捕虜からの脱走、兵士の実体験、人種差別…。見ておきたい戦争映画3選

ロシアによるウクライナ侵攻が続き、ニュースなどで現場の状況をみられる現在、戦争を身近に感じている若者も多いのではないだろうか。ここでは、『ナチス映画史 -ヒトラーと戦争はどう描かれてきたのか-』(小社刊)を6月8日に出版したばかりの馬庭教二氏に、紙数の都合で掲載できなかった戦争映画3作を紹介してもらった。

■『脱走四万キロ』(ロイ・ウォード・ベイカー監督/1957年英)

▲ジェネオン・ユニバーサル

本作は、ドイツの名優ハーディ・クリューガー29歳時の英国作品。1940年春、英国で捕虜になった独軍パイロットが執念深く脱走をはかり、移送された英連邦カナダで逃走、当時、中立国だったアメリカを経て、翌年4月ドイツに帰国するという信じがたいストーリーだ。実在の独空軍将校(フランツ・フォン・ヴェラ大尉)の体験に基づくというから驚く。

熱心な戦争映画ファンは別にして、一般にはあまり知られていない作品だと思う。もともと童顔ながら、少年の面影を残すクリューガーが躍動する。

『遠すぎた橋』をはじめ、誠実な独軍人を演じ続けたクリューガーは、1928年ベルリン生まれ。今年2022年1月19日、93歳で亡くなった。

■『最前線物語』(サミュエル・フラー/1980年米)

▲ワーナー・ホーム・ビデオ

B級映画監督とされるが、カルト的な人気を持つサミュエル・フラー(1912年米生)の68歳時の作品。フラーはロシア系とポーランド系ユダヤ人の両親を持つ。第二次大戦時は本作の原題である「The Big Red One=第一歩兵師団」の兵士として西部戦線を転戦し、2つの勲章を得ている彼の自伝的作品と言っていいだろう。

本作は古参の軍曹(リー・マービン)と若い4人の兵士が、北アフリカからシチリア、ノルマンディ、ベルギーと転戦し、最後にチェコで強制収容所の解放に立ち合い、ユダヤ人虐殺の実態を知るところで終わる。冒頭は第一次大戦時のエピソードから始まっており、ユダヤ系でもある晩年のフラーが、20世紀に起こった戦争の核心に迫ることにかけた執念が伝わってくる。

低予算映画ながら、軍支給のコンドームを銃口にかぶせて水や砂の侵入を防ぐシーンなど細かな描写に、元兵士ならではのリアリティがあり、武骨な軍曹に扮したマービンの好演も相俟って、「戦場映画」とはしては屈指の名作との評価がある。

■『セントアンナの奇跡』(スパイク・リー/2008年米・伊)

▲ジェネオン・ユニバーサル

人種差別問題をライフワークとするスパイク・リー(1957年米ジョージア州生)が、初めて取り組んだ戦争映画である。

黒人差別が公然と行われていた米軍では、最前線に白人兵と黒人兵をともに投入することは事実上不可能だった。そこで編成されたのが黒人兵のみの部隊、第92歩兵師団である。本作は、1944年のイタリア戦線を舞台に、同師団の兵士と現地の少年や村人、レジスタンスらの交流が描かれる。1944年8月に起きた「サンタンナの虐殺」と言われるナチによる住民の虐殺事件もモチーフとなっている。

米軍・独軍・イタリア市民・レジスタンス、それぞれ異なる葛藤を持つ人々が登場し、重層的構造を持つのは関連映画の特徴であるが、本作はプラス、米軍内やイタリアの農村での黒人兵を巡る描写に、スバイク・リー作品らしい人種差別への鋭い批判精神が見て取れる。

原作・脚本はジェームズ・マクブライド。父は黒人の牧師、母親はユダヤ系ポーランド人で、父方の叔父が実際に92師団兵として従軍しており、戦争中の話をよく聞いたという。ドイツ人の名優クリスチャン・ベルケルが『ヒトラー〜最期の12日間』に続いて、善意ある独軍将校を演じている。163分の大作。

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