薄毛・抜け毛の最新治療とは コロナ後遺症で脱毛が多発、白髪染めの注意点とは

薄毛・抜け毛の最新治療とは コロナ後遺症で脱毛が多発、白髪染めの注意点とは

最大の原因は遺伝?

 髪のコンディションは、日常の過ごし方で変化する。遺伝的要素も強いという。また現在、コロナの「後遺症」として抜け毛が多く見られる。それらへの対策から「毛染め」の注意点まで、幅広くお伝えする。

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 脱毛症の中でもとりわけ「AGA」と呼ばれる男性型脱毛症に悩まされる人は、ゆうに1千万人を超える。もっとも、原因物質がはっきりしない「女性型脱毛症」とは異なり、AGAのメカニズムはすでに解明されている。男性ホルモンの「テストステロン」が「5αリダクターゼ」という酵素の作用によって「ジヒドロテストステロン(DHT)」なる物質に変換されることで、発症をもたらすのである。

 AGAの治療薬について、日本皮膚科学会の2017年版診療ガイドラインでは、内服薬としてフィナステリドとデュタステリドの2種、そして外用(塗り薬として使用)はミノキシジルの計3種が「行うよう強く勧める」と評価されている。ミノキシジルは、もちろん女性型脱毛症にも有効である。

 もっとも、大阪大学医学部特任教授でもある、心斎橋いぬい皮フ科の乾重樹院長は、

「薄毛や抜け毛は生活習慣やストレスに原因があるとも言われますが、実際には『遺伝子多型』、つまり遺伝子の個性・タイプによって引き起こされるものが多いとされています」

 そう言うのだ。

「脱毛症については、大規模な双子の研究があります。同じ遺伝子を持ちながら生活習慣がさまざまに異なる双子を比べた結果、薄毛が進行する速度の差異はほとんどみられませんでした。皮膚炎などを発症している場合は薄毛の進行が早まることがありますが、それ以外はほとんど関連がないといえます」

 また、東京メモリアルクリニック理事長でもある「さとう美容クリニック」の佐藤明男院長も、

「人間の性染色体にはX染色体とY染色体があり、女性はXX、男性はXYという型になっています。このX染色体上にある男性ホルモンレセプター(受容体)の、DHTに対する“感度”によって禿(は)げやすいか否かが決まるのです。つまりは、X染色体の遺伝的傾向によって左右されるというわけです。X染色体は母親から受け継ぐため、髪の毛には母方の家系が特に強く影響をおよぼします」

 そう解説する。一方で、なごみ皮ふ科(神奈川県海老名市)の齊藤典充院長が言うには、

「いくつかの脱毛症は関与する遺伝子がわかってきましたが、ライフスタイルとも全く無関係ではありません。生活環境によって遺伝子の発現状況も異なってきますから、円形脱毛症に関わる遺伝子を持っていても、発症しない人はそのままです。ストレスや感染症がきっかけとなる人もいて、100%の遺伝病だとは言い切れないのです」

 生まれながらに……などと諦観するのは早計だというわけだ。睡眠から食事、運動まで日常生活における予防策は多々あり、また現在はそうした遺伝に起因する影響を撥ねのける治療法も開発され、世に普及しているのだから心強い。先に触れた男性型脱毛症に対する2種類の内服薬やミノキシジルは、まさしくその先端を担っているのだ。


■「毛周期」が同調して


 ひとくちに脱毛症といっても、前述したAGAや女性型脱毛症だけではない。

「毛髪の本数に大きな変化がないまま、髪そのものが軟らかく、細くなって発症する『軟毛化』によって引き起こされるのがAGAや女性型脱毛症。これに対し、円形脱毛症やウイルス性疾患の後遺症としての脱毛症などでは、実際に髪が抜けてなくなる症状を呈します」

 とは、先の乾院長。また前出の齊藤院長は、

「私たち医師が最もよく手掛けているのは円形脱毛症です。脱毛症の中で一番多くみられ、ある日突然、前触れもなく発症するのです」

 としながら、

「原因は一般的に言われるストレスだけではなく、インフルエンザなどのウイルス感染がきっかけで発症する場合もあります。治療は通常、最初に外用薬と内服薬を処方します。外用薬としてはステロイドと塩化カルプロニウムの2種類が基本で、内服薬にはグリチルリチン酸、セファランチン、抗ヒスタミン薬などが用いられています」

 それでも改善が認められない場合は、

「脱毛がみられる部位の頭皮に直接働きかける『ステロイド局所注射療法』を検討します。円形脱毛症の初期では、免疫反応の暴走によって毛根に多くのリンパ球が集まり、毛を攻撃しています。そこで免疫反応を抑制するステロイドを用い、攻撃を直接的に抑えるわけです。治療は月に1回程度、症状に応じて数カ月から1年以上続けることもあります。また、液体窒素を用いた治療もあります。患部を急速に冷やすとその後血行が改善され、毛髪の成長が促進されたり、免疫の調整にも効果があるとされています」

 こちらは週1回、あるいは2週に1回通院して治療するのだという。AGAとは異なり、円形脱毛症の治療には基本的に保険が適用される。

 長引くコロナ禍にあって目下、髪の毛に関する「後遺症」に悩む人も後を絶たない。実際に、新型コロナウイルスに感染して入院し、すでに退院した患者に国立国際医療研究センターが調査した結果、発症から120日の間に抜け毛を訴えた人は58人中14人もいた。その症状の持続期間は、平均76日だったという。

 東京医科大学の坪井良治名誉教授が言う。

「例えばネズミなどの齧歯(げっし)類では、ある時期に一斉に毛が生え、また別の時期に一斉に抜けます。これに対し、人間は毛髪一本一本で毛周期が異なっており、通年で均一の毛量を保っています。ところが、出産後の急激な女性ホルモンの低下やダイエット、感染症などによる高熱、消耗があると毛周期の同調が起き、脱毛が生じることがあるのです」

 こうした「休止期脱毛症」のうち、新型コロナウイルス感染症で発症するものは、

「ウイルスが直接毛根へ作用するわけではなく、感染症によって身体が消耗状態になり、毛根に栄養が十分に供給されないことで発症します。新型コロナウイルスの場合には全身の炎症反応が強かったり循環障害を起こしやすかったりするため、これが他の感染症と比較して脱毛が多い原因となっているのでしょう」(同)

 脱毛が起きるのは罹患後、2〜3カ月が多いといい、現時点で、コロナ後遺症による脱毛に有効な治療法としては、

「AGAや女性型脱毛症に有効なミノキシジルは、休止期にある毛包を成長期に移行させる効果があります」(同)


■恐ろしい「かぶれ」


 ところで、毛髪を作物に例えるならば“土壌”は頭皮に他ならない。人目に触れる部分ゆえ、若々しさを保とうと「毛染め」を施している人も多いだろう。

 松倉クリニック表参道の田路めぐみ医師によれば、

「いわゆる『おしゃれ染め』と白髪染めの染毛剤とでは、成分のブレンドが異なります。おしゃれ用の一般的なヘアカラーは黒髪の多い状態で使うため、黒色を淡くするブリーチをメインにした、明るい色になる中程度の染毛力のものが多いです。一方、白髪染め用は染毛力が強めで、色も濃いものが主流。白髪染めで淡い髪色に仕上げるタイプは、黒髪と白髪との色の差を縮めるため、ブリーチ剤も入っています」

 とのこと。毛髪診断士でヘアケアスペシャリストの余慶尚美氏が言う。

「ヘアカラーリングには、大きく分けてヘアマニキュアとヘアカラーの2種類があります。ヘアマニキュアは、髪の表面に染料を付着させるカラー剤で、髪や頭皮へのダメージは少ないものの色落ちしやすい。一方でヘアカラーは髪の内部で色素と結合するため、色持ちがよいのが特徴。ただ、染料によるアレルギー反応が見られる方もまれにいらっしゃいます」

 毛染めが原因で頭皮がかぶれれば、むろん育毛にも悪影響を及ぼす。恐ろしいのは、市販のヘアカラー剤は通常、あらゆる質の髪を染められるよう薬剤が強めに配合されている点だ。前出の齊藤院長も、

「かぶれの症状としては、かゆみや赤い発疹が、頭皮以外にも耳の後ろや顔、首の周囲など、使用中に染毛剤が付着した部分に現れます。原因は染毛剤に含まれる酸化染料だと考えられており、例えばパラフェニレンジアミン(ジアミン)、メタアミノフェノール、パラアミノフェノールなどの物質が挙げられます。これらがアレルゲン(アレルギーの原因物質)となり、体内の免疫系がそれを異物と認識して反応することで、かぶれが生じるのです」

 その発症のタイミングは、

「体質やアレルゲンとの相性で決まるため一概には言えませんが、使用頻度が高いほどかぶれが生じる可能性は高まります。毛染めをいったん止め、かぶれが治まったら再開しようとする人も多いのですが、楽観視は禁物。体内の免疫機能は、ひとたび異物と認識したものを覚えているからです。そんな状況で同じ染毛剤を再び使うと、顔が膨れ上がったり水ぶくれができて体液が滲み出したりと、重症化してしまいかねません」

 かぶれが生じた時点で、その染毛剤は二度と使えないと思わなくてはいけない。


■必ずパッチテストを


クレアージュ東京エイジングケアクリニックの浜中聡子院長は、

「カラーリングや毛染めは定期的に繰り返さざるを得ないものです。もし頭皮への負担や髪の傷みが気になる場合は、その負担をなるべく軽減するよう、ジアミンの入っていない毛染めを選ぶのも一案でしょう。染まりのよいものは、どうしても負担が大きくなりやすいのが実情です。いずれにせよ、できれば美容院や毛染めの専門店で染めることをお勧めします」

 そうアドバイスする。家庭で行うと、毛髪だけでなく頭皮にも染毛剤が付着してしまいがちで、かぶれを引き起こすリスクがおのずと高くなるためである。

 先の田路医師は、

「月1回程度、染めるのが通常でしょう。ブリーチやカラー剤自体に触れると刺激となるため、うまく染まらずやり直す場合でも1週間は間をあけましょう」

 としながら、

「ヘナなどの天然由来成分の染毛料では“かぶれない”といった記載を見かけることがありますが、化学成分であれ自然成分であれ、接触皮膚炎やアレルギーは起こり得ます。ヘナ染め特有の赤みを抑えるために加えるインディゴ(藍色染料)でかぶれる人が多いともいわれており、基本的には、しっかりパッチテスト(皮膚アレルギー試験)を行うことです。これで広範囲のかぶれを回避することができます」

 日本ヘアカラー工業会のホームページでは、使用する48時間前に少量を腕の内側に塗り、30分後と48時間後の様子をそれぞれ観察するよう求めている。自宅でできる簡単なテストであり、かゆみや刺激などの異常を感じた場合には直ちに使用不可となる。おしゃれはまず、安全を担保して始まるというわけだ。

「週刊新潮」2021年7月22日号 掲載

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