「Sound Forest」の運営者が語る、心地よい環境音を作るためのこだわり
2023年03月29日 17時00分WANI BOOKS NewsCrunch
新型コロナウイルスの流行によって高まった巣ごもり需要。そうした社会的背景と相まってYouTubeの視聴環境も大きく変わってきた。仕事や家事をしながらYouTubeで環境音に耳を傾けるという習慣は、ここ数年で大きく増加している。
そうしたトレンドにいち早く着目したのが、小山皐氏が運営しているYouTubeチャンネル「Sound Forest」。音とイラストをテーマにさまざまな環境音動画を投稿し、これまでにチャンネル登録者数は23.4万人を突破している。YouTubeチャンネルを始めたキッカケ、環境音やイラストへのこだわり、今後の展開について小山氏にインタビューした。
■チャンネルのコンセプトに影響を与えた田園風景
――そもそも、どのような経緯でチャンネルを開設したのでしょうか?
小山皐(以下、小山) もともとはゲーム会社で働いていたのですが、基本的に自分が作ったゲームに対して直接意見をもらえる機会が少なくてモヤモヤを抱えていました。というのも、僕はずっと自分の成長のためにフィードバックをもらいたかったんです。そんななかで、自分の得意分野でもあったイラストとサウンドに着目して、YouTubeであれば“フィードバックを得られるんじゃないか”と思って始めたのがキッカケですね。
――今でこそ音とイラストに着目したチャンネルは多いですが、それこそ3年前はまだまだ少なかったですよね。こうしたテーマが伸びるという確信は当時からあったのでしょうか?
小山 以前は、ゲーム制作の成果を投稿するチャンネルだったのですが、新型コロナウイルス感染症が流行り始めたタイミングでマーケティングをしてみた結果、環境音動画の需要が高まってくるのではないかと気づいたんです。
当時、何気なくYahoo!ニュースのコメント欄を見ていたら、そこで面白いコメントを見かけたんですよ。たしか「勉強するときに何してますか?」という質問に対して、「携帯ゲーム機のBGMを切って、ゲーム内に流れている環境音サウンドと背景だけ見て勉強してます」というコメントだったと思うんですけど、それに対してかなり好評価がついていて。それを見たときに、ここにビジネスチャンスが転がっているんじゃないかと思って、現在のスタイルに落ち着きました。
――コロナの流行によって、YouTubeそのものの需要が大きく高まりましたよね。手応えを感じたのはどのタイミングでしたか?
小山 一番古い動画(「夏、海の見える、誰もいない部屋で。」)が大きくバズったときですかね。これをキッカケに視聴者さんからのコメントをもらえるようになって、ある程度のフィードバックが得られるようになって、自分のやりたいことができるようになったので、これでいけるんじゃないかなという確信に変わりました。
――動画のバリエーションが豊富で驚かされるのですが、そういったコンセプトはどのように決められているのでしょうか?
小山 ひたすらアイデア出しをするようにしています。アイデアっていうと、よく天才が“寝ていたら思い浮かびました”みたいなことを言われますけど、多くの人にとっては毎日疲れるほど考えた結果、ふとした瞬間に浮かび上がってくるものなんです。
例えば、1時間くらい会議中にアイデア出しをしてたけど、全く浮かんでこないこともありますよね。でも、会社を出て電車に乗った瞬間に浮かび上がってくるみたいなことがよくあるんです。そういうのは全部メモして、あとから見返しできるようにしています。アイデアを常に貯蔵しているイメージですね。
――必死になって考えるというよりは、生活のなかで自然と浮かんでくる感じなんですね。
小山 日常的かつ幻想的なものというのは、ありふれているけれど意外と気づかないものなんです。例えば、学生時代に1人で教室に残って空を見ているときって、人がいないのが幸いして入射光が綺麗に見えることがあったと思うんですよ。普通の教室なのに、やけに幻想的に見えるというか。
アイデアというのは、そういった情景をしっかり記録したり、記憶したりとかすることで浮かんでくるものだと思います。そこをなあなあにしてしまうと、中途半端な絵になってしまうんですよ。そういう自分の記憶を大事にするのは心がけていますね。
――Sound Forestさんの動画には、とてつもない郷愁感を感じるんですよね。その辺りも、ご自身が経験された記憶から影響を受けて作ったのでしょうか?
小山 それはあると思います。私の知人のイラストレーターさんとか見ていても、自分たちの幼少期の体験したものに対して、アイデアを思い浮かべることが多い気がします。というよりも、自分が経験したことのないことというのはできないんですよ。私の両親は静岡の御殿場に住んでいたんですけど、最近は近くにアウトレットができた関係で、かなり都市化してしまって。今ではマンションも大量に建てられて、郊外都市みたいな雰囲気すら出ているんです。
なので、小学校の頃に自然の風景を感じたくて、市が運営している「田舎へ行こう」みたいな企画で、新潟県によく出かけて田舎の風景を撮影するということをしていました。それが私にとっての原風景になっていて、Sound Forestのコンセプトにもつながっているんだと思います。
■心地よい音と不快な音のバランスを意識しています
――ご自身で環境音を録音されていると思うのですが、そういう環境音はどのように見つけているんですか?
小山 あえて見つけに行くこともありますし、ピクニック行ったときに偶然見つけることもありますし……多種多様ですね。本業があるので隙間時間にやらないといけなかったりするので、常に音に対する感覚を研ぎ澄ましています。
――音に対して敏感になっていると。
小山 そうですね。例えば、東名高速道路を走っていて、静かなときというのはリラックスできるんですけど、渋滞していて車がひしめき合っていたり、クラクションが鳴ったりしているときというのは、ちょっと恐怖を感じてしまう自分がいて。たぶんピアノとかも弾いていた関係で、音に関して敏感なんじゃないかなと思うんですけど。
あと、川といっても、川の水深によって音階が変わってきたりもするので、川のどこで録音するのかによっても、心地良く聞こえる音というのは違うので。だから、常に音に対しては敏感でいるようにしています。
――それは聞いていてわかる気がします。Sound Forestさんの動画に「斜陽の差し込むキッチンで夕飯の支度をする。」があると思うんですけど、お玉の音だったりとか、沸騰する音だったり、包丁をトントンする音だったりっていうのを、心地よいところで収めているのがすごいなと思って聞いているんです。音へのこだわりという部分を聞かせていただけますか?
小山 キッチン系の話ですと、例えば、炊飯器とかって冷蔵庫の上に置いたり、板の上に置いたりしているので、お互いに共鳴して重低音が鳴ってしまうんですね。その状態で鍋の中でお玉をかき回す音を加えてしまうと、重低音の上に高音が重なってしまって、どうしても聞きづらい不快な音になるんです。常に心地よい音と不快な音のバランスには気をつけています。
――沸騰する音を直火を使ってやるのもこだわりなのでしょうか?
小山 そこは完全にこだわりですね。というのも、IHだと重低音が入ってしまうので確実にダメなんですよ。鍋とIHの境目に水滴が残ったりととかして、それが鍋とIHの隙間で沸騰して、雑音に聞こえてしまうんです。
――なるほど。沸騰音はどのような道具を使っているのでしょうか?
小山 アルコールランプですね。アルコールランプだと、水滴が落ちることもないですし、水も火の元に垂れてこないので、雑音にもならないんです。あとは、鍋とは違って上からマイクを下ろすことができるので、沸騰している感じをリアルに演出できるので、最近だとアルコールランプの上にフラスコを置いて撮る、というのが多いですね。

▲動画『音声の制作/第一弾/沸騰する音/』より
――これまでに苦労した環境音はありますか?
小山 かなりありますね。意外に思われるかもしれないのですが、セミの声って大変なんですよ。セミの声が聞こえる場所に録音しに行くんですけど、基本的に都市部とかにいるセミって単発で鳴くので、どうしても私たちに馴染みのあるセミの音にはならないんです。そうなると、あえてセミたちがいっぱいいるような山を探さなければいけないので難しいんですよ。
――自然音は簡単だと思っていたのですが、違うんですね。
小山 逆に、焚き火のようなものはコントロールできるんです。薪を乾燥させたりだとか、投入する油の量を調整したりすれば、パチパチ音を増やすことができますし、風が吹いていても風防をつけることである程度は解決できるんです。完全に自然にコントロールされてしまうような環境音は難しいですね。
■最終的にはクリエイターさんが集まる場所にしたい
――音だけではなく背景イラストも制作されていますが、音楽と調和させるために気をつけていることはありますか?
小山 あんまり現実味のなさすぎる風景を書かないことですね。音作りが大変になってしまうんですよ。ファンタジーなものに関して言うと、難しいのが天空に浮いている城。そもそも“空の音っていうのが、どういう音なのか”というのが共有されていないので、それがどういう音なのかを考える作業が出てくるんです。なので、最初から日本に存在する音で、調和が取れそうなイラストを考えて制作するようにはしています。
――動画を制作されるときはイラストが先なのか、音が先なのか、どちらなのでしょうか?
小山 両方ですね。例えば、焚き火の音やセミの音のように季節性のあるものは、先に現場に行って音を大量に録音してきて、それを聞きながらイラストを起こすことが多いです。
もうひとつが、イラストをベースに音を作るパターンですね。洞窟の音とかだと、最初に洞窟のイラスト作っておいて、それに合うような音を自宅で録音して、それをコンピューター上でエコーをかけることによって、洞窟に合うような音にしています。
――となると、ファンタジー系の動画というのは後者になるわけですね。
小山 ファンタジー系に関しては確実にそうですね。誰も体験したことのないような音を作りたくてファンタジー系の動画を始めたので。最初から音ありきで作っちゃうと、どうしてもこじんまりしたイラストにしかならないので、派手な絵を1枚仕上げてから、それに合うような音を録音する形にしたほうが、コンセプトに合う動画が作れるような気がします。
――動画についたコメントはチェックしていますか?
小山 それこそ詳しく評してくれているコメントは重宝していますね。ここが良かった、あれが悪かったみたいな。
――悪いのも。
小山 そうですね。悪いところだけじゃなくて、誹謗中傷が入っているようなコメントは不快なので削除するんですけど、単純にここが良かった、ここが悪かったみたいなコメントは参考にしています。発想は良かったけど、絵があまり追いついていなかったみたいなことを自分で思っていたときに、イラスト関係に詳しい方から「今回は影の付け方が悪かったね」といったように具体的な改善案をいただくとうれしくなりますね。
――そうしたフィードバックを次の動画に活かすこともあるんですか?
小山 かなりありますね。最近はだいぶ思考が固まってきて、改善すべきところっていうのが見えてきて、初期の動画と最近の動画を比べてみるとだんだんとアップデートされているのがわかると思います。ただ、すぐに次の動画で改善できるかっていうと、難しい音があるのでできないんですけど、できるだけ半年以内に改善しようという心積もりでやっています。
――今後、どのようなチャンネルにしていきたいですか?
小山 今のところ考えているのが、“クリエイターさんが集まる場所にしたい”ということです。最近は音楽家さんたちにお金を払って作曲してもらったり、私自身もシンセサイザー用いて作曲して動画を制作したりすることがあるんですけど、最終的には私ひとりではなく、いろんな方がさまざまな世界観を構築していけるような場所にシフトしていけたらいいなと思っています。
■プロフィール
小山 皐(こやま・さつき)〈「Sound Forest」制作運営〉
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