「シワが多いほど頭がいい」は嘘だった!? 脳のアレコレ

「シワが多いと頭が良い」「シワのない脳を持つ動物もいる」「薄くスライスしても神経回路は生きている」などなど、脳には信じがたい噂や事実がいっぱい! 巷にあふれている脳についての噂や信じがたい事実について、『脳を司る「脳」』(ブルーバックス)で講談社科学出版賞を受賞し、脳研究で注目を集めている毛内拡氏が語ります。

※本記事は、毛内 拡​:著『脳研究者の脳の中』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

■ヒトの大脳皮質は広げると新聞紙一枚分

▲シワが多いほど頭がいいは「誤解」だった!? イメージ:mirai4192 / PIXTA

私は脳の研究をしていますが、脳の研究方法にもいろいろあります。普段から自分が用いている研究材料や研究方法を紹介しつつ、研究の現場のリアルな実態について知ってもらえればと思います。

まずはじめに、動物実験はどんな動物の脳を利用するかが問題となります。もちろん、ヒトと類似している霊長類の脳を利用できれば、グッと理解が深まるとは思いますが、ヒトに近いぶん、研究倫理の審査が厳しく、また飼育や取り扱いも難しくなります。

一方で、昆虫などの無脊椎動物や、魚類などの比較的取り扱いが容易な実験動物も、ヒトと同様の基礎原理を持った脳を持つため、研究にもよく利用されます。どのような生体現象を解き明かしたいかによって、どういった種類の動物を利用するかを慎重に検討する必要があります。

ちなみに、動物の一種という枠組みで人間のことを指す場合は、カタカナでヒトと書くのが通例となっているようですので、そのように使い分けたいと思います。

研究を行うには、予算と期間の問題が避けては通れません。限られた予算のなかで、効率よく研究計画を遂行していくためには、実験動物の飼育にかかる労力が少なく、成長や繁殖のスピードが速いものが好まれます。

また、近年では、遺伝子を操作することで病気のモデルを作製したり、特定の遺伝子の関与を調べたりするという性質の実験も行われるため、遺伝子の操作のしやすさや、方法論の多様性が重要になります。

その点では、ヒトと同じ哺乳動物であるマウスや、無脊椎動物を代表してショウジョウバエ(果物に集まってくる小さなハエ)が採用されます。また、体が透明で観測が容易に行えることから、コイや金魚の仲間のゼブラフィッシュも利用されます。

そのほかにも、いかにユニークな動物で実験をするかが評価になるような学問分野もあり、生物学の研究は実に奥が深いと思い知らされます。

▲マウスやラットなどの大脳皮質にはシワがない イメージ:ナオ / PIXTA

さて、哺乳類に話を限定して、脳を比較して見てみましょう。哺乳類とは、人間と同様、お母さんのお腹(子宮)のなかで育ち、生後はお乳を飲んで成長するタイプの生物です。

哺乳類の脳を見比べてみると、これが同じ脳なのかと驚きます。一見して、どれも脳だとわかる程度には類似していますが、よく見ると少しづつ違いがあります。

基本的には、どの脳の大脳皮質にも右脳と左脳があり、その下に小脳、そして脊髄につながる脳幹が見えています。ヒトの場合は、大脳皮質が非常に発達しているため、小脳は隠れて見えませんが、基本的な構造は一緒です。

一方、マウスやラットなどの大脳皮質にはシワがないのです。巷では、この脳のシワが多いほど「頭が良い」と言われていますが、それは誤解です。

このシワは、大脳皮質の表面積と頭蓋骨の大きさによって決まりますが、ヒトの場合は、大脳皮質を広げた際の表面積は、新聞紙一枚程度と言われています。それを頭蓋骨のなかに入れるためにシワができてしまいます。

霊長類のなかでも、コモンマーモセットではシワがないことが有名ですし、キツネの仲間のフェレットの脳にはシワがあることが知られています。

シワの有無と賢さには、あまり関係がないと考えていいと思います。

■薄くスライスしても神経回路は生きている

代替法で、培養細胞や生体組織を利用する方法について述べました。個体の生命が終われば、それを構成していた細胞や組織の生命活動も停止すると思われがちですが、死後も組織はしばらく生き続けることができます。

適切に酸素や栄養を与え続けた環境ですと、数時間生き続けます。それをしっかり培地に生着させ、自活できるようにした状態が培養という状態です。培養細胞は、数日は生き続け、植え継ぎを行うことで、さらに寿命を延ばすことができます。

私が研究対象にしている脳も、しっかりと冷やした状態で摘出し、厚さ0.4ミリメートル程度にスライスしてから37℃に戻すことで、神経回路構造を保ったまま生かすことができます。

脳は、かなり厚みのある臓器で、脳の表面は大脳皮質で覆われているため、大脳皮質以外の脳部位の活動を調査したい場合、脳の深部までを測定するのは技術的に非常に困難を伴います。ところが、脳の深部でも、こうしてスライスして切り出してくれば、簡単に顕微鏡で観測したり、電気的な活動を測ったりすることができます。

また、神経回路構造は保たれているので、神経細胞がどのようなネットワークを作って活動していたのかを知るための、いい手がかりとなります。

したがって、なんでもかんでも生きた動物で実験することが、必ずしも最適な解とは限りません。自分が何を知りたいのかに応じて適切な試料を選択するのが、良い研究と言えるでしょう。

▲神経細胞のネットワーク イメージ:bannosuke / PIXTA

研究のスケールによって異なりますが、生きた動物で行う実験のことを「in vivo」と呼び、摘出した脳や培養した脳、固定した脳で行う実験のことを「in vitro」と呼ぶことがあります。最近では、上述のように摘出はしたけれども、まだ生きている状態のことを「ex vivo」と呼ぶこともあります。

細胞レベルの研究をしているグループでは、摘出した脳であっても、生きた細胞で実験をすることを「in vivo」ということもあるそうなので、その実験がどのレベルの実験なのかを見定めることは重要です。

たとえば、新聞やインターネットで大発見! という見出しで研究成果が報道されることがありますが、よく読んでみたら、摘出した組織切片で行った実験結果だったということはよくあります。用いる実験系に貴賤はありませんが、どのような実験環境で得られた結果なのかをしっかり吟味したうえで、実験結果を解釈する必要がありますし、研究者は誤解を生まないような説明を行う義務があります。

■電化製品が始まるきっかけはカエルの観察?

さて、生きている脳細胞の顕著な特徴といえば、やはり電気的な活動をする点にあります。この電気的な情報は実際に測ることができます。

たとえば、脳波は、脳細胞の集合的な電気活動であり、頭蓋骨の上からも測定することができます。脳波は、1秒間にどれくらい波打ったかを表す指標である周波数で分類されています。脳波がゆっくりとしていれば体も眠っていて、逆に脳波が早ければ、集中して思考しているということが類推できるのです。

この脳波測定は、人間から脳細胞の働きを直接記録することができる唯一の手段と言えます。一方、機能的磁気共鳴機能画像法(fMRI)や陽電子放射断層撮影法(PET)では、脳細胞が活動した結果、生じる血流の変化などの二次的な変化を捉える方法であり、急速に進歩はしているものの、未だ神経の電気活動に匹敵するような早い信号を記録することはできません。

脳をはじめとする生体電気信号から、体の状態や生体ネットワークの情報処理などの機能について調べる学問のことを、電気生理学と言います。脳に限らず、多くの細胞は電気的な変化を示します。たとえば、筋肉や心臓の活動を電気的に測定した結果が、筋電位や心電図となります。

生き物の体が、電気的な力を利用して情報伝達しているという事実は、1700年代にイタリアの科学者が、カエルの筋肉の動きの観察から発見しました。さらに、そこから着想を得た別の科学者が、2種類の異なる金属から電気を取り出せることを発見し、電池を発明しました。

▲電化製品が始まるきっかけはカエルの観察? イメージ:モイス / PIXTA

以来、多くの科学者が電気現象を熱心に研究した結果は、電磁気学として大成しました。今日の私たちの暮らしが、多くの電化製品の恩恵を受けているのは、実は生物が発生させる電気現象から始まったというのは、少し意外で驚きです。

その後、電気的な測定手法が向上するとともに、電気生理学も切磋琢磨して発展してきました。現在では、ヘッドギア型の装置や、額に貼り付けた簡易的な電極で脳の活動を測定したり、リストバンド型のスマートウォッチで心電図を測定したりするなど、生体信号の測定技術は、目覚ましい進化を遂げているのはご存じの通りです。

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