市場拡大[ノンアル]は誰が飲んでいるのか? 元依存症漫画家・まんきつ氏も専門バーを満喫

市場拡大[ノンアル]は誰が飲んでいるのか? 元依存症漫画家・まんきつ氏も専門バーを満喫

同店一押しのモクテル

「飲まないのが、かっこよくてオシャレ」。ニューノーマル時代は「ノンアルコール」がトレンドに!? 都内には専門バーも続々登場。市場を拡大し続けるノンアルコール飲料はどういった層に人気があるのか? ノンアル市場の実態に迫る!

◆話題のノンアル専門バーにまんきつ氏が潜入、一人飲み!

 近年「アルコールを飲まない人」が急増しているようだ。’09年、日本初となるアルコール度数0.00%「キリン フリー」の登場以来、ここ10年でノンアルコールビールのシェアは約4倍に拡大。現在はカクテルやワイン、日本酒、ハイボールなど、多彩なノンアルコール(以下、ノンアル)飲料が販売されている。さらに今年7月には、東京・六本木に“完全”ノンアル専門バーがオープン。連日予約客でいっぱいだ。いったいその背景には何があるのか。自らのアルコール依存症体験を赤裸々につづった『アル中ワンダーランド』(扶桑社刊)の著者・まんきつ氏が低アル&ノンアルバーに潜入。その実態を探った――。

 訪れたのは、今年3月に東京・日本橋にオープンした「LOW-NON-BAR」。ほの暗い照明の店内、カウンターではバーテンダーがシェイカーを振り、カクテルグラスにドリンクを注ぐ。依存症時代はいつも「こ汚い居酒屋に通っていた」というまんきつ氏に店の第一印象を尋ねると「雰囲気は普通にお酒を出すオーセンティックバーそのもの。オシャレすぎて気が引ける」と、驚いた表情を見せた。

 1杯目は、同店のコンセプトカクテル「LOW-NON-BAR」をオーダー。ビネガードリンク「シュラブ」をベースに数種のベリーを組み合わせたノンアルカクテル(モクテル)が、小鳥を模したグラスに注がれてテーブルに置かれる。「モクテルとは、“似せた”という意味の“mock”と “cocktail”を組み合わせたノンアルカクテルの新しい呼び方。アルコールの代わりに、香りや五味で補い、お酒でもジュースでもないテイストに仕上げるのがモクテルの大きな特徴。普段飲み慣れないビネガードリンクの酢酸の刺激は、喉に感じやすい」

 そう話すのは店長の高橋弘晃氏。同店では、大体1400円でノンアル、低アルともに10種類ほどのラインナップが楽しめるが、主な利用客はやはり飲めない層のようだ。

◆「飲める人と飲めない人が同じ空間で楽しめる」

「『お酒を飲めない人は入店お断り』という古い考えのバーもいまだ存在しているのが現状。それに対し『バーの雰囲気を味わってみたい』というお客さまは多い。カウンターで読書しながらカフェのように利用する女性のお一人客、ドクターストップや過去にお酒で失敗した方など、さまざまな事情で飲めないお客さまがいらっしゃいます」

 グラスが空き、まんきつ氏は2杯目をオーダー。「普段知っているノンアルワインは、ジュースみたいで。元アルコール依存症者としては、しっかりとワインの味を感じられるものが欲しい」とリクエストすると、高橋氏は一本のボトルを手にして次のように語った。

「ノンアルワインはタイプが何種類かありますが、『CARL JUNG(カール ユング)』は一度ワインとして製造し、風味を壊さずにアルコール成分だけを抜いた“脱・アルコールワイン”。まんきつさんが今まで飲んでいたのはぶどうジュースですね」

 夜9時を過ぎたころから徐々に人が増え、店内はにぎわいを見せ始めた。まんきつ氏が、カウンターの隣に座る常連客だという30代のサラリーマン風の男性に声をかけた。

「お酒を出す系列のバーが2階にあり、2、3年前からよく一人で来ています。最近はリモートワークで、翌日に引きずると支障が出るためノンアルを飲みます。お願いすればアルコールも頼めるので、その日の気分で」

 仕事の息抜きに週一ペースで訪れるという男性は「サラリーマンの一人客も多く、利用しやすい。マスターとのおしゃべりを楽しみに来ています」と笑顔で語った。

 テーブル席には「体質的に飲めない」男性と「付き合いで飲む程度」の女性のカップル。「喫茶店を探していたら、“ノンアルコール”と書いてあったので」と言う二人は、それぞれノンアルと低アルをオーダー。「飲める人と飲めない人が同じ空間で楽しめる」と満足そうだった。

「これこそ赤ワイン! 買って帰りたいですね」。ノンアルワインをすっかり気に入ったまんきつ氏。

「プライベートでは、お買い物帰りにフラッと立ち寄のもいい。一人で来てバーテンダーさんとしゃべって、サッとサウナに入って帰る感じで利用したいですね」

 翌日にアルコールを残したくない、同じ時間と場所を共有したい、雰囲気を味わいたい――。今後はさまざまな理由で、ノンアルを選択する人々が増えていきそうだ。

◆ノンアルコール市場が日本の経済を救う?

 ノンアルコールビールのシェアが拡大中の一方、ビールの売り上げは減少傾向にある。’20年上半期の大手ビール4社の販売数量は、前年比で4〜17%の減少となった。

 この要因について、『ゲコノミクス』(日本経済新聞出版)の著者・藤野英人氏は次のように語る。

「背景にあるのは“働き方改革”と“多様性”。昨年末、会社の飲み会に参加しない『#忘年会スルー』が話題になったように、若者たちが公の場に“お酒を入れる”ことを疑問視するようになった。また、健康のためにあえて『断酒』『卒酒』を宣言するシニア層も増えています。つまり、場の雰囲気を壊すことを恐れ、無理して飲んできた人が堂々と『下戸である』と発信できる時代になった。さらにコロナ禍がこの傾向に拍車をかけました。アメリカでは、お酒は飲めるが“あえて”飲まない『ソバー・キュリアス』という新スタイルが浸透。『オシャレとしてお酒を飲まない』考え方は、近年の日本人にも認識されてきています」

◆下戸のFacebookグループも会員4000人超!

 自らを「ゲコノミスト」と名乗る藤野氏は、Facebook上にて「ゲコノミスト(お酒を飲まない生き方を楽しむ会)」グループを結成。現在は4000人を超える会員数を誇る。グループ内では、ノンアルコール飲料の新商品やノンアルコールドリンクを豊富に取り揃えているレストラン情報のほか、酒飲みと共存するための議論などが交わされている。

「メンバーは『飲食店におけるノンアルコールドリンクの選択肢が少なくいつもウーロン茶のがぶ飲み大会になってしまう』と嘆いています。たいていのイタリアンやフレンチレストランは、お酒ありきで料理を提供している。そのため『客単価が低い』と思われるのも心苦しく、足が遠のきます。しかし現在は、コース料理にノンアルコールのペアリングをつけてくれるレストランも徐々に増え始めました。我々としては、モクテルや高級茶など、おいしいノンアルコールドリンクの選択肢を増やしてくれれば、アルコールと同じ価格設定でもかまわないという考え。飲料メーカーやノンアル専業の企業、卸業者、ノンアル専門バーなど、これからの時代を反映した下戸市場の開拓が、将来の日本の経済を救うことになるのでは」

 昨年はノンアルコールの食事会「ゲコナイト」を開催し、大盛況だったという藤野氏。コロナ禍の現在も有志によるオンライン「ゲコナイト」が定期的に行われている。

「『ゲコノミスト』は決して酒飲みを否定するものではない。活動の根底にあるのは、飲める人『ノミスト』たちに飲まない人たちの気持ちをわかってもらうこと、そして、いかに共存していくかを模索すること。そのためにはノミストたちに関心を持ってもらうことや歩み寄ってもらうことが必要になってくるでしょう」

 ゲコノミストも、ノミストと同条件で「焼き鳥店に行きたい」し、「フレンチのフルコースを食べたい」のだ。今後も加速していきそうな「下戸ムーブメント」は、日本経済を大きく変えるかもしれない。

【まんきつ氏】 漫画家。イラストレーター。著書に『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)や『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)、『ハルモヤさん』(新潮社)など。

 自らのアルコール依存症体験を赤裸々につづった『アル中ワンダーランド』は、9月25日に文庫が発売予定。

【藤野英人氏】 ゲコノミスト。投資家。レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長・CIO。著書に『お金を話そう。』(弘文堂)など

<取材・文・撮影/櫻井れき>

※週刊SPA!8月4日発売号より

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