2020年はコロナ禍でも日本映画の傑作が続々と生まれた1年だった!

2020年はコロナ禍でも日本映画の傑作が続々と生まれた1年だった!

画像はイメージ(adobe stock)

 誰もが新型コロナウイルスに振り回された2020年が終わり、新年を迎えた。多数の海外の大作映画が公開延期となり、映画ファンとしても辛い一年であったが、その中でも素晴らしい作品、特に日本映画の傑作に多く出会うことができた。ここでは、筆者が独断と偏見で選出した2020年のベスト映画10を紹介しよう。

◆10位『ミッドサマー』

 若者たちがスウェーデンの奥地の村で行われている祝祭に赴き、阿鼻叫喚の地獄絵図を目の当たりにするという物語だ。パッと見のビジュアルだけでも「カラフルで明るいのに不穏」というわかりやすい特徴があり、SNSを中心に「ヤバそう」なことなどが口コミで広がった。R15+指定で、過激な性描写があり、グロテスクな画もはっきりと映るという、明らかに人を選ぶ要素がありながらも、日本でもスマッシュヒットをすることになったのも納得だ。

 導入部こそ「ある土地に訪れた若い男女が恐ろしい目に遭うスタンダードなホラー」であるが、監督は本作を「ホラーではない」と主張している。実際に「怖くなかった」という感想を持つ方も多く、「失恋ムービーであり、おとぎ話でもあるし、ダークコメディでもある」などと、多様な見方ができるのも面白い。「ワッ」と大きな音で驚かすような演出が完全に避けられており、じわじわと恐怖や不安感を煽る空気感が全編で構築されていることも重要だった。

 本作は、(意図的に歪んだ形で)女性の解放を描いた作品であるとも言える。序盤から主人公の女子大生は、ただでさえ家族を事故で失って精神が不安定になっているのに、さらに「周りはほぼ全て男性」というメンバーで、下ネタの会話が平然とされる中で旅立っている。その彼氏も、主人公に対して「間違った対応」をしてしまったりもする。そのような女性にとって抑圧的であったり、居心地の悪かった環境が、祝祭の場に降り立つことで、どのように変わっていくかに注目すると、さらに興味深く観られるだろう。

◆9位『のぼる小寺さん』

 ボルダリングに一直線な女の子と出会った少年少女が、少しずつ変わっていく様を描いた群像劇だ。キャラクターがそれぞれ愛おしく、ちょっと変人だけど純粋な性格の小寺さん、そのがんばっている姿を見ているだけだった卓球部員の少年、“隠キャ”だけど心優しいボルダリング部の少年、不登校気味でギャルっぽく見える少女、写真に興味があるのに周りにそのことを言えない少女、それぞれが「本当にこの世にいるとしか思えない」存在感を放っている。主演の工藤遥をはじめとした、旬のキャストがそれぞれの個性を生かした役にベストマッチだった。

 2020年はコロナ禍で、多数の大規模な大会やイベントが中止になり、学生たちが通常の部活動を行うのが難しいという状況が続いていた。そんな中で、がんばっていることそのものだけでなく、がんばっている誰かの姿から良い影響を受けることの尊さを説いた本作は、がんばれないでいる今の若者たちにとってもエールになるだろう。個人的にも、何も大きなことをなし得なかった青春でさえも「あなたも、あの時にがんばっていたんだよ」と肯定してくれている本作は、一生に渡って大切にしたい映画になった。

 また、2020年には同じく部活を題材にした青春映画『アルプススタンドのはしの方』も大評判を呼んでいた。こちらはタイトル通りに甲子園球場の観客席の端っこにいる少年少女を映し続けることで、「しょうがない」と諦めざるをえなかった彼らの青春の痛みに優しく寄り添う物語であった。『のぼる小寺さん』と合わせて、今の高校生たちに観てほしいと願うばかりだ。

◆8位『ある画家の数奇な運命』

 ナチス政権下のドイツにて、一人の男の半生を子ども時代から追い、「アートとは何か」という根源的な問いに迫ったドラマだ。邦題にものものしさを覚える方もいるかもしれないが、実際はドラマ、コメディ、ラブロマンス、サクセスストーリー、サスペンスと、たくさんのジャンルの要素が詰め込められており、3時間超えの上映時間があっという間に感じるほどにエンターテインメント性が高いため、万人におすすめできる内容になっていた。

 物語の背景に戦争と世界情勢の大きな変動があり、当時のナチスの残虐な行為もつぶさに作劇に反映されている。そんな中でも、アートに主人公は人生を捧げる。そのアートは、過去や今の悲しみを、未来への幸福へと変える手段にもなり得るということも、本作は教えてくれていた。『フォレスト・ガンプ/一期一会』や『この世界の片隅に』などに通ずる、戦争の時代に生き抜いた人物の生活を描く物語を追うことは、誰にとっても豊かな体験になるはずだ。

◆7位『透明人間』

 天才科学者である夫から束縛されていた女性が、豪邸から脱走するも、その後に夫と思しき透明人間から襲われ続けてしまうというホラーサスペンスだ。劇中で描かれる、(DVをしていた夫から逃げ出すことができたとしても)「いつかあいつが現れるかもしれない」という恐怖は、現実における男性から暴力を受けた女性の心情そのもの。透明人間の「見えないのに、いるように思えてしまう」という特徴が、普遍的な暴力によるトラウマのメタファーになっているというのが秀逸だ。

 「判断を間違えば殺される」透明人間とのバトルに手に汗握り、主人公が徐々に孤立していく過程にゾッとし、その後の反撃の手段には驚きのアイデアもあると、とにかくエンターテインメントとして面白い要素が揃っている。「あの時のこれがこうなるのか!」と驚ける伏線回収もたっぷりあり、主演のエリザベス・モスの熱演は誰もが絶賛するだろう。人によって解釈が異なるクライマックスからラストには、言葉にならないほどの衝撃がある。「透明人間」というジャンルだけでなく、ホラーサスペンスの1つの到達点と言うべき傑作だ。

ちなみに、現在Amazonプライムビデオでは、同じくリー・ワネル監督によるホラーサスペンス映画『アップグレード』が見放題となっている。全身麻痺の男が最新のAIチップを埋め込まれ驚異的な身体能力を獲得し、妻を殺害した組織に復讐を誓う、といういかにもB級に思えるあらすじであるが、ケレン味たっぷりな演出や、見せ場がたっぷりのサービス精神に満ちた掘り出し物になっていた。こちらも合わせて観ていただきたい。

◆6位『ミセス・ノイズィ』

 「騒音おばさん」の名前で有名になった2005年の奈良騒音傷害事件をモチーフとした映画だ。本作もまた多数のジャンルが詰め込まれているからこその面白さがあり、初めは迷惑なお隣さんとのバカバカしいバトルに笑えるコメディ、続いて精神的に追い詰められていくというホラー、さらに「SNS炎上」や「メディアリンチ」など現代ならではの問題をはらんだ社会派サスペンス、そして確かな学びのある感動の人間ドラマへと転換していくのだ。

 本作は事件を再現する実録ものではなく、フィクションのオリジナルストーリーである。だが、最後まで観れば実際の騒音おばさんという人物や、その周りの出来事、ネットで話題になった「真相」の噂についても十分に配慮した、志の高い映画であることがわかるだろう。序盤はコメディだと前述したが、決して実際の騒音おばさんを笑いものにするような内容ではない、と強調しておく。そして、劇中で提示された「正しさ」や「争い」についてのメッセージは、きっと「明日は我が身」な危機感を持って認識できるはずだ。予想を覆す、あっと驚く展開もキモの作品であるので、ぜひ予備知識をあまり入れずに観ていただきたい。

◆5位『ドロステのはてで僕ら』

 人気劇団ヨーロッパ企画の、初となる劇場用長編オリジナル作品だ。カフェのオーナーが、モニターから“2分後の自分”が話しかけてくる様を目の当たりにし、女性店員や常連客を巻き込んでこの“タイムテレビ”を有効活用していく方法を考えていくという、コメディ色が強い内容となっている。

 大きな特徴は「疑似ワンカット」であり、「リアルタイム進行」であるということ。これは簡単にできることではない。撮影に少しでもトラブルがあればかなり前から撮り直しになるし、俳優たちは劇中の物語通りに2分後の未来への“つじつま合わせ”をしないといけない。俳優と劇中の登場人物の奮闘がほぼ重なっていて、フィクションでありながらドキュメンタリー的な側面を持つということは、あの『カメラを止めるな!』にも似ている。

 しかも、本作は「ドラえもん」でおなじみの藤子・F・不二雄が提唱したジャンルであるすこし・ふしぎ(SF)にリスペクトを捧げた物語である。「ありふれた日常の中に紛れ込む非日常的な事象」であるすこし・ふしぎな物語から、普遍的に全ての人に響く「時間」にまつわるメッセージにも、確かな感動があったのだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を初めとする「狭い範囲のタイムトラベルもの」が好きな方にも、ぜひ観ていただきたい。

◆4位『37セカンズ』

 過保護な母親のもとで車椅子生活を送っている、マンガのゴーストライターを主人公にしたドラマだ。主演の佳山明は、実際に生まれつき脳性まひがあり社会福祉士としても活動している女性であり、オーディションによって100人の候補から選ばれた。劇中で彼女が演じる主人公の声の“か細さ”が、劇中での「自分の気持ちを伝えたい」「自分の可能性を信じたい」と願う主人公の切実な気持ちにもつながっており、彼女に対し過保護になってしまう母親の気持ちもより伝わってくる。もしも脳性まひでない女優がこの声を演技でまねようとしてもできるものでもないし、そもそもまねをしてはならないだろう。

 主人公はゴーストライターをやめて、自立をするために成人向けマンガ雑誌に原稿を持ち込むが、女性編集者から「作者に経験がないと良いエロマンガは描けない」と言われてしまい、ネオンきらめく歓楽街へと向かう。そのように物語の発端およびメインストーリーに“障害者の性”があるのだが、その後は意外な形で、広い世界への冒険の旅にも出発する。その後は、「可能性が例え制限されていた(障害があった)としても、その中で大切な価値観に気付くこともできる」という、障害のある人に限らない、全ての人に通じるメッセージも提示されていく。現実で前向きになれる、生きる意味そのものを説いた優しい物語に、感涙する方はきっと多いだろう。現在はNetflixで配信されている。

◆3位『初恋』

 前述の『ある画家の数奇な運命』や『ミセス・ノイズィ』をさらに超えて、バイオレンス、ヤクザ映画、アクション、コメディなど、あらゆるジャンルが渾然一体となった、凄まじいまでの面白さに満ち満ちているのが、この『初恋』だ。そのシンプルなタイトルを聞いて「ピンと来ない」という人も少なくはないだろうが、本作を表すのにこれ以上にふさわしい言葉はない。多数の要素を含んでいながら、初恋こそが物語で最も大切なのだから。

 超豪華なキャストも見どころの一つであり、特に復讐鬼の役どころで登場するベッキーは基本的な行動が殴るか蹴るの暴行でいろんな意味ですごい。余命わずかと伝えられた主人公のボクサーを演じる窪田正孝は、現役選手を相手にした試合シーンも鍛え上げられた肉体で自らこなしていおり、全編にわたってそのカッコ良さに惚れ惚れとできる。

 また、余命宣告もののラブストーリーというのは、日本映画ではごくありふれたものだ。しかし、この「初恋」には、三池崇史監督が得意とするヤクザ映画と、その作家性であるPG12指定納得の悪趣味なギャグが強烈にブレンドされたことで、全く新しい日本映画の新たな地平を切り開く傑作となっている。拍手喝采を送りたくなる見事なラストシーンまで、ぜひ見届けてほしい。

◆2位『許された子どもたち』

 中学1年生の少年が同級生へのいじめをエスカレートさせた結果、殺害してしまうことから始まる苛烈な物語だ。その後に不起訴になり「許されてしまった」少年の“生き地獄”ぶりは、最悪のさらなる最悪へと向かっていく。

 物語はフィクションであるが、山形マット死事件や川崎中一男子生徒殺害事件など複数の事件を題材にしており、主演の上村侑を筆頭に役とほとんど変わらない年齢の子役たちをキャスティングしたこともあって、恐ろしいまでのリアリティも担保されていた。

 これは「誰もが加害者になり得る恐怖」を描いた物語であるとも言える。その加害者とは、いじめにより同級生を殺してしまった少年本人だけに限らない。ネットで度を超えたバッシングを浴びせる者たち、少年の転校先で彼の正体を探ろうとする同級生、そして息子のいじめによる殺人の罪を認めようとしなかった母親も、加害者と言えるのではないか。

 事実、内藤瑛亮監督は、本作のオーディションに来た子どもたちの親御さんに、こう告げたことがある。「いじめは一人に対して大人数が起こす事象なので、自分の子どもは『加害者』になる可能性の方が高いです」と。子どもに限らず、人は自分が被害者になることは想像しやすくても、加害者になるかもしれないという危機感を抱きにくいのかもしれない。『許された子どもたち』はズシンと心に響く形で、そのことを教えてくれている。親御さんはもちろん、劇中の登場人物と同じ年齢の中学生にも観てもらいたい。

◆1位『ウルフウォーカー』

 オオカミ退治のためイギリスからやってきたハンターを父に持つ少女が、森の中で“ウルフウォーカー”である少女と出会って交流していく様を描くアニメ映画だ。ジブリ作品に強い影響を受けており、例えば「怒っていたら線を粗くする」「冷静で落ち着いていれば線をシンプルする」など、キャラクターの感情によって線の描き方も変えているのは、故・高畑勲監督の『かぐや姫の物語』から刺激されたそうだ。

 何より、オオカミというモチーフや、奥行きのあるアクション、自然と人間との対立の構図は、『もののけ姫』を強く連想させる。その神秘的かつ躍動感のあるアニメーションのクオリティに、誰もが圧倒されるだろう。

 物語上では、前述の『ミッドサマー』とは全く違う形で、女性の解放というフェミニズムのメッセージが打ち出されている。それが“子ども視点”で切実に伝わるようになっているため、小さなお子さんであっても、エンターテインメントとして楽しむことはもちろん、男性権威主義的な社会構造の問題も考えるきっかけになるだろう。その女性の解放が、男性にとってもより良い生活や人生の足がかりになる、ということが訴えられていることも素晴らしい。2020年は女性同士の連帯感や結束を描いた“シスターフッド”映画も多数公開されていたが、その最高峰が『ウルフウォーカー』だ。現在はApple TV+で配信されている。

 なお、2020年は『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の歴史的超大ヒットは言うに及ばず、京都アニメーション製作の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や中国製アニメ『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』に絶賛が相次ぎロングランヒットするなど、アニメ映画が注目された年でもあった。現在、劇場で公開中の『ジョゼと虎と魚たち』も、前述の『37セカンズ』と同様に障害者の女性が“新たな世界”を知っていく過程を描いた素晴らしいアニメ映画だった。普段は実写映画しか観ていないという方も、こちらにも注目してはいかがだろうか。

◆「映画は映画館で観たい」と思いを新たにできた1年

 緊急事態宣言により約2ヶ月に渡って映画館が閉鎖された2020年は、より一層「映画は映画館で観たい」という思いを新たにできた年でもあった。例えば、『許された子どもたち』は一時は配信が検討されたが、「まず最初にスクリーンで体感して頂くのが最適な作品」というプロデューサーの意向もあって緊急事態宣言後すぐに公開されており、実際の本編も“音”の演出がこだわり抜かれていることもあって、「劇場という空間で堪能するべき」作品であると実感できたのだ。

 なぜ、映画館で観たほうが、映画の感動が増すのか。音響の良さやスクリーンサイズの違いもあるだろうが、やはり「多数の観客と同じ空間を共有する」「約2時間にわたって集中できる」環境ということも大きいだろう。

 もちろん家で観る映画もそれはそれで魅力的であるし、上記の2020年ベスト映画10は映画館以外でも観てほしいのだが、どれだけ新型コロナウイルスの脅威が続き、どれだけ配信サービスが台頭しようとも、映画館での掛け替えないのない映画体験は、絶対に無くしてはならない、と思うばかりだ。

 幸いにして、日本の映画館では厳格な空調設備のレギュレーションがあり、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が超大ヒットしたとしても未だクラスター発生の報告がないこともあって、「映画館は安全な場所である」という共通認識も広まってきた。十分に感染対策をする前提があることはもちろんだが、むしろコロナ禍でも楽しめる娯楽施設として、映画館はうってつけなのではないだろうか。ぜひ、2021年も、映画を映画館で楽しんでいただきたい。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】

雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「火垂るの墓」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF

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