アメリカの黒人ラッパーと日本人DJ&ビートメイカーがBlackLivesMatterを支援するチャリティシングルを出すに至ったワケ

アメリカの黒人ラッパーと日本人DJ&ビートメイカーがBlackLivesMatterを支援するチャリティシングルを出すに至ったワケ

DJ中の筆者

◆始まりは、日本人ゲームデザイナーが手掛けたゲーム

 2019年にNintendo Switch,PS4,PCで発売されたビデオゲーム「Trivis Strikes Again:No More Heroes」(以下TSA)、僕はこの作品の音楽プロデュースを務めさせてもらいました。

 このゲームは、須田剛一さんというゲームデザイナーが手がけた作品で、日本の作品ながら海外での認知度がとても高い作品です。そしてこのゲームはメジャータイトルながらも、様々な世界中のインディゲームとコラボレーションしている意欲作でした。そこで僕も音楽プロデューサーとして、海外に向けて日本のインディミュージックの中でも飛び切り濃いところを世界に向けて提示したいと考えました。

 ゲストミュージシャンとして参加してくれたのは、かつて東京に存在したマイノリティのるつぼのようなDJバー、アシッドパンダカフェに集っていた高野政所、Doramaru.、メテオ、丸省、Totsumalといったミュージシャンやラッパーたちを中心に、はたまた武道館でもワンマンライブを行うガールズパフォーマンスユニット9nineの佐武宇綺、坂本真綾のアルバムにも参加するシンガーソングライターの古川麦、Aphex Twinもその曲をプレイする日本が誇るUKGアーティストPrettybwoy,サックス奏者のYocotaSax. 日本の伝説的ブレイクコアアーティストCDRなど異様に味の濃いラインナップを詰めに詰め込んだサウンドトラックになっています。そうそう、中には我衆院達也(Ex.若人あきら)をラッパーとして起用した曲なんてのも収録されています。

 ちなみに余談ですが、高野政所が店長をつとめ、かつて東京の地下で数多くのマイノリティたちを受け止め、様々なサブカルチャーのクロスポイントになっていたアシッドパンダカフェは、このコロナ禍をきっかけにWEB上にサイバーアシッドパンダカフェとして復活を果たしたので、興味がある方は足を運んでみてはどうでしょう。

 とにもかくにも、その結果、このサウンドトラックは海外の物好きゲーマーたちに異様に刺さる結果となったのです。僕は彼らとより深いコミュニケーションをとってみたいと考え、機械翻訳バリバリの英語で発信するTwitterアカウントを作成しました。

 僕の海外向けTwitterを、海外の須田剛一氏とTSAのファンたちは次々とフォローしてくれました。そこで気づいたことは、須田剛一氏のゲームのファンコミュニティには多種多様なカテゴリーのマイノリティたちが集っているという事でした。様々な人種がいるのはもちろんの事、同性愛者、トランスジェンダー、ケモナー、その他様々な特殊な嗜好などなど。彼らのフォローを返すだけで、多様性にあふれたタイムラインがすぐに出来上がりました。ちょうどその頃からどんどん世知辛さを感じるようになった日本語アカウントの方のTwitterに比べて、仙台の七夕祭りの画像をアップロードしたら「俺の近所にも似た祭りがあるぜ!」とスペインからトイレットペーパーぶん投げ祭りの画像が投稿されるような、ほのぼのとしたそれは、僕にとって日常のオアシスのような存在にもなりました。

◆日本発の曲がアメリカの黒人デュオにサンプリングされた

 そして、ある日、TLにとんでもない物が飛び込んできました。なんと僕たちが作ったTSAのサウンドトラックを勝手にサンプリングしてラップを乗っけてリリースしている黒人グループがいるじゃないですか!それがワシントンDCとデトロイトにそれぞれ在住している黒人兄弟2人組ヒップホップデュオ「Okumura.」との出会いでした。なぜワシントンDCとデトロイド在住のアフリカ系アメリカ人なのにオクムラ、なんて名乗ってるのかというと、日本の漫画「青の祓魔師」に登場する奥村兄弟からとっているのだとか。

 バレるとこにバレたら怒られる事必至なアルバムではありますが、彼らのラップのスキルは確かだし、サンプリングもセンス良く使って新しい魅力が生まれていて、誤解を恐れずいうと非常に「作品」となっていました。そもそも僕のほうが今まで散々黒人の音楽をサンプリングしてビートを作っていたわけで、黒人にサンプリングされる側になるというのも不思議な感じがしましたし、正直、嬉しかったです。それこそ、ゲームの実績が1つ解除されたような気持ちになりました。

okumura - garden of madness. by okumura.

 彼らの作品をきいて、それが愛のあるサンプリングなことは凄くよくわかりました。なので、むしろ彼らと積極的に仲良くすることにしました。勝手にサンプリングされたことがきっかけですが、公式にコラボレーションして曲をリリースする事にしました。手始めに2020年の1月に、彼らの「Cyber Truck」という曲を僕がリミックスしてデジタル配信リリースしました。

◆コロナ禍中の生活をテーマにした作品を作っていた矢先に…

 1月に彼らのリミックスをリリースして、そうこうしているうちに、Covid-19ウィルスが全世界的に猛威をふるいはじめました。

 世界中が自粛状態になり、僕のスタジオにラッパーがレコーディングに来ることもなくなり、全てがリモートワークになりました。そんな状態なので、どうせリモートだったら東京にいる人と作ることにこだわることもあるまい、と、東京の僕のスタジオと、デトロイトとワシントンDCのOkumura.、そして青森県三沢市のラッパーのDevinという4つの都市を跨いだデータセッションでEPを制作することにしました。

 ポジティブであること、お互いがお互いにとってエクセレントであること(from ビルとテッドの地獄旅行)、身近な人を尊重し、日々の暮らしを大切にすることなどを歌った「Love Save The Day EP」の制作中にミネアポリスの事件が起こりました。

◆思い出される歌、そしてまた忘れられる歌

 ミネアポリスで起こった事件を発端にした一連のプロテスト活動の拡大や、それに伴う様々な事は日々の報道でご存じの事かと思います。

 例にもれず、僕も、特にこのような内容の作品を作っている最中だったので、大きなショックを受けたし、考えさせられるものがありました。Okumura.は今作っている作品こそが多人種が仲良くやってけることの証拠なんだから誇りを持て、と励ましてくれました。

 先のウィルス禍中に、世界中でアジア人たちがばい菌扱いされたとき、彼らは自分たちの事のように心を痛めてくれました。僕には軽々しく「俺にも黒人の痛みがわかるぜ」なんて言えませんが、それでも何かできる事がないかと提案して、大急ぎでチャリティのための楽曲を制作することにしました。フィーチャリングのラッパーにはEPにも参加していて、アフリカンアメリカンと日本人のミックスであるDevinに引き続き参加してもらうことにしました。楽曲は売上の還元率が高いbandcampというサイトでリリースし、売上はOkumura.の手で全額Black Lives Matter基金に寄付されることになりました。

 ビートは、マーヴィンゲイのWhats Going Onをモチーフにすることにしました。この曲は今回のような事が起こる度に思い出されてきた曲です。

”Picket lines and picket signs

Don't punish me with brutality

Talk to me, so you can see”

 でも裏をかえすと、この曲がリリースされた1971年から今に至るまで、原因が根本的には解決していないが故に、この曲のメッセージが古びていないとも言えます。ある意味で、私たちはこの曲を過去のものにする必要があると感じました。Devinの曲中でのラインを借りるなら「変わるまでが終わり その先に始まり」という感じです。それが、Whats Going Onをモチーフにした理由でした。また、過激な黒人主義者たちであるHOTEPSによって、同じ黒人や、混血児が攻撃される事態が起こっていることなどは僕も彼らの歌詞ではじめて知りました。ラップが最新の報道の側面をもっているという事は、今をもってしても有効なのだと改めて思いました。

◆まだ数百ドル規模の小さな動きだが……

 6/6に動画を公開してから数日、まだこの活動による寄付は数百ドル規模のそんなに大きくないものですが、海外の有名ゲームメディア”Kotaku”が6/10に「No More Heroes Composer Collaborates On Stellar Black Lives Matter Track」という記事を発信してくれるなど、海外を中心にこの活動の事が少しずつ広まってきてはいます。

 プロジェクト自体もまだまだ継続中ですので、もしこの活動に興味をもっていただけましたら、彼らの声に耳を傾け、余裕があったらご支援いただけると幸いです。楽曲を購入していただくことも支援になりますし、直接金銭的支援でなくても、周りにこういう事があることを伝えたり、もしくは彼らの声に耳を傾けるだけでも支援になると思います。

http://youtu.be/qFVJc3uLtjw

そしてこんな中のリリースにはなってしまいましたが、僕がOkumura.やDevin、ShadowByrdといったアフリカンアメリカンにルーツを持つヒップホップアーティストたちと作った最新作 MEEBEE x Okumura.「Love Save The Day EP」は6月12日に各種配信サイトでリリース予定でしたが、配信トラブルで現在確認中です。正式にリリースしたら、もしよろしければチェックいただけると嬉しいです。

http://youtu.be/_OgzLCmjjcQ

<文/アボカズヒロ>

【アボカズヒロ】

青森県八戸市出身。1998年、14歳の頃にDJ/トラックメイカーとして活動を開始。東京藝術大学に於いて多様なアートに触れる学生時代を過ごし、様々な音楽に造詣が深くあらゆるジャンルの音楽を1晩のロングセットで物語るようにMIXする神出鬼没で流浪のパーティ野郎。

幼稚園からageHaまで、大箱/小箱関わらず、ジャンルやシーンの壁すらも包み込むような"無偏見"なプレイで全国津々浦々の老若男女を日々踊らせ続けている。ライフワークにしている子供に向けてのDJ活動は、TBSラジオ、朝日新聞など数多くのメディアで取り上げられ、大きな話題を呼んだ。Twitter IDは@abolabo

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