朝から飲める川崎の「角打ち」酒場で見た、飲んべえの原風景

■早朝から並んで飲んだ昭和の労働者

川崎はいい町です。駅前はずいぶん新しくきれいになりましたが、すこし歩けば、飲み屋が軒を連ねている。どこを歩いても、とにかく飲み屋が目に付く。この町の人は、酒を飲まないとやってられないんじゃないかって思うほど、あちこちに酒屋があって、どこも客が入っている。この街には競輪と競馬、2つの公営ギャンブルもあります。きっとここは労働者の安息の地で、だから私はこの街にいると落ち着くんでしょう。

▲今日はこちらのお店に。お気軽にどうぞという文句も営業時間もいいですね

福来屋は1933年創業に歴史ある酒屋さんです。かつて、この一帯には労働者が集い、周辺には酒屋が並んでいたとか。お店は朝8時のオープンですが、その昔は開店前から店の前に酒を求めるおじさんたちが列をなしていたそうです。?

▲左が酒屋で、右が立ち飲みコーナー

扉をガラッと開けると奥行きのある作りの店内。どうやら壁のテーブルで立って飲むすスタイルなんでしょう。店内にはなぜか膏薬の匂いがします。先客の誰かが病院帰りなのかしら。診察の帰りに思わず飛び込んでしまったのかしら、なんて想像したり。暮らしに寄り添っている感じがする飲み屋っていいですよね。さっそく奥のカウンターで注文しましょう。

▲惣菜はすべて手作りです。

この日は夕方に訪れたので、あまり残っていませんでしたが、魅力的なつまみばかりが並んでいます。塩辛、なすの煮浸し、梅干し。酒飲みの気持ちを完全に掴み切った怒涛のラインナップ。これはたまらん。なにより安い。聞けば、惣菜をお土産に持って帰る人もいるとか。たしかにどれもうまそうだ。目移りして悩ましいけど、とりあえず、ニラ玉とレモンサワーを注文してお代を払います。

こういう店はたいていキャッシュオン。お財布と相談しながら酒を飲む感じも悪くない。「今日は1000円だけにしよう」と思っても、いつも予算オーバーしちゃうのは誰の話かしら。?

▲レモンサワー340円とニラ玉150円

見てください、このすばらしい組み合わせを。ニラの緑と玉子の黄色の鮮やかなコントラストに、サワーグラスが清涼感を与えています。もはや一幅の絵画ですね。

?▲そんなこと言ってるけど、すぐに飲んじゃいます

まずはサワーをひとくち。うんうまい。まだ陽が高い中を駅から歩いたもんだから、汗がシャツを濡らしていたのですが、この一杯が、身体中にじわーっと染み込んでいくのを感じます。いやあうまい。焼酎は濃い目で、喉の奥がひりっとするのがたまりません。立ち飲みの正しいレモンサワーという感じがします。

▲同行した担当編集オジマの注文もなかなかなもんです。酒飲み偏差値が高いや。

横で飲んでいる担当オジマのナスに目を奪われつつも、注文したニラ玉をいただきましょう。お。味付けがしっかりしているのは鶏ガラスープかな。ニラが想像以上にたくさん入ってるから「贅沢に使うんですね」って聞いたら「1わ全部入れちゃった」と店番をしていたお母さんから気前のいい答えが返ってきた。

いいなあ。店を切り盛りしているのは3代目で、そのお母さんもまだ現役でお店に立っているんだって。惣菜はぜんぶ手作りって言ってたから、その日の朝に何を作ろうか考えるんでしょう。酒飲みが喜びそうなものを用意して待ってくれるから、私たちも今日はどんなつまみがあるのかなって、わくわくと心躍らせのれんをくぐるんです。いいないいな。こういう店は日本全国でチェーン店にして展開して欲しい。

■断言! カレールーはおつまみです

▲いいつまみをみつけてしまった

レトルトカレーが売ってることに気がつきました。ライスも注文できるようですが、「アタマ」だけで飲むのが私は好きなんです。ちなみにこちらのつまみは、注文すると、レンジで温めてくれます。そんな小さな気遣いがうれしいですよね。お金を払って席に戻り、しばらくすると「できたよ」の声。お皿に入ったカレールーからは食欲をそそるいい香り。カレーはごはんにも酒にも合うってことをみなさんにお伝えしたい。

▲ライスのかわりに、こくのある黒ホッピーを注文します。

カレーはクセというか主張が強いけど、意外とどんな酒にもあう。ビールはもちろん、甘い日本酒にあわせたって悪くないでしょう。そして、カレーをつまみに酒を飲むようになると、酒飲みの階段を一気に駆け上がった気がします。いや、蒲田行進曲よろしく大階段から滑り落ちているのか。まあいいや。とにかく、目の前にある食べものが酒のつまみにしか見えなくなったら、酒飲みとして次のステージに進んだと言っていいでしょう。痛風の扉もすぐそこに見えてきたんじゃないかしら。

?▲そりゃうまい。

160円でこれだけ満足度を与えてくれるつまみが、かつてあったでしょうか。小麦粉だから腹も膨れるのはご愛敬。スプーンでカレーを口に運んだら、すかさずホッピーをゴクリ。中辛というどっちつかずの立場でいてくれるおけがで、酒によくあう。カレー、ホッピー。カレー、ホッピー。あっという間に、お皿はからに。

▲らっきょうをルーにくぐらせるのもいいんです

3代目に話を聞くと、昔と比べてお客さんもすっかり変わったって。昔は労働者の方ばかりで、店内では競馬中継を流していたけど、今は若い女性が一人で訪れることもあるそうです。店も街もそうやって姿を変えていくけど、この店の温もりは昔から変わらないような気がしました。

▲ビーフじゃないけど、どっちだっていい

私が思ういい立ち飲み屋の条件って、一人でいても寂しくないことだと思うんです。誰かに話しかけて欲しいわけじゃない。店に一人でぽつねんと飲んでいるときに、テレビなんか眺めながら、ひたすらぼうっとできることが私はうれしい。

横にいた年配の常連さんらしき御仁は、黙々と酒を飲んで、おかみさんに軽口をいくつか叩いて、すっと帰って行った。その光景を見たとき、この常連さんにも明日は訪れるんだよなと、当たり前のことを思ったわけです。毎日が永遠に続くから、息をするようにこの店を訪れ、酒と惣菜をお腹におさめたら店をあとにする。あの方はきっと明日も福来屋を訪れることでしょう。その何気ない日常が私は愛しく思えたんです。

労働者の街、川崎でずっと愛されてきた店の、やさしい空気を感じたところで、さて次はどの店に行こうかしら。ふらりふらりと次の街へ。

〈店舗情報〉
■福来屋酒店
住所:神奈川県川崎市川崎区日進町18-2 RAMSESMER 1F
電話:044-233-0300
営業時間:8:00〜18:30
定休日:木曜日 ? ?
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店前にご確認ください。

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