「韓国についてよく知らない。引け目を感じている」令和を生きる在日コリアンのリアルな声とは

「韓国についてよく知らない。引け目を感じている」令和を生きる在日コリアンのリアルな声とは

Illustration ニャロメロン

「じつはこれは失礼な行為である」

「厳密にはこれも失礼に当たる」

 当失礼研究所は、そんなふうに重箱の隅をつついて「失礼」を作り出すために、研究を重ねているわけではありません。

 基本の失礼は押さえつつも、自分と周囲が日々を平和に穏やかに過ごすために、失礼とどう付き合っていけばいいかを考えていく所存です。

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 感情的な反論を受けるのは承知の上で、あえて申し上げます。昭和20~40年代に生まれた日本人の多くは、「在日コリアン」という言葉を目にすると、微妙な罪悪感を抱いてしまうのではないでしょうか。

 どんなに言い訳を並べても、戦前の日本が、そして戦後の日本が、かつての「朝鮮」の人たちに、戦後は「在日」の人たちに、申し訳ないことをしたのは確かです。

 国としてだけでなく、個人としての日本人も、関東大震災における朝鮮人虐殺を持ち出すまでもなく、理不尽で残酷な差別を行ってきました。戦後も陰に陽に差別があったことは、誰もが知っているはず。

 平成になった頃は、少なくとも表面上は、在日コリアンに対する差別的な言動を目にすることは減っていました。ところが、十数年前からネット上や街角にあふれ出してきたのが、いわゆる「ヘイトスピーチ」です。もはや「一部の偏った考え方の人がヘンなことを言っている」という規模ではありません。

 初めて「ヘイトデモ」を目撃したときは、目と耳を疑いました。差別意識丸出しの言葉を書いたプラカードや旭日旗を掲げた集団が、罵詈雑言を叫びながら街を練り歩いている。子どもを抱いた若い母親もいる。なんだこの集団は……。生まれて初めて「日本人として恥ずかしい」という気持ちになりました。

「戦争だから仕方なかった」「そうは言うけど韓国(人)だって」と言いたい人も多いでしょう。時代がどうの相手がどうのではなく、大事なのは自分がどうするかです。

 もちろん、卑屈になる必要はありません。ここで失礼を研究しているのは、なるべく胸を張って生きていくため。日本人のひとりとして、在日コリアンの存在をどう考え、罪悪感とどう折り合いをつけるか。

 3人の在日3世の話を聞きつつ、落としどころを模索しましょう。


■「帰化するの?」と聞かれ…


「運がよかったのかもしれませんけど、ボク自身は直接『差別を受けた』という記憶はないんですよね。ただ、兄は嫌な思いをしたのか韓国のことを嫌っていて、まだ一度も行ったことがありません」

 そう語るのは神奈川県出身の在日3世・Aさん(40代)。帰化はしておらず韓国籍で、日本名(通名)を使っています。日本人の女性と10年前に結婚しました。

 続いては、埼玉県出身の在日3世・Bさん(40代)。

「差別とは違うかもしれませんが、結婚する前、日本人の彼女の母親に『帰化するつもりはあるの?』と聞かれました。『はい』と答えたら、ホッとした顔をしてましたね」

 15年前の結婚を機に日本に帰化しましたが、日常生活や仕事では民族名を使っています。「面倒だし、なんかアイデンティティーがなくなる気がして」とのこと。

「夫も自分も在日3世です。子どもができる前に帰化したいんですが、どちらの親もいい顔をしません。高校までは日本名でしたが、大学に入ったときに民族名に変えました。高校と大学の友達がいっしょにいると、別々の名前で呼ばれてややこしいんですよね。アハハ」

 こちらは、愛知県出身のCさん(30代)。結婚2年目で、夫はずっと日本名を使っています。

 座談会ではなく、個別に話を聞きました。3人とも祖父母の出身地は現在の韓国です。

 Aさんだけでなく、BさんもCさんも「露骨に差別を受けた経験はない」と言います。もうひとつの共通点は、「在日1世がどう生きてきたかや、“祖国”であるはずの韓国についてよく知らない。そのことに引け目を感じている」ということ。

「祖国って言葉が出ましたけど、自分にはそういう意識はないですね。昔、サッカーの日韓戦を在日の友達に誘われて観に行ったとき、まわりが韓国を応援していることに居心地の悪さを覚えました。そのとき『自分はこっちじゃないんだろうな』と感じたんです」(Bさん)

「民族名を使っているからか、時々『日本と韓国の関係について、どう思うか?』なんて聞かれます。だけど、自分は在日を代表しているわけじゃないし、知識もたいしてない。自分なりにフラットなつもりの意見を言っても、たぶん満足してはもらえません。もしかしたら怒り出すかもしれない。『難しいですよね』なんて当たり障りのないことを言ってお茶を濁してます」(Cさん)

「さっき石原さんは『罪悪感』という言葉を使いましたよね。長い付き合いだから言いますが、けっして嬉しくはないです。違うかもしれないけど、アメリカ人の友達に『私たちの国が原爆を落としたことに罪悪感を覚えています』と言われても困るし、それはさておき仲良くしましょうと返すと思います」(Aさん)

 たしかに、在日コリアンについて「ちゃんと考えよう」とすればするほど、自分の乏しい知識の範囲に当てはめたり、結果的に壁を作ることになったりしがち。無関心という最大の失礼よりはマシかもしれませんが、次の一歩をどう踏み出せばいいのかは悩ましいところです。


■日々変わっていく「事情」


 在日コリアンを取り巻く状況や当事者の意識は、戦後77年が経ち、4世5世も増えてきている中で、大きく変わっています。変わっていないのは、中年以上の日本人が在日コリアンに抱くイメージのほうかもしれません。それは、いわゆる「偏見」と限りなく近いものです。

「キムチを漬けたら、食べた友達に『さすがひと味違うね』とホメられました。ネットでやり方を調べて初めて漬けたのに」(Bさん)

「韓流アイドル人気の影響でしょうけど、10代の女のコは韓国への憧れがあって、何の屈託もなく『いいなあ、私も韓国人になりたい』なんて言ったりします。ああ、自由だなって思いますね」(Cさん)

「韓国人であることは、隠してはいません。就職活動でも履歴書に書くことで、逆に『それで落とすような会社には行かない』と、こっちの判断材料になりますよね」(Aさん)

 もう退職しましたが、Aさんは新卒時には1部上場企業に就職しました。ただ、自分は隠してはいなくても、友達との会話の中で「あの人もコリアンだよ」という“アウティング”は、けっしてしないとか。

 書くほうも読むほうも、つい肩に力が入ってしまうテーマです。まずは肩慣らしということで、「令和を生きる在日コリアン」のリアルな声をご紹介しました。

 次回は3人に、ヘイトがまん延している昨今の状況への率直な思いや、悪気なく発せられる「失礼なセリフ」について語ってもらいます。

石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。「失礼とは何か」を追究する失礼研究所所長。コラムニスト。大人力研究の第一人者でもある。『大人力検定』など著書多数。

ニャロメロン
1988年大分県生まれ。大分大学漫画研究部在席時より、サイト「週刊メロンコリニスタ」を立ち上げ、ツイッター等でも漫画を発表。『凝縮メロンコリニスタ』『ベルリンは鐘』『バンバンドリドリ』『マウントセレブ金田さん』等、著書多数。

「週刊新潮」2022年9月22日号 掲載

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