世界最高齢「116歳」田中カ子さんに密着 103歳でがん手術など驚異の生命力で回復

記事まとめ

  • 田中カ子(かね)さんは、世界最高齢のギネスレコードを持つ日本人女性で116歳
  • 45歳ですい臓がんになり、103歳で大腸がんの手術を受け、内臓系疾患で3度手術も
  • 「今が一番楽しい」と口にする田中さんに週刊新潮は密着取材し、長寿の秘訣を聞く

45歳ですい臓がん、103歳で大腸がんを克服! 世界最長寿・田中力子さん116歳

■世界最長寿「田中カ子さん」のめでたい「116歳ライフ」(1/2)


 世界最高齢のギネスレコードを持つ日本人女性をご存じだろうか。田中カ子(かね)さんは116歳。明治、大正、昭和、平成、令和と五つの時代を生き、「今が一番楽しい」と口にする。そんな彼女に週刊新潮は密着取材を敢行した。知られざる日常から分かった長寿の秘訣とは。

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 令和初の盆休みでは、久々に家族皆で顔を合わせたという方もいただろう。祖父母の声に耳を傾け自身のルーツに思いを馳せる。仮に田中カ子さんを家族に持っていたなら、話題は時計の針を優に100年も前に戻すようなものだったに違いない。

 彼女がこの世に生を享けたのは、1903(明治36)年のこと。かのライト兄弟が人類初の有人動力飛行に成功し、日本では桂太郎が総理大臣を務め、翌年には日露戦争が勃発している。

 01年には昭和天皇が誕生されてもいるが、妃となった香淳皇后をはじめ、カ子さんの生まれ年には映画監督の小津安二郎や俳優の片岡千恵蔵、作家では山本周五郎や小林多喜二に林芙美子など錚々たる歴史上の人物が誕生している。まさに「時代の生き証人」として、彼女は今年3月9日にギネスワールドレコーズ社から「存命中の世界最高齢者」として認定されたのだ。

 孫5人、ひ孫8人に囲まれる彼女の日常は後ほど詳しく紹介するが、まず驚くべきはカ子さんの「病歴」である。世界最長寿者となれば五体頑健、病気とは無縁の人生を過ごしてきたかと思えばさにあらず。今や日本人の2人に1人が患うがんに、カ子さんは2度もなって克服したサバイバーなのだ。1度目は45歳ですい臓がん、そして2度目はなんと103歳で大腸がんの手術を受けた。その他にも、35歳の時にパラチフスに罹り、76歳で胆石の除去手術、90歳で白内障の手術も経験。少なくとも内臓系疾患で3度も手術を受け、その度に驚異の生命力で回復してきた。

 掲載の年表をみても分かるとおり、カ子さんは生まれ育った福岡県の和白(わじろ)尋常高等小学校を卒業後、当時の多くの女性たちがそうだったように、近隣の村々の家へ子守り奉公に出た。赤ん坊を背負う「おしん」の姿を彷彿させるが、19歳で結婚した後は夫の実家である「田中餅屋」の店先で、食品全般を商う最前線に立つ。商才に長け早くから機械化に熱心だった夫は、近隣の農家が収穫した小麦を自家製粉してうどん店なども営み、5人の子を儲けた。60代で一線を退いたが、餅屋はカ子さんが88歳の時に創業100周年を迎えている。

 子供を育て上げ家業も発展、あとは悠々余生を過ごす筈だったカ子さんにとって、まさに100歳を超えてから見つかった大腸がんは人生最大の危機といってよい。そもそも、100歳以上のがんの手術例は日本でも10人前後で、当時103歳の手術は過去5例に満たない。手術を担当した大腸がんの権威である順天堂大学医学部の鎌野俊紀教授(当時)にとっても、最高齢の患者だったという。

 その病状は、9年前に出版された彼女の評伝『花も嵐も107歳 田中カ子・長寿日本一への挑戦』(花田衞著・梓書院)に詳しい。

〈ガンは大腸下部でS字状に曲がって直腸につながる部分に見つかった。S状結腸ガンと呼ばれる。(中略)「最高齢なので最悪の場合、人工肛門になるかもしれない」と(医師に)言われた。ガンにはステージ0からI〜IVまで5段階あり、0が一番早期で軽く、これは完治する。IVが最も進行しているが、カ子のガンはステージIIで「ガンが大腸の壁の外まで浸潤している」という第3段階だった〉

 腸閉塞が進行しており癒着が強く、また年齢上、全身麻酔の加減も難しく開腹手術は困難を極めたが、最終的には腸を20センチ切除して無事に終了。幸い転移もなかったが、鎌野教授が病床のカ子さんに声をかけると、「ビールが飲みたい」と答えたというから、驚くばかり。もちろん、カ子さんが筋金入りの酒豪だったというわけではない。

 ギネス記録の認定証を手渡され、「人生で一番楽しかった時は」と尋ねられたカ子さんが、「今!」と答え周囲を和ませたように、明るくユーモアに溢れた気のいいおばあちゃんなのである。


■ボケとツッコミ


「カ子さんはとってもお茶目な方なんですよ」

 とは、彼女が入居する介護施設「グッドタイムホーム1 海の中道」(福岡市東区)の職員で、介護福祉士の廣田耕作氏(43)だ。

「カ子さんは職員の服を引っ張ったり、指でつんつんとしたりちょっかいを出してくる。何だろうと職員が振り向くと、彼女はとぼけて知らん顔。冗談で人とコミュニケーションをとるのが上手で、協調性もあるから施設でも友人が多いんです。最近は耳が遠くて聞こえる時と聞こえない時があり、長い会話を伴うコミュニケーションは難しい代わりに、挨拶や握手、手を振るという仕草を欠かしません。いつも笑顔で明るい性格なので、周りに自然と人が集まる人気者です」

 ひときわ暑いお盆の最中、本誌(「週刊新潮」)記者が福岡の施設を訪ねると、ニッコリ笑い手を合わせ、丁寧に会釈をするカ子さんの姿があった。

 で、さっそく彼女は隣に座る男性が自分と違う方向を向いているのを幸いに、わき腹をちょんとつつく。驚いた彼が顔を向けると、素知らぬ顔を決め込むのだ。続けてカ子さんが「何か食べたい」と言ったのを聞いたこの男性。仕返しとばかりに食べ物を渡す真似をしたところ、彼女はそれを受け取り口に運ぶフリをする。最後は、“何もないじゃない”と両手を開き、おどける仕草をして笑うのだった。

 ボケとツッコミの一人二役。「芸人・カ子さん」の一面を垣間見させてくれた。

 再び廣田氏が話すには、

「冗談ばかりでなく、カ子さんは周囲への気遣いが凄い。例えば、介護職員が入居者の世話で手一杯の時に『私はいいから、他の人の面倒を見に行きんしゃい』と声をかけてくれる。周囲の様子を本当によく観察していて気を配るので、職員もカ子さんの人間性を尊敬しているんですよ」

 齢116の彼女からすれば、80代、90代の超高齢者も息子や娘の世代にあたる。カ子さんは施設では“入居者の母”として慕われているんだとか。

(2)へつづく

「週刊新潮」2019年8月29日号 掲載

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