“退職金運用病”に用心!再雇用でも年間100万円の赤字も

“退職金運用病”に用心!再雇用でも年間100万円の赤字も

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「老後の暮らしを大きく左右する退職金ですが、無頓着な人が少なくありません。現役のころから夫婦で退職金についてしっかり考えておくことが大切です」

そう語るのは「生活設計塾クルー」取締役で、ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さん。退職金で住宅ローンを完済して、あとは世界一周旅行でも――なんて話は今や昔のようだ。

「退職金は長年働いた“ご褒美”ではありません。会社に預けていた定期預金が満期を迎えて戻ってきた、“老後資金”と捉えるべき。ところが自分が受け取る退職金額さえ知らない会社員が実に多いのです。定年間際になってから、先輩から退職金額を聞いて“たったそれだけ?”と愕然とする人も。まずは勤務先の退職金額や制度を把握しておくことです」(深田さん・以下同)

厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、大卒会社員の退職金は、この20年で約1,000万円も減っている。とはいえ、大企業に勤めていれば、平均で2,000万円超もらえるように(日本経済団体連合会「2018年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」)、退職金が人生最後で最大級の収入であることは今も昔も変わらない。

それだけに、一歩選択を誤れば、老後の生活を大きく変えてしまうのだという。

たとえば退職金の受取り方法。サラリーマンの場合、「まとめて“一括”でもらう」「分割して“年金”方式で受け取る」「一時金と年金方式の併用でもらう」など受取り方法はいくつかのパターンがあり、選択の自由度は勤務先によって異なる。

退職金は、どう受け取るのがお得なのだろうか?

「“年金”は、勤務先が運用し続けてくれるので『額面収入』は“一括”よりも利息分だけ多くなります。ところが『手取り額』で見ると、実は“一括”のほうが、得になることが多いのです」

そのカラクリは税金と社会保険料にあるという。

「実は退職金を“一括”で受け取った場合、勤務年数に応じた非課税枠があります。大卒で38年間勤めた場合、2,060万円までは税金がかかりません。この範囲内なら、退職金の額は、そのまま手取り額になります。仮に非課税枠を超えたとしても、超過分の半分しか課税の対象にはなりません。退職金を一括で受け取る場合、納税者にとって有利な税制になっているのです」

一方、年金として分割で受け取ると、毎年の収入が増える分、税金(所得税と住民税)と、国民健康保険と介護保険の社会保険料が増えてしまう。

「昔のように、5%以上の年金運用率であれば別ですが、今は運用率が1〜2%程度の会社がほとんどなので、運用で増える額よりも、税金などとして取られる額のほうが多くなってしまうのです」

ところが、退職金を“一括”で受け取った場合にも、大きな落とし穴がある。退職金をターゲットにする金融機関の甘い勧誘だ。

「多額のお金を手にすると“退職金運用病”にかかってしまう人も少なくありません。この“病気”にかかると『何か増えるものに預けないともったいない』『リスクが小さく、そこそこ増える商品で運用したい』と考えてしまいます。そこで、銀行員に勧められるままに、投資信託や外貨建て保険などの商品を購入してしまう人が後を絶ちません」

本来はストップをかける立場にある配偶者が、「あの人は信頼できそうね」と、後押ししてしまうパターンも多いという。

「マイナス金利政策の状況下で、安全確実に増える金融商品などありません。銀行の営業マンは資産運用のプロではなく、販売のプロ。私のところに相談に来られた方で、銀行に勧められるまま金融商品を購入して、確実に資産を増やせた人は記憶にありません。それでも、退職金の運用を考えている人は、入門書を1〜2冊読み、30万〜50万円ほどの少額資金で“練習”する期間を設けるようにしたほうがいいでしょう」

“無駄遣い”リスクを考えれば、手取り総額が減っても、“年金”を選ぶほうが、安全なのだろうか。

「たしかに企業年金は定期的な安定収入になるというメリットがありますが、終身払いでもない限り、受取り期間はいずれ終了します。企業年金があるという前提で生活をしていると、受取り期間が終わったときに、いきなり年間収支が大幅に赤字になってしまうという方も多いのです」

深田さんは「家計の見直しの難しさは昔よりも増している」と考えている。

「昔は定年退職すると、会社に行かなくなることで、『これからは年金生活だから何か見直そう』という意識が生まれました。ところが、今は法律が変わり、再雇用で働く人が増えています。ネクタイをして会社に行く日常が続くため、家計の無駄を見直す意識が持てない。給料が安くなっているにもかかわらず、そのままの生活を続けてしまうのです」

大手企業に勤めていたある男性は、定年後に再雇用され、給料が19万円と大幅に下がったのに、現役のときと変わらず、毎月24万円の出費を続けていたという。

「その男性は、毎月5万円のマイナスに加え、再雇用でボーナスがなくなったにもかかわらず、夏と冬のボーナス期には、以前と同じように、それぞれ20万円も支出していました。これだけで年間100万円の赤字になりますが、足りない分を退職金で補っていた。老後資金が足りないことがわかっていれば、妻がパートで家計を助けるなどの手立てがあったのでしょうが……。とりわけ現役世代で高収入だった人は、収入減になる定年後も生活ランクが落とせない傾向があるのです」

“一括”にしろ“年金”にしろ、受け取った退職金は、将来を見据えた戦略が必要なようだ。

「60代前半は、減った収入でトントンの暮らしを目指したほうがいい。退職金の使い道は、定年後の旅行、子どもの結婚資金や住宅購入資金の援助などいろいろ考えられますが、あくまでも老後の生活に影響がない程度にしましょう。あとは“増やす”ことではなく、いかに“減らさない”ようにするか夫婦で向き合う姿勢が大事です」

虎の子の退職金は賢く“使わない”で、老後不安に備えるのがいいようだ。

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