感染症にかかった時の食欲不振は身体からの重要なサイン

コロナウイルスの感染拡大が続き、手洗いうがいに励む日々が続いていることと思います。そんな私たちにいま必要なのは、1にも2にも免疫力! その免疫力に実は「空腹」が大いに関係していることを、ご存じの方は少ないかもしれません。「免疫力」と「空腹」がどのように関係するのかを、著書が300冊以上もあるスーパードクターの石原結實氏が教えてくれました。

※本記事は、石原結實:著『やせる、若返る、病気にならない ちょい空腹がもたらす すごい力』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

■免疫力とは体内の異物を貪食する力

免疫力という言葉は文字通り「疫(病気)を免れる力」のことであり、その働きの中心を担っているのが白血球です。白血球は血液1?中に5000〜9000個存在し、いくつかの種類があります。

30億年前に海の中に誕生したアメーバ様の単細胞生物が分化・分裂・増殖して、やがて多細胞生物になり、魚類→両生類→爬虫類→鳥類→哺乳類と進化しました。

その頂点に我々人類がいます。始原生命(アメーバ様の単細胞生物)が原形を留めたまま、血液という海(血潮)の中を泳いでいるものが白血球といってよいでしょう。

アメリカのオレゴン健康大学のN・ズーキック博士らは「18年間、30%のカロリー制限を行った“空腹のアカゲザル”は、普通食を与えられたアカゲザルに比べて年をとってもT細胞(リンパ球の一種)が高く、病気になりにくい」と発表しています。

最近は、免疫力の指標として、T細胞やB細胞などのリンパ球の働きがよく話題になります。しかし白血球の親玉(原始細胞)は、マクロファージです。

そして、マクロファージ・好中球のバイ菌や老廃物、ガン細胞などの異物を貪食する力こそが、免疫力の基本の基本です。

円形〜楕円形をした白血球(直径7〜20μ)は、体外からバイ菌やアレルゲンなどの有害物が侵入したり、体内で老廃物やガン細胞が発生すると、自分の体の形を変えて(偽足を作って)こうした有害物を取り込み(貪食)、殺菌・消化・処理します。

▲白血球を空腹にさせて「免疫力」を上げる イメージ:PIXTA

■白血球を空腹にさせて「免疫力」を上げる

私たちが満腹の時は、血液中に糖・タンパク・脂肪・ビタミン・ミネラル類などが存分に存在しているため、それを食べる白血球も満腹状態です。なので、外来のバイ菌、アレルゲン、体内で発生したガン細胞などの有害物を食べようとはしません。

つまり、満腹の時は、免疫力が低下するのです。逆に我々が空腹の時は、血液中も栄養素が不足しているので、白血球も「空腹」になります。なので、バイ菌・アレルゲン・ガン細胞・老廃物などを、それこそ「貪り食う」わけです。

つまり、免疫力は空腹の時に旺盛になります。我々動物が病気や怪我をすると食欲がなくなるのは、白血球を「空腹」にさせて「貪食力≒免疫力」を強くしようとするメカニズムが働くからです。

本当に神様が用意してくれたとしか思えないほど、よくできた仕組みです。それにもかかわらず、一般の方はともかく、医師たちまでもが病気で食欲のない患者に「体力をつける必要があるから、無理にでも食べるように」と食べることを強要します。そして、それでも食べられない時は、点滴によって栄養を補給しようとします。

これではせっかく病気を治そうとしている自然治癒力(免疫力)に水を差してしまうことになるのです。

■食欲がないのに無理に食べるのは「不自然」

食欲不振が体の防衛反応であることは医学的にも明らかにされています。

アメリカのミネソタ大学医学部の教授だったM・J・マレイ博士が、1975年に世界的に権威のあるイギリスの医学誌『Lancet』にある論文を発表しました。以下、要点だけ紹介します。

「飢饉に苦しんでいたサハラ砂漠の遊牧民に食料を与えたところ、しばらくしてマラリアが発生した」

「エチオピアのソマリア遊牧民にも飢餓の時、食料が供給されると、マラリア、ブルセロージス、結核などの感染症が起こってきた」

「中世時代のイギリスで発生した痘瘡は貧しい人々より金持ちの人々のほうが多発した」

「第一次大戦中に蔓延したインフルエンザの死亡率は、十分に栄養が行きわたっている人々が最大だった」

「第二次大戦中、ある過密状態にあったキャンプにおいて、低栄養状態におかれた人々がハシカやチフスに対して最低の罹患率を呈した」

「1830年代に、E・チャドウィックがイギリスの刑務所で行った調査では、
・十分に栄養を与えられた囚人:感染症の罹患率23%・死亡率0.4%
・十分に栄養が与えられなかった囚人:感染症の罹患率3%・死亡率0.16%だった」

「インドでは乾期になり、草がなくなると家畜の餌が少なくなり家畜はやせ細るが、伝染病の罹患率は最低になる。モンスーンの季節になり草が茂り、それを食べて太ってくる家畜の伝染病の罹患率は急激に増える」

これらの事象から、マレイ博士は「我々が食べる食物中の栄養素は、我々の体の維持よりも病原菌の分裂・増殖のほうに利用されるのだろう」と推論しました。そして、この推論を証明するため、博士は次のような実験を行いました。

ネズミ100匹を4群に分ける実験です。チューブを胃に入れて無理に食べさせる群(T群)と感染していないネズミを自由に食べさせる群(U群)に。腹腔内に病原菌を入れて感染を起こさせたネズミを自由に食べさせる群(V群)とチューブを胃に入れて無理に食べさせる群(W群)の4つに分けます。

この実験結果から感染症(肺炎、膀胱炎、胆のう炎など)にかかった時に、食欲がないのに無理に食べさせると「病気の悪化=死亡率の上昇」を招くリスクが上がることがわかりました。

マレイ博士はこうも述べています。「感染症にかかった時には食欲不振に陥るが、食欲不振は自分の体の防御反応に重要な役割を果たしている」食欲がわかない時でも、なんとなくのイメージで「やっぱり体のためを思うと、何か食べておいたほうがいいんだろうか……」と悩む方は多いかと思いますが、ここまで読めば答えははっきりしているでしょう。

▲食欲がないのに無理に食べるのは「不自然」 イメージ:PIXTA

食べたくない時は「食べない」のが正解なのです。食欲がないのに無理に食べるという「不自然」な行為は、さまざまなリスクにつながるのです。

■ウイルスも「空腹」によって分解処理される可能性

2016年10月、大隈良典博士がノーベル生理学・医学賞を授与されました。その受賞理由は「栄養を失って飢餓状態に陥った細胞が、生き延びるために自らを食べる“自食作用”オートファジー(autophasy)」の解明です。

オートファジーの働きには、

@細胞内の栄養の再利用

A細胞内の不要物を分解して掃除する「浄化」作用

B細胞内に入り込んだウイルスなどの病原体や有害物質を分解して細胞を守る「防御」作用

があり、細胞が栄養不足で飢餓状態に陥る時に、そのスイッチが入ります。

よって、飢餓状態(極端な空腹)の時には、人体を構成する60兆個の細胞一つ一つの中で、有害物質や病原体が分解処理され、古いタンパクが壊されて新しいタンパクが作られ、細胞が生まれ変わります。

つまり「60兆個の細胞の総和である人体も、若々しく生まれ変わる」ということです。

この研究成果は、肝炎ウイルス、子宮頸ガンウイルス、エイズウイルス等々のウイルスも「空腹」によって、細胞内で分解処理されうる、ということを示唆しているのです。

関連記事(外部サイト)