「歯周病」でコロナのリスクが増大 「すい臓がん」「認知症」「心筋梗塞」にも影響

「歯周病」でコロナのリスク増大も “虫歯のようなもの”などと軽んじて放置は禁物

記事まとめ

  • 現在、中高年が歯を失う原因は、虫歯と歯周病とがほぼ半々の割合だとされている
  • 新型コロナウイルスにおける細菌性肺炎の原因菌として、歯周病菌など発見の報告も
  • 歯周病は単なる口腔内の病気ではなく、血管の老化を促進し虚血性疾患を引き起こすとも

「歯周病」でコロナのリスクが増大 「すい臓がん」「認知症」「心筋梗塞」にも影響

「歯周病」でコロナのリスクが増大 「すい臓がん」「認知症」「心筋梗塞」にも影響

放置すれば大ごとに(写真はイメージ)

虫歯のようなもの”などと軽んじて放置していると、恐ろしい牙を剥いて襲い掛かってくるのが歯周病である。鶴見大学歯学部の花田信弘教授(探索歯学講座)が言う。

「歯と歯茎の間にある歯肉溝に歯垢が溜まり、細菌感染が起こると歯周ポケットができます。これが歯周病で、初期段階の『歯肉炎』から『歯周炎(歯槽膿漏)』へと進行するのです。現在、中高年が歯を失う原因では虫歯と歯周病とがほぼ半々の割合となっています」

 先ごろ英国では、新型コロナウイルス感染症における細菌性肺炎の原因菌として、歯周病菌を含む多くの口腔常在菌が見つかったとの研究報告がなされた。なおのこと油断は禁物であり、花田教授は続けて、

「歯周病は、単なる口腔内の病気ではありません。歯周病菌は三つのルートで全身に拡散し、健康に影響を及ぼしていきます。最も一般的なのは血管を通るルート。歯周ポケットに溜まる細菌の数は、歯周病菌を含め1グラムあたり1千億個にもなり、血管に侵入すると、これらの『歯原性細菌』は血管の老化を促進し、壁に付着して血管を腫れ上がらせ、虚血性疾患を引き起こします。さらには毛細血管を通って循環器まで到達し、わずか90秒で全身の器官へと回ってしまうのです」

 歯周組織から出た細菌が最初に到達するのは心臓で、次が肺。そしてまた心臓に戻るルートをたどるのだが、

「それによって大動脈から全身の臓器に細菌がばらまかれます。腸管に生息する細菌も血管を通りますが、肝臓において分解されてしまうので、そこから先へはまず到達しません。ですが歯周病菌の場合、心臓を起点に脳を含む重要臓器すべてに達してしまいます」

 その結果、認知症やうつ病などの精神疾患にも関係してくるという。

「血管全体の老化を招くため、動脈硬化とも大いに関わってきます。歯周病の人は健康な人に比べ、心筋梗塞を患うリスクが2倍に跳ね上がるという研究結果もあるのです。また脳卒中(脳梗塞や脳出血・くも膜下出血など)も、各国の研究から約2倍のリスクがあることが分かっています」

 がんの場合、歯周病患者だとリスクは約1・3倍となり、とりわけすい臓がんは、一昨年に報告されたフィンランドの研究で2・3倍にまで高まることが判明しているという。のみならず腎臓や関節、子宮にも影響を及ぼす。それぞれ糖尿病性腎症や関節リウマチ、低出生体重児が産まれる可能性も高まるというのだ。

「全身に拡散する二つ目のルートは、唾液で直接、歯周病菌を飲み込んでしまう形で、大腸に達します。先に述べた血管のルートでも大腸に届きますから、腸を内外の両方から攻められるような状態です。これが進行すると、大腸がんを引き起こすリスクが高まります」

 安倍前首相が退陣に追い込まれたことで先ごろクローズアップされた「潰瘍性大腸炎」についても、

「この潰瘍性大腸炎とは、多因性疾患。遺伝的ファクターや食習慣もあり、一つの原因では論じられませんが、歯周病がリスク因子となっている可能性も大いに考えられます」

 そして三つ目のルートは、

「唾液と一緒に肺に吸い込む、いわゆる『誤嚥』です。口腔内の細菌が塊となって『バイオフィルム』という多糖体が形成され、これが気道に入り込んでしまうと、肺炎につながる恐れがあります。バイオフィルムには約700種の細菌がいるとされ、睡眠中は唾液の分泌が止まり、浄化作用が働かないので一晩で千倍ほどに増殖してしまう。睡眠中にも、気道から唾液を誤嚥してしまう『不顕性誤嚥』が起こっており、特に高齢者は就寝前に歯や舌を磨かなければ、危険が高まります」

 以上の3ルートで歯周病菌が全身に影響することは、すでに世界の研究者らによって解明されているのだが、

「実際に採血して調べると、体内には歯周病菌よりも一般細菌の方が多い。つまり、いったん歯周病に罹って歯周組織に穴が開いてしまうと、あとは無数の菌が全身に流れ込んでいくわけです。『異所性感染』と言い、口腔内では病原性がなく大人しい細菌でも、他の臓器に届くと環境に適応できず、病原性を発揮して暴れ回ってしまうことがあるのです」

 すべては歯周病に始まるというわけだ。


■厄介な「LPS」とは?


 終息の兆しが見えないコロナ禍にあって、歯周病菌が新型コロナウイルス感染症に直接的な影響を及ぼすというエビデンスは、現在のところ見つかっていない。それでも、コロナの発症や重症化に大きく関わっている可能性は高いという。というのも、

「歯周病菌の外膜には『LPS』という物質があるからです。これは歯周病菌など『グラム陰性菌』という細菌の細胞壁を構成する成分で、積極的には毒素を分泌しない『内毒素(エンドトキシン)』とも呼ばれます」

 このLPSは、

「免疫細胞がウイルスと戦うために出す物質である『サイトカイン』を非常に多く分泌することが分かっています。サイトカインには炎症性のシグナルを出すものと、その炎症を止めるシグナルを出すものの両方ありますが、LPSのせいで炎症性のサイトカインが大量に放出されてしまう。新型コロナウイルスで肺が重い炎症を起こし、サイトカインの放出が制御できなくなると『サイトカインストーム』という免疫システムの暴走が生じ、自らの細胞も傷つけてしまう。これが時に重症化し、多臓器不全を引き起こすわけです」

 新型コロナの治療においては現在、このLPSを血液からいかに除去するかが重視されており、すなわち歯周病も無関係ではないわけだ。さらに、

「歯周病が進行すると、歯がぐらぐらと動く状態になり、その動きがポンプのような役割を果たすことで、歯周病菌を毛細血管から全身へと押し込み、大量のLPSが血液中に入り込んできます。実際に、歯周病患者にガムを噛ませて採血すると、症状が重い人ほど多くのLPSが血液中に流れているのが分かります」

 歯を磨かないと、血液中にLPSが流入するという研究結果もある。米国で平均25歳の若者50人に3週間歯磨きを止めさせ、上腕静脈から採血したところ、

「56%の人でLPSが検出され、その後、歯のクリーニングをして歯磨きを2週間続けると、元の状態に戻りました。またドイツでも、24歳の被験者37人から同様の結果が得られています。エンドトキシンは基本的に検出限界以下の数値なので、若者の静脈から検出されること自体、通常ではあり得ないことなのです」

 まさしく口腔ケアの重要性を裏付ける結果である。

「腸管内の細胞にもLPSは存在しますが、歯周病菌は腸管から細菌が洩れやすい状況を作ることも判明しています。そのため、歯周病菌をコントロールすることで腸管と口腔から血中へのLPSの流入をともに抑えられるのではないかと考えられます。現在、歯周病を予防することで腸管内のLPSを抑え、潰瘍性大腸炎を患った方の再発を止められる可能性について、研究を進めているところです」


■インフルエンザの手助けも


 それにしても、なぜ歯周病菌は、かように体の隅々にまで悪影響を及ぼすのだろうか。花田教授は、

「歯周病菌は『アウターメンブランベシクル(OMV)』という、ごく微小で体内のバリアをことごとく突破してしまう物質を放出しています。このOMVには、先に述べたLPSがたくさん詰まっています。腸内細菌と腸管の細胞は通常、共存するために接触しない仕組みで、高分子の細菌はブロックされるのですが、歯周病菌はごく小さなOMVを盛んに出していて、このブロックを破り、腸管の細胞に接触してしまう。最近の研究では、そこに含まれる毒素のLPSが潰瘍性大腸炎の悪化する原因ではないかと見られています」

 この微小体はまた「ジンジパイン」という毒性のたんぱく質分解酵素も持っており、それが認知症にも大きな影響を及ぼすという。

「アルツハイマーは、たんぱく質の老廃物である『アミロイドβ』が脳に蓄積し、また『タウたんぱく』が変性するのが特徴です。脳内には血液脳関門があって、細菌の侵入をブロックしていますが、その関門すらも、OMVを構成するLPSは突破すると考えられます」

 LPSが脳内に入ると、

「脳神経細胞からアミロイドβが放出されることはすでに証明されています。また歯周病菌のジンジパインと結合することで、アミロイドβとタウたんぱくの変性を起こす可能性が高いことが昨年の論文で明らかになりました。つまり、アルツハイマー型認知症の二つの特徴は、いずれも歯周病菌で説明できるというわけです」

 これら歯周病菌を含む口腔細菌は、あまつさえインフルエンザも引き起こしかねないというのだ。

「インフルエンザウイルスは『ヘマグルチニン』『ノイラミニダーゼ』という二つのたんぱく質を持っています。私たちの細胞にインフルエンザが侵入するには、このヘマグルチニンをたんぱく質分解酵素で開裂(かいれつ)させなければなりません。そしてウイルスが次の細胞に乗り移る時にノイラミニダーゼが必要になる。ところが歯周病菌を含む口腔・咽頭の細菌は、このプロセスに必要なたんぱく質分解酵素(ジンジパイン)とノイラミニダーゼの両方を備えているのです」

 つまりはインフルエンザウイルスの増殖を手助けしているというのだ。加えて、

「タミフルやリレンザなどの抗ウイルス薬は、このウイルスが持つノイラミニダーゼの活性を抑えますが、歯周病菌を含む口腔細菌のノイラミニダーゼは抑えられません。服用する患者さんが歯周病だと、せっかく活性が止まっても、また元に戻ってしまうのです」

 今年の冬はインフルエンザと新型コロナウイルスの混合感染が懸念されており、

「歯周病菌がインフルエンザ感染を加速させることにつながり、非常に危険な状況だと思います」

 そう警鐘を鳴らすのだ。


■最新口腔ケアの「3DS」


 口腔から派生する恐ろしい“合併症”の数々。我々が日常で心がけるべきは、

「歯周病を加速させるのは、酸化反応で引き起こされる生体に有害な『酸化ストレス』です。LPSによって活性酸素が多く排出されるわけですが、それを阻止するのは食物です。抗酸化作用のあるビタミンA、C、Eがいいでしょう。また骨を作るため、キノコや魚介類などのビタミンDも欠かせません。これは新型コロナウイルス感染によるサイトカインストームを起こす酸化ストレスにも当てはまるので、歯周病の予防によって、今年の冬の『発症』『重症化』『死亡』というサイクルを相当抑えられるのではないでしょうか」

 また、生体内の活性酸素を抑える酵素もあるという。

「スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)と言います。これは活性酸素に刺激されて細胞から放出されるのですが、このSODを多く出すNrf2というペプチド(アミノ酸が繋がってできた化合物)があります。このNrf2を活性化させる食物は青じそやクルミ、ブロッコリーなどです。また、緑茶に含まれるカテキンなどポリフェノールも植物系の抗酸化物質で、摂取すると効果的です」

 が、そもそも食べる以前に歯自体のケアは不可欠である。花田教授いわく、

「それには『3DS(デンタル・ドラッグ・デリバリーシステム)』と呼ばれる方法が有効です。歯型を採り、そこに石膏を流し込んだ模型と樹脂を使い、マウスピース状のトレーを作ります。その内側に抗菌剤やフッ化物ジェルを塗り、5〜10分間、歯にはめると、歯周病菌が死んでいきます。一度型を作れば、あとは自宅で毎日歯磨きの後に5〜10分間はめるだけで構いません」

 全国には現在、3DSを受けられる歯科医院は300ほどあり、歯型作りを合わせた費用はおよそ10万円だという。もちろん、日々の歯磨きも欠かせない。

「少なくとも1日2回はすべきです。歯ブラシも虫歯用と歯周病用とで使い分けるといいでしょう。虫歯予防にはバイオフィルムを除去するために毛が短くてコシがあるタイプを、ゴルフクラブを手のひらで握るような『パームグリップ』で持つ。そして歯周病用には、歯周ポケットに届くような毛が長くて柔らかいもので、ペンを持つ感じでソフトに磨くといいでしょう」

 あわせて舌磨きも重要で、

「歯面の菌だけでなく、舌の菌も問題です。口内の死んだ細胞は舌の中央部に集まって菌が繁殖し、それを嚥下するからです。舌磨きは中央部をかき出す感じで、化学物質を使わずに専用の『舌ブラシ』で残渣(ざんさ)を除去するのが一番です」

 引き籠もりがちの生活にあっては、規則正しい暮らしを心掛けることから始めるしかない。花田教授も、こう指摘する。

「たばこを吸ってもがんにならない人はいます。だから“リスク因子”という言い方をするのですが、歯周病菌も多くの病気のリスク因子になります。重要なのは、その中に除去できる因子があるということ。遺伝子や加齢などは取り除けませんが、歯周病は予防できるので、この疫病禍ではなおさら取り除くべきです」

 口腔の健康があってこそ、コロナにも立ち向かえるというのだ。

「週刊新潮」2020年10月15日号 掲載

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