東大、東北大、早大…5年制「高等専門学校」はなぜ難関大学の編入に強いのか

東大、東北大、早大…5年制「高等専門学校」はなぜ難関大学の編入に強いのか

茨城高専(Abasaa/Wikimedia Commons)

 2020年度から始まる「大学入学共通テスト」での英語民間試験の活用が延期になった。先行き不透明な大学入試。もし、高校選びがこれからなら、いっそ5年制の高等専門学校(以下、高専)経由で大学を目指してみてはどうだろう。大学に入る際は編入扱いになるので、共通テストの受験は不要。それでいて、東大などの難関大にも行ける。

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 東大、東北大、九州大・・・。国立茨城高専(偏差値64、高校入試ドットネット、以下同)の2019年卒業生のうち、大学に編入した学生の進路の一部だ。

 茨城高専卒業生の編入実績だけが突出して輝かしいわけではない。国立群馬高専(同64)の同年卒業生も東大、東京工業大、東北大、早大などに編入した。

 高校受験に通じている人ならご存じのとおり、茨城高専と群馬高専の偏差値64は、地域トップの進学高の偏差値より、10前後低い。地域2番手の進学高の偏差値と同等か、それ以下だ。にもかかわらず、東大などの難関大に入れるのだから、高専はお得な進学先と言っていい。地域2番手の進学高からの東大合格は至難の業なのだから。

 とはいえ、高専がお得な存在であることが十分知られているとは言い難い。全国に57校しかないからだろう。約4900校もある高校とは比べものにならないほど少ない。「高専ロボコン(全国高等専門学校ロボットコンテスト)」の存在くらいしか知らない人が大半ではないか。

 57校の高専の内訳は、国立が51校、公立が3校、私立は3校で、大半が国公立だ。学生数は計約5万5000人。国公立の高専の偏差値は、概ね地域2番手の進学高と同じだ。

 そもそも高専とは何かというと、大学の学部卒程度の教育を5年間でやってしまうことを目的とする高等教育機関。大阪府立高専のホームページにも「5年間で大学の工学部と同程度の専門知識や技術を身につけることができる」とある。高度成長期の1962年に生まれた。

 なぜ、5年間で大卒並みのレベルに達することが可能かというと、受験のために高校で学んだことを、大学の一般教養課程でもう一度やるような時間のムダがないから。また、授業の密度も濃い。

 高専生は15歳の1年生から扱いは「学生」で、一般教育と並行して専門教育も受ける。教える側も「教師」ではなく、「教授」。卒業すると、「準学士」の称号が得られる。

 高専生は多くが電機、電子、建築、化学など工業系の学科で学ぶ。そもそも高専は、工業技術の高度化に対応する技術者の育成のために誕生したからだ。このため、編入先の大学の学部も理系がほとんどである。

 1967年には商船学科も生まれた。現在では文系の学科もある。例えば国立福島高専のビジネスコミュニケーション学科だ。グローバルなコミュニケーション能力を有する、ビジネス・スペシャリストの養成を目的としているという。

 福島高専ビジネスコミュニケーション学科の過去5年間の就職先は外務省、国税庁、NTTコミュニケーションズなどだが、こちらも大学への編入にも強い。同じく過去5年間に、北大、東北大、名古屋大、横浜国大、早大、上智大などに卒業生を送り込んだ。学部は経済学部など文系だ。


■なぜ就職に強い?


 就職にも大学編入にも強い。夢のような話だが、高専の実状はそうなのである。まず、就職になぜ強いかというと、大卒並みの知識や技術があるのに、卒業時点で20歳と若いから。いつの時代も企業側が能力のある若手を望んでいるのは説明するまでもない。

 茨城高専のホームページにはこうある。

「就職先の企業からは、毎年その実力が認められ、大学卒と同様の扱いを受けています。昨年の求人数は4645名、倍率は就職希望者の約66倍で、就職率はほぼ100%となっています。」(茨城高専HPより)

 茨城高専の2019年卒業生の就職先を見ると、名誉フェローの吉野彰氏(71)がノーベル化学賞を得た旭化成、出光興産、NTT東日本、キヤノン、東京ガス、東レなど著名企業がズラリ。

 進学先は前述の東大、東北大、九州大に1人ずつ編入したほか、以下の通りだ。

●筑波大2
●電気通信大2
●東京農工大4
●茨城大9
●新潟大4
●広島大2
●岡山大2
●長岡技術科学大16
●豊橋技術科学大学10
●金沢大、秋田大、福島大、群馬大各1・・・など。

 茨城高専の2019年卒業生は102人が就職し、97人が進学。そのうち、28人は併設されている2年制の専攻科に進んだ。これを終えると、大学に編入しなくても学士になれる。大学の学部卒業生と同じ扱いとなり、大学院に進学できる。実際、2019年の茨城高専専攻科卒業生は東大大学院や筑波大学院などに進んだ。

 一方、偏差値が茨城高専とほぼ同レベルの偏差値(65)でスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校でもある茨城県立緑岡高の場合、2019年卒業生には東大合格者も京大合格者もいない。

 ほかの大学の合格者はというと、北海道大2、筑波大8、千葉大4、横浜国大3、首都大学東京3、東京学芸大2・・・。圧倒的に多いのは地元・茨城大の59。難関大に入りたいのなら、茨城高専のほうが有利だろう。

 ほかの都道府県の状況もほぼ同じ。同レベルの偏差値なら、高校より高専のほうが難関大への近道と言える。

 群馬高専の2019年卒業生(進学者130人、就職者62人、そのほか3人)の主な編入先は以下の通り。

●東大1
●東工大4
●東北大3
●筑波大5
●東京農工大2
●群馬大9
●山梨大9
●信州大7
●新潟大4
●金沢大2
●長岡技術科学大20
●豊橋技術科学大4
●お茶の水女子大、首都大学東京、早大各1
●群馬高専専攻科38


■なぜ難関大に編入できる?


 どうして高専は難関大の編入に強いのか?

 まず、間口が広い。工学系の学科のある国立大は、すべてが高専生の編入を受け入れている。また、国立大の場合、編入生の大半を高専生から選ぶというところが少なくない。

 その編入試験は大学入試と性質が根本的に違う。試験の中身は各大学でバラバラだが、大半が筆記試験と面接(口頭試問も含む)を課す。ただし、編入なので、英語と専門課目以外は基本的には課されない。「理系なのに日本史も暗記しなくてはならない」という高校生とは違う。

 編入試験は複数の大学を受験できるのも特徴。大学ごとに試験日が違うからだ。例えば、東北大と筑波大などの併願も可能。もっと受けることも出来る。これも高校生にはない高専生独特のメリットだろう。また、各高専から大学への推薦編入という形もある。

 ここまで高専の良いところを挙げたが、高専ならではの過酷さもある。授業が厳しく、単位の取得が簡単ではないことだ。2015年の文部科学省の調査によると、全高専生のうち3・7%(2079人)が留年を経験した。高校生の留年率は約0・5%に過ぎないので、かなり高率だ。

 とはいえ、難関大に入りたいのなら、やはり高専はお得に違いない。このルートがベストと言うつもりはないが、高校に行かずとも難関大に進めることは知っておいたほうがいい。

 近年、難関大に入るのは、限られた進学高の生徒ばかり。それどころか、「このレベルの高校の生徒はこれくらいの大学に進む」というパターンがほぼ固まってしまった。これでは社会の多様化の妨げになりかねない。

 戦前は違った。学制が「複線型教育」で、旧制中学から旧制高校、大学へと進む者ばかりではなかった。5年制の旧制中学の4年修了時点で旧制高校に行く者もいたし、中卒後に2年制の予科を経て大学に進む者もいた。現在の教育大に近い高等師範学校や実業学校もあった。さまざまなルートで大学に行けたし、専門教育が受けられた。

 戦後は、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の意向による学制改革で、現在の「単線型教育」(6・3・3・4制)になった。戦前の複線型教育の欠点は、社会的地位によって進学する学校がある程度決まっていたことだとされる。「裕福な者でないと旧制中学、旧制高校に行けない」ということだ。

 だが、現在では新たな教育格差が指摘されているのは知られている通り。教育費を捻出できない家庭の子供は、進学高と難関大には入りにくくなっている。

 だからこそ、大半が国公立で、学費が安い高専に注目すべきだろう。安く住める寮を併設している高専も多い。茨城高専、群馬高専、福島高専にはいずれも寮がある。

 高専経由に限らず、大学進学ルートを複線化することが、教育格差を緩和し、社会の多様化につながるはずだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月16日 掲載

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