音声×本! 電子書店Reader Storeが目指す未来につながる“紙の進化形”とは?
2021年07月18日 07時00分 WANI BOOKS NewsCrunch
リアル書店には書店員さんがいます。そして電子書店にも“顔が見えない”書店員さんがいます。なかなか実態が見えない電子書店の“中の人”にアレコレ聞いてみようと思います。
今回はサービス開始11年目となる電子書籍の総合書店「Reader Store」を運営する、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントの八島さんにインタビューしました。

▲電子書店 Reader Storeのロゴ
■エンタメ軸でストアのオリジナル性を出したい
――本日はよろしくお願いします。最初に自己紹介からお願いできますでしょうか。

▲ソニー・ミュージックエンタテインメントの八島さん
ソニー・ミュージックエンタテインメント八島(以下、SME八島) はい。ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下SME)で、Reader Storeを担当している八島と申します。
ソニーミュージックグループのソニー・マガジンズ(現:エムオン・エンタテインメント)で編集職に従事していました。その後SMEに移り、Reader Storeを担当しています。編集者時代に培った作り手側のノウハウをストア施策に入れて、事業を拡大させるべく日々奮闘しています。
――ありがとうございます。電子書店員としての普段のお仕事は、オリジナル商品の企画・運営などの販促企画がメインとなるんですよね。
SME八島 私のメインの仕事は、お客様にReader Storeをご利用いただく機会作りです。「Reader Storeで買いたい」と思っていただける販売方法を考えたり、オリジナル商品の施策化をしたりしています。ストアとの連動前提で作っていますので、オリジナル商品は作るだけではなく、どのように売っていくか、どうやって世の中に周知してお客様に買っていただくか、企画・販売・宣伝を通して考えています。
――手掛けられたものを見ていると範囲が広すぎて、メディアミックスと言うか、考えるだけで大変そうだと感じました。
SME八島 私共はエンタテインメント総合企業のソニーミュージックです。音楽レーベル会社をはじめ、アニプレックスというアニメ事業会社、芸能事務所や放送事業会社、キャラクター事業会社もあります。
エンタメと呼ばれるものの多くを手掛けている企業で、いろいろな軸でスキルを発揮できる人間が揃っている会社だと私は感じています。私自身も雑誌や書籍編集を通したエンタメ軸でのノウハウと知見がありますので「ソニーミュージックがやる書店なのだから、それで勝負するのが一番でしょう!」という考えです。大変ではありますが、やりがいを感じています。
――ありがとうございます。電子書籍の販促企画というと価格施策が主流だったりもしますが、その辺はいかがでしょうか?
SME八島 価格施策は電子書籍ストアの基本施策のひとつとして日々やっています。出版社の皆様と連携した注目商品のキャンペーンなどにも力を入れています。そのうえでオリジナル性を加えること。お客様に選んでいただくためには他では得られないもの。電子書籍が専門ですので、紙・印刷版との差異化、そして他のストアとの差異化、この2点を考えています。
■そもそも電子なのに、なんでやらなかったんだ?
――紙・印刷版との差異化でいうと、最近は弊社でもQRコードをつけて、動画サイトに飛ばしたりとかする書籍が増えてはいるんですけど、どうしても読み取る作業が必要でして……。
SME八島 ひと手間、発生してしまいますよね。
――はい。お客様のスキルや書店側の仕様によってしまうので 、読者から「QRコード押しても飛ばない」「どうやったら見れるのか」などの質問もいただいたりしてます。Reader Storeさんオリジナルの『月刊 off stage 』のように、音声・動画付きでパッケージングされているような状態だと、そのまま再生できるので、すごくいいなと思いました。
SME八島 アプリで開き、ページにある音声再生ボタン・動画再生ボタンをタップしていただければ、スムーズに再生が始まります。ワンタップで一手間いらない。「そもそも電子なのに、今までなんでやらなかったんだ」と。
――オリジナル商品は、Reader Storeさんだけで配信されているのですか?
SME八島 ケースバイケースです。音声・動画付きだとReader Store専売に基本的にはなりますが、音声・動画が付いていない商品に関しては、一定期間Reader Storeで先行販売をして、それ以降は他のストアで売っていただいているケースもあります。
――コンテンツとしては、そうやって広がるのもいいですよね。
SME八島 そうですね。ストアの立場に加え、出版社としての立場でも一部ビジネス展開をさせていただいている感じです。
――そこも“総合”の書店さんなんですね。
SME八島 はい。非常に今、トレンドだと思うんです。ストアがお客様に合わせた出版まで手掛けるということは。
――そうですね。
SME八島 時代の変化を痛感しています。私自身が出版社から書店へジョブチェンジしたこともあり、うまく切り替えられていると考えています。
――オリジナル商品も展開していくということなんですが、もう少し詳しく教えてください。
SME八島 SME内に「monogatary.com」という小説投稿サイトがあります。一般の皆さんが毎日出る「お題」に対して小説を投稿するサイトなんですが、そのなかで「モノコン2019」というコンテストで大賞となった小説『タナトスの誘惑』(星野舞夜・著)をベースに制作され大ヒットした楽曲が、YOASOBIの『夜に駆ける』です。たくさんの原作が集まってきますから、その作品のなかから読んでほしい小説をReader Storeで電子書籍にして販売するということをやっています。
夜に駆ける YOASOBI小説集【Reader Store限定カバー】(星野舞夜) : 双葉社 | ソニーの電子書籍ストア -Reader Store( https://ebookstore.sony.jp/item/LT000139566001171606/ )
YOASOBIの2ndシングルに『あの夢をなぞって』というのがあるんですけど、その原作小説『夢の雫と星の花』(いしき蒼太:著)のコミカライズも出していたりしています。他にも音声付きの商品もあります。いわゆるオーディオブックです。「monogatary.com」のコンテストでの優秀作品を、声優の中村悠一さんに朗読していただきました。
夢の雫と星の花(kanco) : アクションコミックス | ソニーの電子書籍ストア -Reader Store( https://ebookstore.sony.jp/item/LT000142736001208724/ )
10分で人生逆転【朗読・中村悠一】(石塚環) : 聴くモノガタリードットコム | ソニーの電子書籍ストア -Reader Store( https://ebookstore.sony.jp/item/LT000143102001212765/ )
――投稿サイトも盛り上がっていますね。
SME八島 YOASOBIのヒットもありまして、たくさん投稿していただいています。
――なるほど。
SME八島 出版社が発行されたアニメの原画集に、メインキャストの対談音声を付けたものもあります。声優さんたちの楽しげなコメントを聴きながら読める新タイプの商品です。DVDなどの映像作品のオーディオコメンタリーの電子書籍版だと思っていただければ。
――それはファンにはたまらないですね。
Reader Store限定【キャスト対談音声付き電子書籍】 青春ブタ野郎は制作メイキングの夢を見ない 総作画監督修正集(CloverWorks) : CloverWorks | ソニーの電子書籍ストア -Reader Store( https://ebookstore.sony.jp/item/LT000126928001036925/ )
■女性ユーザー向けのエンタメ本も充実
――お聞きしていると「Reader Storeなら全部のエンタメができる」みたいな感じですね。
SME八島 はい、そうなれるよう頑張ってます(笑)。先ほども話に出た音声・動画付きの『月刊 off stage 』のジャンルは2.5次元舞台です。2.5次元舞台とは、アニメ原作や漫画原作を舞台で上演するもので、コアなファンの方がたくさんいらっしゃいます。
インタビュー後に録った俳優さんの動画メッセージや音声メッセージは、そういった方々に高い評価をいただいています。
――インタビューがたくさん読めて、観劇予定のスケジュール表もついて、動画メッセージまで。そこがなんかすごく衝撃で。
SME八島 ありがとうございます。2.5次元舞台は、エンタメ好きの女性ファンが多いジャンルですので、新しいお客様としてReader Storeに来店いただけていると言う意味では、非常に良い商品として捉えています。
従来は男性のお客様が多かったんですけれど、女性のお客様にもご利用いただけるよう、こういった女性向けの商品を意識して作っているところです。
2.5次元を中心に旬のステージを語り尽くす!『off stage 』 | ソニーの電子書籍ストア -Reader Store( https://ebookstore.sony.jp/stc/article/campaign/5307/ )
――たしかにReader Storeというと、弊社では社会政治系の書籍がたくさん売れているので男性が強いイメージでした。
SME八島 今では女性が4割くらいです。以前はもう少し男性の比率が高く、年齢も高めの方が多かったのですけれど、若いお客様のご利用も増えてきました。
――すごい! 狙いがぴったりですね。
SME八島 ありがたい限りです。

▲女性向けエンタメコンテンツなどで女性ユーザー増を目指すという
――舞台パンフレットも販売されているんですね。
SME八島 そうなんです。舞台パンフレットは出版流通にのっていませんけれど、電子版のニーズがあると考え、販売をさせていただいています。
――今は舞台に足を運ぶことが難しい時期でもありますし、チケットを持って現地に行かないと買えないものを、電子書店で気軽に買えるっていうのは、すごく魅力的だなと思います。しかも特典が付いてたりとかされていますよね?
SME八島 はい。それこそ、音声を付けたりとか。
――そうですよね。紙でも買ったけど、特典も魅力だから電子でも買う。両方買うってお客様もいそうですね。
SME八島 紙のパンフレットは、本棚に差し込んだらそのままになってしまうケースが多いと思うんですけど、電子版ならアプリでいつでも思いついた時に見直せるというメリットもあると考えました。
これは常に言わせていただいているのですが、紙は紙で素晴らしい部分を持っているので、電子版と競合するものではなく、できればお客様には両方買っていただきたい。「印刷版は保存用、たまにゆっくり時間をかけて読むために。そして日々の読書用として電子版」というのが私の理想です。
――私も漫画は両方買う派なので。それが実現、もっと多くの人に伝わればいいんですけど。
SME八島 伝えたいと思って努力しています。電子書籍のメリットは、いつでも気軽にスマホさえあれば読めること。これを、印刷版でしか購入されない人にどうやったら伝えられるのかが課題だと思います。
■デジタルな可能性を追求していきたい
――八島さんが個人的に推したい本を教えてもらえますか?
SME八島 夏川椎菜さんの小説『ぬけがら』です。「TrySail(トライセイル)」という3人組のユニットを組んでいる声優さんですが、小説もお書きになるんです。夏川さんが小説を書き下ろし、それをご自分で朗読していただき、その音声を付けた電子書籍として出版させていただいています。
声優さんなので当然なんですが、朗読の技術が非常に高いのです。加えて、ご自身がお書きになった作品なので、抑揚や間が素晴らしく、ファンの方からも好評をいただきました。電子版が非常に好調のため、昨年8月には紙の書籍として刊行され書店に並びました。
小説 ぬけがら【音声付き特別版】(夏川椎菜) : ソニー・ミュージックエンタテインメント | ソニーの電子書籍ストア -Reader Store( https://ebookstore.sony.jp/item/LT000120063000974081/?cs=search )

▲ぬけがら/夏川椎菜:著(すばこ舎,ソニー・ミュージックエンタテインメント:発行:/エムオン・エンタテインメント:発売)
――最後に、Reader Storeさんがこれから取り組みたいことをお聞きしたいのですが、やはり音声・動画付き電子書籍の拡充ということですよね。
SME八島 ジャンルも増やしていきたいと考えています。出版社様のドラマCD付きの(印刷版)ライトノベルを音声付き電子書籍にさせていただいたり、写真集に登場される方の音声や動画を付けて電子化、という実績は既にありますが、間口を広げ、料理レシピ本やヘアアレンジの本といった、映像付与が有効な本に動画を付けるなどアイデアはいくつかあります。
私は紙の編集者だったのでわかるのですが、ヘアアレンジって写真をどれだけ並べても伝えきれないところがあるんですよ。レシピ本然りですが、写真とテキストだけでは限界があるので、動画で過程が見られて、音声解説が付いていれば情報媒体としてかなりの強化ですよね。
世の中にはYouTubeをはじめとする無料動画コンテンツが存在するので、それで満足されている人はそれでいいと思うんです。けれど「本として持っていたい」という人には、紙の進化形という形でご利用いただければと。
――“紙の進化形”って良いですね。
SME八島 はい。紙の良さも残しながら、未来につながるデジタルな可能性として、それは追求していきたいと考えています。出版社の皆様から出版企画の事前情報を共有していただければ、一緒にこういうことをやりませんか? というご提案ができますので、ぜひよろしくお願いいたします!
――それは出版社としても可能性が広がりますね。
SME八島 Reader Storeに備わるブックギフト機能もおすすめです。俳優さんの写真集を出す際に「お友達に写真集をギフトしてくれたら、未掲載特別カットをプレゼント!」など、さまざまな方向性で活用できます。
――いろんなことに独自で取り組みをされていて、これからの出版業界を牽引している感じがしました。今日はありがとうございました。
SME八島 はい、ありがとうございました!
電子書籍・漫画ならソニーのReader Store|無料でも楽しめる!( https://ebookstore.sony.jp/ )
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