100年前に発見された生体の防御の要「マクロファージ」って何だ?
2021年01月04日 18時00分 WANI BOOKS NewsCrunch
新型コロナウイルスのワクチン開発が注目されていますが、ワクチンの効果を高めるためにも、また感染や重症化を防ぐためにも、最も重要なのは人間の体が持つ「自然免疫力」の力。自然免疫の要になるのは細胞内のマクロファージという物質です。
今から100年前に発見されたマクロファージですが、まさに「生体の防御の要」。なくては生きていけない細胞です。マクロファージを強化すれば、免疫力の強化はもちろん、多くの疾病の予防、改善に役立ちます。マクロファージの「正体」と、LPSという物質によるパワーアップ方法について、免疫学者の杣源一郎氏がわかりやすく解説します。
※本記事は、杣源一郎:著『免疫ビタミンLPSで新型コロナに克つ -感染症予防のカギは自然免疫にあり!-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
■異物を“食べる”マクロファージの特殊能力
マクロファージは、自然免疫の中心的細胞で、異物を「食べてしまう」という特殊な機能を持っています。
異物とは、外部から侵入してきたウイルスや病原菌など。マクロファージは、人が生まれたときに持っていなかったものを、全て異物と判断することができます。また、体内から排出すべき老廃物や不要物なども、マクロファージの異物排除のターゲットです。
例えば、細胞の入れ替わりによる死んだ細胞、1日約5000個発生するガン細胞などの変質した細胞、認知症の原因といわれる脳に溜まった異常タンパク質(アミロイドβ)、変質した栄養素、血管に付着した酸化コレステロール、糖尿病の原因となるAGE(糖代謝最終物質)、腎臓結石、ヘルニアなどの変形した骨……。
これらを、“大食細胞”との別名を持つマクロファージが、アメーバのような動きをして即座にキャッチ。むしゃむしゃと貪食することで、処分(排除)します。ちなみに「マクロファージ」とは「マクロ=大きい」「ファージ=食べる」の意味で、文字通りの大食い細胞なのです。

▲大食細胞マクロファージの特殊能力 イメージ:PIXTA
体内において、ウイルスや細菌は当然排除されなくてはいけません。しかし、実はこれらの病原体よりも、量的には死んだ細胞など体内でできる老廃物のほうが圧倒的に多く、これらが病気や障害の原因になっています。
マクロファージは、がん細胞や酸化した脂質、変色したたんぱく質などの老廃物、ほこりに至るまで、体内にある不必要なものすべてを食べて処理をしてくれますから、マクロファージが正常に機能するということは、私たちの健康を維持するうえで、とても重要です。
生命の最小単位は細胞であり、ヒトは細胞が約37兆個からなると言われていますが、生物個体は、さまざまな構成要素が多数集合して、特定の動的状態を維持しているわけです。
そして、その動的状態がトラブルなく円滑に維持されている状態――それが健康ということにほかなりません。
私たちは日常、健康という状態が「当たり前」で、特別に大変なことだとは感じないでいますが、体の中において複雑な集合体が一定の秩序のもとに維持されるためには、やはり何らかの仕掛けが存在するはずです。そのような仕掛けを組み立てる鍵となる細胞こそが、マクロファージだと考えられます。
■マクロファージなしに生物は生きられない
高い食機能を持つマクロファージが、ロシアの生理学者・エリー・メチニコフにより発見・命名されたのは、約100年前のことです。あらゆる動物が同様の食細胞群を有しており、進化的に見て、下等な動物から高等な動物まで、すべてに存在する細胞群だということが、それから認識されるようになりました。

▲エリー・メチニコフ 出典:ウィキメディア・コモンズ(PD: "Copyright : domaine public.")
マクロファージは、無脊椎動物から脊椎動物に至るまでの、さまざまな多細胞性動物の全てに存在します。これらのマクロファージの貪食機能は、単細胞動物においては「自分以外のもの」(非自己=異物)と認識したものを食物として摂取し、一方で、同族はお互いを認識し合って共存するために必要な機能であったと考えられます。
そしてこの機能は、多細胞動物に進化した後には、外界からの侵入異物や、生体内で不要になった細胞や制御を外れた細胞(例・がん細胞)などを除去し、個体を生存させるために必要な機能へと分化したであろうことは容易に推測できます。
いずれの動物においても、マクロファージを完全に欠損させると、生命を維持することは不可能であり、自然界に生存することはできません。ヒトでは、マクロファージは肺・肝臓・腸管・血中をはじめ、脳・筋肉・骨など、生体内のあらゆる組織に隈なく常在します。
それぞれの組織によって、たとえば脳では「マイクログリア」、肝臓は「クッパー細胞」、肺は「肺胞マクロファージ」など多様な名称で呼ばれて、組織ごとに独自の性格を有しています。
さらに、環境情報受信の最前線にあって、環境の変容情報に柔軟に対応する能力が高く、可塑性に富んだマクロファージは、末梢血の単球から体の中のあらゆる組織・器官に遊走して、“組織マクロファージ”へと分化することもできます。
すなわち、マクロファージは、共通の機能として、旺盛な貪食作用・殺菌・抗原提示・腫瘍細胞傷害・サイトカインなどの分泌・脂質の代謝作用などを持ちながら、その質および程度は、それぞれの組織や臓器等の役割に応じて異なっているというわけです。
■免疫強化だけじゃないマクロファージの働き
マクロファージの働きは多岐にわたりますが、主なものを列挙してみます。
■抗ガン作用
ガン細胞の駆除と全身のガンの予防
■感染防御
髄膜炎、脳炎、気管支炎、肺炎、結核、ウイルス性肝炎、膵炎、胃炎、胃潰瘍、腎盂炎、膀胱炎、前立腺炎、リンパ節炎など感染症の予防
■免疫のコントロール
免疫のバランス調整、アレルギー症炎、アトピー性皮膚炎、自己免疫疾患(リウマチ)の予防と改善
■新陳代謝
アミロイド(タンパク質のゴミ)を除去、死白血球の処理、老化赤血球の処理、アルツハイマー型認知症、U型糖尿病、狂牛病、不整脈、パーキンソン病などの予防
■結石の溶解
腎結石、尿管結石の予防と改善
■創傷治癒
皮膚創傷治癒、火傷・ケガの回復、骨の再生、骨折の回復、肝細胞の修復、肝臓の再生、肝機能の回復、脳神経細胞、末梢神経の修復、脳梗塞・脳内出血による後遺症の回復、統合失調症、うつ病、自閉症、末梢神経障害(筋萎縮症など)の予防
■代謝調整
鉄代謝、貧血の予防、コレステロールの調整(血中酸化LDLの除去)、動脈硬化症、高脂血症、高血圧症の予防と改善。脳梗塞、心筋梗塞の予防
■マクロファージをパワーアップする「LPS」
どれほどマクロファージが、私たちの生命維持に深く関わっているかはおわかりいただけたでしょう。
2011年にノーベル医学賞を受賞したボイトラー博士ら研究チームによると、リンパ球や顆粒球に指令を出すのはマクロマージの役割で、マクロファージの活性が何より体の恒常性につながると発表しました。このマクロファージの働きをパワーアップすることが、私たちの健康と長寿につながるのです。
マクロファージをパワーアップできる物質、それが「LPS」(リポポリサッカロイド)です。私たちのグループが長年にわたる研究で見出した物質で、しかもごく身近なグラム陰性菌というグループの細菌の細胞壁に含まれているものです。
近年世界的にもその効果が検証され、つぎつぎに予防効果や健康効果へのエビデンスが示されています。自然のなかの土や木、植物や空気中にも存在しているほどに身近なものですが、これを積極的に摂ることがマクロファージの活性化に役立つことが明らかになっています。
日常生活なら、泥付きの野菜・海藻・穀物(特に玄米、金芽米)などからも接種できます。またサプリ(機能性食品)で補充することも有効です。

▲玄米にもLPSが多く含まれる イメージ:PIXTA
その効果は非常に広範にわたります。
■感染症予防
インフルエンザ、新型コロナウィルスなどを撃退する自然免疫力を上げる
■アトピーの改善
体内の免疫バランスを整える
■肌荒れの改善
肌の新陳代謝が高まり、コラーゲン・ヒアルロン酸の合成も活発になる
■花粉症抑制
免疫バランスを整え、花粉症を抑制する
■脂質異常症予防
善玉コレステロールは減らさず悪玉コレステロールのみを下げる
■高血圧予防
血管内に水分を取り込むことなく塩分濃度を下げ、高血圧を予防する
■アルツハイマー病予防
アルツハイマーの原因物質アミロイドβを除去する
■糖尿病予防
糖尿病の原因のひとつであるAGEs(終末糖化産物)を排除する
■がん予防
LPSによってマクロファージとNK細胞を活性化する
■骨粗鬆症予防
骨の代謝を促進する
すでに上記の効果が認められています。これらの効果はいずれも、LPSによって生命維持の要であるマクロファージがパワーアップされたことによるものです。LPSのすごい力を知って、上手に生活に取り入れてください。