脳性まひのバイオリニスト・式町水晶、コミックス化で明らかになった恋バナ

脳性まひのバイオリニスト・式町水晶 撮影/廣瀬靖士

 3歳で脳性まひと診断され、リハビリのために4歳でバイオリンと出会った式町水晶。障がいに負けずにメジャーデビューを果たし、この秋、セカンドアルバムも発売。さらに自らがモデルとなった漫画がコミックスにも。ホールデビューから見守り続けてきた斉藤倫先生、母・啓子さんと3人で語る漫画デビューの面白裏話は──。

「■水晶くんのことを漫画に描ける人は、私しかいないだろう、という気持ちで(笑)。長い間、ずっと温めてきたものが、やっと形になりました」

 そう思い入れたっぷりに語るのは現在、月刊誌「BE・LOVE」(講談社)で『水晶の響』を連載中の斉藤倫先生。

■漫画家・斉藤倫の出会い

「たまたま知り合いに誘われて当時、高校2年生だった水晶くんのコンサートを見たんです。■その堂々としたパフォーマンスとバイオリンの素晴らしさ。さらに障がいがあることを知り、そのすべてに感動して“見つけた!”って感じでした(笑)」

 それは、彼にとって初めてのホールコンサートであり、東日本大震災被災者へのチャリティーコンサートでもあった。水晶自身も、その当時を振り返る。

「あのころの僕は、車いすを使わなくなって1年半くらいで、開始3曲でバテるほど体力がなかったし、身体も華奢で体重が46kgしかなかった。それからの成長を倫先生がずっと生で見続けてくださってるのが、ありがたいですね」

 彼のメジャーデビューと同時に読み切りで『水晶の音』を掲載。そして、'19年6月号から連載がスタートした。

「僕は漫画やアニメが好きだから、こんな幸せなことがあっていいんだろうかって。■漫画は僕をモデルにしてるので実名だし、話の背景も僕が体験したことが入ってるけど、フィクションだから、僕自身の人生とは違う展開があることにワクワクするんです。いちばん印象的なのは、小学校のクラスメート、ヒロインの葉月唯ちゃんの登場です。その性格も、ちょっとクールでツンデレで、僕のいちばん好きなタイプなんですよ!(笑)」

 その言葉に斉藤先生も、「好みのタイプとは意図してなかったけど、水晶くんに楽しんでもらえてよかったです」と、愉快そうに笑った。

『水晶の響』1巻(講談社)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

■漫画の世界にワクワク

(右から)脳性まひのバイオリニスト・式町水晶、二人三脚の母・啓子さん、高校時代から見守る漫画家・斉藤倫 撮影/廣瀬靖士

「■僕は女性に縁遠くて、23年間、彼女が1人もいないんですけど、漫画のパラレルワールドの式町水晶には素敵な女の子との淡い恋があるなんて、今まで頑張ってきたご褒美のごとく歓喜です」(水晶)

 ところが現実の彼の小中学生時代はクラスの女子から無視されるという、いまだに忘れられないイジメがあった。

「漫画の中のように音楽クラブがあって、優しい友達がいたら、当時の僕はどんなにうれしかっただろうな」

 そのパラレルワールドをまぶしい思いで見る、彼の気持ちがどこか切なくもある。しかし、23歳となった今は、自らの過去を俯瞰で見られるようにもなった。

「■僕は講演会でも過去のイジメのことを話すんですけど、暗くならないように話してもどうしても重い感じになってしまう。でも、漫画という新たな伝え方で角がとれて読む人にも伝わりやすいのがうれしいんです。特にイジメをしてる悪役の子が最高にワルでいい味出してるなって(笑)」

 さらに周囲の人たちから、■漫画の絵が「そっくり!」と評判なのが母親の啓子さん。

「それは髪型がね(笑)。倫先生の優しい絵でかわいく描いていただいてうれしいです。ただ、私もこれから漫画に寄せてやせていかないと(笑)」

天使のような水晶に、そっくりと評判の啓子ママ (c)斉藤倫/講談社

 そう話す明るい笑顔は絵のタッチそのまま。わが子の“23年彼女いない発言”に、「まさかのカミングアウト!」とツッコむ啓子さん。

■「3次元で寂しい思いをしても、2次元で希望があるな」「大丈夫よ、セカンドアルバムも『希望への道』だから」「そういう意味じゃない!」

 まるで母子漫才のように呼吸もピッタリで、周囲を楽しく笑わせる。漫画の中でも、二人三脚で強く優しく、水晶を導いてきた啓子さんの姿が描かれている。

「■私にも、水晶くんより2つ下の息子がいるんですけど、取材でお話を聞かせていただくと、同じ母として勉強になることや、尊敬することも多くて、いろんなことを教えていただいてます」

 と斉藤先生。お子さんはジャズピアニストで、2年ほど前に水晶もコンサートで共演したことがあり「同世代からの刺激を受けた」と話す。

『脳性まひのヴァイオリニストを育てて』(主婦と生活社)著=式町啓子 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

■楽曲に込めた“想い”

 この10月にはコミックスの1巻が発売され、さらに式町水晶のセカンドアルバム『希望への道』が発売されるという華々しいことが続いた。

「今回のアルバムは、エレクトリックバイオリンでがんがんロックをしたり、ジャズをしたり、いろんなジャンルを混ぜ込んで、挑戦と冒険が入ってるんです。中でも、■去年の8月に東日本大震災の被災者の方たちと対話したときにインスピレーションを得てできた『希望への道』という曲が主役になっています」

 さらに、デビューアルバムのタイトル曲でもある『孤独の戦士』に歌詞がついたボーカルバージョンや、漫画『水晶の響』をイメージした『クリスタルソウル』、現在の筋肉ムキムキになった元気な自分を描いた『メイオウ』など、

「■式町水晶をモデルにした曲が入っていて。これまで応援してくださった方や家族に感謝と“少しは成長してるよ”と伝えたかった」と水晶。

 実は、昨年の暮れに祖父に胃がんが見つかり、バイオリンが持てなくなるほどに心を病んでしまった。

「うちはお父さんがいないので、じいちゃんが働いて育ててくれて。そのじいちゃんに好きなゴルフをたくさんさせてあげたいと思ってバイオリンを頑張ってきたのに、その目標をなくしてしまって」

 そのときの啓子さんの励ましが独特だったと笑う。

「■みっくんの気持ちもわかるけど、これから漫画の主人公になるのにバイオリンをやめたら、これで打ち切りになるじゃない。メジャーデビューして終わりなの? これを乗り越えてこそ主人公じゃない? って(笑)」

 また、家族に心配をかけたくなくて、やめていたボクシングを「またやったらいいんじゃない?」と母が言ってくれたことで、立ち直ることができた、と彼は言う。

「ただ、ひと言いっただけなんですけどね」と啓子さん。

「彼は障がいがあっていろいろできないことも多いけど、ボクシングという少しでもできることをして、自分に自信が出てきたら気持ちも前向きになるのがわかってたので」

 アルバムの中に水晶が大好きな曲『ロッキーのテーマ』が入っているのは見逃せない。

「ボクシングジムの会長さんに聞かせたら爆笑してました」と笑う彼の人生ストーリーから、目が離せない。

式町水晶 2ndアルバム『希望への道』 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

PROFILE
式町水晶●しきまち・みずき●'18年4月、アルバム『孤独の戦士』(キングレコード、以下同)でメジャーデビュー。2ndアルバム『希望への道』が発売中。12月23日、ライブジュークにて初の広島公演。12月14日は赤坂区民センター区民ホールにて、クリスマス・コンサートを開催。座右の銘は「頑張りすぎずにゆっくりと」

PROFILE
斉藤倫●さいとう・りん● 「別冊マーガレット」でデビュー。以降、『路地裏しっぽ診療所』『ノーにゃんこ ノーライフ』『僕の部屋へおいでよ』など著書多数。現在は月刊「BE・LOVE」にて『水晶の響』を連載中。コミックス第1巻(『ドキュメント読み切り水晶の音』も収録)が発売中。水晶を見つけたときは別の作品を連載中で「ほかの漫画家さんに先に声をかけられないかドキドキしてました(笑)」

PROFILE
式町啓子●しきまち・けいこ●美容師、介護ヘルパーをしながらシングルマザーで水晶を育てる。4歳のときに水晶にバイオリンを習わせ、幼いころから「出会いは行動力がモノを言う」と人との出会いを心がけてきた。'18年に著書『脳性まひのヴァイオリニストを育てて〜母子で奏でた希望の音色〜』出版。母の名言は「感情は黙っていられない」

(取材・文/相川由美)

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