画面に罵声も! 「オンライン婚活」は意外と面倒くさい

 2019年、57歳で婚活を本格化させたフリー記者の石神賢介氏。それからの苦闘奮闘健闘ぶりはここまでの連載でご紹介してきた通りであるが、年が明けて事態は急変する。言うまでもない。新型コロナだ。

 世界中の人の日常を一変させたのだから、当然、日本国内の婚活中のおじさんの日常も大きく変わる。コロナ以降、一気に広まったリモートによるコミュニケーションは婚活にどのような影響を与えたか。そして57歳から58歳になったことはどう影響するのか。

(文中の紹介文、登場人物はプライバシー保護の観点から一部を変更してあります)


■1歳違いでも大違い


 僕が57歳で婚活を本格的に再開したのは2019年のことだった。

 2020年を迎えると、婚活に逆風が吹き始めた。

 まず、個人的なことだが、58歳になった。還暦にまた一歩近づいたのだ。

 自分では、57歳も58歳も変わらないと思っていた。しかし、甘かった。婚活パーティーでの女性のリアクションが明らかに変わったのだ。交際相手候補として選ばれなくなった。パーティーでおたがいが好感をもつと、いわゆる“カップル成立”となり、連絡先を教え合う。多くの場合、帰りにお茶を飲む、あるいは食事をする。その頻度が明らかに少なくなった。

 57歳の終盤と、58歳になったばかりの自分の中身がそれほど違うはずはない。しかし、女性からの評価はガクンと落ちる。婚活市場価値が下がる。あせりを感じた。

 そんななか、新型コロナウイルスが感染拡大し始めた。最初はそれほど気にしていなかった。2月の時点では感染者は少なかったし、都心部にも観光地にも外国人旅行者がうようよいたからだ。

 それでも、婚活パーティー会場では変化があった。参加者がマスクを着用し始めた。婚活パーティーはまさしく“濃厚接触”だ。男女がかなりの至近距離で、しかもテンションは高めで会話を交わす。飛沫飛ばし合戦といっていいだろう。まだこの時期は男女を仕切るアクリル板の設置はなかった。目には見えないが、飛沫は飛んでいたはずだ。

 そして、マスクは顔の下半分をほぼ覆う。女性が10人いたら、顔の下半分はほぼ同じなので、違いがわかりづらい。おたがいに顔を憶えづらい。想像力の勝負だ。

「こんにちは。顔をお見せできずすみません」

 マスクを通したくぐもった声で挨拶をして、会話をスタートさせる。

 婚活パーティーでは通常、会話をした相手をほかの人と間違えないようにメモを勧められる。「ロングヘア」「ピンクのワンピース」「目黒区在住」「薬剤師さん」……など、気になった女性を忘れないために記録する。しかし、コロナ禍になってからは「黒いマスクの女性」「花柄マスクの看護師さん」などと、マスクで区別した。

 そんな現代版仮面舞踏会のような状況では、パーティー全体のテンションは上がらない。徐々に参加者が減っていった。男性であれば、1時間強の婚活パーティーで5千円前後の会費を払う。話す相手がマスクではコストパフォーマンスはよくない。

 そして3月に入ると、新型コロナウイルスの感染はさらに拡大。婚活パーティーは開催されなくなった。


■オンライン婚活では背景にこだわってみた


 通常の婚活パーティーが行われなくなり、その代わりにスタートしたのはパソコンやスマホを使って行うオンラインパーティーだ。

 4月に日本全国に緊急事態宣言が発令され、いわゆる“ステイ・ホーム”で在宅勤務が増え、各婚活パーティー会社はオンラインコミュニケーションアプリ、Zoomを使ってのパーティーを始めた。

 参加者は開始時間になると、パーティー会社指定のアドレスにネットをつなぐ。男性は全女性参加者と、女性は全男性参加者と一対一で会話を交わす。気になった相手にはチャットでLINE IDや電話番号を伝える。あとは直接コミュニケーションをとるというルールだ。参加費は約3千円。通常のパーティーの6割くらいの価格だ。

 この時期、コロナ禍の影響で記者としての仕事が減った。イベントの中止や延期が次々と決まり、取材がなくなったのだ。たまにある取材は電話やZoomだ。だから、オンライン婚活のZoomでの会話に抵抗はなかった。

 取材がなくなり、外出もしない。ほとんどの時間は自宅で執筆をする。忙しくてずっと手を付けられなかった長い原稿を書いた。孤独な作業だ。一日じっと書いていると、人恋しくなる。夜にオンライン婚活に参加すると寂しさをまぎらわすこともできた。

 オンライン婚活で心がけたのは“背景”だ。パソコンの画面に向かって会話をする自分の後ろに見える部屋が散らかっていると、相手に与える印象が悪い。だからといってすぐには片づけられない。Zoomでは、仮の部屋や海辺や夜景などバーチャル画面を利用することもできる。しかし、不自然だ。

 そこで、オンライン婚活のときだけ、パソコンを仕事部屋から資料部屋へ移動させた。本がぎっしりつまった書棚が背景ならば知的に見えるのでは――というあざとい発想だ。資料部屋にはドリンクとメモ用の筆記具も用意した。自宅ではいつもTシャツ姿で仕事をしているが、襟付きのシャツに着替えて、ジャケットも羽織った。


■パソコン画面に罵声を浴びせる女性参加者


 オンライン婚活は会場に出かけていかなくてもいいので、1時間の婚活ならば、準備時間を加えても1時間半も要さない。

 マイナス面は、自宅なので、女性参加者と意気投合しても、「帰りに食事でもご一緒しましょう」という流れにならないことだ。日をあらためて、テンションの下がらないうちに会う約束をしなくてはいけない。

 また、徐々に改善されていったものの、初期はシステム上のトラブルが頻発した。参加者も主催者側もシステムに不慣れなので、ネット事故が頻繁に起きる。

 開始時間になっても始まらなかったり、画面や音声が突然途切れたり、参加者がセッティングにとまどったり。自分の姿が参加者全員のパソコン画面に映っていることに気づかず、「もう嫌だ!」とブチ切れて、パソコンに罵声を浴びせる女性参加者の鬼の形相が延々映し出されていたこともあった。主催者側のスタッフのスキルが低く、システムも脆弱で、土壇場で中止になったこともある。このときは、男性参加者の一人が感情的に抗議していた。その日の仕事を調整してようやく参加にこぎつけたのだろう。

 さらに、オンライン婚活には難しい点がある。一瞬で画面が切り替わるので、前に話した相手の記憶が残りづらい。名前と印象と会話内容が脳の中でつながらなくなってしまう。スタッフの指示に従い好印象の女性の名前と番号はメモしているのに、ひと通り会話が終わると、記憶があいまいになっている。対面で行う婚活パーティーではあまりない現象だった。

 後日食事の約束をしても、相手をよく覚えていなかったこともある。

「僕で間違いではありませんか?」

「人違いではありませんか?」

 そんな挨拶から食事が始まる。

 実際に、後日、まったく記憶のない女性と食事をしたこともあった。どうやら相手も記憶にない様子で、このときはおたがい大変気を遣った。

 どちらも、相手が自分を覚えていないことにも気づいていた。それでも大人同士なので、仕事の内容や、休日の過ごし方や、コロナ禍での生活など、さしさわりない会話を2時間ほど続けた。オンライン婚活は、ある程度参加回数を重ねないと、成果をあげるのは難しいと感じた。

■会えない相手とアプリで延々会話


 新型コロナウイルスは婚活アプリの活動にも大きな障害になった。

 婚活アプリを通じては、常に5人くらいの女性とのやり取りを心がけている

 そんな状況で新型コロナウイルスの感染は拡大し、4月から6月はステイ・ホームで、不要不急の外出はできなくなった。婚活での食事などもってのほかだ。そもそもレストランやカフェの多くはクローズしている。

 すると、アプリ内だけで女性と延々と会話し続けなくてはならない。これはかなりハードルが高い。なにしろ、会ったことのない相手だ。どんな女性なのかは、写真とプロフィールから想像するしかない。毎日会話をするにはテーマに限界がある。

「コロナが落ち着いたら、会いましょう!」

 最初はそんな話をする。しかし、いつになってもコロナは収束しない。やがて、一人、二人と、疎遠になっていった。

 マッチングして会話をしたなかには旅行代理店勤務の女性もいた。彼女は仕事が激減し、社内ではリストラも始まった。どうしたって明るい会話にはならない。

「婚活よりも転職活動を優先させます」

 そう言って彼女は退会した。明日のパンの心配をしなくてはならない状況で、婚活どころではない。

 その一方で、コロナ禍で婚活に積極的になった女性もいる。


■コロナで高まる結婚願望


 婚活アプリのプロフィールで、ちょっと遠めから撮影された雰囲気のいい写真に魅かれてその女性に申し込むと、即OKの返事が来た。うれしくなってさっそくお礼と自己紹介文を送ると、また即返事が来た。

「お久しぶりです! ステイ・ホーム中もお元気にしていますか?」

 えっ! 知り合いらしい。狼狽した。

 仕事関係だろうか? 婚活アプリの彼女の写真を再確認する。しかし、心当たりはない。プロフィールの名前は本名ではなくニックネームだ。欧文で「YUKI」とある。思い当たらない。

「あのおー、失礼ながら、知り合いでしたっけ?」

 メッセージを送る。

「写真でわかりませんか?」

「すみません。わかりません……。引きで撮られたカットなので」

「じゃあ、LINEでメッセージを送りますね」

「僕とLINEでつながっているんですか!?」

「はい!」

「えー!」

 彼女はよく訪れる青山のカフェレストランのスタッフの由希子さん(仮名)だった。すでに10年以上通っている店だ。背がすらりと高く、いつも笑顔の人懐こい女性だ。37歳という年齢をアプリのプロフィールで知った。

 このやり取りをきっかけに、数日後、彼女とランチをともにした。

 由希子さんが婚活を始めた理由はコロナ禍だという。店が2カ月間クローズ。時給契約だった彼女は、収入が途絶えた。

「お金はどんどんなくなっていって……。ステイ・ホームだから、誰にも会わずに一人で部屋にこもっていますでしょ。ベッドに仰向けになって天井を見ていると不安に襲われて、それで婚活アプリに登録したんですよ。このままでは飢え死にする。誰かと一緒に生きていきたい。結婚したい。真剣に思いました」

 アプリで、彼女はすでに何人かの男性と会っていた。しかし、まだいい出会いはないという。6月になり、ステイ・ホームが明け、勤めている店も営業を再開。すると、自粛生活にがまんしていた客が一気に押し寄せ連日満席。店から請われ、由希子さんは社員になった。収入が安定して生活の不安は払拭されたが、人の密度の高い職場環境で、コロナの感染に怯えながら働いている。

 彼女との食事は一度きり。新型コロナウイルスの第1波の後は以前のように、彼女が働くお店で会話を交わしているだけだ。ときどき、おたがいの婚活状況を確認し合う。僕も彼女も進展はなく、「難しいですねえー」とうなずき合う。

 新型コロナウイルスによって、男女の関係を発展させるためのハードルが増えた。会う約束をしても、待ち合わせ場所にはマスクをして行く。そこでまずテンションが上がらない。食事のときも、お店の気遣いで、テーブルに斜めの位置に座ったり、アクリル板越しだったり。

 何度か会っていよいよ男女の関係を深めるには、相手が感染していないと信じるしかない。この人からならば感染してもいい――とおたがいに思えなくては関係が成立しない。コロナ禍のステイ・ホームで、夫婦関係、恋人関係の二極化が進んでいると聞く。仲がいいペアは一緒にいる時間が増えてさらに関係が深まり、出産が増えるといわれている。その一方で、一緒にいる時間が長くなることで衝突が増えるペアも多いらしい。

 飲食店の閉店時間が早く、都道府県の境をまたいでの移動がためらわれ、デートも満足にできない。婚活の場で出会った男女が親密になるのは難しくなったように感じる。

石神賢介(イシガミ・ケンスケ)
1962(昭和37)年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターになる。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。30代のときに一度結婚したが離婚。

2021年2月20日 掲載

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