今の缶ビールが飲み屋の生ビールの美味しさに並んだ理由

「仕事終わりのビールはうまい!」というセリフを、居酒屋ではなく家で言うのが当たり前になったコロナ禍。緊急事態宣言により飲食店は時短営業となり、いわゆる“家飲み”が仕事終わりの定番となりました。

居酒屋で飲むからうまいはずだったビールが、家で飲んでも意外にうまいと感じた人も多かったのではないでしょうか。実は、ビールの研究にも日本発の最先端技術が利用されているのです。その技術とは、2013年に東京大学の藤田誠教授らによって開発された結晶スポンジ法だったのです。

■缶ビールがおいしくなったのには明確な理由があった!

今では信じられない話だが、昭和生まれの子どもは、ちょくちょく酒を飲んでいた。

冠婚葬祭などの親戚の集まりで、いたずら心を出した大人に「飲んでみるか?」と勧められることもあったし、日常であれば、父親が晩酌するビールをちょっと舐めさせてもらうなど、いずれも昭和の家庭ではよくあることだったと記憶している。

そんなとき、たいていの子どもは「うわー、苦ーい!」などと言って、大人はなんでこんなものを飲んでいるんだろうと不思議に思うわけだが、どういうわけか小学生の私は、その独特な苦味の虜になり、以来、根っからのビール党である。成人式を迎えたとき、一番最初に飲んだお酒もビールだった。

働くようになってからは、御多分に漏れず“仕事終わりの一杯”に幸せを感じるようになって、一人暮らしの冷蔵庫の中にはかなりの数の缶ビールが常備されていた。最初は父親が飲んでいたのと同じ銘柄を選んでいたのだけれど、いろいろな種類を嗜んでいくうちに、だんだん自分の好きな味がわかって“お気に入り”ができるようになった。

外で飲むときは、家では味わえないドラフトビール一択。おいしさ基準で考えれば「ドラフトビール→瓶ビール→缶ビール」の順。ビール党なら、この順番に異論はないだろう。

いつでもドラフトビールが飲めれば最高だけど、実際は毎日外に飲みに行くのは難しいし、自宅にサーバーを導入するのも面倒だ。一度、友人たちとお金を出しあい、酒屋からビールのタンクを借りてきて、ホームパーティーでドラフトを楽しもうと洒落込んだが、ビールを冷やすのに大量の氷を必要としたり、うまく注げずに泡だらけになってしまったりと大変であった。

コロナ禍に突入してからは、めっきり外に飲みに行くこともなくなり、家飲み一辺倒に。やはり新鮮なドラフトビールを飲みたいな、という気持ちはあるけど、以前のように渇望しているわけじゃないのは、家飲みでかなりの充足感を得られるからだろう。

■「結晶スポンジ法」という技術の恩恵

自宅の台所で好きな酒肴をささっと作り、自分のペースで、好きな動画などを眺めながら飲む時間は楽しい。さらにいえば、今のビールは缶でもおいしい。そう、いつの間にか缶ビールは中身そのものも進化を遂げ、お店で供される生ビールと大差ない味にまで近づいていたのである。

それはどうやら、2013年に開発された「結晶スポンジ法」という技術の恩恵らしい。ざっくり言うと、ビールの苦み成分の変化の性質がわかったことで、苦み成分をコントロールして新鮮な状態を保ち、おいしいビールを作れるようになったということ。

もともとはビールのための技術ではなく、地道な基礎研究の先に辿り着いた発見だったそうで、さまざまな分野に応用できることからノーベル賞の候補にもなっているそうだ。

少し前に、1度身につけた知識や常識も、時代と共にアップデートしていかなくてはいけない、という内容の『ファクトフルネス』(ハンス・ロスリング著:日経BP社刊)という本がベストセラーになったが、こと化学・科学の分野では、技術は日々進歩しているためアップデートはとても重要だ。

例えば、発泡酒は“ビールに比べて味が落ちる”というのが定説だった。私も発売ごく初期に買って飲んだものの、あまり良い印象がなかった経験から、以来20年以上も買わずにいたのだが、あるときに友人宅でのパーティーに招かれ、振舞われた発泡酒を久しぶりに飲んで「こんなにおいしかったっけ!?」と驚いた覚えがある。

そのときは、ホームパーティーという特別な場での雰囲気補正がかかっているんだろうと思っていたのだが、実は発泡酒もメーカーが研究と改良をこまめに繰り返して、当初の頃よりは格段においしいものになっていたのだった。

家で飲むお酒がおいしくなると、これからの選択肢は「家飲み」か「ちょっと、もしくはとても良い店」かの2択になり、飲酒事情に関しても二極化が進むのでは? と感じる。低価格帯の居酒屋であれば家飲みと大差ないので、だったら家飲みで、ということになるだろう。

わざわざ外に出かけて行くのは、家飲みでは味わえないような非日常的な雰囲気や、家庭で調理するのが難しい食べ物、プロの技で作られたおいしい食べ物、あるいは珍しいお酒などが目的となる。家飲みビールがおいしくなるのはうれしいことだけど、飲食業界にとっては大変な課題を背負うことになる。

『「家飲みビール」はなぜ美味しくなったのか?』を論理的に解説してくれた坂田薫氏の新刊には、ほかにも患者自身の細胞を培養して作る「細胞シート」を用いた病気治療や、走行しながらワイヤレスで充電が出来る電気自動車の開発、宇宙エレベーターの実現の可能性……といった最先端の科学&化学、および工学的知見による雑学が詰まっていて、かなりおもしろい。

というわけで、今日もプシュッといっちゃいます。 

▲今日も家で乾杯! イメージ:Ran&Ran / PIXTA(ピクスタ)

科学(化学)技術の進歩に乾杯!

〈美馬 亜貴子〉

関連記事(外部サイト)