「東大合格者」2019高校別ランキングベスト20 “都立健闘”の背景に石原元知事の大仕掛け

■「東大合格校」悲喜劇の舞台裏(2/2)


 今年も3月10日に、東京大学の合格者が発表された。その高校別ランキングトップ20を見ると、納得の名前に交じり、「おや」と思う結果の高校も。たとえば、20年ほど前まで、東大合格者が100人を超えるのが当たり前だった東京学芸大附属に元気がない。

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 ここに至るには、石原慎太郎元都知事の影響が少なからず及んでいるとか。『東大合格高校盛衰史』の著書がある教育ジャーナリスト、小林哲夫氏に解説を願おう。

「67年、東京都教委の教育長だった小尾乕雄(おびとらお)氏が主導し、都立高入試に学校群制度が導入されました。それ以前は、都立日比谷が東大合格者数1位の座を譲らず、200人近い合格者を出した年もあった。千葉や埼玉から引っ越して受験する人もいました。そこで小尾氏は、こうした進学校をいくつかに分散させようと、日比谷や西、戸山などの反対を押し切り、何校かの“群”を受けた受験生を、学力が均等になるように各校に振り分ける方法を導入したのです。結果、“自分で高校を選べないなんて”と、優秀な生徒が私立や国立の高校に流れ、都立高の進学実績は急落。93年には日比谷の東大合格者は1人になってしまいます」

 その国立の高校の一つが学芸大附属だった。

「さすがに都立の凋落が問題視され、学校群は廃止されますが、当時の都立は私立にくらべると面倒見で劣り、人気を挽回できなかった。その状況に危機感を抱いた石原都知事と都教委が01年、都立高改革を実施します。学区の撤廃、進学指導重点校の指定、入試改革のほか、都立高に進学率の数値目標を導入。都立は次第に力を取り戻して、現在に至ります」(同)

 その際、都立復権の象徴とされた日比谷は昨年、48年ぶりにトップテン入りした。今年は47人と、さらに増えたわけではないが、

「入試問題が公立不利といわれたなかで、昨年同様の実績は、着実に力を伸ばしている証しでしょう」(さる教育ジャーナリスト)


■“覚悟をもって入学するように”


 都立はほかにも西19人、国立16人、戸山12人、青山10人、中高一貫校化した小石川16人など、以前にくらべて健闘し、それも“石原効果”と見られている。

 その効果は神奈川にも飛び火していた。今年21人が合格した横浜翠嵐から東大に進学したOBが言う。

「05年、県内の公立高校の学区が撤廃され、07年に翠嵐、湘南など10校が進学重点校に指定され、13年には翠嵐と湘南だけがアドバンス校に指定されました。16年、翠嵐で“覚悟をもって入学するように”と書かれたプリントが配られ、話題になりました。平日は学年に2時間、休日は4時間を足した時間、勉強しろというのですが、実は重点校になってからは同様の指導がなされていました。“東大をめざしてほしい”と言われ、先生はよく面倒を見てくれ、定期試験ごとに校内偏差値も貼り出されました。ただ、最近は部活や行事も制限され、その分勉強するように指導されているそうで、OBは“自主性を尊重する校風が失われた”と嘆いています。湘南はいまも自主性に委ねられる部分が多いそうですが」

 石原氏の母校でもある湘南は19人。横浜翠嵐と並んで一時は1けたに低迷していた。石原氏の高笑いが聞こえるようだが、ともかく、この大号令に始まった公立復権の影響で、学芸大附属を蹴り、日比谷や翠嵐、湘南に進学する生徒が増えた。それが今年の数字にも表れているのである。


■香川照之もがっかり?


 42人と躍進した西大和学園は、自民党の田野瀬太道代議士の父親、良太郎元代議士が86年に創立した、比較的新しい学校だ。

「当初は京大合格者を増やすのに力を入れ、京大のなかで一番偏差値が低い保健学科に大量の合格者を送り込んでいた時期もある」

 と先のジャーナリスト。近年は京大の難関学部の合格者が多かったが、

「今年は東大が12人増え、逆に、京大は25人も減らしました。今度は東大をめざすというアピールか」

 と、安田氏。同校の進路指導担当はこう答える。

「ここ数年、積極的に東大をめざす生徒が増え、理由の一つは、AI技術が進歩し、今後どんな仕事が残るかわからないという時代感覚があると思う。東大の魅力は、1、2年は教養学部で幅広い分野を学べること。高校生が先々まで見通しを立てるのは難しいので」

 東大シフトは“政治的判断”ではないのだろうか。

 逆に、寂しい結果に終わったのは、明治中期以来の歴史をもつ名門進学校の暁星で、わずか2名だった。

「以前は東大合格者を増やそうと、小学生からフランス語を学ばせていましたが、いまは中学生からです。そもそも、勉強ができる生徒は、医学部をめざす傾向にあります」

 と教頭が話す。ちなみに暁星から東大に進んだのが俳優の香川照之だ。暁星で同期だった香川の友人は、

「僕らの代は、現役で10人くらい東大に合格した記憶があるんですけど」

 と、残念そうな顔を見せたが、香川も同じ心境だろう。ところで、暁星より偏差値が数ポイント低い巣鴨が21人、世田谷学園が15人を合格させている。

「巣鴨から合格した子は塾にも行かず、学校に夜まで残って一生懸命勉強したそうです。先生方が若返って熱心に指導され、アクティブラーニング的な授業も増えている。世田谷学園も同様で、勉強をていねいに見る学校の東大合格者が増えたと思います」

 と、中学受験塾サピックス小学部の教育情報センター本部長、広野雅明氏。これは中堅校に必要な姿勢で、香川サン、ぜひ母校に教えてあげてください。

 広尾学園も、暁星と並び2名。ジャガー横田の長男、大維志くんがめざす様子を日本テレビ「スッキリ」が放送し、番組中で「偏差値71の超難関」と連呼された学校である。金子暁副校長は、

「女子が推薦、男子が一般入試で現役合格し、ともに医進・サイエンスコースの生徒です。このコースでは研究者レベルの活動が行われ、そういう学び方をしていると、受験勉強のモチベーションも高まります」

 と説明する。広野氏は、

「いまの中1や中2は、御三家クラスの学力の子が入学しており、その子たちが受験するときは東大合格者も増えるのでは」

 と話すが、今年の東大入試では、広尾学園に3回挑戦して散った大維志くん同様の涙が流されたようだ。

「週刊新潮」2019年3月21日号 掲載

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