欧米で注目される「自然免疫を高める」ウィズコロナの生き方

新型コロナウイルスの感染拡大により「緊急事態宣言」が発令され、不要不急の外出を自粛している日本社会。今まで以上に“清潔”に神経質になり、薬剤などで身の回りを「キレイ」にする人は多いと思います。しかし腸内細菌研究の第一人者である藤田紘一郎氏がによると、いわゆる「キタナイ」ことが、私たちの健康を守ってくれることもあるとのことです。

※本記事は、藤田紘一郎:著『感染症と免疫力』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

■薬剤でキレイにしすぎてはいけない

免疫や腸の研究を長くしていると「キレイはキタナイ、キタナイはキレイ」という言葉が頭から離れなくなります。この言葉は、シェイクスピアの四大悲劇の一つ『マクベス』の冒頭で、3人の魔女が語るセリフの一節です。

現代に生きる私たちは、このパラドックスの落とし穴にはまり込んでしまっています。

通常、病気を起こす異物が体のなかに入ってくると、それを排除するために免疫システムが働きます。一方、私たちの体には、常在細菌が重さにして1〜2キロも存在して常在細菌叢は皮膚だけでなく、腸のなかにも存在します。皮膚や腸管には粘液や上皮細胞が構成するバリアがあって、常在細菌はその上にのっています。

つまり、バリアが壊されない限り常在細菌は組織内に侵入できず、常在細菌と免疫細胞(血液中にある)は、簡単に出くわさないしくみになっています。

また、常在細菌が先にすみついていることで、有害な細菌が外から来たとしても、新たな細菌はすみつきにくく、間接的に有害な菌を遠ざけるという役目もはたしています。常在細菌が“先住民”としてたくさんいてくれるおかげで、あとからやってくる有害な菌は入り込めないしくみになっているのです。

つまり、常在細菌は人の健康に欠かせない存在です。そうした仲間は、たとえ異物であったとしても、免疫が攻撃を加えることはありません。

ところが、清潔に神経質になり、薬剤などで身の回りの雑菌や常在細菌をとり除いてしまうと、どうでしょうか。“先住民”がいなければ、外敵が体にとりつくのは簡単です。これ幸いと病原菌が増殖を始めることもできます。この状態は、はたしてキレイなのでしょうか。

▲薬剤でキレイにしすぎてはいけない イメージ:PIXTA

■手を洗いすぎると自然免疫力が落ちる

そもそもみなさんは、何をもって「清潔」といい、何をもって「キタナイ」というのでしょうか。

雑菌がゼロの状態を「キレイ」といい、雑菌がウヨウヨいることを「キタナイ」というならば「キレイはキタナイ、キタナイはキレイ」というパラドックスにはまり込んでいます。

コロナ禍を経験した私たちは、ことあるごとに「石けんで手を洗いましょう」「消毒剤で手指をきれいにしましょう」といわれました。お母さん方は、わが子のコロナ感染を恐れ、口を酸っぱくして「ちゃんと手を洗いなさい」といい続けたでしょう。

もちろん、新型ウイルスのように、人類がいまだ遭遇したことのない病原体が拡大した際には、一時的に手洗いを熱心に行うことは必要です。なぜなら、免疫がその敵との戦い方を知らず、抗体も持たないからです。病原体を体内に入れないという「水際作戦」で対応していくしかありません。

しかし、新型コロナについては、すでに多くのことがわかってきています。病原性は、自然免疫さえ高く保てていれば重症化を抑えられる程度です。そうわかっているのですから、政府はそれをはっきりと公表し、無用な手洗いや消毒をやめさせるべきと私は考えます。

いつまでも水際作戦を続けてしまうと、感染機会が奪われ、自然免疫力が低下しますし、いざ新型コロナに感染した際に、重症化する人を増やすだけです。

そもそも、手についたウイルスなどは、水道水を流しながら10秒も洗えばちゃんと落ちます。皮膚常在菌が私たちの皮膚を守ってくれているからです。

皮膚には、表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌をはじめとする約10種類以上の皮膚常在菌がいます。これらは皮膚の脂肪を食べて、脂肪酸の膜をつくり、皮膚を弱酸性に保ちます。そうして酸に弱い病原体をシャットアウトしてくれているわけです。

ところが、殺菌作用のある薬用石けんで一日に何度も手洗いをすると、皮膚常在菌まで殺してしまううえ、皮膚常在菌がつくる弱酸性のバリアをはがしてしまいます。

すると、その下にある角質層にすき間ができます。こうなると、外界にいるウイルスや細菌が皮膚にくっつきやすい状態になります。

つまり、薬用石けんなどで皮膚をキレイに保とうとしすぎると、反対に、病原体が付着しやすい皮膚になってしまうということです。この状態をみなさんは「キタナイ」と感じるのではないでしょうか。

▲手を洗いすぎると自然免疫力が落ちる イメージ:PIXTA

そうした皮膚は、アレルギーも引き起こしやすくなります。手を洗いすぎて肌がカサカサになると、角質層のすき間からアレルゲン(アレルギーの原因物質)が侵入し、アトピー性皮膚炎や乾燥性皮膚炎が生じてしまうのです。

ですから、よほどひどい汚れでない限り、薬用石けんは使わないほうがいいと私は思います。昔ながらの固形石けんであっても、使うのは1日に1〜2回に抑えるほうが、皮膚をキレイに保つことができるでしょう。

新型コロナ感染拡大が続くなか、手洗い・うがい・消毒の重要性が、ますます叫ばれています。これらを怠ると「気が緩んでいる」ともいわれてしまいます。

しかし現実には、それらの感染症対策に熱心な人も感染しています。それはキレイすぎるあまりウィルスが侵入しやすい体になっているからとも考えられます。これではなんのための感染対策かわからなくなります。

薬用石けんでの手洗いや消毒、うがい薬などを過剰に使わないことは「気の緩み」ではなく、むしろ自然免疫を高めるための大きな選択と考えてみてはどうでしょうか。

■自然のなかで「キタナイ」ことをする

今、欧米では自然回帰の生き方が見直されています。

「キレイ社会」で生きることが、自らを病気になりやすい心身にしてしまうと、多くの人が気づいています。細菌やウイルスは私たちを病気にすることもありますが、私たちの健康に貢献してくれてもいるのです。

その証拠に、アメリカでは『Eat Dirt』(ジョシュ・アックス:著)や『Let Them Eat Dirt』(ブレット・フィンレー&マリー=クレア・アリエッタ:著)など「土を食べる」と銘打つ書籍がベストセラーになっています。前著は『すべての不調をなくしたければ除菌はやめなさい』(藤田紘一郎:監訳/文響社)、後著は『「きたない子育て」はいいことだらけ!』(熊谷玲美:訳/プレジデント社)というタイトルで日本でも出版されています。

また『あなたの体は9割が細菌微生物の生態系が崩れはじめた』(アランナ・コリン:著+矢野真千子:訳/河出書房新社)、『失われてゆく、我々の内なる細菌』(マーティン・J・ブレイザー:著+山本太郎:訳/みすず書房)なども、キレイ社会の弊害を訴えてアメリカではベストセラーになった本です。

今、欧米ではこうした本が次々に出版され、たくさんの人たちに読まれています。しかし、日本ではあまり興味を持たれません。

私がもっとも危惧するのは、コロナ禍が去ったあと、手洗いや消毒に熱心になっている日本人の自然免疫力が、どのくらい低下しているだろうか、ということです。

だからこそ気がついた人から、自然免疫を高めるために、自然のなかで「キタナイ」ことをたくさんしてほしいのです。土をいじり、動物や昆虫に触れ、泥んこ遊びをする。山に登り、海で泳ぎ、川で魚を釣る。これだけで、私たちは自然免疫を高めていけます。

▲自然のなかで「キタナイ」ことをする イメージ:PIXTA 

でも、細菌を怖がっていては、外に出ていくこともためらわれるでしょう。

まずは「細菌やウイルスは悪いものだ」「風邪を引くのが怖い」という思い込みを捨てることです。さまざまな雑菌とふれあう機会を増やすことは、自然免疫力を高め、アレルギーを予防し、新型コロナの重症化を防ぐためにも欠かせないことなのです。

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