「画面越しでも人の手による温かい接客を」コミックシーモアの信念

リアル書店には書店員さんがいます。そして、電子書店にも“顔が見えない”書店員さんがいます。なかなか実態が見えない電子書店の“中の人”に、アレコレ聞いてみる『教えて!電子書店の“中の人”』。

今回は、2023年の8月で19周年目を迎える老舗電子書店「コミックシーモア」を運営する、NTTソルマーレ株式会社の須藤さんと石井さんにインタビューしました。

▲業界最大級のラインナップを揃える、コミックシーモア

■ユーザー同士で疑問を解決するカスタマーセルフ

――まずは自己紹介からお願いします。

須藤 NTTソルマーレ電子書籍事業部の須藤と申します、本日はよろしくお願いします。コミックシーモアのサイトサービス、キャンペーンの企画や費用の面など、主に企画業務の全般的なところを担当しています。

石井 同じくNTTソルマーレ電子書籍事業部の石井と申します。本日はよろしくお願いいたします。コミックシーモアのサイト運営業務にあたっておりまして、主にキャンペーン運用を行うチームに所属しております。

▲NTTソルマーレの石井さんと須藤さん

――それでは「コミックシーモア」の紹介をお願いします。

石井 「コミックシーモア」は、2004年からガラケー向けサービスとしてスタートしておりまして、今年の8月で19周年目を迎えます。コミックに限らず、小説・実用書なども販売しておりまして、現在は、100万冊を超える業界最大級のラインナップを揃える総合書店として運用しております。

――コミックシーモアさんは女性のお客様が多いイメージなんですが、弊社の書籍だと、女性タレントさんの写真集もよく売れている印象があります。最近、男女比や年齢層などに変化などありますか。

須藤 おっしゃる通り、もともとは女性のお客様に多く利用していただいてましたが、直近は広告の効果もあって、男性のお客様も増えてきています。

――CMがあると認知度がぐんと上がりますよね。では、特徴やアピールポイントなど他書店との違いを教えてください。

須藤 まずはキャンペーンですね。出版社様からいただくキャンペーンもそうですし、コミックシーモアのオリジナルキャンペーンを含めると月1,000本以上は実施しています。キャンペーンの量もそうですが、特にスタッフがそれぞれ独自観点で作っているオリジナル企画。漫画のおすすめ特集を作ったりとか、クイズとかミッション形式でポイントを貯めていただく「シーモアでポイ活」など、お客様に楽しんでいただけるような企画をご用意しております。

他社との違いという意味でいうと、2021年9月から「シーモア島」というコミュニティサービスの運営を開始しています。コミックシーモアのサイトに関することだけではなく、漫画の作品に関する疑問などを投稿しながら、お客様同士で盛り上がっていただける仕組みになっています。

シーモアのお困りごとを解決するQ&Aコミュニティサイト|漫画(まんが) ・電子書籍のコミックシーモア( https://www.cmoa.jp/island/ )

コミックシーモアの使い方だけじゃなくて、「クーポンが出てるので、何かおすすめの漫画を教えてください」のような質問とか、コミックシーモアに関するご意見や疑問などをいただきながら、シーモアをより良くしていくための投稿をいただいています。

このシーモア島のお客様を「島民」って呼ばせていただいているんですけど、我々よりサービスに詳しいんじゃないかと思うくらいです。島民の皆様には情報発信もしていただいており、日々感謝しかございません。

――すごいですね、コミックシーモアさんも公式としてコメントしたりするんですか。

須藤 頻度はそれほど高くはないんですが、公式という形で定期的に「今年読んで面白かった漫画を教えてください」といった投稿をしています。

――そこから企画案が生まれたりもするんですか。

須藤 はい。キャンペーン企画やサイトの機能改善にも活用させていただいてます。

――拝見していると機能に対する質問もあって、これって誰が答えるんだろうと思っていたんですが、他の島民の人たちが答えてくれてたりもしてますね。

須藤 「カスタマーセルフ」と呼んでいるんですが、何か疑問だったり使い方がわからなかったときに、弊社のカスタマーにお問い合わせいただく方法もあるのですが、「シーモア島」でのお客様同士のやりとりで解決するほうがスピードが早かったりします。

――レビューもすごく充実してるなと思いました。レビューのランキングもついているし、レベルによってキャラクターの顔も違いますね。

須藤 そうですね。弊社のキャラクター「ヨムビー」の顔などを使いながら、レビュアーという形でレビューを機能として入れることで、漫画好きのユーザーさん同士でつながれるような場所になればと思っています。

■シーモアのお客様からスタッフになる人が多い

――電子書店員としての普段のお仕事を教えてください。

須藤 弊社のオリジナルキャンペーンも含めてなんですが、今後どういう施策をやっていくか、その企画検討をしている時間が多いですね。定量的なデータ分析もやるんですが、アイディアが出るのって「どんなのが面白いんだろう」とか「お客様が喜ぶのってなんだろう」と、スタッフみんなで議論していくなかで生まれることが多いです。

特に「どういう作品をお客さんに届けるか」については、石井のところのスタッフも漫画好きのメンバーが多く、ノウハウもあるので、データや数字が取れる時代になりながらも、やっぱり“人の力だな”と感じています。

――好きなことが仕事に役立てられるのはすごくいいですね! こういう話を聞くと、漫画好きな方は御社に入りたいって思うんじゃないでしょうか。

須藤 そうなんです、お客様からスタッフになる人が多いんです。

石井 うちのチームにもいます。

――それはうれしいですね。本当にシーモアさんが好きで入るって。

石井 そうですね。やっぱり、あのテレビCMを放映したぐらいから、かなり増えた印象です。知名度が上がった効果だなと思っています。

――なるほど。石井さんの普段のお仕事も教えてください。

石井 須藤の話にもありましたように、日々どんな作品をお客様に届けるかという点においては、チーム内で人気作の動向を探ったりしています。漫画好きのメンバーがたくさんいますし、SNSなどメディアで話題に挙がってる作品などの情報収集力が高いメンバーもいますので、そういった情報をチームで共有し合っております。

そういう情報のサイト掲載だったり、キャンペーンに反映できる運用を心がけてやってるんですが、やはりサイトの顔であるトップページには、いま話題の作品、これから人気になりそうな作品を探しに来られていると思いますので、そういう作品を瞬時に訴求できるような運用がすごく大事だと考えて、チームメンバー全員で取り組んでいます。

――スピードも大事にされてるんですね。

石井 はい。グループチャットなどで情報をやり取りしてるんですけど、在宅勤務をしているっていうこともあって、「テレビで今、この作品が取り上げられてましたよ」とか教えてくれるんですけど……仕事中だし、言っていいのかなって思っちゃいます(笑)。

――(笑)。仕事中にテレビを見ているという罪悪感よりも、素直に情報を共有することを選んだんですね。

石井 そういった作品の情報もすぐにサイトトップに反映して、お客様にアピールしているっていうのも強みだと思ってます。

――書店員として「面白さ」を感じるのは、どんなときでしょうか?

石井 私たちが企画したキャンペーンについて、お客様がシーモア島で盛り上がっているのを見るとうれしいですね。企画を作るのも時間をかけてやっておりますので、しっかり吟味した内容が届いていると直接伝わってくるので、本当にシーモア島のお声はありがたいと思ってます。

――では逆に、苦労や悩みはありますか?

石井 先ほど情報収集のお話をさせてもらったんですが、どの作品がヒットするかという目利きが難しくって。いろんな作家様だったり出版社様が日々たくさん作品を出されているなかで、お客様に響く作品はどれかっていうのを考えて運用していくのは本当に難しいことだと思います。日々の情報共有のなかで面白い作品を逃がさないように、私たちも常にアンテナを立ててやっていかなきゃいけないところが大変なんですけど、楽しいところです。

――基本的にはSNSですか?

石井 SNSがメインですね。漫画好きの方が投稿されてる内容からでもヒット作が見つかるようなこともありますので、そういった漫画好きのメンバーがTwitterを日々追っかけたりとかもしてますし、弊社のSNS担当も業務の中でそういった検索をしていたりします。

――最初に少しお聞きしたのですが、コミックシーモアさんならではの販促キャンペーンについて教えてください。

須藤 独自色の強い企画をやっていると思うんですけど、「2022年度に完結した作品BEST HIT!!」&「2022年度に発売した新作BEST HIT!!」というキャンペーンを行いました。ランキングで作品をユーザーにお届けするのは、よくある手法だと思うんですが、もうちょっと新鮮な切り口でランキングを作れないのかな? みたいな議論があったんです。

そのときに出たのが、これまで楽しませてくれた漫画と、これから始まっていく漫画の二本立てでキャンペーンを作ったら面白いんじゃないかと。そしたら、ものすごく大好評をいただきまして。「これはまたやろう!」ということで、2022年度版を展開させていただきました。冒頭でも話しましたが、みんなで議論しながら、データではないところで考えて成功した良い例だと思ってます。

2022年度に完結した作品BEST HIT!!《女性・男性マンガ編》|漫画(まんが) ・電子書籍のコミックシーモア( https://www.cmoa.jp/special/?page_id=230303_besthitjg#jump )

――完結作品のランキングが特にいいなと思いました。「完結してるよ」「一気に全部読めるよ」ってまとめてくれると、本当にありがたいです。

須藤 毎回「もうアイディア出えへんやろ!」みたいな気はしてるんですけど(笑)。誰かが言ったところに、他の人のアイディアが足されて足されて……そんな感じです。

■シーモアスタッフおすすめの作品とは?

――次は仕掛けて売れた本の話に移りたいと思うんですけど、『鬼の花嫁』の勢いがすごいですね。

noicomi鬼の花嫁1巻 |無料試し読みなら漫画(マンガ)・電子書籍のコミックシーモア( https://www.cmoa.jp/title/239726/ )

石井 本当に幸運なことに『鬼の花嫁』がコミカライズされるタイミングで、コミックシーモアの先行配信をやらせていただけることになりまして。お話いただいた時点で社内的にも「これ絶対に売れるぞ」「人気が出るぞ」という温度感になりました。

3月の初回配信の時点で、かなり大々的にキャンペーンを打ちまして、積極的な広告展開もしてまいりましたので、電子書籍だったりシーモアのことをご存知ないような新しいお客様も獲得することができたかなと思います。本当に『鬼の花嫁』のおかげで、多くの方にシーモアを知っていただける機会が増えたと思っております。

結果的に、コミックシーモア史上初めて、4ヶ月連続月間総合ランキング1位を獲得するヒット作品になりました。今でも続編を楽しみにお待ちいただいていますので、今後もシーモアで盛り上げていけたらと思っております。

――トップページにあるメインジャンルに、異世界・転生が並んでいますよね。『鬼の花嫁』は現代が舞台じゃないですか。だから、わかりやすい人気ジャンルとは少しずれてるような気がしていたんです。

石井 でも、異世界トレンドの流れから話題になったと思います。読者の方が異世界の空気というか、雰囲気を受け入れたからこそかなと。

――では、個人的に推したい作品を教えてください。

石井 ドラマの流れから『大奥』にハマっていたんですけど、ドラマ放送時からシーモアでも本当に売り上げ好調の作品で、私も例に漏れずしっかりハマっているところなんですが、その大奥の流れで歴史物の漫画を気にして見るようになったんです。個人的に推していきたいと思ってるのが、『神作家・紫式部のありえない日々』という作品です。

タイトル通り、紫式部さんが主人公なんですけど、平安時代の超人気同人作家という設定で源氏物語を書いていくお話が今風に展開されてまして、登場人物たちのセリフの言い回しとかもすごくテンポよく、今風の言い回しをされているのですごく楽しくサクサク読めるお話になってまして、ちょうど来年の大河ドラマも紫式部なので、理解するためにもとてもいいなと思って今読んでおります。

――弊社にも『暴れん坊少納言』という、紫式部のライバル・清少納言を題材にした作品がありますので、もしよろしければ。では、須藤さんの推したい本をお願いします。

須藤 有名なタイトルなんですが、大学時代から『あひるの空』が大好きで、バスケットをやってたっていうこともあるんですけど、身長149センチのめっちゃ小柄な男子高校生がバスケットをやっていくって設定も面白いんですけど、家族間の愛情だったり、思春期ならではの友情関係とか、異性関係の繊細さみたいなものが丁寧に描かれているので、何回読んでも面白いし、感情移入しやすく読めるところがすごくおすすめな漫画です。

――最後にこれから取り組みたいことを教えてください。

須藤 基本的にコミックシーモアは、全てのお客様に同じページを見せているんですが、先ほどの異世界のような新たなジャンルが出てきたり、お客様の求めるものも多様化してきていると思っています。なので、お客様が一番求めているものを届けていけるよう、パーソナライズ化に取り組んでいきたいと思っているところで、今いろいろ考えています。

やはり、技術面のテクノロジーもどんどん進化していってますので、ほかの書店さんも入れられてるようなAIを使ったレコメンドだったり、自動最適化が進んでいくと感じていますので、コミックシーモアでも最新のテクノロジーを積極的に取り入れていきたいと思っています。

ただ、個人的な意見なんですけど、それだけだと何か機械的で画一的な画面になってしまうので、血の通った温かい接客は大事にしたいと思っています。今まで培ってきた、それこそ石井のところのスタッフの力だったり、人の手での運用を大切にしながら、出版社様との連携も生かして健全に電子書籍市場を発展させつつ、お客様に作品を届けられればいいなと思っています。

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