顔面マヒで入院から…孤独を脱した「人とつながる新しいカタチ」

コロナ禍で行動が制限されて、一喜一憂。在宅勤務になったという人もいるかもしれません。孤立しがちな状況でも、人とつながりたい。でも、人間関係の面倒くささはしんどい。感染も予防したい。そこで、人付き合いのプレッシャーがないけど孤独じゃない、世界も広がる。そんなオンライン上で生まれる上手な人間的距離についてルポします。

突然のコロナ禍で自由に行動できず、人間関係、住む場所、仕事の進めかたや時間の過ごしかたを見直された方もいらっしゃるかもしれません。私の場合は、東京から地元へUターン。それで、ちょっとなんか寂しいなぁとも思っていたんです。

人付き合いって難しい。


とはいえ、新しい人間関係を築こうとガシガシ向かうパワーはありません。適度な距離感を保てる、自分に合った人間的距離を大事にしたい。コロナ禍というのもあるけど、そもそも人間関係って難しいから。

厚生労働省の調べでも、個人的な理由で仕事を辞めた人の理由として、「職場の人間関係が好ましくなかった」が女性の1位、男性の2位だといいます(令和3年上半期雇用動向調査の概況―厚生労働省より)。わかるな。

さらに私の場合、1年ほど前に顔面マヒになって緊急入院したんです。退院後も後遺症が残って、1年間、通院しました。そのあいだは笑顔がつくれない、うまく食事ができないこともあり、人と会うのもおっくうに。当たり前だと思っていた、健康で自由に動ける時間には限りがあることがすごくリアルになりました。それで「誰とどう過ごしたいか」を見つめ直したのが、Uターンのきっかけです。

だから適度な距離感があって、無理がなくつながれる関係性を求めているのがホンネ。さらには、興味があることを一緒にできたり深められたりする相手なら尚いいなとワガママにも思っていたんです。

オンライン上のつながりを求め、迷子になる。


写真・本永創太

そこでオンライン上のゆるいつながりを求め、まずは無料のサービス探し。スタートは、LINEのグループチャットでした。韓国コスメが好きなので詳しい人とつながってみたいと、K-Beauty好きのコミュニティに参加してみたんです。

個人的な肌悩みからオススメを聞いてみたところ…。ものの2〜3分で4人の方からコアな商品紹介がずらり。お得に購入できる方法まで教えてもらえました。

登録者は1,000人ぐらい。顔も名前も性別も年齢も知らない人たちです。美容部員さんに相談すると、なんとなく「買わないと」と気を遣いますが、グループチャットだとなんのしがらみもない。気楽です。しかもヘビーユーザーのリアルなオススメとあり、購入してみたら大当たり!

住んでいる場所や自分の属性とは関係なく、新しい人の考えやアイディアとつながれるって面白いなぁと実感したんです。

知人からは、オンラインサロンも勧められました。有名どころでは、キングコング西野亮廣さんのオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」や中田敦彦さんの「PROGRESS」など。ともに月額980円とリーズナブルです。

素敵だと思ったのですが、いずれも主な交流の場はFacebook。ちょっとSNS疲れ気味な私にはハードルが高いです。また、もうちょっと少人数で、関わったり関わらなかったりという浮遊した感じを求めるところもあり、断念しました。

ではオンライン上で新しいことを学んだり、何かを獲得したりするというよりも、誰かとホッと息抜きできるような場もあるのかな? そう思っていたときに、習慣化プラットフォーム「ネスト」と出合ったのです。

習慣化プラットフォーム「Nesto(ネスト)」とは?


写真・本永創太

英語でネスト(nest)は、鳥や昆虫の巣。隠れ家や安心できる住まいのことです。つまり、自分の大切にしているものが守られる場所のこと。

「Nesto」は2021年2月、習慣化プラットフォームとして藤代健介さんがスタートしました。ちなみに藤代さんは、共同生活プロジェクト「Cift(シフト)」の立ち上げ人。渋谷や京都のシェアハウスで一つ屋根のもと暮らし、価値観を共有しながら過ごす。そこで生まれる血縁や婚姻関係にとらわれない、新しい関係の「拡張家族」という提案をされてきました。

しかし新型コロナウイルスのパンデミックを経験。そして藤代さんが注目したのは物理的な空間にとらわれない、時間で結びつくという関係性です。

時間といえば、ミヒャエル・エンデの『モモ』という本を読んだことはありますか? 時間どろぼうに盗まれた時間を取り戻してくれた、モモという女の子の話です。

時間をどろぼうされない有意義な過ごし方というと、働いたり、学んだり、自分磨きしたりすることも大切です。人に気を遣ったり、役割を務めて果たせることもたくさんあります。

でもそれだけでは、素の自分であれる時間が失われてしまうかもしれない。だから、自分の心や体に向き合ったり、物思いにふけったりする時間も必要じゃない? そんな思いを込めて、「Nesto」はスタートしたんだそうです。

仕組みは? どんな人が集まるの?


「Nesto」の軸になるのは、リズム(習慣)です。リズムというのは、決まった時間に決まったことをすること。

写真・本永創太リズムのラインナップは、さまざまです。たとえばランニングや頭倒立(骨逆立ち)などの体を動かすものから、茶瞑想や触れる瞑想(セルフタッチ)などのリラックス系やジャーナリングや随筆などの自分の心の動きに向き合うもの。また、英語シャドーイングやニュース、SNS発信といった学び系、野草のいけばなやぬか床の手入れなどの生活を彩る習慣などもあります。4月には、31種類のリズムを開催予定。

一回の長さは15分から45分ぐらいで、定型はありません。たとえば茶瞑想や触れる瞑想(セルフマッサージ)などの軽く手順を教えてくれるリズムもあれば、随筆やジャーナリングのリズムでは、書くテーマが与えられた後は、ビデオオフで黙々とセルフワークします。

写真・本永創太

主催するのは、お世話役の「ホスト」といわれる人たち。ホストは、ボディワーカーや僧侶、アプリ制作会社の社長、デザイナーに編集者とさまざま。ホストをする道のプロだったり、職業は別だったりと、幅広いバックグラウンドを持つ人たちです。

彼らが瞑想だったり、SNS発信だったり、茶会だったり、散歩だったりと、「自分がごきげんでいるための習慣」を一緒に行う場をzoom上にもうけます。

私が参加したリズムには、ホストを含めてだいたい3〜8人ぐらいが集っていました。少人数だから、相手も自分の存在も濃い感じ。男女比は、平均して3:7ぐらいでした。

写真・本永創太

関わり方としてはビデオ顔出しで発言してもいいし、ミュートで画面もオンにしなくても大丈夫。朝早くや夜遅めに開催されるリズムの場合、部屋着に素顔のこともあるので、そのあたりを気遣わなくてよいのは助かります。人の温もりは感じたくても、声すら出したくない日もあるし。

そして最後に感想や気づきを話し合うリズムもあれば、「バイバイ〜」と解散するものもあります。話し合いの時間があっても、そんな気分じゃなければ、そのまま退室してもOK。

気になる費用。


気になる費用は、入会金は無料(※2022年3/23時点)。月会費は、5,478円(6か月だと4,378円/月)です。

でも14日間のお試し期間中に解約すれば無料(※2022年3/23日時点)。最初に自分に合うかどうかを試してから、お金を払うかどうかを決められるのは安心ですね。

開催中のリズムには、何種類何回参加しても月会費は変わりません。だから無料期間中になるべくいろいろなリズムに参加してみて、ぴったりなものを見つけてから入会するかどうか判断したらいいと思います。

あいまいさを、あえて残す関係性が新しい。


気をつけておきたいのが、リズムは集う全員にとって「ごきげんな時間」ということ。レッスンや教室ではありません。ホストからちょっとしたコツや手順は教えてもらえても、彼らが指導したり、参加者の上達を気にしたりする必要はありません。基本的にセルフワークが中心です。

つまり役割から自由で、少しあいまいさが残された関係性です。どこか管理されることに慣れ、答えがすぐわかったり、なにかを獲得することが良いとされがちな私たちには、ちょっと戸惑うかもしれません。そこで、講義やスクール形式でガッツリ新しいことを教わりたいという人には、しっくりこないかもしれません。またホストが卒業し、代替わりするリズムもあり、特定のホスト狙いの人は、当てが外れるように感じるかもしれません。

けれども、・なにか習慣化したいことがあって、一人で続けるのはちょっと心細い。・予想や期待を超えた気づきや出会いに身を委ねてみたい。・誰かとゆるく結びつきながらも、自分と向き合う時間をつくりたい。

そんな人には「Nesto」の自由さが、心地よいと思います。

強要されないから、つながれる。身近な遠くのご近所さん。


その関係を言葉で表せば、大事にしているものとオンライン上の時間でつながる、身近な遠くのご近所さん。

そう実感したのは、随筆のリズムに参加したときのことです。参加者は男女半々で6人。「明日の私の予定」というテーマが与えられました。そしてそれぞれzoom動画をオンにせず、ミュートで黙々と書いていたんです。

「随筆だしね」と赤裸々に綴っていると、「大丈夫な人は、書いたものをシェアしましょう」となりました。そして全員がzoomのチャットで共有し出して…。焦りました(見せなくてもまったく問題ないのですが…)。

自分が書いたもの(しかも見せるつもりがなかったもの)を見せるというのは、本当の自分のある一面をさらすことになります。怖いです。でも、「実際に会わないし、まいっか」と、流れに身を委ねてみることにしました。

そして修正液でグシャグシャになった文章をスキャンして送ると、「修正液いいですね」「あの香りを思い出しました」という温かいコメントがチャット画面に続々。溺れそうなところを救ってもらえたような気がしました。修正液の香りに心が響いてくれたという彼女に、「同じ匂いがする人だな」とも感じました。

とはいえ、彼らは顔が見えない、声も聞こえない、どこで何をしている人かもわからない人たち。「Nesto」には、職業などをあまり積極的に開示しないなどのクレド(行動指針)があるからです。その理由は、社会的な枠組みから自由になって、個々の体験にハマり込むため。社会的な属性ではなく、ただそこに居るという存在でつながり合うためです。

けれども、同じテーマを同じ時間に書き合った者同士という、手応えある結びつきを感じたんですね。それは素の自分でありつつも、集団との調和が感じられる時間でもありました。そんな関係のなかでは、自分の設定した(人間関係では)「すべき」や「せねば」という枠組みからも、少し自由になれる気がします。

思うに人間関係で疲れるのは、良い人とか悪い人とか、正しいとか間違っているとか。社会的な役割に自分を合わせることに少しくたびれてしまうからではないでしょうか。

そしてお気に入りのYouTuberに惹かれるのは、彼らの社会的な正しさというよりも、その人がその人自身を突っ走るときに放たれる命の輝きに吸い寄せられるからではと思います。

心地よい人間的距離には、コントロールしない・されないこと。


そこで私が少し暮らしていた、カリフォルニアにあるタサハラ禅センターを建立した鈴木俊隆老師の言葉を思い出しました。ちなみにこの禅センター、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズも修行したところ。

人をコントロールするいちばんよい方法は、存分にふざけてもいいんだよと言ってやることだ。そう言われた人は、広い意味でコントロールされた状態になる。羊や牛をコントロールするには広々とした牧場に放してやればいいが、それと同じことだ(『書けるひとになる! 魂の文章術 』)。

無理して変わらなきゃいけない人間関係は、しんどい。そうでなく、そのままの自分でよければ、ホッとつながることができる。人と一緒のときにしか感じられないぬくもりもあります。程よい距離感を保ちながら結びつく、身近な遠くのご近所さん。その関係の先にあるのは、自分自身との調和です。

コロナ禍でオンライン上の付き合いというオプションが定着したからこそ、より自分らしい人間的距離を見つけられたとしたら…。今の自由が効かないこの体験もまた、きっと無駄にはならないと思います。

土居彩


編集者。『マキワリ日記』運営。マガジンハウスにて『アンアン』『ハナコ』などの雑誌編集にかかわった後、渡米。カリフォルニア大学バークレー校心理学部で幸福心理学を学ぶ。その後2年間のアドレスホッパー生活を送り、アメリカの禅センターやエサレン研究所などで暮らす。帰国した現在は、書くことと感じることで深いホンネとつながる「傾聴ジャーナリング」を指導。

文・土居彩

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