「来年はいつものフジロックへ」フジロック2022レポ
2022年08月29日 17時00分WANI BOOKS NewsCrunch
2021年の厳戒態勢での実施を経て、今年も7月29日(金)〜8月1日(月)にわたって、新潟県苗場市で開催された『FUJI ROCK FESTIVAL ‘22』。
コロナを取り巻く状況は、回復基調になると期待されていたものの、蓋を開けてみれば第7波のピークのタイミングで開催されることになってしまった。現場は一体どのような状況だったのか? 今年も3日間参加したライターが見聞きした「コロナ禍でのフジロック」、2年目のレポートをお送りする。
■アルコールの販売も再開された今年のフジロック
「特別なフジロックから、いつものフジロックへ」
そんなテーマを掲げて開催された今年の『FUJI ROCK FESTIVAL ‘22』。新型コロナウイルスは依然として猛威をふるい続けており、フジロック会期中も東京の感染者は連日3万人、全国ではおよそ20万人を越えた。2021年の会期中は、全国2万5千人ほどで推移していたことを思うと、気持ち的には昨年以上に緊張感を持たねばならない状況である。
実際、「いつものフジロック」とは謳いながらも、会場内でのマスク着用、ソーシャルディスタンスの確保、手洗いの励行などは昨年同様であり、参加者もガイドラインを遵守している人がほとんど。大きな混乱はなかった。

▲賑わいが戻ったグリーンステージ前(7月30日の16時頃)

▲コロナ対策は継続。昨年同様、場内のいたるところに感染予防の注意書きがあった
3日間の動員はおよそ5万9千人(1日目:1万8千人、2日目:2万1千人、3日目:2万人)。昨年が、のべ3万5千人だったことを考えると、客足が戻っているのは明らかだが、最も動員が多かった2017年は、12万5千人もの人が集まっていたことを思うと、まだまだ少ないなという印象。トイレや飲食店で長い行列に並ぶストレスがなくなったので、会場での過ごしやすさはアップしているものの、収益や活気を考えると心配な状況である。

▲昨年同様、トイレには消毒液、手洗い場にはハンドソープを設置。ホルダーには「フジロックがある幸せ」と書かれている
既に報じられている通り、今年は、昨年中止されていたアルコールの販売も再開。アルコール飲料を扱う店舗の店員さんに「例年に比べて売り上げはどうですか?」と聞いてみると、「肌感ですが6割ぐらいですかね。イマイチです」との答え。
もっとも、これは一番入場者数が多かった2日目に行なった取材なので、3日間でならしたら実売は、それより下がるだろう。酒は売ってはいるものの、飲んで騒ぐことに関しては、例年以上に周囲の目が厳しくなっていることもあるため、心理的なハードルを感じるのは当然のことだと思う。
■マスクをしている人の数を調査!
昨年との差位でいうと、今年はすれ違う人たちのなかにマスクをしていない人が多い。パッと見3〜4割と言ったところだが、実際はどうなんだろう。気になったので調べてみた。
定点調査を行なったのは、3日目である7月31日の14時35分から45分の10分間。場所はフィールドオブヘブンからオレンジカフェにつながる林道だ。行き交う人たちのなかでマスクをしている人と、していない人を「正」の字を書いてカウントしていく。この場合の「していない人」の定義は、鼻と口の両方が出ているかどうか、だ(よって顎にマスクをかけているような人も含んでいる)。
集計してみると、通行した462人のうち、「マスクをしている人」は222人、「マスクをしていない人」は240人と、なんとマスクをしていない人の方が多い結果になった。開放的な空間で、みんな気が緩んでしまったのだろうか……?
絶えず着用している私からしてみればショックな結果である。Café de Parisでモヒートを売っている店の店員さんと世間話中、思わず「今年はノーマスクの人が多くて大変でしょう」と言うと、彼女は「いえ全然。皆さん、ちゃんとマスクしていらっしゃいますよ」との答え。「いやいや、さっき実際に数えたら、してない人のほうが多かったんですよ」と言うと、店員さんは「注文するときは私たちと喋るので、つけてくださってるんじゃないですかね」
なるほど、つまり移動中や列に並んでいるときなど、言葉を発しないシチュエーションではマスクを外して、人と話す必要があるときや、密な空間にいるときはマスクをつけるという具合に、場面に応じた対策を一人一人がしているということだ。
ためしに飲食店に並ぶ人たちを観察してみると、確かに注文カウンターの手前でマスクを付け直している人が複数いた。これはフジロック云々というよりは、2年半にも及ぶコロナ禍での日常生活で身に付いたものなのだろう。
私自身も無意識のうちに身についているが、こうしたことはその場でいろいろな人に話を聞いてみなければ気がつけなかったことである。既に出ている記事には「ノーマスクのマナー違反」とか「ルール無視」などと書いてあるものもあるが、実態は決してそのようなものではない。

▲報道では密な風景ばかりが取り沙汰されていたが、そういった場所は多くはなく、時間帯によっては林道でたった一人、なんていうことも(7月30日18時頃撮影)
実際、来場者に聞いてみると、
「飲み物を飲むときだけ外してます」
「移動のときは暑いので下げてます。コロナより熱中症のほうが怖いので」
「同じグループの人と行動するときは(お互いに感染していないのがわかっているので)別に要らなくないですか?」とのこと。
なかには「正直、今日だけはいいかなと思って」と、深い考えなしに外している人もいたが、大半の人は状況に応じてマスクの扱いを変えていた。
■外国からの参加者も今年は復活
また昨年は、ほとんど見かけなかった外国からの参加者も今年は復活。特に欧米では行動制限がない地域が多いこともあり、なかにはノーマスクで大声で話している集団も見かけた。そう言う人たちに取材するのはちょっと腰が引けるので、マスクをつけている外国人を探して声をかけてみた。
話してくれたのはドイツ人の男女。東京から参加した彼らは在日歴2年。二人とも現在の日本の状況に通じている。
「感染者が増えている状況での参加に不安はないですか?」と聞くと、女性は「野外なので比較的感染のリスクは低いと考えています。マスクをして距離を取るよう気をつけているし、もし罹ったとしても若い世代にとっては、今の株は深刻なことにはならないと思います」。
一方、男性は「実は僕、少し前にコロナにかかったんです。結構ツラかったから、もうかかりたくないけど、今は免疫が持続してると思うし。予防接種もしたので、用心のためにマスクはずっとしているけど」とのことだった。
今回は出演者にも陽性者が続出したことで、会場の掲示板には毎日「出演者キャンセルのお知らせ」が並んだが、こうなると観客のなかにも既に患者がいると考えるのが自然だ。いることを前提に対策、自衛するのが本当の意味での「ウィズコロナ」時代なのだと思う。

▲出演者の感染、または陽性反応によりライヴがキャンセルになったことを知らせる掲示板
■フジロック初のキャッシュレス決済導入、でも・・・
もう1つ、今回のフジロックで特徴的だったのは、初めてキャッシュレス決済が全面導入されたこと。これまでも交通系のICカードが使用できた店舗はあったが、海外のフェスはほとんどキャッシュレスなので、その点でも国際化が進んだ印象だ。ところが会場の電波状況が悪く、端末に決済画面がなかなか表示されない。前出のモヒート店では従業員の私物であるポケットWi-Fiを使って読み込んでいた。
店舗のなかには「決済にかかる時間が、もっと短ければ効率良く注文をさばけるので、もっと売り上げが上がったのに」とこぼす人もいた。通信環境はフェスの重要なインフラでもあるため、来年以降に向けて改善が必要な部分だろう。
また、出店関係で印象的だったのは、値上げの波がフェス飯にも押し寄せていたこと。フジロッカーズに人気の『鮎茶屋』は、鮎の塩焼きを1匹800円に値上げしたことで、店頭にご丁寧にも「値上げのお詫び」を掲載していた。過去の資料を見ながら値段の推移を辿ると、500円(2014年)→600円(2017年)→700円(2021年)とじわじわ値上がりしてきたことがわかる。1匹800円は、以前と比べると1.6倍の値上げ率だが、買う側も目下の原料の高騰ぶりは知っているから、値上げをしても致し方ないと思うけど。
ほかの屋台でも「焼き肉丼」「スパイスカレー」「ラーメン」など、今年は1,000円の大台を越えたものが多くなってきた。そんななかで気を吐いていたのは、地元の観光協会が運営する『苗場食堂』。例年同様、名物の「きりざい飯」は450円で提供されていた。おそらくほとんど利益は出ていないのではないか。

▲リピーターに人気の鮎の塩焼き。『鮎茶屋』では店頭に値上げに関するお詫びを掲示
チケット代(39,800円〜49,000円)・交通費・宿泊費・滞在費と合わせると、フジロック1回にかかる費用は10万円〜15万円と高額化の一途を辿っている。ここ10年ほどは、メインの客層が中高年になっていることが指摘されているが、1997年の初開催当時からのフジロッカーとしては、ここでしか味わえないフジロックならではの魅力を、どうやって若い層に伝えていくかが課題だと感じている。フジロックを今後も長く続けていくためには、若い世代が体験し、支持してもらうことが必須条件だからだ。
今回はコラムの性質上、肝心の音楽のことについて書くことができなかったが、本来、フジロックは出演者と観客が一体となって織り成す音楽フェスティバルである。来年こそは本当の意味で「いつものフジロック」に戻って、いつも通りのイベントレポートを書けるよう、願ってやまない。
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