高齢者は睡眠時間が長いと「死亡リスク1.57倍」? 50〜70代が目指すべき睡眠時間とは

高齢者は睡眠時間が長いと「死亡リスク1.57倍」? 50〜70代が目指すべき睡眠時間とは

眠れる環境づくりを

「睡眠の質向上」を標榜する「ヤクルト1000」が空前のブームで超品薄なことからも、日本人がいかに睡眠に悩んでいるかがわかる。だが、いたずらに長く寝ては死亡リスクが高まるというデータも。では、眠りに悩む高齢者はどうすればよいのか。処方箋をここに。

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 厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査報告」によると、「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った」と答えた人は25.7%、「日中、眠気を感じた」という回答は34.8%、「睡眠全体の質に満足できなかった」という人は21.8%に及んだ。民間が調査しても、睡眠になんらかの「悩み」を抱えている人は8割、9割に達することが多い。

 日本人の多くが、睡眠に関する悩みを多かれ少なかれ抱えているということだが、次に挙げるような事態が生じるのも、多くの人にとって睡眠の質が悩みのタネだからだろう。

 舞台は4月4日に放送された日本テレビ系「しゃべくり007」。タレントのマツコ・デラックスが自分の睡眠時間について、「短いときだと3時間くらい」「ちょっと寝たなって日でも5時間、6時間くらい」と語ったうえで、「ヤクルト1000を飲んでから、すごい眠りがよくなった」と打ち明けたのである。


■ヤクルトの生産体制は


 事実、2019年秋に登場したヤクルト1000は機能性表示食品として「睡眠の質向上」をうたう。当初は1都6県でヤクルトレディが販売。昨年4月に全国展開すると爆発的に売れ、コンビニなどで売るY1000も投入されたが、慢性的な品薄状態だった。

 そこにマツコの発言が飛び出すと、訪問販売分までが品薄になり、メルカリなどで数倍の値がついて問題になるほど、この種の飲料としては空前のブームと相成ったのである。ヤクルト本社広報室に聞くと、

「ご愛飲いただいているお客さまが機能性、特に睡眠に関する機能を体感されて、それをSNSなどで発信していただくことが多く、ヤクルトレディの活動も、そうした口コミの広がりを促していると思います」

 とのこと。いまの品薄状態に対してはこう答えた。

「店頭販売のY1000は7月から生産体制を強化し、宅配のYakult1000も、今秋の生産体制強化に向け準備しています」


■なぜ睡眠の質が向上する?


 だが、ヤクルト1000が「睡眠の質向上」につながるという根拠はあるのか。そのメカニズムを、乳酸菌研究の第一人者である東北大学名誉教授の齋藤忠夫氏に説明してもらおう。

「腸内には千種類以上、100兆個くらいの菌がいて、内訳は小腸に1兆個、大腸に100兆個ほどです。ヤクルト1000には善玉の乳酸菌シロタ株が1千億個入っていて、まずは腸内細菌のバランスをとって腸内環境を改善する整腸効果があります」

 睡眠の質を向上させるメカニズムはどうか。

「科学的に矛盾のないいくつかの仕組みがあると思います。ヤクルト1000に使われている乳酸菌シロタ株は胃酸・胆汁耐性が強く、生きたまま小腸に入ります。小腸には、良い菌か悪い菌かを判断するセンサーがあり、そこを1千億個という多数の乳酸菌が通ると、脳腸相関というルートを通って自律神経に影響を与えます。ヤクルト400の3倍近い乳酸菌の個数が、昼間にストレス緩和を促すセロトニンを作らせ、夜間に睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌を促し、睡眠の質向上につながっていると考えられます。また原料の脱脂粉乳には、トリプトファンという必須アミノ酸が多く含まれ、それが多いほどセロトニンが形成されやすくなります。メラトニンを合成するにはセロトニンが必須なので、その点でも科学的に矛盾なく説明できると思います」

 それに、そもそも乳酸菌が腸に達するとセロトニンの分泌が促されるという。


■昼間の活動が少ないから眠れない?


 さて、睡眠の悩みを抱える人が多い日本でも、高齢になるほど悩みは深まるようだ。事実、高齢者にとって状況は深刻なのか。『80歳の壁』などの著書がある高齢者専門の精神科医、和田秀樹氏は、患者から不眠の悩みを相談されると、

「翌日、仕事があるのでなければ、あまり気にしないほうがいいですし、どうしても眠ければ昼寝をすればいいですよ」

 と答えるという。まずはその理由を整理することで、高齢者の睡眠に関する問題点を浮き彫りにしたい。

 和田氏が説明する。

「年を取ると睡眠のパターンが変化する方が多く、具体的には深い睡眠の割合が減って、浅い睡眠が長くなります。加えて前立腺肥大などの病気で尿が近くなる方が多く、夜中に目が覚めやすくなります。深い睡眠の割合が減る理由はさまざまな要因が考えられ、断言するのは難しいですが、日中の活動量が減るのが理由だと主張する人は多いです。実際、昼間の活動が極端に減った人などは、疲れないから寝ないというケースがあって、ラジオの深夜放送を聴いたりネットフリックスを観たりするうちに、さらに眠れなくなってしまう人は多い。疲れていないところに刺激が強いものを観ると、結局、眠れなくなってしまうのです」


■朝の光と食生活


 このような変化に対しては、「年を取ったのだから仕方ない」と思える人はいいが、悩んでしまう人も少なくないという。では、高齢者は睡眠とどう向き合えばいいのだろうか。

「睡眠は疲れをとるためのものなので、疲れがとれたかどうかが大切。夜中に何回も目が覚めたか、寝つきが悪いかではなく、昼間にだるくないかどうかを指標にすべきです。だれもが若いころよりも眠りが浅くなるのだから、それを気にするより、昼間にどのくらい元気なのかを気にしたほうがいいです」

 では、昼間に元気でいられる睡眠は、どうやって得られるのだろうか。

「やはり日中の活動量が大事なので、昼間に歩いてみることでしょう。それから睡眠のリズムに一番影響を与えているのが、睡眠物質のメラトニンなので、それを分泌させるために、メラトニンの原料になるセロトニンを作り出すことが一番大切。それには朝の光を浴びることです。強いていえば食生活も影響します。タンパク質が不足するとセロトニンが作り出されにくくなるので、そこには注意したほうがいいです」

 要は、眠りが浅いことを気にするよりも、昼間によく活動し、セロトニンが出る生活を心がける、ということのようだ。


■休養感が死亡リスクに影響?


 ところで、「疲れがとれたかどうかが大切」だと和田氏は説いたが、朝目覚めたときの「休まった」という感覚を休養感と呼ぶ。そして、この「休養感」をめぐって先ごろ、興味深い発表がなされた。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所のチームが英国の科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に発表した研究論文によると、

「夜に8時間以上寝床にいても休養感がない65歳以上の高齢者は、7時間しか寝床にいなくても休養感がある人にくらべ、死亡リスクが1.57倍だった」

 というのである。同研究所睡眠・覚醒障害研究部精神生理機能研究室の吉池卓也室長が解説する。

「米国の睡眠データを分析し、自宅の寝床ですごした客観的な時間の長さが上位25%に入る高齢者は、中間の50%より死亡リスクが高いとわかったのです。そこに休養感の有無を加えて調べると、寝床で長くすごす高齢者の死亡リスクが一様に高いわけではなく、休養感が乏しい高齢者にかぎって死亡リスクが1.57倍になるという結果でした」

 どういうことか。

「年を取るにつれ体が必要とする睡眠量は減り、若いころと同じように睡眠をとろうとしても、眠りが浅く、途切れやすくなります。体が必要とするより長く寝床ですごしている人は、むしろ横になる時間を短くしたほうが睡眠の質が高まる可能性があります。寝床ですごす時間と体が必要とする睡眠量のバランスがうまく取れると、休養感が高まるのでしょう。つまり、睡眠時間とともに睡眠による休養感が大切なのです」

 ダラダラ寝るのは逆効果。体が休まったという実感を目安にすべきだという。


■早く寝すぎることのリスク


 睡眠が長い高齢者の死亡リスクが高いことについて、医療法人RESM(リズム)の白濱龍太郎理事長は、

「睡眠の質が悪いことを時間でカバーしようとする結果、死亡率が高くなってしまうのだと思います」

 と語り、こう話を継ぐ。

「若いころのように8時間睡眠を、などと考えていると、かえってブレーキになりがちです。50〜70代の方は睡眠時間の目標を6時間前後に設定していただきたい。中高年になるとメラトニンの働きが落ちてくるうえ、ストレスや心配事、運動不足など眠れない要素が加わるものです。ただ、睡眠時間には個人差がありますが、就寝時間が深夜0時をすぎないように心がけてください。それは早期覚醒するのが高齢者の特徴だから。体内時計が前向性といって前にズレるため、夜更かしをすると必然的に睡眠時間の絶対量が減ってしまいます。なるべく早寝をめざすことが大切です」

 一方、久留米大学神経精神医学講座主任教授の小曽根基裕氏は、

「睡眠時間には個人差がある。寝つきがよく、日中にだるさや眠気がなければ問題ありません」

 と言い、こう指摘する。

「高齢者は寝る間がないほど仕事が忙しいということがほとんどなく、ややもすると寝すぎる人が多いです。たとえば、夜に観たいテレビ番組がないという理由で、早い人は7時や8時にベッドに入る。それから朝6時まで寝ようとすると、睡眠時間は10時間前後にもなりますが、そんなにベッドにいても眠りは浅く、途中で何度も目が覚めてしまいます。70代の平均睡眠時間が6時間のところ10時間前後も寝ようとしても、4時間くらい眠れずにベッドですごすことになり、自分は不眠症だと思って悩み、睡眠薬を服用することになったりするのです」


■睡眠時間の記録と昼寝


 そこで小曽根氏は、自分が何時に起き何時に寝ついたかを2週間程度、日誌に記すことを勧める。実際に眠っていた時間帯を把握し、それに合わせて床に入るといいというのだ。では白濱理事長は、睡眠の悩みを抱える高齢者にどんなアドバイスをしているのか。

「生活リズムを崩さず、ブルーライトなどの光を浴びすぎない、などです。また、筋肉量の低下に伴って睡眠も浅くなる傾向があるので、適度な運動を勧めています。高齢者は寝る前に子供のことや孫のこと、相続のこと、自分の病気のことなど、あれこれ考えがちですが、考えごとをすると交感神経が刺激され、寝つきによくない。寝る前は瞑想にふけり、頭のなかを空っぽにすることが大切です」

 そうすることが、翌朝の休養感につながるということだろう。筑波記念病院の末松義弘副院長は、こうアドバイスする。

「高齢になったら過去の習慣にとらわれず、眠くなったときに睡眠をとることが大切。就寝の1時間半くらい前に入浴を済ませ、部屋の照明を暗くし、ブルーライトを発するスマホを見ないなど、自然に眠くなる環境を整えるのです」

 夜寝る前だけではない。

「私は高齢者に15〜30分程度の昼寝をとることを推奨しています。夕方、散歩をする方をよく見かけますが、その際に紫外線や直射日光を避けるためにサングラスをかけることが、よい睡眠のために効果的です。日光のような強い光を浴びると、覚醒スイッチが入ってしまうからです。コンビニのような明るい照明も睡眠の妨げになります」

 若いころのように眠れる高齢者などいない。ゆったりした気持ちで就寝し、日中にだるさがなければ問題なし。そう考えれば気持ちが軽くなるではないか。

「週刊新潮」2022年6月30日号 掲載

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