肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方5 ステージIVと言われたらどうすればよいのか?

肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方5 ステージIVと言われたらどうすればよいのか?

進藤氏(左)と大場氏

■ステージIVでも治癒できる


 他臓器に転移がみられる「ステージIV」のがんにはどうしても絶望的な印象がつきまとう。しかし、同じステージIVでもグラデーションや程度があること、そして、大腸がんであれば、転移をしても治癒するポテンシャルが残されていることなどがこれまでの対談で明らかになった。ステージIVと言われたときにどう振舞うのか。現代を生きるうえで心構えを知っておくのは大切だ。

大場:生存率という切り口で判断すると、どのがん種でも「ステージIV」は難治がんの範疇になってしまいます。従来から変わらない考え方として、転移という出来事は、すでに全身病化している「氷山の一角」を示すものなので、手術で見える転移巣をいくら取り除いても、なにか局所治療を施しても生存利益を見出すことが難しい。したがって、すでに全身に宿るがん細胞に対して抗がん剤治療を行うことで、がんの進行を制御し、QOL(生活の質)を維持することが治療の目標となります。要するに、治す というゴールを目指すのではなく、上手にがんと共存するというふうにマインドセット(心構え)を変えることが個々の患者に求められるわけです。

 ここまでが基本的な一般論ですが、これまでふたりで話してきた中で、とくに大腸がんの場合には「ステージIV」でも治癒できる一定の集団は存在します。

 一方、薬物治療の進歩として、免疫チェックポイント阻害剤という新たな治療コンセプトの台頭で、例えば肺がんや悪性黒色腫など、これまでになく奇跡のような効果を示すケースが増えてきていますが、決して治ったとまでは言い切れない。あと難しいのは、有効性は限定的で効能のある患者が予測できないのと、重篤な副作用リスクも常に念頭に置かなければならない厄介さがあり、決して魔法のような特効薬ではありません。進藤先生、腫瘍外科医の立場からほかにも治癒の可能性を追求できる疾患や考え方などがあれば教えてください。


■世界の肝細胞がんのステージを決める立場として


進藤:我々が使っている「ステージIV」のニュアンスと一般の方が考える「ステージIV」のニュアンスとでは少しズレがあると感じることがしばしばあります。ステージIVというのは一般的には「治りません」という意味合いでとらえられることが多いですが、これまでの議論でも出てきたように、がんのステージとはがんの「進行度」の定義であって、「根治できる・根治できない」という意味ではないということを一般の方にはまず知っていただく必要があると思います。私は日本の肝細胞がんのステージを決めている委員会の委員であり、現在の世界の肝細胞がんのステージを決めている委員会の委員でもありますが、がんのステージというのはあくまで生存成績に基づいて決めているものであって、「治る・治らない」を基準に決めているわけではありません。どのがん種においてもステージIVでも治る人もいれば、ステージIVだから治らない人もいるわけです。

 私の専門領域でいえば、胆道がんや膵がんは患者さん全体で見ても生存成績が悪いので、これを予後によってステージIからIVまで分類した場合、胆道がんや膵がんのステージIVは他のがんに比べるとものすごく生存確率が低い患者さんばかりになります。ですから、これらのがんではステージIVの患者さんを治癒に導くことはかなり難しいということになります。

 一方、お話で出てきた大腸がんの肝転移に加え、神経内分泌腫瘍 (Neuroendocrine neoplasm; NEN 呼び名ネン)という特殊な腫瘍の肝転移、肝細胞がん(いわゆる肝がん)などは、手術以外にも有効な治療法が存在しますので、ステージIVの患者さんでも手術を含めた集学的治療によって根治や長期生存を達成できる方がいます。このようにステージIVでもがんの種類によってその予後は大きく異なり、「ステージIVのがん」とは「末期がん」と必ずしもイコールではないこと、がんの種類によっては進行がんでも治療による大幅な生存延長を期待できるケースがあるということは知っておいてほしいポイントです。


■乳がんの患者さんで


大場:進藤先生の説明に出てきたNENは確かにそうですね。厳密にはがんではないけれど、ふるまいは悪性です。肝臓にパラパラと転移して見つかるケースが多い。原発 (発生の元となる) 臓器としては小腸、大腸、胃などの消化管の場合もありますが、とくに膵臓由来のNENは本当に増えてきている実感があります。アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏も肝転移を有する膵NENが原因で帰らぬ人となってしまったのは有名です。あとは、卵巣がんや腎がんの転移、胃がんの肝転移なども可能性はありそうです。

 乳がんの患者さんで、肝臓や肺に一個だけ転移があって、それを標的に一年以上も抗がん剤治療を続けている方をたまに目にしますが、あれも切除してしまってもよいのではないかと。免疫チェックポイント阻害剤の登場や薬物治療の進歩によって転移巣を制御できる割合が高まってきたことで、肝臓や肺にある転移巣の切除意義が再考されてもよいのではと個人的には思います。

進藤:当然のことながら、ステージIVのがんは一番進行したカテゴリーに入るわけですのでよい話ばかりではなく、治療によって根治できる確率で言えばステージIからIIIのがんと比べてかなり低くなります。ステージIVの患者さん全員を治癒に導くことはがんという病気の性質上不可能ですから、いかにしてそれを制御し、元気に長生きできるようサポートしていくのかという考え方は重要です。

 切除して見た目が消えればそれで終わりではなく、再発や進行してしまった時の次の一手をどう考えるのか、先の生活で困ることがないようにするにはどうすればよいか、なるべく症状に苛まれることのないようにするにはどういうアプローチが適切かなど、患者さんの人生をサポートしていくのが我々の役割ですから、ステージが進行したがんであるほど、そうした考え方は重要になってくると思います。


■大半を外科医が担ってきた


大場:なるほど、確かにステージIV=末期がん、ではないことは強調したいですね。ドラマや映画でもなにかと、「末期」というフレーズが使われやすいのですが、それは本当に差し迫ったかなり限定された時期を指すものです。ステージIVでも仕事を続けたり、ゴルフをしたり、普段通りの生活を快活に過ごせる方はたくさんいらっしゃいます。がんという言葉のイメージが、まだまだ社会では偏見や差別を生み出しているニュアンスがなくなりませんね。本人は大丈夫なのに、周りが「がん」という言葉の響きに構えてしまうというか……。

 進藤先生のいう「人生のサポート」という考え方は素晴らしいですね。ですが、言うは易く行うは難しで、主治医がみなそのような考え方をもって患者と向き合っているのかというと必ずしもそうではない。実際に治ることが難しい患者の場合、理屈のうえではサポーターの役割は腫瘍内科医となるわけですが、身近にいないことが多い。日本ではまだまだ欧米先進諸国と比べると、その数は不足しているようです。

 現状、「がん薬物療法専門医」という名称の資格が腫瘍内科専門医としての証となっていますが、専門医の偏在も問題だといえます。例えば、関東エリアでみると東京都251名、神奈川県85名、千葉県71人、埼玉県48名、茨城県15名、群馬県11名、栃木県11名、山梨県4名です(2022年4月時点 日本臨床腫瘍学会ホームページより)。

 東京都は多いとは言っても、ほとんどはがん専門のセンター病院や大学病院などに集中していますので、基本的にステージIVの患者さんは、目の前にいる主治医と信頼関係を築いていくほかありません。エキスパート腫瘍外科医である進藤先生からみて腫瘍内科医はどのように映っていますか?

進藤:歴史を紐解くとがんの治療は手術から始まりましたので、一人の主治医が最初から最後まで長く診ていくというスタイルが主流のわが国では、手術も抗がん剤治療も緩和医療も、その大半を外科医が担ってきたという歴史があります。私もここに来るまでは東大病院も含めてそうしたスタイルの臨床を長くやってきましたし、進行がんで初めから手術は無理というケースを除けば、多くの施設において外科医ががん診療の中心にいることが今でも多いと思います。

 偏った意見であることは承知で聞いていただきたいと思いますが、腫瘍内科という専門領域は日本ではまだ新しい分野であると思います。欧米と日本ではやはり臨床のスタイルが異なりますし、一人の主治医が長く面倒を見てくれる日本の医療の良さを崩してまで欧米のような完全分業制にする必要はないと個人的には考えています。腫瘍内科医は進行して手術ができない患者さんの化学療法 (抗がん剤治療) だけやっていればよいわけではなく、もっと診療の中心でがんの治療の舵取りをする立場にあるべきだと個人的には思います。そのために科の垣根を超えた連携を進め、腫瘍内科医ががん治療のリーダーとしてもっと活躍できる場を我々も整えていく必要があると思っています。


■腫瘍内科医の「質」


大場:その通りで、がん患者の主治医として、国内では外科医がその役割を担うことが今でも少なくないですよね。身近に腫瘍内科医がいると安心ではありますが、抗がん剤しかやらない偏った医師では、不安や心配だらけの患者さんから真の信頼は得られにくい。であるならば、あくまでも私見ですが、抗がん剤治療、緩和ケアにも精通した外科医がもっとたくさん増えてほしいですね。現状、手術件数の多いセンター病院には手術技能にしか関心のない若手外科医が多くみられます。たくさんの手術だけをしていたい、とはいえ彼らがそこから離れると、おそらくは自身で責任をもって目の前の患者さんに抗がん剤治療をし、緩和ケアもしなくてはいけない現場にきっと直面するはずです。

進藤:腫瘍内科医の「数」も大切ですが、それと並行して腫瘍内科医の「質」の担保も重要な課題です。少し前までは、内科や外科といった基本領域で患者さんの全身管理の技術を十分身に着けないまま、ほぼ研修医上がりの状態で腫瘍内科に進む若い医師がいることを少し危惧していた時期もありました。

 臨床試験やエビデンスにしか興味がなく、患者の気持ちに寄り添えない医者も少なからず目にしてきました。そうした現状も踏まえてか最近の専門医制度の改革により、腫瘍内科専門医になるためには、まずは内科医としての長い専門研修期間が求められるようになったようです。高度の専門性と全人的ケアの双方を実践できる腫瘍内科医が増えてくれると心強いなと思います。


■ではどうすればいいのか?


大場:ブランド力のあるがん専門のセンター病院の腫瘍内科医の横柄なふるまいをしばしば耳にします。患者さんの元に迅速に新薬を届けるための治療開発を使命として、日夜がんばっている尊敬すべき腫瘍内科医の友人も私の周りにはたくさんいるのですが、一方で、ある意味で治験にしか興味がない、研究論文データになりうる患者にしか興味がないことについて、日常診療の中で露骨に出してしまう腫瘍内科医の話も患者さんからよく聞きます。

 要するに、自身の業績に直結する治験にエントリーできる患者には懇切丁寧に接するが、治験に入れない、あるいは治験で期待していた効果がないとわかった途端、患者に冷たくあたるということです。平然と「余命〇か月」と言ってのけるとか「このままでは死んじゃうよ」と伝えてしまうとか、そういったことです。もちろん、世の中、研究にとって都合のよい患者ばかりではありませんから。あと、外部向けには緩和ケアの大切さを説くけれど、現場では緩和ケアの実践までカバーしている腫瘍内科医はほとんどいないのではないでしょうか。となると、よそで緩和ケアを探してくださいとなってしまう。

 私が診ている患者さんから聞いて唖然としたのが、使える抗がん剤治療がなくなったら「はいさようなら」と言わんばかりで、電子カルテと睨めっこ診療をしている腫瘍内科医の話です。がん専門病院だと、がん患者しかいませんから、一種の慣れが生まれてします。進藤先生の意見と重複するようですが、エビデンス評論や情報量自慢の前に、まずはいち内科医としての基礎をしっかり固め、コミュニケーションスキルと幅広い臨床技能を身に付けたうえで、進藤先生の言う「人生のサポート」を一生懸命してくれる、そんな質を伴った腫瘍内科専門医がたくさん増えてほしいですね。きれいごとだけではなく、緩和ケアも一緒にしっかりやってほしい。

進藤:理想でいえばそうですね。ただ、一人ひとりの患者さんとじっくり向き合うためには、あまり大きな組織では難しいのも事実だと思います。高度ながん診療を担う大学病院やセンター病院では治療する患者さんも多いですし、直接治療に関係のない業務も沢山ありますから、一人の医師がそれぞれの患者さんのために長く時間を割くことは物理的に難しい。私自身もなるべく時間をかけたいと思っても、身体が空かないというのが現実ですね。

 本来、相対的に重症な患者さんや難しい患者さんが多い大病院こそ、そういった「人を診る」医療の重要性が増すはずですが、理想と現実にはギャップがあります。ではどうすればそうした問題をクリアすることができるか。その答えの一つは「チーム」をつくることだと思っています。チームといっても診療各科のいわゆる「受け持ちチーム」ではなくて、一人一人の患者さんに対して、必要な治療、必要なサポートを考え、科の垣根や職種を超えたテーラーメードの診療チームを形成することです。一人の医療者ではキャパシティにも限界がありますが、チームで情報を共有し、全員で個々の患者さんのサポートに当たる。今、私のところではそうした新しい医療モデルに基づいた診療体制の整備を進めています。

大場大 おおば・まさる1999年 金沢大学医学部卒業、2008年 医学博士。2021年より東京目白クリニック(豊島区)院長。2009年−2011年 がん研有明病院。2011年−2015年 東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教。2019年より順天堂大学医学部附属順天堂医院肝胆膵外科 非常勤講師も兼任。専門は、外科学、腫瘍内科学、消化器病学全般。書籍・メディア掲載も多数。

進藤潤一 しんどう・じゅんいち2004年 東京大学医学部卒業、2012年 医学博士。2014年より虎の門病院消化器外科(肝・胆・膵)所属。2011年−2012年 米国MDアンダーソンがんセンター腫瘍外科。2013−2014年、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教。専門は、肝胆膵外科学、腫瘍外科学。特に肝臓外科領域の研究業績では世界の若きリーダー。医師向けの教育講演も国内外で多数。

デイリー新潮編集部

関連記事(外部サイト)