほどがある提案を振られる。本当にその格納庫を作るわけがないのだが、“ファンタジー世界からの受注があった”という体裁のもと、個性豊かな社員がチームを組み、Webの広報企画としてプロジェクトはスタートした。

 もう聞くだけで「えっ?」と誰もが思ってしまいそうな設定だ。「マジンガーZの地下格納庫を現実に作れるのか?」という疑問に答えるため、大の大人が真剣にプロジェクトに取り組むのだ。しかも、“実際には作らない”のである。一応は広報の一環であるという免罪符(?)もあるが、「なんのためにそんなことをするの?」という疑問も当然生まれるだろう。

 しかし、その「バカバカしい」「なんのために?」という感情こそが本作に重要だった。実際に、プロデュサーである佐治幸宏氏は、本作についてこう述べている。

「若い人が冷めているといわれる時代に、大の大人が“空想の世界をリアルに体現すること”に本気で夢中になっていくことの面白さ、『何をバカなことを』と思っていた人々が次第に巻き込まれていく様子、そしてそこにあふれる熱気を体感していただきたいです」

 『前田建設ファンタジー営業部』は、まさにこの言葉通りの魅力に満ち満ちている。無茶ぶりを超えてもやは荒唐無稽なプロジェクトについて、当初はイヤイヤやらされていたチームメンバーが、いつしか情熱を燃やして取り組むことになり、会社内の土質担当者や機械グループの担当部長も巻き込み、はたまた社外からの協力も得ていくのだから。

 さらに「物理的に実現可能か」についてもチームメンバーは綿密に吟味し、図面や積算(工事などの費用を見積もること)も徹底して行われる。その過程が、これ以上のないエンターテインメント性に満ちていたのだ。

 加えて、これは社会で働くすべての人、特に社会人になったばかりの若者を鼓舞している作品とも言える。人気俳優の高杉真宙演じる若手社員は、「社会人になったら粛々と生きていく」と達観していて、働くことそのものに冷めた態度でいたのだが、彼の意識も次第に情熱そのものへと変化していくのだから。

 高杉真宙の他にも、上地雄輔、岸井ゆきの、本多力、町田啓太(劇団EXILE)、六角精児、小木博明(おぎやはぎ)など、豪華キャストが勢ぞろいしている。それぞれが「こういう人いるいる!」と思える、良い意味でデフォルメされた“会社に1人はいそうな人”を見事に演じており、観る人それぞれが自分に似たキャラクターを見つけて自己を投影でき、そして心から応援できるということも、本作の大きな魅力だ。

◆理由2:なんと“実話”の映画化! その理想的なアプローチとは?

 この映画の物語が、なんと“実話”から生まれているということも、特筆しなければならないだろう。

 前田建設工業株式会社は、ダムやトンネルなど数々のビッグプロジェクトを手がけてきた実在の組織だ。さらに、劇中と同様の“前田建設ファンタジー営業部”の公式サイトも存在している。これは、有志のボランティアによる、本物の広報企画だったのだ。

 こちらのサイトでは、ゲーム『グランツーリスモ4』のレーストラックの設計についての連載や、映画の撮影日誌も読むことができるので、合わせて読むとさらに楽しめるだろう。

 このWeb向けコンテンツのシリーズはそれぞれ書籍化がされ、さらに舞台化も行われた。今回の映画の脚本は、その舞台版と同じく劇団ヨーロッパ企画の上田誠氏が手がけている。

 上田誠氏によると、今回の映画版は「舞台をベースとしながら、ひときわ熱く大げさなストーリーに仕立て直した」とのこと。実話からだいぶ“盛って”いて、現実との乖離もあることに上田誠氏は少しおののいていたそうなのだが、一方で当時の“図面”や“数値”はそのまま映画で用いられているのだそうだ。

 さらに、撮影には実際の前田建設工業株式会社の広々としたオフィスが使われた。劇中の掘削真っ最中のトンネル現場も本物であり、キャストに配られた作業着も本物、さらに画面に映るモブも本物の社員なのだそうだ。

 これは、実話の映画化として理想的とも言えるアプローチなのではないだろうか。エンターテインメントとして面白くするための誇張はあるが、実際にプロジェクトに携わった人々の“努力の結晶”である数値や図面は本物を使っている。さらに企業が全面バックアップを行い、本物の舞台(ロケ地)を利用し、しっかりとしたリアリティも担保されているのだから。

 なお、上田誠氏が脚本を手がけた映画は、同じく舞台が原作の映画『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)の他、『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)や『ペンギン・ハイウェイ』(2018年)というアニメ映画も高い評価を得ている。その論理的に構築された物語に触れれば、きっと今後もその脚本担当作品を追いかけたくなることは間違いないだろう。

◆理由3:笑えてしかもアツくなれる! オープニングとクライマックスが必見の理由とは?

 本作はコメディとして大いに笑えるということも、強く訴えておかなければならない。

 その笑える理由は、前述してきたように「バカバカしいとも思えることに全力投球する」過程だ。例えば、『マジンガーZ』は昔のアニメということもあり、回によっては地下格納庫の作画に矛盾が生じていたり、設定に“ゆるい”ところがあったりもする。それらに対するチームメンバーのツッコミは「確かにそうだ!」と納得するばかりで、どうしても笑ってしまう。

 しかし、やがて彼らは「この矛盾を解消してみせる!」「ファンが納得できるものを届ける!」とやはり情熱を燃やしていく。クスクスと笑っていたコメディ要素が、やがて情熱へと転換していく様は、笑いとアツさが同居していて、やはりワクワクが止まらないのだ。

 さらに、上地雄輔や岸井ゆきのなどの元々コメディセンスがある俳優たちも、オーバーな演技や表情という良い意味での安い笑いを提供してくるからずるい。正直に言ってキャストたちが騒ぎすぎてさすがにうるさい、天丼(繰り返し)ギャグが少々しつこく感じたところもあるが、そのうるささやしつこさも含めて楽しんでしまうのが良いだろう。

 なお、監督はマンガ原作のコメディ主体の映画を数多く手がけてきた英勉(はなぶさつとむ)氏だ。良くも悪くもケレン味のある“大げさ”な演出をされる作家で、『ハンサム★スーツ』(2008年)や『貞子3D2』(2013年)などでは、その内容に「……」と無言になることもあった(これらの映画が好きな方には申し訳ない)のだが、今回はその大げさな作家性こそが最大限に物語とマッチしていると言っていいだろう。

 何しろ、オープニングから無駄に壮大だ。この“無駄に”も、もちろんとても良い意味でだ。英勉監督によると、あの『アベンジャーズ』も意識していたのだそうで、ドローンも駆使し、オフィスも駆け抜けたりする画は躍動感に満ち満ちている。これから起こりうる「小さいスケールだけど壮大に思える(実際に壮大)」な内容を端的に表した、笑えると同時に心の底からワクワクできる素晴らしいオープニングだ。

 さらに、抱腹絶倒なのはクライマックスだ。何が起こるかはネタバレにならないので書かないでおくが、主演の高杉真宙の表情とリアクションがいちいちおかしくって仕方がない。ここは賛否両論も呼ぶかもしれないが、本作の”笑えるバカバカしさ”と“情熱に満ち満ちたアツさ”の同居という魅力が最大限に表れた、作中屈指の名場面だと筆者は全肯定したい。

◆おまけ:『空想科学読本』の“アンサー”と呼ぶべき?

 『空想科学読本』という書籍をご存知だろうか。1996年に第1弾が発表され、シリーズ化もされたベストセラーであり、マンガやアニメや特撮のSF設定を科学的に面白おかしく検証した作品だ。

 その『空想科学読本』は新聞広告のコピーにあった通り「子供の夢を壊す本!」でもあった。子供はもちろん大人だって愛してやまないSFやヒーローの設定について様々なツッコミを入れて、「現実では不可能だ」ということを突きつけてくる、人によっては野暮とも言ってもいい内容になっているのだから。しかし、その野暮も含めて、ジョークとして大いに笑って楽しめるのが『空想科学読本』だった。

 その「現実ではできない」ことに科学的なツッコミを入れまくることが主体であった『空想科学読本』に対し、『前田建設ファンタジー営業部』は「こうすれば実現可能」というソリューションも提示する(しかし実際には作らない)。筆者にとって、子供の頃に大笑いしながら読んでいた(しかし良い意味で夢をぶち壊された)『空想科学読本』と同様の面白さがありながらも、そのアンチテーゼ、もしくは“アンサー”と言えるのが『前田建設ファンタジー営業部』だったのだ。

 言うまでもないことだが、『空想科学読本』が子供の夢を壊すからダメ、『前田建設ファンタジー営業部』のほうが夢を真剣なプロジェクトとして扱うから素晴らしい、ということではない。どちらも「ファンタジー(SF)を大人が真剣に検証する」ということを楽しむ、取り扱った作品に対しての愛情も存分に感じられる、娯楽として誠実かつとても面白いものなのだ。

 ぜひ、『空想科学読本』が好きであった方はこの映画『前田建設ファンタジー営業部』を観てほしいし、この映画が気に入った人は『空想科学読本』も読んでほしい。架空の創作物へ“本気”になる大人たちの情熱は、笑えると同時に、現実でも仕事を頑張れる活力を与えてくれるのだから。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】

インディーズ映画や4DX上映やマンガの実写映画化作品などを応援している雑食系映画ライター。過去には“シネマズPLUS”で、現在は“ねとらぼ”や“CHINTAI”で映画記事を執筆。“カゲヒナタの映画レビューブログ”も運営中。『君の名は。』や『ハウルの動く城』などの解説記事が検索上位にあることが数少ない自慢。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF

関連記事(外部サイト)