「彼女は美人局なのか?」 婚活パーティーで出会った金髪美女におびえた夜

 30代で1度結婚に失敗するも57歳で結婚願望が高まったフリー記者、石神賢介氏。婚活サイト、結婚相談所に登録し、同時に通ったのは婚活パーティー。そこにもタフな婚活男女が集まっていた。

(文中の紹介文、登場人物はプライバシー保護の観点から一部を変更してあります)


■婚活パーティーは少人数が主流へ?


〈クラブ・マリッジ(仮称)主催のパーティー会場は3階です〉

 青山の小さなホテルの入り口に案内が置かれていた。エントランスホール右手のエレベーターで3階へ上がる。廊下を進むと受付があり、男女それぞれの参加者が列を作っていた。

 土曜日の夜、久しぶりに参加する婚活パーティーである。40代後半から50代前半にかけては、パーティーに狂ったように参加していた。

 男性の列の最後尾に並ぶ。パーティー参加費は、男性が5千円、女性が2千円。男女の所得格差に応じた価格設定なのだろう。

 木製のカウンターの中には濃いえんじ色のパンツスーツの女性スタッフが立ち、手際よく男性参加者の受付作業を行っている。30代前半だろうか。ウエーヴのかかった髪に照明が当たって陰影を描き、毛量を豊富に見せている。この人がパーティーの参加者だったらいいのに、と思った。その傍らの女性参加者用の受付は細身で長身の男性スタッフだ。

 順番がきて会費を支払うと、安全ピンで胸につける番号札、プロフィールを記入する用紙、個人を特定できないように女性参加者の名前がカタカナで印刷された名簿、ボールペンを手渡された。番号は9番だった。

「テーブルに9と表示された席にお座りになって、プロフィール用紙にお名前やご趣味などをご記入ください。パーティーで女性と交換して会話していただきます。お話のきっかけになる紙なので、できるだけ詳しくお願いいたします」

 名簿にある女性の数は10人。男性参加者も同数だとすると合わせて20人だ。

 10年ほど前は男女各20人で40人規模のパーティが主流だった。20人対20人で対面に座り、男性が時計まわりにスライドして全員と会話をする。まるで回転寿司店だった。女性参加者は客で、その前を男性参加者が寿司ネタのように回ってくる。

 その後のフリータイムで気に入った相手と再度会話。おたがいが気に入れば電話番号やメールアドレスを交換するシステムだ。パーティー会場は密集し、隣の男のトークで、目の前の女性の声が聴き取れないほどだった。

 しかし、今は10人対10人くらいの、以前と比べるとハーフサイズのパーティーが主流になりつつある。人数が少ない分、一人との会話時間が長い。そしてスペースに余裕があり、隣との間隔が開くので、周囲を気にせずに会話ができる。男女1組ずつに個室を用意したり、パーティションで仕切ったりと工夫するパーティーもある。このタイプのパーティーはフリータイムがない。婚活パーティーというものの、いわゆるパーティー形式ではない。

 会場に入ると、すでに半数以上の男女が着席していた。低音量でバラードナンバー、「カリフォルニア・キング・ベッド」が流れている。キングサイズのベッドで愛し合う男女を女性シンガー、リアーナが歌っている。ボーカルに寄り添うようなギターが心地よく響く。

 テーブルが10台、ぐるりと壁に向かうように間隔を開けて置かれている。それぞれに男女が並んで座るセッティングだ。そこにいる誰もが無言でボールペンを動かし、プロフィール用紙に記入をしていた。

 ざっと見まわしたところ、女性参加者は皆服装に気をつかっている。結婚相談所のプロフィール写真のように、ワンピース派とスーツ派がいる。白が多い。

 男性参加者は女性と比べると服装には無頓着だ。綿のパンツか、ダボッとしたデニムが目立つ。ジャケットを着ているのは少数派で、シャツかセーターが多い。コートやダウンジャケットをはおって来たのだろう。

 9と表示されたテーブルに座ると、横にはすでに女性が着席していた。大きな瞳、長いまつ毛、整った鼻筋。ショートヘアで、黄色のジャケットの下の白いTシャツから、はちきれそうにバストが主張している。大きいというよりも、巨大だ。かるく会釈をすると、相手もにっこりと会釈をかえしてくれた。すでにプロフィールを記入し終えている様子だ。

 僕もプロフィール用紙を記入する。名前、年齢、出身都道府県、居住都道府県、星座、身長、体重、職業、学歴、婚歴、家族構成、喫煙の有無、飲酒の量、年収、趣味、自分の長所、好みの女性のタイプ……。結婚相談所に提出した資料とほぼ同じ項目だった。ただし、独身証明証や年収を証明する書類の提出までは求められない。

 年収欄を記入しようとしてふと手が止まった。せこい考えがうかんだ。200万円上乗せして書いてしまおうか……。200万円足せば1千万円を超える。女性へのインパクトは強くなるだろう。僕の年収は僕しか知らない。しかし、かろうじて思いとどまった。良心がとがめたのではない。ここにいる女性の誰かと縁があったら……。後で事実を打ち明ける自信がなかった。

 音楽がフェイドアウトした。

「こんにちは。本日は、ご多忙の中、当社、クラブ・マリッジのパーティーにご参加いただき、まことにありがとうございます。私、司会を務めさせていただくニカイドウミカゲと申します。最後までよろしくお願い申し上げます」

 受付にいたえんじの女性がマイクを手に挨拶をした。司会も担当するらしい。これまでに何百回も同じことをくり返しているのだろう。パーティーの流れや注意事項の説明がよどみない。

 彼女のMCによると、パーティーはトータルで約1時間15分だ。自筆のプロフィールを男女で交換して会話を行う。5分経過すると、男性が隣のテーブルへ移動し、そこで待つ女性と会話をする。パートナーを替えながら10回動くと、男性は全女性と、女性は全男性と会話できる。

 その後、気に入った相手の番号を指定の用紙に記入して提出。スタッフの集計によって相思相愛の関係になると、退出時にそれぞれに伝えられ、後は自由恋愛だ。連絡先を交換しても、帰りに食事に行ってもいい。


■胸バーン! 腰キューン! とデート


「今日はもう帰れないなあ」

 サナエさん(仮名)が上目遣いに見つめてくる。青山の婚活パーティーに参加した翌週の土曜、表参道駅近くの京おばんざいの店のカウンターで、二人で食事をしていた。サナエさんとはパーティで出会った。10人の女性参加者のなかで最初に話したショートヘアの女性だ。

 パーティーで彼女は積極的だった。理由はわからない。初対面なのにボディタッチが多く、僕はドキドキした。彼女は33歳。20歳以上若い女性に接近されてただただうれしかった。40歳のマリナさんに「クソ老人」とののしられたことは明らかにトラウマになっていて、33歳のサナエさんからのアプローチは救いだった。スタイルにも目がくらんだ。

 パーティーの後、会場近くのカフェレストランで、二人で食事をした。彼女はエステティシャンだという。パーティーでは千葉に住んでいると話していたが、実際は宮城県在住だと打ち明けられた。仙台といっているが、仙台駅からは在来線で1時間近くかかり、さらにバスにも乗るらしい。千葉在住と言ったのは、近いうちに千葉で暮らしたいという願望だった。なぜ、東京でも神奈川でもなく千葉なのか……。訊ねると、友だちが暮らしていて安心だからだという。1カ月に1度はそこに遊びに来ているらしい。この日も友だちの家に泊まるそうだ。相手は迷惑しているのではないかと思ったけれど、もちろん言わないでおいた。なんだか家出娘と会話をしているようだ。

 至近距離で見る彼女は、やはり目はパッチリ、まつ毛は長く、鼻筋はすっきり、口もくっきり、ショートヘアは金色に輝き、胸はバーン! 腰はキューン!とくびれ、尻もバーン!

 アメリカの水着ショップの店先に立つマネキン人形がこんなだった。素晴らしすぎて、不自然さを感じてしまう。

 おおらかな人なのだろう。30分もすると、何度も美容整形をしていることを打ち明けられた。

「目はもう少し整えたいんだよねえ」

 そう言って微笑んだ。

 翌日からサナエさんは毎日電話をくれた。いつも深夜1時くらいだ。そろそろ眠ろうという時間にスマホが振動する。でるか、眠るか……。迷いながらも、結局いつも対応する。電話にでると、彼女はその日にあったことを一方的に話す。家族は祖母と妹。変則だ。理由はあえて聞かなかった。

 3夜目だったか、4夜目だったか、サナエさんは自分の写真を送信してきた。かなりきわどい。ホテルのベッドに横たわっている姿が真横から撮影されている。よく名前を聞く全国チェーンのホテルの浴衣の胸がはだけ、谷間はくっきり。でも、肝心なエリアはかろうじて隠されている。自撮りだというが、そうは思えないアングルだ。カメラと本人の距離が離れている。そんな写真を見せられて喜んでいる自分がなんとも残念だ。

■美人局かもしれない?


 次の土曜日、いつもよりはるかに早い、夜8時に電話がかかってきた。

「今、渋谷にいるんだ。ご飯食べようよ」

 にぎやかな場所で、大声で話している。ちょっと迷ったけれど、結局渋谷駅近くのカジュアルなレストランで待ち合わせた。

 サナエさんはよりいっそう派手になっていた。オレンジの花が華やかに咲いているワンピースは、夏でもないのにスタイルを強調するノースリーブ。丈は膝よりはるかに上で、下着が見えそうだ。

 会話は盛り上がり、アルコールで血色のよくなった彼女が、今日は帰れないと言い出した。宮城の自宅に帰れないことはわかっていた。千葉の友だちは不在なのだという。

「お泊りしようよ!」

 腕を組み、胸を押し付け、明るく誘ってきた。

 僕の理性はかんたんに破綻した。その場で徒歩圏のホテルを当たる。週末、しかも、夜の11時過ぎ。どのホテルも満室だ。そんななか、井の頭線渋谷駅上のホテルに1室、ダブルルームが残っていた。

 サナエさんに腕をからめられ、わくわくしながらホテルへ向かう。

 しかし、その途中でふと思った。

 まさか美人局ではないよな……。

 一度不安が生まれると、どんどん膨らんでいく。彼女の容姿は“素人”とは思えない。

 チェックインの手続きの後、そのフロアにあるトイレへ行き、知り合いの編集者に連絡をした。そして現状を正直に話し、率直に聞いた。

「美人局だと思いますか?」

 相手はつかの間沈黙して、言った。

「その危険はありますね……」

 低いトーンだ。

「どうしましょう?」

「念のために1時間後に僕が電話しますよ。危険な状況だったら、言ってください。すぐにフロントに通報します」

 ありがたい提案だ。

「感謝します!」

 トイレでスマホを握ったまま頭を下げた。

 しかし、サナエさんは美人局ではなかった。部屋に入りすぐに全裸になった彼女は、ベッドに横になるとすぐに寝息をたて始めたのだ。寝息はやがて、いびきになり、ときどき歯ぎしりも重なった。

 そのすさまじさに僕はまったく眠れず、天井を眺めたまま朝を迎えた。編集者からの電話には「ご心配をおかけしました」と謝った。

 仰向けのサナエさんの巨大な胸は引力に逆らって真上を向き、いびきに合わせて上下している。

 全身を自分の好みにつくり変えるのにいくらかかったのだろう。

 好奇心を抑えられず、人差し指で彼女の胸を突いてみる。

 強い反発力で僕の指は押し返された。

 翌朝は晴天……。

 初めて昼間の光の中で見るサナエさんの姿は、かなりパンチがあった。形状のはっきりした顔も、巨大な胸も、派手なワンピースも、太陽に当たると、夜よりもはるかに目立つ。

 正午にチェックアウトし、ランチをとるために街に出ると、サナエさんはやはり腕をからめてきた。すれ違う人の目がどうしても気になる。僕とはバランスが悪すぎる。

 どうか知り合いに会いませんように。

 ただただ願った。(続く)

石神賢介(イシガミ・ケンスケ)
1962(昭和37)年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターになる。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。30代のときに一度結婚したが離婚。

2020年8月15日 掲載

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