クリープハイプの声を全身で浴びに行って思ったこと

クリープハイプのメジャーデビュー10周年を記念した展覧会『クリープハイプの声をシャワーのように浴びる展』が1月16日(月)まで、渋谷PARCO 4Fの「PARCO MUSEUM TOKYO」で開催中だ。

クリープハイプのメジャーデビュー10周年を記念したこの展覧会のテーマは「声の博物館」。展示の構成には2016年の『クリープハイプの脳内博覧会「世界館 -MADE BY DIS」』や、2018年の『クリープハイプのすべ展』をつくりあげたクリエイティブチーム「CHOCOLATE」が参画している。

発売開始とともに入場券が即日ソールドアウトとなった『クリープハイプの声をシャワーのように浴びる展』を全身で浴びに行ってみた。

▲『クリープハイプの声をシャワーのように浴びる展』

■批判もひっくるめて活動につながっている

よくあるようなミュージシャンの企画展、個展にとどまらないのは、クリープハイプがこれまでに開催した2回の展覧会からよくわかる。

2016年の『世界館 -MADE BY DIS』のテーマは「MADE BY DIS -すべてのDISにありがとう-」。これはSNSにあふれた容赦のない“DIS”は、メンバーを日々傷つける刃物であると同時に、尽きることのない創作のエネルギー源であり、グループを構築する1つの重要な要素になっている、という想いのもと作られた作品が展示された。

そして2018年の『クリープハイプのすべ展~歌詞貸して、可視化して~』は、心に潜んだ澱みがそのまま言葉になったかのような独特の詞の世界で、聴くものの心をかき乱したり愛おしく思わせたり、深く揺さぶるクリープハイプの楽曲から10曲以上をモチーフとして抽出した作品展だった。

このどちらも、クリープハイプに対しての一般層のイメージ「親と一緒に聞けない」「クリープを好きと言うと好奇の目で見られる」というある意味でライトな感想から、見当外れのディスや、言われもない誹謗中傷なども全て含めて、芸術や表現として昇華させた展示だったので、今回の『クリープハイプの声をシャワーのように浴びる展』もそのような、清濁あわせ呑む形の作品展になっているだろうと期待が高まる。

ロックバンドとして、10年以上も第一線で戦い続けることは非常に非常に難しい。一度脚光を浴びるのすら難しいのに、それを維持する。さらに周知を広げていく、そして作品のクオリティを高めて続けていくというバンドが、ここ10年でクリープハイプのほかにいただろうか? 彼らがクリープハイプとして居続けられたのは、リスナー、そして大衆と向き合い続けた結果、生まれたものであると思う。

そのバンドとしての強さの一端が、この作品展で見られると期待していた。

▲タイトルの下にはこの展覧会からの想いが!

■趣向を凝らした仕掛けからあふれ出てくる“声”

プレミアチケットとなり、ネット上では“行きたかったのに!”という声があふれているのを知っているから、自然と責任感が湧く。さらに、なぜか3人くらいのスタッフさんが僕のあとをずっと付いて来るのもあって(あとから聞くと、外部の人で見るのが僕が初めてだったのもあって、確認したかったそう)さらに緊張が増してきた。

新築の家に入ったような素材の匂い、ビビッドな色使いが、これから降りかかる展示への期待を高める。

まだ会期中でもあるし、どんな声が聞こえてきたか、過度なネタバレはできないが、入ってすぐに真っ青なシャワーがあり、その横に「声を浴びる」と書いてあって、この展示のスタイルを理解する。

▲真っ青なシャワー

クリープハイプの4人のライブやMVなどの声の素材や、この展示のために録りおろした素材も含め、“可視化されない声”をなるべく可視化して来場者に届ける企画なのだと。

▲横にあるハンドルをひねると声が噴き出してくる

実際に、シャワーの横にあるハンドルをひねると、シャワーヘッドから声が出てくる。

「人生で声を文字通りに浴びるのって初めてだな」

そう思いながら、次の展示へと向かう。

道中にはドアがあり、仕掛けがあるものにはそのように書かれている。ドアノブをひねり、開けると、中から声が漏れてくる仕組みだ。実際にメンバーの会話を盗み聞きしているみたいで楽しい。

▲楽屋を模したドアからも声が漏れてくる

ドアのほかにも、楽曲になる前のデモテープ音源が流れるところなどは、ストレートに貴重なものを聞かせてもらっている気分になる。

リリースには「潜ったり、覗いたり、撃たれたり」などと、およそ声を形容する言葉とは無縁の宣伝文句が踊っていた。

潜る? 覗く? 撃たれる?

そのひとつひとつが、作品展で歩を進めるたびに、伏線を回収するように理解できていくのも、面白い。

個人的には、すぐに構成などを考えてしまうタチなので、自分の中の好みとして、側は豪華に、でも中身はくだらない、というものが非常に好きだ。

▲声を温める・声を冷やすという面白い仕掛け

▲受話器の向こうから聞こえてくる声は…!?

▲展示の中で一番くだらなくて面白かった引き出し

▲音に潜るとはこのことか…

今回の展示のなかでも、電子レンジを開けると声が聞こえてくる、受話器を取ると聞こえてくる、電球の傘みたいなものに入ると聞こえてくる、という仕掛け自体にワクワクして、さらにそれが脱力するようなものだったから、さらに面白かった。(引き出しシリーズはくだらなすぎるので、ここに来れなかった人にも何かの形で披露してほしい、メタバースとかでできないのだろうか…?)

■グッと来たあとの仕掛け

声、というのは、クリープハイプを構成するものとして、非常に重要な要素であると感じる。

ボーカルの尾崎世界観の高い声について、普通の人であれば目を覆いたくなるような誹謗中傷をSNSで書き込まれることもあれば、もっとライトに「あの高い声が嫌いなんだよね」みたいにしたり顔で話す人に出くわしたことが、クリープハイプファンであればあると思う。まさに社会の窓から引用すると「余計なお世話だよバーカ」であるが、そこも逆手にとって、吸収して肥大していくのがクリープハイプの良さだ。

コロナ禍はミュージシャンにとっても大きな痛手となったが、クリープハイプは制限あるなかで、さらにファンクラブ限定の配信を行うなどの“制限”を自分たちにかけて、自身のリスナーに向き合い続けた。

展示の後半、尾崎世界観の2015年、2018年、2019年、2021年と、さまざまな年のライブMCでの「ありがとう」を、過去から現在に順に聞ける仕掛けには、思わずウルッときてしまった。自分たちのリスナーにわかりやすく感謝を伝えるタイプのバンドじゃないからこそ、こういうことをされるとグッとくる。

▲尾崎世界観の「ありがとう」は特別に沁みる

ただ、そこで終わらないのがこの展示の素晴らしいところ、というかクリープハイプというバンドを理解しているスタッフによる仕事だな、と感じる仕掛けが声に撃たれる、だ。

▲声を浴びて日常に引き戻された感じがあって良かった

“ぐっときた、そのままの良い気分では帰しませんよ、そういう価値観を持っているから、このバンドを好きなんですもんね?”という、この展示を作ったスタッフからのメッセージのように僕は受け取った。

つくづく、バンドはファンを信頼し、ファンはバンドを愛し、スタッフはその双方に愛情を持って橋渡しをしている、クリープハイプは幸運なバンドなんだなと、この展示を見て、改めて思った。

クリープハイプは、ライブハウスツアーを2月より、そのあと3月にアリーナツアーを幕張メッセ国際展示場と大阪城ホールで開催する。さらに2月3日には芸人のニューヨークとの2マンライブ『ニューヨークリープハイプ』を豊洲PITで開催する。

2023年も音楽の範囲にとどまらないクリープハイプの活動を浴びていきたい。

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