100歳以上の老人が世界で最も多い島 カギは「体内の炎症」にあった

100歳以上の老人が世界で最も多い島 カギは「体内の炎症」にあった

100歳以上の老人が世界でもっとも多い“超長寿エリア”のひとつ、イタリアのサルデーニャ島(※写真はイメージ)

■カギは「炎症」! 100年生きる人に「からだの秘密」――鈴木祐(1/2)


 健康で超長寿の「百寿者」には共通項があった。わけても身体の「炎症」の進行をどう食い止めるかがカギになっている。では、そのためにどうするべきなのか。科学的な論文による裏付けをもとに、気鋭のサイエンスライター・鈴木祐氏が「からだの秘密」を解く。

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 イタリアのサルデーニャ島をご存じでしょうか? 地中海に浮かぶ風光明媚な観光地で、多くのセレブに愛されるリゾートとして名を知られています。

 が、昔から科学者のあいだでは、サルデーニャ島は違った観点から有名な土地でした。というのも、この島、100歳以上の老人が世界でもっとも多い“超長寿エリア”のひとつだからです。

 統計によれば、この地域で暮らす百寿者の割合は、一般的な先進国のなんと10倍にものぼります。日本も世界に名だたる長寿国ですが、サルデーニャ島にはかないません。

 そして、この島がさらにすごいのは、ほとんどの百寿者がただ長生きなだけでなく、楽しい人生を送っている点です。

 みな朝から活発に近所を歩きまわり、島内に寝たきりの老人はゼロ。それぞれが家族や友人と強いきずなを持ち、歌や料理などの趣味を愛しながら死ぬまで働き続けます。つまり、彼らは圧倒的に人生を楽しんでいるのです。

 果たして、この島には、どのような秘密があるのでしょうか?


■「いつも疲れている人」は…


 2015年、アメリカ国立老化研究所のチームが、サルデーニャ島の謎を探る研究を行いました。島に住む百寿者のライフスタイルや血液サンプルを調べ、彼らのいったい何が違うのかを確かめたそうです。

 その結論をひとことでまとめると、

・サルデーニャ島の老人たちは、体内が“炎症”していない

 というものでした。先進国の住人にくらべて彼らは、老化の指標となる「炎症」レベルが格段に優れていたのです。

 炎症とは、人体がなんらかのダメージを受けた際に起きる反応を意味します。

 たとえば、あなたが間違って指を切ったら、すぐに傷から体液がにじみ出し、そのまわりが赤くはれ上がっていくでしょう。頭を打ったときも同じで、衝撃を受けた箇所が赤くなり、しばらくはジンジンとした痛みが続きます。

 これが、炎症です。いずれも人体のダメージを癒そうとして免疫システムが働き出した証拠で、ケガや感染を治すために欠かせないプロセスのひとつ。炎症がなければ、私たちの病気は回復しません。

 ところが、いっぽうで炎症は、私たちに悪さもします。切り傷のように数週間で治る症状ならいいですが、感染症や糖尿病などで体のダメージが慢性化すると、外敵を倒すために使う武器が逆に血管や細胞を傷つけ、人体を内側から壊し始めてしまうのです。

 しかも慢性的な炎症が起きる原因はとても幅広く、運動不足、栄養不良、肥満、タバコ、ストレス、睡眠不足、大気汚染など多岐にわたります。あなたの体にダメージをあたえるものは、すべて炎症の原因になり得るからです。

 その意味で、炎症は“ウルトラマン”のような存在だと言えます。怪獣を3分以内に倒してくれるうちはありがたいですが、もしバトルが何日も続いたら、ウルトラマンの攻撃の余波でビルや家屋が全壊し、ほどなく誰も住めなくなってしまうでしょう。

 炎症も同じで、戦いが長引くほど人体のダメージは蓄積し、やがて次のような症状が出ます。

・なぜかいつも疲れている
・頭やお腹、関節が定期的に痛む
・肌のブツブツやかゆみが治らない

 これらの変化は、慢性的な炎症が引き起こす症状のごく一部にすぎません。近年では炎症とメンタル面のつながりを調べた研究も進み、体内の炎症レベルが高い人ほど鬱病や不安症に悩まされやすいとの報告も増えてきました。

 さらに、最近は日本人の炎症レベルを調べた研究も多く、16年には、慶応大学のチームが85〜110歳の高齢者1554人を調べた結果、100歳を超えても元気な男女ほど体内の炎症レベルが低い事実をあきらかにしています。現代でQOL(Quality of Life)を上げるには、炎症対策が必須なのです。


■四つのポイント――スマホの壁紙にも自然を


 では、サルデーニャ島の老人たちは、なぜ炎症レベルが低いのでしょうか? その理由はさまざまですが、本稿ではポイントを四つにしぼります。

1 自然
2 発酵食品
3 ウォーキング
4 昼寝

 これらの要素は、いずれもサルデーニャ島や日本で暮らす百寿者のライフスタイル研究から導き出されたもの。どれも炎症を鎮める働きが確認されており、高い効果を発揮してくれます。

 まず一つ目の「自然」は、文字どおり森や海などの山川草木を意味します。

 言わずもがな、サルデーニャ島ほど豊かな自然に恵まれたエリアは多くありません。島の周縁には白い砂浜と群青の海が広がり、他で見られない希少な動植物も多く生息します。こんな環境で毎日を過ごせば、いかにも体調不良とは無縁でいられそうです。

 もちろん科学の世界でも、「自然」の効果は認められつつあります。

 たとえば直近では、英国のイースト・アングリア大学が「森林浴」に関する143件の過去データをまとめる調査を行いました。これは「メタ分析」と呼ばれる手法で、さまざまな情報を比較したぶんだけ信頼性は高くなります。現時点では、「森林浴」に関する最良のデータだと言えるでしょう。

 その結果は、研究チームも驚くほどでした。定期的に森や高原へ出かける人はコレステロール値が低くて糖尿病にもかかりにくいうえに、夜はぐっすりと眠れ、体内の炎症レベルが低かったのです。なんともすごい効果です。

 これほど自然が健康に良いのは、山や川の光景が、私たちのストレスを下げてくれる働きを持つからです。

 そもそも人類は、数十万世代にわたって豊かな自然の中で暮らしてきたため、体が動植物にかこまれた環境に適応しています。そのせいで私たちは、大自然を見ると本能的にやすらぎを感じ、ストレスが大きく減るのです。

 ただし、自然のメリットを味わうために、わざわざ遠くの山や高原まで出かけなくても構いません。いまの暮らしに、少しの自然を“ちょい足し”するだけでも、かなりの健康効果は得られるからです。

 なかでも手軽なのは、「自然の写真」です。

 自然の写真を見ただけでもストレスが減るのは有名な話で、アムステルダム自由大学が行った実験では、学生たちに「都会の風景」と「森の風景」という2パターンの画像を提示したところ、自然の写真を見たグループにだけリラックス反応が確認されました。どうやら私たちの脳は、ニセモノの自然でもやすらぎを感じてくれるようなのです。

 自然の写真を見る時間は1日5分でも構いません。スマホやパソコンの壁紙を森や海の写真に変えておくだけでも、あなたのストレスは減り、ひいては炎症が少しずつやわらいでいきます。

 また、もうひとつおすすめなのが、近くの公園でくつろぐことです。これはフィンランド政府の研究があきらかにした事実で、15分ほど公園のベンチに座っただけでも、私たちの健康レベルは大きく改善します。

 どんな都会でも、必ず近所に公園ぐらいはあるはず。仕事のあいまに出かけて弁当を食べてもいいですし、ただ木々をながめるだけでもいいでしょう。このちょっとした習慣が、あなたの体調不良を癒してくれるのです。

(2)へつづく

鈴木祐(すずき・ゆう)
サイエンスライター。1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアをテーマとした書籍や雑誌記事の執筆を手がける。近著に『最高の体調』。本人のブログ「パレオな男」を運営中。

「週刊新潮」2019年2月14日号 掲載

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