「コレうまい!」素人の料理自慢が作ったものが大絶賛される理由

コロナの感染拡大により、特にダメージが大きいのは飲食業界だろう。そんな中で、飲食店ビジネスを志す人は少ないかもしれないが、おうち時間で料理に目覚めた人に警鐘を鳴らす意味も込めて、人気ラーメン屋の店主でもあるプロレスラー・川田利明さんの厳しい体験を紹介する。

※本記事は、川田利明:著『「してはいけない」逆説ビジネス学』(ワニブックス:刊)より、一部を抜粋編集したものです

■料理自慢の人、他人の褒め言葉には注意!

ラーメン屋を開業しようと考えている人は、少なからず料理に自信のあるんだと思う。友達に食べてもらったら大絶賛され「もうプロになっちゃったほうがいいよ!」と言われて、その気になってしまったような人もいるだろう。

ハッキリ言って、そういうパターンの人こそ、本当はラーメン屋になってはいけない、と俺は思っている。

これは飲食店に限った話ではなく、友人や知り合いが「プロを目指したほうがいい」なんて言うのを、そもそも真に受けてはいけない。こんなに無責任な発言はないし、言ったほうは何日かしたら、そんなことすっかり忘れているから、店をオープンしたところで、客として来てくれるかすら怪しいと思う。

じゃあ、本当のプロから「君は店を出したほうがいい」と言われたら信じてもいいのか、という話になるけれど、本当にすごい腕前だと感じていたら、わざわざ「商売敵」を作るようなことはしないだろうから、そんなことはお世辞でも絶対に言わない。

俺の下で働かないか、とスカウトされたら話は別だが、とにかく周りの声に影響されて「ラーメン屋になろう」と考えている人は、ちょっと考え直したほうがいい。素人の料理自慢と、プロの料理人は似ているようで、まったく違う。

▲料理自慢の人、他人の褒め言葉には注意! イメージ:PIXTA

あなたが作った料理を、友達が喜んで食べてくれた?

それは当たり前のことだ。「無料」で食べさせてもらえるのだから、誰だって喜んで美味しそうに食べてくれるよ。

人間関係だってあるから、さすがに面と向かって「あんまりおいしくないね」とも言えないし、残したら失礼だから、みんな綺麗に完食してくれる。

作った側からしたら、もうそれだけで嬉しくなってしまうけど、あくまでも友人の「気遣い」や「忖度」でしかない。

「美味しいね」よりも上の褒め言葉を探したら「もうプロ顔負けだね」になるし、最上級の誉め言葉は「もうプロになっちゃえば」になる。これって本当に無責任だし、本当に罪なひとことだと思うよ。

■プロの仕事には予算も時間にも制限がある

でもラーメン屋は、自分で「やろう!」となったら、開店資金さえあれば、すぐになれてしまう。味付けだってオリジナルでいいわけでだから、どんどん参入してきては、アッという間に撤退する……という悲劇が繰り返されてしまうのだ。

友達に大絶賛されて、その気になっている人は、いっぺん「1人1000円ずつ徴収します」と言って、もう一度、食べてもらったほうがいい。きっと、多くの友達が「ちょっと、その日は都合が悪い」と遠回しに断ってくるだろうし、来てくれた友達の感想も辛口のものになってくるんじゃないかな。そういう「本当の感想」を聞いてから、自分の進む道を決めたって遅くはないと思う。

もうひとつ、素人の料理自慢が作ったものが大絶賛される理由がある。

それは儲けなどを考えていないから、際限なく食材にお金をかけられるからだ。ここぞとばかりに張り切って、デパートの地下で高い肉を買ってきているだろうから、予算の上限もなく、高級食材をバンバン使って作れば、誰が作っても美味しい料理になる。

お店で出そうとしたら、それこそ2000円とか3000円の値段をつけないとペイできないような料理を出したら、みんな「美味い!」というだろうし、そうならないほうが逆におかしい。それを700〜800円で、お客さんに提供できるような予算で収めようとしたら、そんな味は出せなくなる。

日曜日に友達を集めて料理を振る舞うために、土曜日をまるまる一日使って、がっつり下ごしらえして、準備万端にするんだろうけど、毎日営業するとなれば、そんな贅沢な時間の使い方も、当たり前のことだけどできない。

▲プロの仕事には予算も時間にも制限がある イメージ:PIXTA

予算にも時間にも制限がある中で、おいしいものを作るのがプロの仕事だ。

それは本当にしんどいことだし、そんな思いをするぐらいだったら「プロになったほうがいいよ!」とちやほやされながら、料理自慢の素人として、趣味で厨房に立っているほうが確実に幸せだと思う。

■新規ラーメン屋の3割が潰れている現実

俺はラーメン屋として、決して成功した人間ではない。順風満帆だったことなんて、一瞬たりともなかったし、それは今でもずっと続いている。

いろんな人から「ここを、こうしたほうがいい」とか「川田さんは、何も分かっていないよ」と忠告されたこともあったけど、アドバイスされることは既に分かっていることだし、どれも試したことだってある。それだけラーメン屋は簡単じゃないんだ。

ただ、ひとつだけ間違いなく忠告できること。それは「俺みたいに意地だけは張るな!」である。

この世界の厳しさを裏付けるために、ここであらためて確認しておきたいのは、新規ラーメン店のその後だ。

「新規で立ちあげたラーメン専門店の3割が1年以内に消える」

リサーチ会社によっては「4割が潰れる」としているところもあるが、共通している数字は「3年以内に8割以上のラーメン専門店は消える」ことだ。

▲新規ラーメン屋の3割が潰れている現実 イメージ:PIXTA

つまるところ、ラーメン屋を独力で立ち上げたとしても、3年後に残るのはたった「2割」にも満たないという現実だ。ただ、逆説的に考えると「8割」の人の傷は浅かったかもしれないし「やめる勇気」があったのかもしれない。

うちもオープンから1年が経過した時点で店を畳んでおけば、ダメージは最小限で食い止められたんだ。

でも、俺はそこで意地を張ってしまった。ここで終わるわけにはいかない、店を潰すわけにはいかない、と。これはある程度、名前が売れている人間が抱えてしまうジレンマかもしれない。

一般の方なら、店を潰してしまっても、ごく一部の人にしか知られることはないけれど、俺の場合「川田がたった1年で店を潰した」と世間に知られてしまうからね。そうなるとやっぱり意地を張りたくなっちゃうんだよね。下手に顔と名前も知られてしまっているから、転職をするのもいろいろと難しいんだ。

となると、店を畳んだとしても、また何か自分で事業を始めなくてはいけない。だったら、すでに1000万円以上も投資してしまった、この店を存続させることを考えたほうがいいのではないか?

そう考えて、俺は意地を張ってしまった。意地を張るって、簡単に思えるかもしれない。ひたすらギブアップしなければいいんだろう、と。

プロレスではそうだった。骨が折れてもギブアップしなければ負けにはならないから、俺はリングの上でめいっぱい意地を張りまくった。

■俺にみたいに「意地」だけは張るな!

でも、ビジネスの世界では違う。店を維持しようとしたら、とにかく金がかかる。つまり『意地を張る=金を遣う』なのである。

いや、正確には『意地を張る=必要以上に金を遣う』。つまり、意地を張れば張るほど、精神的にも経済的にもボロボロになっていくのだ。だから、これから起業を考えている人には、とにかく意地だけは張ってほしくないのだ。

俺みたいにベンツを売却し、保険を解約してまで、店を続けていくのはけっして得策ではないし「ダメだ」と感じたら、早めにギブアップしたほうがいい。

起業する前から失敗することを考えるなんて縁起でもない、という方もいるかもしれないけれど、成功するなんていう「夢」を見るよりも、ひょっとしたら失敗するかもしれないという「現実」に向き合えなかったら、俺みたいに無駄に意地を張って、苦しむ未来しか見えてこない。

だから、絶対に意地だけは張るな。

意地を張らずにギブアップをする勇気がない、という人は、そもそもラーメン屋をやろうなんて考えてはいけないんだ。

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