「あの、最初からハッキリさせて…」(中川淳一郎)

 この前、大学時代の同級生でアメリカ在住の女性からフェイスブックでメッセージが来ました。彼女は、大学の時は自治寮にいたのですが、その寮の一つ先輩の男性・N氏が私に興味を持ってくれたとのことで、「一度会わせてもらえないか」と相談してきたというのです。

 そんなのワケないので、N氏と飲みに行くこととなったのですが、これがかなり楽しい飲み会となりました。それはさておき、彼の律義さというか、「あっ、これって日本人的人間関係構築術だな」と思ったのが、会って数分後の彼のセリフです。我々が行った店は、超人気の焼き鳥屋で、開店の3分ぐらい前に店の前に行ったら彼はもう立っていました。

「はじめまして」

「どうもどうも、今日はありがとうございます!」

 みたいな挨拶をした後、「いやぁ、お会いしたかったんです」「そんなこと言ってくださりありがとうございます」みたいな会話になったのですが、彼は「あの、こういったことは最初からハッキリさせておいた方がいいと思うのですが……」と切り出します。

「お互いの話し方についてです。僕は入学年度でいえば、中川さんの一つ先輩です。しかし、卒業は同じ年なので、実質的には同期だと思います。なので、『敬語』にするか『タメ口』にするか、お互いどう呼び合うか、今の段階で決めませんか? これ、後になると引き返せなくなるんですよ」

 私は、「Nさんの方が入学年度は先なので、オレが敬語で、Nさんがタメ口でいいんじゃないですか?」と言うと、「いや、それは……」となり、結局、「時々お互い敬語が出てしまうかもしれませんけどね」と言いつつも、2人とも「タメ口」で喋ることになりました。ただし、互いの呼び名については、Nさんは私を「中川」ないしは「中川君」、そして私は彼を「Nさん」と呼ぶことにしました。

 途中、現役合格の彼の方が私よりも3カ月年下であることが判明し、「なんだよ、この野郎! お前、ワカゾーじゃねーか。この野郎、焼きそばパン買ってこい、オラ!」などという展開になりましたが、良い出会いとなりました。

 この「敬語」「呼称」ですが、日本語って本当に複雑ですね。英語の場合、ファーストネームで呼ぶかどうかの違いだけですし、敬語の概念も薄いため、何も気を遣わなくていい(丁寧表現はある)。

 しかも日本語では「あなた」「お前」「キミ」「貴様」「てめぇ」「貴殿」など様々な言葉があり、相手によって使い分けなくてはいけないのが、英語だと「YOU」だけで事足りる。

 今回、N先輩は、私と会うにあたり、

「中川さんと会いたいけど、オレ、どう接すればいいんだろう……。大学では確かに先輩だったけど、卒業の年は同じだし、社会人23年目の今は、お互い同格だもんな。大学が一緒でなければ、敬語で喋るけど、あの日、あの時、同じ時間をあのキャンパスで過ごしたのに敬語ってのも他人行儀が過ぎるな……」

 そんなことを悩みながら当日を迎えたと想像できます。久々に誠意のある人に会えたな、と思いながら大学時代の如く泥酔したのでした。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2019年7月11日号 掲載

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